研究者と生徒がともに、福島の環境を取り戻すための知識や考え方を学ぶ[令和3年度郡山市立郡山第六中学校出張講座・講師派遣レポート]サムネイル
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研究者と生徒がともに、福島の環境を取り戻すための知識や考え方を学ぶ[令和3年度郡山市立郡山第六中学校出張講座・講師派遣レポート]

「理科」と「社会」の視点から、原子力災害と放射線の基礎知識を学ぶ

2021年11月17日に、福島県郡山市立郡山第六中学校にて、福島県環境創造センターによる出張講座が開催されました。
この出張講座は、2018年度から福島県環境創造センターに所属する三機関(福島県・日本原子力研究開発機構(JAEA)・国立環境研究所(NIES))が毎年行っています。
2011年に発生した福島第一原子力発電所事故をうけて福島県が進めている放射線教育の一貫として、原子力災害の概要と放射線に対する基本的な知識を学ぶ機会を、中学生に提供することが目的です。
三機関のなかでNIESは中学三年生を担当し、「理科編」として「放射性セシウムと生物」という講演タイトルで境優主任研究員(環境影響評価研究室)が、「社会編」として「福島第一原発事故後の社会対応と復興に関する基礎知識」という講演タイトルで辻岳史主任研究員(地域環境創生研究室)が、それぞれおよそ45分間の講演を行いました。

「理科編」では境主任研究員から、放射線・放射性物質に関する基礎知識(Bq (ベクレル)・Sv (シーベルト)などの単位)や放射線が人の健康に及ぼす影響、外部被ばく・内部被ばくへの対策が紹介されました。
内部被ばくについては、「出荷制限」(ある一定の放射性物質を含む食品を流通させないこと)がなされていることが紹介され、日本の食品の放射性セシウム基準値である100 Bq/kgが設けられた根拠について、丁寧な説明がなされました。
そのなかで、野生の生物(きのこ・山菜・野生の鳥や獣の肉など)で基準値を超えるものが多いこと、その理由や考えられる対策について考えるヒントが示されました。

外部被ばくと内部被ばくの図

「社会編」では辻主任研究員が、福島第一原子力発電所の事故の概要とその後の廃炉作業、事故後の福島県内外への放射性物質の拡がりをうけて行政や地域住民が進めている対策を紹介しました。
特に除染(地面や住宅などに付いた放射性物質を人が取りのぞくこと)についてその方法や、除染で取り除いた土やごみの保管のありかたについて説明し、土や廃棄物などを集約して安全に貯蔵する施設として県内の大熊町・双葉町で「中間貯蔵施設」が設けられていること、中間貯蔵施設に保管されている土等の福島県外での最終処分が課題になっていることを示しました。
さらに、郡山市による原発事故の避難者の受け入れ、市と地域住民との連携による除染の実態を紹介しました。

中間貯蔵施設に保管されている除去土壌等の県外最終処分

この出張講座で印象的だったのは、郡山六中の生徒の放射線や原子力災害に対する関心と洞察力の深さです。
私たち講師は講演のなかで、生徒にたくさんの質問をしました。
例えば理科編では「野生の生物で基準値を超えるものが多いのはなぜか?」と質問したのですが、生徒のなかには講師(境主任研究員)が「福島県では原発事故の後、森林の除染が実施されていない」と説明したことをふまえて、「森林除染をしていないため、野生の生物に含まれる放射性物質の濃度が高くなる」と回答した生徒もいました。
他の生徒たちも自分たちで考え、さまざまな回答を導き出しました。
質問・回答にあたっては郡山六中で導入されているタブレットが活用され、生徒たちが講師の質問を考え、その考えを講師が紹介したり、コメントをしたりするという、双方向のやりとりがなされました。

生徒がタブレットを扱っている写真

福島原発事故が発生してから10年間、福島県内の生徒たちは授業やテレビ・新聞などを通じて、原子力災害と放射線に関するたくさんの情報に接してきました。
研究者はそんな生徒たちを「教える対象」としてとらえて、知識を提供するだけではいけないのではないか。
生徒たちを、今後もたくさんの時間をかけて解決していかなければならない福島の環境についての課題を「ともに考えるパートナー」としてとらえて、生徒たち自身がもつ興味・関心と、福島の環境を取り戻すための知識や考え方をつなぐことが、研究者の役割ではないか。
私たち講師にとって、出張講座はこのことに気づかされたイベントでした。

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講演概要

タイトル
令和3年度郡山市立郡山第六中学校出張講座
開催日
2021年11月17日(水)
会場
郡山市立郡山第六中学校
対象
中学3年生
定員
215名(1~6組)
主催
福島県環境創造センター企画課

講師

境 優

福島地域協働研究拠点 環境影響評価研究室 主任研究員

京都大学大学院地球環境学舎地球環境学専攻修了、2020年より国立環境研究所福島支部(現:福島地域協働研究拠点)に勤務。専門は生物学。

辻 岳史

福島地域協働研究拠点 地域環境創生研究室 主任研究員

名古屋大学大学院環境学研究科社会環境学専攻修了、2017年より国立環境研究所福島支部(現:福島地域協働研究拠点)に勤務。専門は社会学。