国立環境研究所 社会環境システム研究センター

環境経済・政策研究室

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平成22年度の成果

タイトル
Environmental Information Provision, Market Valuation and Firm Incentives: Empirical Study on Japanese PRTRs
著  者 HIBIKI, Akira and Shunsuke MANAGI
研究の概要 企業の環境負荷に関する情報が公開されれば、株式市場(投資家)はその情報を使って、企業を評価するため、企業価値が低下する可能性がある。汚染物質排出量が多ければ、将来の環境汚染による損害賠償リスクがより大きくなるため、将来収益が低下するからである。Konar and Cohen (2001, REStat)は、トービンq関数を推計し、米企業の化学物質排出量増加がトービンqを低下させ、アメリカの金融市場が排出量をマイナスに評価することを明らかにした。しかし、トービンのqを市場評価の指標として用いて分析することは望ましくない。なぜなら排出量の多い企業は、将来の環境汚染による損害賠償責任のリスク回避のために、積極的に化学物質削減投資を増加させる傾向があるかもしれない。この場合、企業の資本は増加するため、排出量が企業の市場価値に影響を与えなかったとしても、トービンのq(企業価値を企業の資本で割ったもの)は低下してしまう。この結果、本来、「市場は汚染物質排出量を評価している」と誤った結論を導いてしまう。このような誤りを避けるために、本研究では、企業の有害化学物質排出量を対象に、トービンのqを推計するのではなく、企業価値関数、資本ストック関数、(有害化学物質排出量から計算される)有害化学物質リスク(特に、発がんリスク)関数の3つの関数を同時推計し、株式市場が企業の有害化学物質リスクを評価しているかどうかを分析した。その結果、@株式市場はリスクを評価していない、Aリスクの大きい企業は、汚染物質排出削減投資などのために資本を増加させる、B先行研究と同じ手法を使って、トービンのq関数を推計した結果、リスクの増加はトービンのqを有意に下げることを確認した。以上の結果から、トービンのqを使った先行研究は、誤った結論を導いている可能性があることを明らかにした。
掲載誌情報 Land Economics, vol.86, no.2, pp.382-393, 2010年
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