東京電力福島第一原子力発電所事故により放出された放射性物質による空間線量率の影響を低減させるため、除染作業が行われ、それに伴い大量の除去土壌と除染廃棄物(以下「除去土壌等」という。)が発生しました。これらの除去土壌等は、再生利用や減容化後の県外最終処分が検討されていますが、最適な処理・処分方法の選定が課題となっています。
本研究では、県外最終処分に向けた溶融飛灰の処理・処分最適化を目的とし、減容化技術のシナリオ評価を行いました。さらに、各シナリオにおける処分場内の放射性セシウムの挙動の試算を行いました。研究の結果、減容化技術の適用により、最終処分対象量を99%以上削減できることが確認され、適切な封じ込め設計を行うことで、環境基準を満たす可能性が示されました。
東京電力福島第一原子力発電所事故によって環境中に放出された放射性物質による空間線量率の影響を低減させるため、住宅や農地、宅地近隣の山間部等の除染が行われましたが、除染に伴い発生した除去土壌等は減容化された後の県外最終処分が約束されています1)。災害環境研究プログラムの住民帰還地域等の復興と環境回復に向けた技術システム研究(プロジェクト1)では、最終処分に向けた除去土壌等の減容化処分技術システムの開発(サブテーマ1)に取り組んでおりますが、その中で私たちは、除去土壌等の減容化及び再生利用並びに県外最終処分に向けた技術開発を行うとともに、シナリオ評価や社会受容性を考慮して適切な技術システムを提案することを目的として検討を行ってきました。
除染に伴い発生した除去土壌等は、最終処分までの間、現在大熊町・双葉町に整備した中間貯蔵施設に安全かつ集中的に貯蔵されていますが、出典2)から得られた情報より中間貯蔵施設への搬入量を概算(フレコン1袋≒1m3換算)した結果は図1に示すとおりです。この搬入物が県外最終処分の対象物となりますが、処分に必要な立地確保・選定の困難さなど諸問題を解決するためには、図2に示すように減容化・再生利用による物量の削減が求められています。そのため環境省は、土壌の分級処理技術や焼却飛灰の洗浄処理技術といった現在行われている様々な減容化・再生利用技術の開発を2024年度までに完了するとしており、その後は県外最終処分に向けた埋立方法の具体化や処分場立地に係る調査検討等が開始されます。8,000Bq/kg以下の除去土壌や溶融スラグは再生利用等の可能性が高いこと、また8,000Bq/kg超の除去土壌については減容技術が確立しているため本研究の対象外とし、本稿では、溶融飛灰の県外最終処分に焦点を当て、減容化するための処理方法および最終処分の封じ込め方法の最適化に向けた、これまでのシナリオ評価や安全評価の検討内容を紹介します。
私たちの研究では、図3に示すように多岐にわたる減容化技術開発を文献レビュー3)やヒアリングによって調査し、これらの技術を取り入れることによる減容化の効果をシナリオ別に推計しました。
減容化の効果としては、最終処分量が減少する他、処分場の小規模化、運搬負荷の低減等、多様な効果がありますが、技術的な懸念事項のひとつとして、減容するほどに高濃度に濃縮された安定化体(最終処分の対象物)が発生します。そのため、最終処分場における封じ込めの考え方、埋設処分方法、維持管理の期間やモニタリング手法といった技術的な要件を検討しなければなりません。そこで次に、三つのシナリオに対し、それぞれ処分システムを設計し、シミュレーションによって処分場内の放射性セシウムの挙動を試算しました4)。様々な環境条件下での安全性を確認するため、解析において用いたパラメータは参考値などを用いて設定し、 溶出率や人工バリア素材を変化させた場合における、浸出水の濃度の時間変化を評価しました。
それでは結果になりますが、表1は減容化技術適用による三つのシナリオ評価の試算例となります。各シナリオで発生する安定化体の量に対して、処分場容量、水処理施設の必要性等 、最終処分形態をまとめたものとなりますが、処分場容量で比較すると、非濃縮シナリオと比較して、バランスシナリオと最大濃縮シナリオはいずれも99 %以上も処分対象量が減少することになります。ここから、洗浄・吸着処理といった前処理プロセスによる減容化の有効性がうかがえます。
次に、各シナリオの処分場内の放射性セシウムの挙動を試算してみると(図4)、いずれのシナリオにおいても、最終処分する際に達成しなければならない浸出水濃度の濃度制限90Bq/Lを満足できる可能性があることを示しています。それは溶出率を変化させた場合でも同じでした。その理由としては、バランスシナリオや最大濃縮シナリオにおいては、間詰材や鉄筋コンクリートといった処分場の構造体などによる放射性セシウムの収着性を考慮した設計となっております。よって、バランスシナリオや最大濃縮シナリオにおいては、溶出液中の塩濃度(放射性セシウム収着の妨害物質)が低く、間詰材やコンクリート構造体などの放射性セシウム収着性が効果的に発揮されるからです。一方で、高濃縮にするほど濃度が低減する時間が長くなるため、結果的に維持管理期間が長期化する可能性が考えられます。
今回ご紹介した研究内容は、どの技術システムを選択するかによる、主にハード面での効果を示したものになりますが、県外最終処分の実現においては、技術的な側面だけでなく、国民的な理解や地域ステークホルダーとの対話・合意形成プロセス、信頼性確保等、社会受容性深化に向けたソフト面での課題を抽出するとともに、必要な制度設計および理論的枠組みを提示していくことが求められています。政府は、中間貯蔵開始後30年以内(2045年3月まで)に、除去土壌等の県外最終処分を完了するまでに必要な措置を講ずることを法律で規定5)していますが、2045年までの道筋だけでなく、どのような技術的選択肢を取ったとしても、それが選択されるに至った経緯等の記録が情報として整理され、国民に提供されなければなりません。参照された科学的根拠をどのようにアーカイブとして保存し、今後トレースできるようにするのかといった手法論を議論するのも県外最終処分を実現する上で不可欠だと思います。