沈水植物群落の監視(モニタリング)手法に関する研究

掲載日:2020.8.19

琵琶湖南湖の沈水植物群落
琵琶湖南湖の沈水植物群落(撮影 2019年9月10日)

沈水植物とは

湖沼やため池、河川、水路、湧水など、いわゆる水辺には、水草(水生植物)と呼ばれる維管束植物が生育します。これらは、植物体と水面の相対的な位置関係に基づき、抽水植物、浮葉植物、沈水植物、浮遊植物の4つの生育形に分類されています(角野 2014)。その中で、植物体が水の中に沈んで成長する植物を沈水植物と呼んでいます。

沈水植物群落の生態系機能、そのプラス面とマイナス面について

水草群落は、水鳥や魚、トンボなど、多様な水辺の生き物たちの、餌・産卵場所・隠れ家などを含めた生息場所として機能するだけでなく、波浪を緩和し底泥の再浮遊を抑制するなど水の濁りを和らげる働きもあります。特に、沈水植物は、その成長期には植物プランクトンと水中の窒素・リンをとりあうために、アオコなどの増殖を抑えることも知られています。

しかし、過剰な繁茂は、逆に水の流れを阻害し、夜間の呼吸作用により底泥付近の溶存酸素濃度を低下させる、また、船の運航を阻害し岸辺に流れ着いた切れ藻が悪臭を放つ、などの弊害が指摘されています。

このように、沈水植物群落の成長と繁茂は、湖沼の水質や生態系、ならびに人間活動にも大きく影響すると考えられます。

琵琶湖の沈水植物種と南湖の沈水植物群落の過剰繁茂

琵琶湖に出現記録のある維管束沈水植物(車軸藻の仲間を除く)は44種リストアップされています(Hamabata & Yabu’uchi 2012)。その中には、10種[1]絶滅危惧種(環境省第4次レッドリスト(2012)に基づく)と4種の日本固有種[2]、そして3種[3]の外来種が含まれています。琵琶湖には、絶滅危惧種のように保護や保全が必要な種類もあれば、特定外来生物のように本来の生態系に悪影響を及ぼすために駆除が必要な種類もあります。

一方、琵琶湖南湖では、1994年の大渇水(琵琶湖の標準水位から-1.29mを記録)以降、沈水植物群落の面積が徐々に増え始め、2002年には南湖の83%、2007年には91%に達したと報告されています(Haga 2012)。芳賀ら(2019)の報告によると、南湖の夏季の沈水植物の現存量は乾燥重量にして、2002年と2007年は約1万トン、2014年は約1.8万トンと推定されるほど過剰に繁茂しましたが、逆に2012年や2017年は約3000tと少なく、その多寡には年変化があります。また、春から夏にかけての成長パターンも年により異なります。

このように、琵琶湖の沈水植物の保全や管理を行うには、現場観察から遠隔計測まで、時空間スケールが異なる様々な手法を用いた調査研究が必要とされています。また、年変動パターンを知るためには、沈水植物群落を監視(モニタリング)する手法を開発し、長期にわたるモニタリングを継続することが必要です。

琵琶湖分室での取り組み

琵琶湖分室では、琵琶湖博物館や琵琶湖環境科学研究センターのこれまでの調査研究と連携して、遠隔計測技術を用い、南湖における水草分布マッピングなど、モニタリング・評価・予測に使える手法の開発を進めています。具体的には、図1に示したように、主に、高頻度・高解像度の可視衛星画像、自動撮影(タイムラプス)定点カメラによる高頻度可視画像、無人航空機(ドローン)による空撮画像などの収集・解析を進めるとともに、光環境の把握のために、琵琶湖環境研究センター屋上に空中光量子計を、水資源機構雄琴沖観測所に空中/水中光量子ロガーを設置して毎時の現場光環境観測を実施しています。

遠隔計測を活用した水草繁茂監視手法確立のための研究開発フローチャート
図1 遠隔計測を活用した水草繁茂監視手法確立のための研究開発フローチャート

図2abは自動撮影定点カメラを、南湖西岸の雄琴にある琵琶湖グランドホテルの屋上と南湖東岸の烏丸半島に位置する琵琶湖博物館に設置し、湖面を日中1時間おきに撮影した画像を示しています。JPEG形式で撮影された画像(左)に、幾つかの分光指標を適用して右に示すように水草が繁茂しているエリアを抽出できるような画像解析方法を開発しています。

琵琶湖グランドホテルに設置した定点カメラ画像(2019年9月20日)における水草判別推定法の適用結果
図2a 琵琶湖グランドホテルに設置した定点カメラ画像(2019年9月20日)における水草判別推定法の適用結果。赤枠は解析対象領域。
琵琶湖博物館に設置したハイクカム画像(2019年9月20日)における水草判別推定法の適用結果
図2b 琵琶湖博物館に設置したハイクカム画像(2019年9月20日)における水草判別推定法の適用結果。赤枠は解析対象領域。

図3abcは琵琶湖南湖の東岸である木浜駐車場から飛ばしたドローンで撮影した湖岸近くの沈水植物群落の画像を示しています。2019年7月から9月にかけて、徐々に群落が成長しているのがわかります。

2019年7月17日
図3a 2019年7月17日
2019年8月19日
図3b 2019年8月19日
2019年9月25日
図3c 2019年9月25日

図4は、琵琶湖南湖の可視衛星画像から作成した正規化植生指数(Normalized Difference Vegetation Index : NDVI)のマップです。黄色に近い領域は沈水植物が、緑色に近い領域は浮葉植物または浮遊植物が分布すると推測した場所です(主に聞き取り調査からの判別)。NDVI指標以外にも、様々な指標を開発し、それらを衛星画像に適用することで、沈水植物の繁茂状況をある程度推測できると期待しています。

琵琶湖の南湖北部におけるSentinel2衛星画像(2015年8月10日)から得られたNDVIマップ
図4 琵琶湖の南湖北部におけるSentinel2衛星画像(2015年8月10日)から得られたNDVIマップ

注釈

[1] 絶滅危惧種(環境省第4次レッドリスト(2012)に基づく)
絶滅危惧IA類
ガシャモク
絶滅危惧IB類
ツツイトモ、トリゲモ、ヒロハトリゲモ
絶滅危惧II類
スブタ、ミズオオバコ、オグラノフサモ、ササエビモ
準絶滅危惧種
タチモ、リュウノヒゲモ
[2] 日本固有種
琵琶湖水系の固有種
ネジレモ、サンネンモ、ヒロハノセンニンモ
日本固有種
バイカモ
[3] 外来種
要注意外来生物
オオカナダモ、コカナダモ
特定外来生物
オオフサモ

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