Q&A

 以下では、本指標体系についての質問にお答えします。

Q.なぜ、今、「ネクサス」という連環指標体系なのでしょうか?
 A.環境問題は、これまでは基本的に「環境容量」に起因するものであったといえます。しかしながら、社会の複雑化や各分野の高度化により、現代の環境問題は「複雑性」にも着目をしなければ解決が難しくなっています。そのような時代における社会のモニタリング指標体系としては、要素間の関係性(ネクサス)に着目した指標体系が求められていると考えています(「指標開発の背景」のページの説明もご覧ください)。

Q.社会における要素間の関係性(ネクサス)を考えるなら、もっといろいろな関係性があるのではないか?
 A.そのとおりです。例えば、大きなレベル(マクロレベル)から小さなレベル(ミクロレベル)まで、いろいろな関係性(ネクサス)があります。近年、ネクサスと題する研究が増えていますが、それらはいくつかの分野におけるネクサスを精緻に分析・評価する研究が多く、後者の研究といえます。本指標体系では、全体観を理解することを重視したため、前者のマクロレベルでのネクサスに着目しました。「木を見て森を見ず」になってもいけませんし、その逆もしかりです。本指標体系と近年のネクサス研究は補完しあう関係にあると考えています。

Q.誰が使うと想定しているのか?一般の方々には難しいのではないか?
 A.関係性をふまえながら指標データを読み取る必要がありますので、広く一般の方々というわけではありません。政策決定・政治決定をする方々や、そういった方々と議論をしたり、働きかける方々を本指標体系のユーザーとして想定しています。一般の方々にも分かりやすく状況を伝えるには、さらに表現の工夫や説明が必要と考えており、今後の検討課題の候補の一つです。

Q.資本の保有水準が国の達成目標になることもありえる。指標枠組みの上側に記載される「達成状態」として扱うべき指標もあるのではないか?
 A.政策目標としての「ターゲット」と、本指標枠組みでいう「達成状態」は異なるものです。政策目標としての「ターゲット」は、本指標体系の「達成状態」「資本」「ネクサス」、これら全てについて指標を設定することが可能です。「資本」を使って人間活動が実現しようとしていることを本指標枠組みでいう「達成状態」としています。

Q.持続性の計測は資本が減耗しないことで計測している。「達成状態」と「ネクサス」を計測する必要はないのではないか。
 A.本指標体系は持続可能性を判定する指標体系ではなく、現状把握の指標体系です。関係性(ネクサス)も含め、持続可能な社会の方向性に照らして社会全体のメカニズムがどのように動いているかを現状把握しようとするものです。

Q.提示されている2つの社会はどちらがよいのか?また、他の社会は想定できないのか?
 A.対照的な2つの社会を描いていますが、どちらがより良いということではありません。現時点では、2つの社会を提示して、関係性(ネクサス)という着眼点からそれら社会のメカニズムを捉えようとしましたが、この2つのメカニズム以外に持続可能な社会の有効なメカニズムがないとは限りません。社会として、どのようなメカニズムが持続的な発展でありえるのかを議論していくことは非常に本質的なことですが、この点に関する知見は蓄積が不十分です。

Q.社会におけるどういったメカニズムを本指標体系で計測しようとしているのか?その理論的背景はあるのか?
 A.貨幣(金銭)のメカニズムについていえば、生産面、分配面、支出面という「三面等価」や、GDP=個人消費+国内民間総投資+政府購入+純輸出、GDP=個人消費+貯蓄+税収といったマクロ経済の基本式が大切で、これらは金銭的なメカニズムの本質を表現している理論的背景と考えています。本指標体系には「経済」以外にも3つの分野がありますので、それらのネクサスを考えた場合には、金銭的なメカニズムだけでなく、非金銭的なメカニズムも想定する必要があります。非金銭的なメカニズムの理論あるいはそれをモデル化する知見は不十分であり、今後の検討課題であると考えています。

Q.統合報告書のフレームワーク*1では、6つの資本類型(自然資本、生産された資本、金融資本、社会資本、人的資本、知的資本)を提示している。4つの資本類型でよいか?
 A.統合報告書は、企業が作成する報告書であり、国・社会を対象としている本指標体系とは異なった視点を有していてもおかしくはありません。生産された資本と金融資本は異なる資本であり、本指標体系でも区別することは可能でしたが、「経済」が他の「環境」や「社会」といった分野よりも強力である現状を鑑みると、経済分野の資本を複数設定すると全体のパワーバランスをとりにくいと考え、これらをまとめることにしました。ただし、これらは指標体系としてまとめて位置づけたというだけであり、「経済資本」を一つの指標だけで計測しなければならないと主張しているわけではなく、これらをそれぞれの指標で計測しても構わないと考えています(実際、今回選定した主要指標においては、それぞれを計測する指標が選定されています)。
  知的資本については、企業が企業活動を行う上で特許等の知的財産等を重視することは市場競争の上でも当然だと思いますが、社会の知的資本を考える場合には、生産活動以外に用いる知的資本をどのように扱うのか、例えば「賢い消費」というときの知的資本は何かというように、計測できる形での定義付けが非常に難しいので、今回提案する指標体系では明示的には位置づけませんでした。現時点の指標体系においては、知的資本は、自然資本以外の3つの資本のいずれかあるいは複数に含まれると考えています。

*1 IIRC (International Integrated Reporting Council) (2013)The International IR Framework. pp. 11-12.