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はじめに

ユスリカの多様性と環境

ユスリカは湖沼・河川等の淡水域に広く見られる昆虫です。卵から蛹までは水中で過ごし、成虫は陸上で生活します。水中では魚や大型無脊椎動物の、陸上では鳥や大型昆虫の重要な餌となります。一方で、住宅地・産業施設に蝟集(いしゅう)・発生する迷惑昆虫やアレルゲンともなります。すなわち環境を保全する上で注目すべき生物です。

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アカムシユスリカ(左:オス、右:メス)

ユスリカは水質によって出現する種が違うため、水質指標性の研究が古くからなされてきました。例えば、アカムシユスリカは汚濁の進んだ湖沼に発生することが知られています。ただし、日本国内に生息するユスリカはおよそ1500種と考えられています。それぞれのユスリカがどのような環境に現れるかを調べるには、まずユスリカの種を見分けなければなりません。

ユスリカの種を見分ける

短い場合は数日程度しか生きない成虫と比べて、幼虫は長く生きるため、採集しやすいのは幼虫です。ところが、幼虫は外見にあまり変わりがないため、種を正確に見分けるのが容易ではありません。ユスリカの分類は多くの場合、成虫オスの形態に基づいています。とはいっても、幼虫から種を正確に見分けることができれば、便利です。そこで頼りになるのが、DNAバーコーディングです。

ユスリカに限らず、生物の種が違うと、同じ遺伝子でもDNA塩基配列がはっきりと違うことがあります。違いの現れやすい遺伝子を選んでそれぞれの種に特徴的なDNA塩基配列を見つければ、それが種を分ける基準となります。このようなDNA塩基配列をDNAバーコードと呼びます。DNAバーコードを用いて種を見分けるのがDNAバーコーディングです。

国立環境研究所におけるユスリカ研究

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故佐々学博士

ユスリカ標本のDNA情報データベースを公開するに至った背景には、国立環境研究所におけるユスリカ研究の歴史があります。国内では、1930年代にユスリカの分類とユスリカ等の底生動物による湖沼類型の研究がそれぞれ始まりました。しかしながら、分類と生態を密接に関連づけた研究は1970年代になって始まりました。そのきっかけを作ったのが当研究所の前身国立公害研究所の2代目所長であった佐々学博士です。それ以降、当研究所を含む国内の研究現場においてユスリカにまつわる多くの研究成果が生み出されてきました。ここで紹介するデータもその成果の一端です。

地球環境の変化に伴って、地球上の淡水域とそこに存在する水資源・生物多様性の保全が重要な課題となっています。そのような課題への取り組みの中で、当データベースが研究機関だけでなく、産業・行政や学校教育の場でも広く活用されることを私たちは目指しています。

謝辞

次の方々には、標本採集においてお世話になりました(敬称略)。
井上栄壮、井上泰江、大高明史、小林貞、小森千晴、佐々木 哲朗、佐竹潔、平林公男、Jon Martin

本データベースの作成に当たってJSPS科研費24241078の助成を受けました。