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3. 環境リスク研究プログラム
(2) 感受性要因に注目した化学物質の健康影響評価

外部研究評価委員会事前配付資料

平成21年度の研究成果目標

課題1:化学物質曝露により免疫過敏を誘導するメカニズムの研究

① トルエン曝露による免疫過敏の成立に関与する因子を同定する。

課題2:発達段階における化学物質に対する感受性期に関する研究

① 化学物質による脳形成における神経細胞の新生と移動、血管形成障害の発生メカニズムおよび用量反応関係を明らかにする。

課題3:感染要因と化学物質との複合的要因の影響評価に関する研究

① 化学物質曝露に対して鋭敏に反応する時期を同定し、感染関連因子と化学物質曝露との複合的影響を明らかにする。

平成21年度の研究成果

課題1

① 免疫過敏のメカニズム解析のため、病原体を感知するトール様受容体が欠損したミュータントマウスであるC3H/HeJと、正常のC3H/HeNマウスへのトルエン曝露の影響を肺における炎症反応を中心に解析し、炎症の誘導に関与するTNF-α 遺伝子の発現抑制、炎症を抑えるTGF-βやIL-10遺伝子の発現増強がHeNマウスで見られた。一方、HeJマウスでは、そのような炎症にかかわる遺伝子の変化はみられず、肺における炎症の制御にもトール様受容体遺伝子の関与が示唆された。DNAマイクロアレイよる変動遺伝子については、解析中である。

課題2

① ア発達個体のSDN-POAにおけるアポトーシスに対するトルエン曝露の影響検証に加えて、発達神経毒性が知られる亜ヒ酸ナトリウムの影響についても検討した。生後6日目の雄仔ラットに亜ヒ酸ナトリウム(0, 0.1, 1 mg/kg BW)を皮下投与し、生後7日目のSDN-POAにおけるアポトーシス細胞数を計測した。その結果、亜ヒ酸ナトリウムを投与したラットのSDN-POAにおけるアポトーシス細胞数は用量依存的に増加した。このことから、発達期における脳内のアポトーシス細胞の検出は、化学物質の発達神経毒性の評価指標として有効であると考えられた。

① イ ラット多動性障害の臨界期の同定では、ロテノンの曝露時期を従来の生後5日齢の他に、生後6日、2週齢、3週齢でロテノンを曝露することにより、ラット多動性障害を惹起する臨界期の存在が示された。ドーパミン神経疾患の分子機構の解明では、DNAアレイ法による遺伝子発現変動の解析により、多動性障害モデルではTNF-αとIL-6を中心したパスウェイが予想された。

① ウ 脳血管に関する研究では、血管形成・新生阻害作用のあることが知られているサリドマイド、フマギリンを陽性対照として、ペルメトリンの血管形成及び行動に対する影響と臨界期について検討した。その結果、胎生5、10及び15日目投与のうち、陽性対照のサリドマイド及び被験物質であるペルメトリンとも、胎生5日雄において、異常分枝の発生が有意に高く、臨界期であることが示唆された。

課題3

① ア 自然免疫における発達期影響:マウス乳仔期でのトルエン吸入曝露(50 ppm; 6h/日, 5日間)とPGN刺激(腹腔内投与)によるマウス自然免疫系への影響について検討した。その結果、自然抗体については、3週齢時において総IgG1および総IgG2a抗体の産生レベルを高めた。PGNとの併用はトルエンによって増加した総IgG2aのレベルを低減させた。3週齢時および6週齢時での肺および脾臓ホモジネート上清中の炎症に関わるCCL2,CCL3などのケモカイン産生、感染抵抗に関わるIFN-γ産生レベルは低値であり、トルエンやPGN又は併用による影響はみられなかった。

① イ 上記の解析により、妊婦や子供の疾患患者等、高感受性集団に対する化学物質規制対策のあり方や方向性に提言を与える知見を得ることができた。また、アレルギー・免疫疾患の増悪要因とその回避に関する情報を広く国民に提供することが可能になる。

外部研究評価委員会による終了時の評価

平均評点    4.0点(五段階評価;5点満点)

外部研究評価委員会の見解

[現状評価]

感受性要因によって誘引される疾患の分子論的なメカニズムに関する研究はかなり進展があり、期待通りの成果であると評価する。メカニズムがある程度絞られていることによって、ヒト−環境問題への応用・展開を考える糸口ができている点は高く評価できる。また、毒性学的な見地からも興味深い結果が得られている。

今回はトルエンとダイオキシンについてのみの実験結果の報告であったが、今後必要な研究の方向性は健康に対する複合影響評価であると思われるので、今回得られたデータや知識が化学物質全般の管理施策にどう生かすことができるかの見解に関しても言及して欲かった。

[今後への期待・要望]

環境経由の健康影響を考える上で重要な、特定の化学物質、あるいは特定の感受性ステージ、あるいは特定の健康影響に焦点を絞り、明らかになった現象についてさらにリスク評価上の意味やメカニズムを明らかにするなど、知見を深めることにより、よりインパクトの強い有用な成果が得られたのではないかと考えられる。また、そのような研究を深めていくことにより、国環研における毒性研究(および毒性研究者)のプレゼンスがあがるのではないか。

一方で、トルエンについて得られた結果を、多くの化学物質のリスク評価にどのように拡張していくのかという点について、見通しはどうであろうか?例えば、スクリーニングのための指標(感受性時期の要因も含めて)を提案する、構造活性相関などの方向に進む、などが考えられようし、一方で、トルエンについてさらに一歩進めてから、物質を広げる方向については考える、ということも可能と思われる。

感受性要因を考慮したリスク管理手法の具体的発展を次期に期待している。

対処方針

今回のPJ2では、課題3で複合要因として、生物要因と化学要因の複合影響を検討し、ダニ抗原とフタル酸エステル、あるいは卵白アルブミン抗原とトルエンの曝露がアレルギー性炎症にどのようにかかわるかを探求した。その結果、化学物質の曝露は抗原によるアレルギー反応を増悪し、従来考えられていたよりも低濃度の曝露で影響が現れることが明らかになった。委員会の見解にある複合影響評価とは、異なる化学物質の同時曝露による影響の評価をさすと思われるが、今期の目標には組み入れなかった。これまでに、特別研究でホルムアルデヒドについて研究し、今回、トルエンについても多くの知見が得られ、NGF、TNFなどの生理活性物質やグルタミン酸受容体などが、共にこれらの化学物質に対する感受性の指標の候補であることが示された。次期のプロジェクトでこれらの成果をいかにリスク評価に活かし、管理施策に結びつけるかを研究して行きたいと考えている。今回は、トルエンとダイオキシンについて発表したが、そのほかにもロテノン、ペリメトリンなどの農薬類の影響についての成果も得られており、それらの成果もリスク評価に活かしたいと考えている。