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2.循環型社会研究プログラム
(5)資源循環・廃棄物管理研究(基盤的な調査・研究)

基盤研究の展望

本課題は、「循環型社会の実現と安全・安心な廃棄物管理を確保するために、行政機関や内外の研究機関等との連携の下で、新たに発生する重大な廃棄物問題への対応や、将来の循環型社会を支える可能性を持つ要素技術の開発等の予防的・長期的視点に立った調査・研究活動」として第2期中期計画に明記したものである。資源循環・廃棄物分野の基盤的な調査・研究を担う組織としての「研究領域」が別個には存在せず、循環型社会・廃棄物研究センターがその役割を兼ねていることから、本課題は、「循環型社会」重点プログラムの一部として実施してきた。この点は他の基盤的な調査・研究とは位置づけがやや異なる。

廃棄物の適正な処理処分・資源化を維持・促進するとともに、循環型社会の形成を支援するためには、
1)実社会における制度、主体、施設、物質フローなどをシステムとしてとらえた研究、
2)廃棄物や循環する資源、流通する製品に含まれる物質の有害性や資源性などの性質に着目した研究、
3)廃棄物の処理・処分や、廃棄物以外の未利用資源も視野に入れた資源化の基礎となる技術の改良、新規開発、評価に関する研究、
の3分野を、バランスよく継続して進めることが重要である。

第2期中期計画の「循環型社会」重点プログラムにおいては、第1期中期計画における「政策対応型調査・研究」の流れを受けて、廃棄物管理分野の政策課題に直結した「廃棄物管理の着実な実践のための調査・研究」(前節2.5参照)を別途実施している。本課題とは時間的な視座がやや異なるが、安全・安心な廃棄物管理を確保するための基盤的な調査・研究という性格は共通しており、本区分と一体として推進してきた。すなわち、現中期計画上では、いくつかの研究区分に分かれているが、運用上は、重点プログラム全体として、上記3つの分野間のバランスを維持してきている。

こうした状況のもとで、平成18年度以来、「廃棄アスベストのリスク管理に関する研究」と「資源循環に係る基盤的技術の開発」の2課題を中期計画・年度計画に明記して計画的に実施してきた。そのほか、外部研究資金の獲得を交えて、資源循環・廃棄物管理分野の長期的な視点に立った研究課題に取り組んできた。

中期計画に明示した2つの個別課題に関する展望は以下のとおりである。

(1) 廃棄アスベストのリスク管理に関する研究
アスベストの製造や使用の原則禁止がなされたことから、アスベストによるリスク管理は石綿含有建材を含む建物の解体や廃棄の局面に関心が移っている。年間100万トン以上の廃棄アスベストの発生が今後数十年に渡り継続するとの推計もあり、廃棄アスベストによるリスクの管理は継続的に実施されるべき重要な課題である。また、アスベストの分析、特に透過型電子顕微鏡法(TEM法)による分析は、今後問題となる可能性のあるナノ材料廃棄物の分析にも適用できると考えられ、分析精度管理手法の検討も含め、基盤研究としてすすめていく必要がある。当面は、喫緊の課題である廃棄アスベストの無害化処理に係る確認試験法の開発といった政策支援的な研究や、アスベスト熱処理物の性状及び毒性の評価や環境試料中アスベスト濃度把握といった学術的な研究に取り組む。

(2) 資源循環に係る基盤的技術の開発
廃棄物の削減および資源化を促進し循環型社会を形成するには、社会的制度の確立等とともに技術の改良や新規開発等を継続して進めることが重要である。技術実用化に至る基本的な進め方は、装置や設備としての実用化までに小規模の基礎研究から順次規模を拡大しながら進めていく必要があり、また、廃棄物という不均一性の大きい対象物を扱うことにともなう種々の特殊性や制約条件等を十分に勘案することも重要である。本研究は、主として資源化技術および関連する環境保全技術等の動向を広範に調査することによって、優れた技術のもつ特徴、現実の技術適用における要点等を明らかにすること、合わせてシーズ技術としての期待がもたれる技術について小規模の試験を行うことで当該技術に対し初期的な評価を行うものとする。

平成21年度の実施概要

(1) 廃棄アスベストのリスク管理に関する研究

石綿含有廃棄物の無害化処理における各媒体、処理過程に適用可能な電子顕微鏡と光学顕微鏡を併用した分析法を検討した。建材や廃棄物等の固体試料中の石綿測定法に関して、偏光顕微鏡と位相差顕微鏡を併用した測定法を検討した。分析精度管理に関して、クロスチェックを実施した。廃棄物処理・再資源化施設において、石綿飛散実態調査を行った。

(2) 資源循環に係る基盤的技術の開発

「環境・資源化技術研究会」による活動を継続し、実プラント等の見学・調査はバイオガス化およびガス濃縮利用の事例、水熱反応を用いた一般廃棄物燃料化施設(いずれも北海道地区所在、21年10月)について行った。技術動向では、内外の最新の事例数十件を調査しデータを整備した。また、資源化・処理処分技術研究室主催シンポジウムとして「低炭素社会の実現に向けた環境技術」を開催し(22年2月)、太陽光発電や燃料電池自動車等、廃棄物資源化に関連性があってやや異なる分野との連携の可能性について議論した。

シーズ技術としての小規模の実験研究については、電磁波を利用した資源化技術および炭化による資源化技術の検討を継続した。

研究予算

(実績額、単位:百万円)
基盤的調査・研究:資源循環・廃棄物管理研究
  平成18年度 平成19年度 平成20年度 平成21年度 平成22年度 累計
運営交付金 11 15 21 15   62
受託費 - - 11 11   22
科学研究費 - - 29 19   48
寄付金 - - 9 2   11
助成金 - - 0 14   14
総額 11 15 71 61   158

今後の研究展望

(1) 廃棄アスベストのリスク管理に関する研究

アスベスト分析法の検討に関して、媒体毎、処理過程毎の分析法の検討を進め、実試料への適用による評価を踏まえてマニュアル化する。廃棄物処理過程で発生する各媒体中を光学顕微鏡と電子顕微鏡で並行に分析して比較し、相互に結果を推定する方法を検討する。分析精度管理手法確立に関して、クロスチェックにおけるばらつきの要因解析や、内部精度管理に使用可能な実試料を用いた標準観察試料の作成を実施し、最終的には分析に係る留意点等を含めて精度管理手法として取りまとめる。

廃棄物処理施設でのアスベスト飛散実態調査、搬入物のアスベスト含有の調査を行うと共に、除塵装置からの再飛散を実験的に検討する。飛散実態調査や除塵装置の性能評価から曝露モデルを開発した後、廃棄物処理・再資源化過程における曝露シナリオを想定し、前年度に開発した曝露モデルからアスベスト曝露リスクに関する解析を行い、リスク低減のための適正管理手法を取りまとめる。

(2) 資源循環に係る基盤的技術の開発

廃棄物資源化および環境保全技術動向の調査に関しては、過去4年間の調査において多数の技術情報を集積した。今後さらに実施すべきことは、集積した技術に関する情報について、目的に応じて取り出し利用しやすいようにデータベースとしての整備を図ることである。また、シーズ的な技術の基礎となる情報源として学術誌の詳細な調査が若干不足していると判断される。最終年度はこの2点を主な課題とするほか、新規の実証規模研究等は常に行われていることから、これについて継続実施する。

シーズ技術に関する実験研究については、若手研究者の専門性を勘案して、熱的または生物学的原理両領域に基づく技術を開拓していく。

(3) その他の課題も含めた資源循環・廃棄物管理分野全体の基盤的調査・研究の今後の展望

外部競争的資金等で現在実施中の個別の課題については、各々の年次計画に沿って残る研究期間の成果目標を着実に達成する。中長期的には、今中期計画上の研究区分をより簡潔に再編し、焦点を絞って重点的に取り組むプロジェクト研究との対比がより明確になるように、今期において中核研究プロジェクトや廃棄物管理の着実な実践のための調査・研究の一部に取り込む形で実施した内容も交えて、資源循環・廃棄物管理分野の基盤研究をより体系的に展開していく。