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アーカイブ集(Meiのひろば:海外報告便)


ベトナム国旗

04. ベトナム報告
  「大気汚染物質の地域および大陸間輸送に関する国際ワークショップ参加報告」
   International Workshop on Regional and Intercontinental Transport of Air Pollution

鈴木 規之

はじめに

 本会議は、国連欧州経済理事会(UNECE)において実施されている越境大気汚染条約(Long Range Transboundary Air Pollutants、略してLRTAP条約)のもとで行われている、大気汚染物質の長距離輸送モデルと観測についての専門家会合である。LRTAP条約(日本は非加盟)は欧州、米国を含む51カ国が加盟しており、大気汚染物質の国境を超えた越境移動に対して各国が共同して管理に当たることを目的としている。この条約機構の中にいくつかのタスクフォース、ワーキンググループなどの専門家会合が置かれており、条約実施のために必要となるモデル化技術、観測、排出対策技術、影響評価などの検討が行われている。本会議は、これらのうちTask Force on Hemispheric Transport of Air Pollutants(略称HTAP、北半球タスクフォース(*1))の活動として行われた専門家会合である。現在は米国環境保護庁のTerry Keating博士と欧州理事会の Andre Zuber博士が共同議長として活動をリードしている。このタスクフォース活動(*1)は、北半球規模での大気汚染物質の長距離輸送を解明するため、大気輸送モデルや観測データ、解析などについて議論を行い、意見交換、研究開発等や今後の方向性を示すことを目的としている。ワークショップは年に数回、関連するテーマによって世界各地で開催されており、今回は、東アジア地域での大気汚染物質の重要な観測・研究ネットワークである東アジア酸性雨ネットワーク(EANET)との共催によりアジア地域の大陸間輸送をテーマとしてベトナム・ハノイにおいて 2008年10月13,14日の二日間に開催された。会議には欧米各国、日本、およびEANET参加の東アジア諸国からおよそ100名ほどが参加した。


会合の概要と水銀セッション

「ベトナム地図」

 プログラムは以下(*1)に見ることが出来る。 セッションは、Global and Regional Modeling of Long Range Transport(長距離輸送の地球規模および地域規模でのモデリング)、Impacts of Transboundary Air Pollution(越境大気汚染のインパクト)、Ozone and Aerosol Observations(オゾンおよびエアロゾルの観測)、Mercury Observations(水銀の観測)、Emissions and Projections(排出推定と予測)の5テーマに分けて行われ、参加者によるプレゼンテーションと質疑、最後にHTAP議長によるワークショップとしてのとりまとめが行われた。
 大気汚染物質としてのPOPs(残留性有機汚染物質)と水銀が注目されている。この両者とも、大気輸送により長距離を国境を越えて地球規模で輸送されると考えられている。大気経由の輸送という視点で大気汚染の問題ともいえるとともに、生態系や人への生物濃縮等を経ての影響が問題となるという点では微量有害物質の長距離輸送の問題とも言える。筆者は本ワークショップの中の水銀観測セッションのオーガナイザー・座長としてセッションの企画と運営を担当することとなって企画段階から参加した。
 LRTAP条約は広範な汚染物質を含む条約で、イオウ酸化物、窒素酸化物などの大気汚染物質のほか、いくつもの議定書があり、水銀とPOPsについても議定書で検討対象とされている。今回は水銀の大気観測についてアジアでは初めて開かれるセッションとなり、日中韓および米国の研究者によるセッションを企画した。


会議の様子と議論

 水銀セッションについては、まず米国のRob Mason教授から水銀観測、特に大気中の形態別分析による水銀観測の重要性に対する講演を頂いた。日本からは私、いであ株式会社と京都大学 高岡先生より水銀観測、モデル化、排出推定に関する発表を行った。また、韓国からは観測とモデル化の研究成果、中国から中国国内における発生源の詳細なデータの提供があった。なお、中国から発表されたXinbin Feng博士は、今年春に中国で開催される世界水銀会議の主催者でもある。セッションでは活発な質疑応答があり、大気汚染物質としての水銀に対する関心の高さが感じられた。一方で、日本では水銀は水俣病の厳しい経験から水質汚染や生物、食物への濃縮への関心がこれまで中心であり、今後は大気汚染から水質、生物、食物などまで環境中の水銀全体を見渡しての研究の必要性が高いようにも思われた。
 この他、大気汚染物質としての窒素酸化物、オゾン、粒子状物質などの長距離輸送、大陸間輸送の観測やモデルに関する最新の研究成果が多く示された。また、日本が大きな役割を持つ東アジア酸性雨ネットワーク(EANET)の成果の発表もあり、アジア域において着実な研究蓄積が続けられていることが感じられた。


おわりに

「大気中の輸送」イメージ挿絵

 大気汚染への関心と、微量の有害化学物質に対する関心には実は近いところがあるにもかかわらず、これまでやや切り離された形で研究や対策が進められる傾向があるように思われる。しかし、例えばPOPs(残留性有機汚染物質)や水銀などでは、最終的な影響が各種の媒体間の輸送と生物濃縮の結果として起こる特徴を持つと同時に、その長距離輸送で中心的役割を果たすのは大気中での輸送である。本ワークショップでの議論に参加しながら、このような汚染物質に対して、これまでの研究の枠組みを超えてより広い知見を集積する方向を強く意識することが今後必要ではないかと思われた。

【参考資料】

*1  http://www.htap.org/
      (<Task Force on Hemispheric Transport of Air Pollutants(HTAP) /
      Meeting/Previous Meetings/2008/Hanoi(October 2008)


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