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アーカイブ集(Meiのひろば:リスク評価のひろば)


02. 化学物質の環境リスク初期評価

山崎 邦彦

 世界で約 10万種、我が国で約5万種流通しているといわれる化学物質の中には、人の健康や生態系に対して有害性を持つものが多数あり、環境汚染を通じて好ましくない影響を与えるおそれがあります。こうした影響の発生を防ぐためには、このような化学物質が人の健康や生態系に対してもたらす環境リスクについて定量的な評価を行い、対応について検討することが重要です。しかし、多くの物質については未だリスク評価がなされず、わが国で基準が定められ規制が行われている物質はごく一部に限られています。
 こうした物質について、人の健康や生態系に対する「環境リスク」が懸念され、何らかの対応が必要かどうかをリスク評価に基づいて判断することが必要ですが、基準を決めるときのように1つ1つ詳しくリスク評価を行っていたのでは、なかなか評価が進みません。評価の方法が少々粗くても、よりスピーディに評価を進め、まず問題になりそうな物質を選び出すことが必要です。


「環境リスク初期評価の概要」を示したフロー図
図1:環境リスク初期評価の概要

 当センターでは、旧化学物質環境リスク研究センターの時代から、環境省が進めている「化学物質の環境リスク初期評価」(<環境省のHP)に協力し、全面的にバックアップしてきました。
 この「環境リスク初期評価」では、行政ニーズを踏まえて選ばれた化学物質を対象として、
[1]人の健康や生態系に対する有害性を特定し、用量(濃度)-反応(影響)関係を整理する「有害性評価」と、
[2]人及び生態系に対する化学物質の環境からの曝露量を見積もる「曝露評価」を行い、
[3]両者の結果を比較することによってリスクの程度を判定する
という手順をとっています。
 「環境リスク初期評価」では、数多くの化学物質の中から環境リスクが高そうな物質を選び出すこと(スクリーニング)を目的として、健康リスクと生態リスクの両面にわたる評価を行っています。ある程度のスピードを確保しつつ、化学物質リスク管理施策の検討に対するスクリーニング評価としての役割を果たすため、基本的には国内外で広く採用されている標準的な評価手法を採用しており、国際的な評価文書やデータベースを可能な限り活用し、得られた情報や評価方法が完璧なものではないことを十分に認識しながら評価を進めています。高い環境リスクがある物質を誤って見過ごし、検討の機会を失ってしまう危険性をできるだけ小さくするため、曝露評価ではさまざまな環境データの中から最も高い濃度を示した地点の値を利用し、有害性評価ではより感受性の高い知見を利用するなど、安全側でリスク評価を行っています。
 この評価により「詳細な評価を行う候補物質」が選び出されますが、この時点ではあくまでも「これから詳しい評価を行うことを検討すべき候補物質」との位置づけであり、これらがすべて「直ちに環境リスクを低くしなければならない」物質であると意味するものではありません。

 
「環境リスク初期評価(グレー本)」の写真
環境リスク初期評価(通称:グレー本)

 環境リスク初期評価の結果は、環境省のウェブサイトから公開されています。平成20年2月の第6次とりまとめでは、健康リスクについて「詳細な評価を行う候補」とされた物質はありませんでしたが、生態リスクについては2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノールなど6物質が「詳細な評価を行う候補」と結論付けられました。詳細なリスク評価や環境調査の実施などを誘導するほか、必要な知見の充実を図ることとされています(<環境省のHP:化学物質の環境リスク初期評価(第6次とりまとめ)の結果について)


 環境リスク初期評価の成果は、その際に収集された科学的な知見を含め、化学物質審査規制法の改正、水生生物保全のための水質環境基準の検討対象物質の抽出、PRTR 対象物質や有害大気汚染物質優先取組物質の見直し、国が環境調査を実施すべき化学物質の選定、化学物質の情報をまとめたファクトシートの作成などに、幅広く利用されてきました。環境施策の検討の際だけでなくさまざまなリスクコミュニケーションの場面での活用が期待されていますが、リスク評価文書はそのままでは専門用語が多く、読みやすいものではありません。「化学物質の環境リスク初期評価」の成果がより広く活用されるように、現在ガイドブックの作成を進めているところです。


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