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1.地球温暖化プログラム
(3) 気候・影響・土地利用モデルの統合による地球温暖化リスクの評価

研究の目的

効果的な温暖化対策を策定するためには、近未来および長期の将来に亘って人間社会および自然生態系が被る温暖化のリスクを高い信頼性で評価することが必要である。そこで、本プロジェクトは、近未来については、将来30年程度に生起すると予測される極端現象の頻度・強度の変化を含めた気候変化リスク・炭素循環変化リスクを詳細に評価し、適応策ならびに森林吸収源対策の検討や温暖化対策の動機付けに資することを目的とする。また、長期については、安定化シナリオを含む複数のシナリオに沿った将来100年程度もしくはより長期の気候変化リスク・炭素循環変化リスクを評価し、気候安定化目標ならびにその達成のための排出削減経路の検討に資することを目的とする。地球温暖化研究プログラムにおける位置付けとしては、炭素循環観測研究から得られる最新の知見を取り込みつつ、主として自然系の将来予測情報を対策評価研究に提供する。

平成21年度の実施概要

気候モデル、影響・適応モデル、陸域生態・土地利用モデルの各サブテーマについて、各モデルの開発・改良ならびに各モデルを用いた将来予測実験およびその解析を行うとともに、モデル間の結合もしくは統合利用を行った。具体的には、各サブテーマについて以下を実施した。

サブテーマ(1) 気候モデル研究

国内他機関と連携し、IPCC第5次評価報告書に向けた次世代気候モデル実験を実施するとともに、その実験結果を解析する手法の検討を進める。また、既存の実験結果に基づく予測の不確実性を定量化する。さらに、IPCCの新しいシナリオ開発プロセスに対応して、気候シナリオと社会経済シナリオを結びつける手法を検討する。

サブテーマ(2) 影響・適応モデル研究

影響評価結果の不確実性を明示的に表現するための手法の検討・開発に関連して、気候モデル不確実性を明示的に考慮した気候変化による人間健康影響(熱ストレスによる超過死亡)の確率的な影響評価を実施する。気候モデルと影響評価モデルの結合作業に関しては、計算高速化・高度化のための水資源影響モデルのプログラム改訂を実施する。さらに、専門家やメディアとの意見交換等により地球温暖化リスクの全体像の整理を進める。

サブテーマ(3)陸域生態・土地利用モデル研究

土地利用変化および森林火災の影響を考慮した陸域生態系モデルの気候モデルとの結合準備を進めるとともに、過去の気候変動および土地利用変化に伴う陸域炭素収支の変動をoff-line実験により再現する。他の中核プロジェクトおよびモニタリング事業による観測データを活用してモデルの高度化と検証を実施する。

研究予算

(実績額、単位:百万円)
中核プロジェクト(3)気候・影響・土地利用モデルの統合による地球温暖化リスクの評価
  平成18年度 平成19年度 平成20年度 平成21年度 平成22年度 累計
運営交付金 41 53 54 48    
受託費 45 59 62 69    
科学研究費            
寄付金            
助成金            
総額 86 112 116 117    

今後の研究展望

IPCC第5次評価報告書に向けて、新気候モデル実験および新シナリオ研究が国際的なコーディネーションの下に進行中である。気候モデル研究は、国内他機関と協力してこの新実験の完遂に貢献するとともに、これまでに開発してきた手法を活用して新実験の結果を解析し、不確実性の定量化等についての新しい知見を得ることを目指す。影響・適応モデル研究も、この新実験の結果を基に速やかに水資源、農業、健康等の影響評価を行い、不確実性の幅を持った影響評価結果を示す。陸域生態・土地利用モデル研究については、新たに都市の発展を含む詳細な空間分布を持つ土地利用シナリオを開発するとともに、気候変化に伴う農業収量変化などとの整合性を考慮した、より現実的な陸域生態・土地利用シナリオの研究を行う。また、水文・農業・陸域生態・土地利用の諸過程を結合した陸域統合モデルを完成させ、将来の食料供給における水・土地制約の問題等の分析に発展させる。さらに、中核プロジェクト4の統合評価モデル研究と連携して、社会経済シナリオと気候シナリオを統合したシナリオ分析を行うとともに、専門家と社会とのコミュニケーションに関する検討を発展させ、シナリオ分析の結果を社会の意思決定に適切に役立てることを目指す。