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1.地球温暖化プログラム
(3) 気候・影響・土地利用モデルの統合による地球温暖化リスクの評価

外部研究評価委員会事前配付資料

平成21年度の研究成果目標

全体:

① IPCC第5次評価報告書に向けて、新しい気候モデル実験を準備、実施するとともに、影響・適応モデル、陸域生態・土地利用モデルについて、モデル間の結合を進め、解析手法の開発、改良を行う。

サブテーマ(1):気候モデル研究

① 国内他機関と連携し、IPCC第5次評価報告書に向けた新しい気候変化予測実験を実施するとともに、その実験結果を解析する手法の検討を進める。また、既存の実験結果に基づく予測の不確実性を定量化する。さらに、IPCCの新しいシナリオ開発プロセスに対応して、気候シナリオと社会経済シナリオを結びつける手法を検討する。

サブテーマ(2):影響・適応モデル研究

① 影響評価結果の不確実性を明示的に表現するための手法の検討・開発に関連して、本年は特に気候モデル不確実性を明示的に考慮した気候変化による人間健康影響(熱ストレスによる超過死亡)の確率的な影響評価を実施する。気候モデルと影響評価モデルの結合作業に関しては、計算高速化・高度化のための水資源影響モデルのプログラム改訂を実施する。さらに、専門家やメディアとの意見交換等により地球温暖化リスクの全体像の整理を進める。

サブテーマ(3):陸域生態・土地利用モデル研究

① 陸域生態・土地利用モデルについて、陸域生態モデルの高度化および土地利用変化モデルの開発を進めるとともに、IPCCの新しいシナリオ開発プロセスに対応して、次世代気候モデル実験の入力条件となる詳細な空間分布を持つ排出・土地利用変化シナリオの開発を行う。

平成21年度の研究成果

全体:

① ア サブテーマ1の気候モデル研究、サブテーマ2の影響・適応モデル研究、サブテーマ3の陸域生態・土地利用モデル研究により、モデルの開発・改良を行うとともに、それを用いた将来予測およびその不確実性評価の研究を総合的に推進した。特に、IPCC-AR5に向けた気候気候モデル実験の実施と、その結果を用いた不確実性評価、影響評価、シナリオ分析の準備を中心的に行った。

① イ 気候変化予測と影響評価にまたがる不確実性を評価する研究はサブテーマ1と2が協力して行った。また、気候モデルと影響評価モデルの結合作業は3つのサブテーマが協力して行った。

サブテーマ(1)

① ア 国内他機関と連携し、IPCC AR5に向けた次世代気候モデル実験を準備し、実施した。また、気候変化予測と影響評価の不確実性を評価する手法を開発し、南米域の水資源影響評価等に適用した。さらに、IPCCの新しいシナリオ開発プロセスに対応して、気候シナリオと社会経済シナリオを結びつける手法を検討した。

① イ 気候モデルに火山噴火の放射強制力を与える方法を改良するとともに、IPCC新シナリオを用いた気候モデル実験のためのエアロゾル等の排出量空間分布データを作成した。このデータはサブテーマ3の土地利用変化シナリオと共に世界の研究コミュニティーに提供され、利用される見込みである。

① ウ 気候変化予測と影響評価の不確実性を定量化する手法を改良して、南米域の水資源量変化の問題を例にとり、手法の適用を試みた。水資源影響評価はサブテーマ2と連携して行った。複数の気候モデルによる計算結果のばらつきのうち、影響評価の対象となる変数に最も影響を与えるパターンを統計的に抽出し、そこに観測データとの一致度による制約をかけたところ、温暖化の進行により南米北東部で顕著な乾燥が起こるパターンが最も可能性が高いことが示唆された。

① エ 気候シナリオと社会経済シナリオを結び付けるために、気候シナリオの空間パターンをスケーリングする手法の検討を行うとともに、社会経済シナリオの不確実性を感度分析により調査する手法の検討を行った。

サブテーマ(2)

① ア 気候モデル不確実性を明示的に考慮した気候変化による人間健康影響(熱ストレスによる超過死亡)の確率的な影響評価を実施した。気候モデルと影響評価モデルの結合作業に関しては、計算高速化・高度化のための水資源影響モデルのプログラム改訂を実施した。さらに、専門家やメディアとの意見交換等により地球温暖化リスクの全体像の整理を進めた。

① イ 気候・土地利用モデルとの結合のため、水資源モデルH08中の陸面モデル・河川モデルのベクトル化コーディング・空間解像度依存性の解決を実施した。その結果、従来からの粗空間解像度での全球領域対象の水資源評価に加え、それと整合性を維持した地域的な高空間解像度での水資源評価の実施が可能になった。

① ウ IPCC-AR4で評価対象となった約20の気候モデルによる最新の将来気候予測を用いて、世界全域を対象地域として、気候モデル不確実性を明示的に考慮した気候変化による人間健康影響(熱ストレスによる超過死亡数)のリスク評価(確率的な影響評価)に取り組んだ。前提とする気候モデルにより超過死亡数変化の推計結果に大きな差が生じることから、モデル平均した推計結果のみから対策を論ずることの不十分さが指摘された。

① エ 温暖化リスク情報の伝達については、専門家から情報を提供し、メディア関係者の意見を収集しつつ、一般市民への情報伝達のあり方について議論することを目的として、メディア関係者・研究者合わせて50名程度を集め、環境省、東京大学と共同で「第2回温暖化リスク・メディアフォーラム」を実施した(2010年3月6日・秋葉原)。2℃安定化目標に関して、予測される影響、必要となる対策や、これまでの国際交渉での扱われ方などを整理し、メディア関係者と研究者の間で認識のすり合わせを実施した。

サブテーマ(3)

① ア 土地利用変化および森林火災の影響を考慮した陸域生態系モデルの気候モデルとの結合準備を進めるとともに、過去の気候変動および土地利用変化に伴う陸域炭素収支の変動をoff-line実験により再現した。また、他の中核プロジェクトおよびモニタリング事業による観測データを活用してモデルの高度化と検証を実施した。

① イ 陸域生態モデルVISITを用いて、過去の気候変動・土地利用変化に伴う陸域炭素収支変動を、1901〜2005年の期間について解析した。土地利用変化については、耕作地・放牧地面積の時系列データと、転換面積の時系列データを用いた推定を行った。過去約100年の土地利用変化および火災により約305 Pg CがCO2として放出された一方、自然生態系では大気CO2増加による施肥効果や気候変動の影響により246Pg CのCO2が固定されていた。従って、陸域生態系は上記期間に約60 Pg CをCO2として放出したと推定される。このモデル計算では、表土流亡や揮発性有機物質の放出も考慮されるが、それらに伴う相当規模の炭素放出が生じてきた可能性も示唆された。モデル推定の妥当性を検証するため、東アジア地域を対象にして陸域フラックス観測データおよび他のモデルによる生産力・炭素収支シミュレーションの結果と比較を実施した。各種観測データとの比較検証を通じて、温暖化への生物的フィードバックとなり得る炭素収支に関する推定精度の向上を図った。

① ウ 土地利用変化モデルについては、IPCCの新シナリオのベースとなるRCPの空間詳細シナリオの高精度化を行った。都市分布の将来シナリオには、人口、GDP、都市化率を元とすることで高精度なものとなった。RCP空間詳細シナリオに、バイオマスクロップのシナリオを追加作成した。また、土地利用の基準年の分布について精度を向上した。従来のマップ統合では、マップの多数決により作成したが、新たな統合マップでは、地上検証データを用いて統合を行った。この新しいマップの精度はκ係数0.66であり、最新の他のマップの0.62を上回る高精度のマップである。

① エ これらの陸域生態・土地利用モデルの開発により、グローバルな陸域炭素吸収源機能を評価する科学的な知見の高度化を達成するとともに、計画していた次期IPCCに対応した土地利用分野シナリオの開発において、世界的にも先駆的な空間詳細なシナリオを構築することに成功し、21年度中にRCPを完成して公開することができた。今後は、陸域生態モデルと土地利用モデルとを統合したモデルの高度化、水文モデル、農業モデル、社会経済モデルとの連携の強化による、陸域の新シナリオ構築に向けての発展を目指す予定である。

外部研究評価委員会による終了時の評価

平均評点    4.2点(五段階評価;5点満点)

外部研究評価委員会の見解

[現状評価]

プロジェクトは計画に従って順調に進展しており、期待以上の成果が得られている。研究者への情報発信のみならず、マスメディアを通した一般人への温暖化リスクの発信にも力を注ぐ姿勢を持っており、高く評価できる。また、気候変化予測の不確実性の定量化の例はわかりやすく、重要性の高い結果と思われる。以上のように国内の関連研究の中で、ユニークな立ち位置で重要な役割を果たしている。

[今後への期待・要望]

温暖化リスクの情報伝達に関してのメディア関係者との情報交換などは国環研の役割を考えると今後も継続すべき必要性は高い。また、地球温暖化リスクという以上、我が国の温暖化に伴う経済社会的リスク(コスト)の大きさに関して、より明確に提示出来るようにあって欲しい。

対処方針

温暖化リスクの一般社会とのコミュニケーションについては、今後とも期待に沿えるように推進していきたい。温暖化リスクのコスト評価は、対策コストとの対比において極めて重要な意味を持つと認識している。国内のリスクについては、別課題(環境研究総合推進費S-4およびS-8)において評価が試みられ、発表されている。今後、本課題でもこのような成果を取り込み、意思決定支援のコミュニケーション等に効果的に活用することを考えたい。一方で、この種の研究は、非市場価値の評価や、将来世代との衡平性に関連した割引率の考え方など、難しい点も多いと認識している。これらについても長期的な課題として徐々に検討を進めていきたい。加えて、適応コストの評価についても検討を開始する予定である。