Ⅰ 重点研究プログラム
研究課題名 地球温暖化研究プログラム
実施体制
代表者: | |
地球環境研究センター センター長 笹野 泰弘 | |
分担者: | |
【地球環境研究センター】 | |
野尻 幸宏(副センター長) | |
炭素循環研究室 | 向井 人史(室長)、梁 乃申(主任研究員)、高橋 善幸(研究員)、寺尾 有希夫(NIES特別研究員)、津守 博通*)、奈良 英樹、中岡慎一郎(NIESポスドクフェロー)、須永 温子(NIESアシスタントフェロー)、橋本 茂(高度技能専門員) |
衛星観測研究室 | 横田 達也(室長)、山野 博哉(主任研究員)、森野 勇(主任研究員)、吉田 幸生(NIES特別研究員)、青木 忠生*)、Sergey Oshchepkov (NIESフェロー)、Andrey Bril、江口 菜穂、太田 芳文、田中 智章、荒木 光典(NIESポスドクフェロー) |
主席研究員 | Shamil Maksyutov (主席研究員)、古山 祐治、齊藤 誠、齊藤 龍、Dmitry Belikov、Anna Peregon*)、Nikolai Kadygrov*)、金 憲淑*) (NIESポスドクフェロー)、小田 知宏、佐伯 田鶴、中塚 由美子*) (NIESアシスタントフェロー)、高木 宏志(高度技能専門員)、Vinu Valsala(JSPSフェロー) |
温暖化リスク評価研究 | 江守 正多(室長)、高橋 潔(主任研究員)、小倉 知夫、伊藤 昭彦(研究員)、横畠 徳太、、塩竈 秀夫、長谷川 聡、阿部 学、増冨 祐司(NIESポスドクフェロー)長友 利晴(NIESアシスタントフェロー) |
主席研究員 | 山形 与志樹(主席研究員)、木下 嗣基、哈斯 巴干(NIESフェロー)、石渡 佐和子*)、![]() |
温暖化対策評価研究室 | 甲斐沼 美紀子(室長)、亀山 康子、藤野 純一(主任研究員)、花岡 達也(研究員)、芦名 秀一、池上 貴志、松本健一(NIESポスドクフェロー)、 岩渕裕子、明石修(NIESアシスタントフェロー) |
大気・海洋モニタリング推進室 | 町田 敏暢(室長)、白井 知子(研究員)、笹川 基樹(NIESポスドクフェロー) |
陸域モニタリング推進室 | 三枝信子(室長)、小熊 宏之 (主任研究員)、中路 達郎*)、平田 竜一*)(NIESポスドクフェロー)、油田 さと子*)(アシスタントフェロー) |
地球環境データベース推進室 | 松永 恒雄(室長)、Georgii A. Alexandrov、曾 継業(NIESフェロー)、開 和生(NIESフェロー) |
GCPつくば国際オフィス | Shobhakar Dhakal(NIESフェロー)、牧戸 泰代(NIESポスドクフェロー)、Anil Raut*) (NIESアシスタントフェロー) |
温室効果ガスインベントリオフィス | 早渕百合子、松本 力也*)、Jamsranjav Baasansuren、尾田 武文、赤木 純子(NIESポスドクフェロー)、酒井 広平、小野 貴子(NIESアシスタントフェロー)、田辺 清人(高度技能専門員) |
国環研GOSATプロジェクトオフィス | 渡辺 宏、内野 修、菊地 信行(高度技能専門員) |
地球温暖化観測推進事務局 | 藤谷 徳之助(高度技能専門員)、宮崎 真(NIESフェロー)、藤田 直子*)(NIESポスドクフェロー)レオン 愛*) (共同研究員) |
【循環センター型社会・廃棄物研究センター】 | |
森口 祐一(センター長) | |
【アジア自然共生研究グループ】 | |
広域大気モデリング゙研究室 | 谷本 浩志(主任研究員)、永島 達也(研究員) |
流域生態系研究室 | 島崎 彦人(NIESポスドクフェロー) |
【社会環境システム研究領域】 | |
原沢 英夫*)(領域長) | |
環境経済研究室 | 日引 聡(室長)、久保田 泉(研究員) |
統合評価研究室 | 増井 利彦(室長)、肱岡 靖明(主任研究員)、花崎 直太、金森 有子(研究員)、Xu Yan*) (NIESポスドクフェロー) |
交通・都市環境研究室 | 小林 伸治(室長)、松橋 啓介(主任研究員) |
【化学環境研究領域】 | |
動態化学研究室 | 横内 陽子(室長)、荒巻 能史(研究員)、斉藤 拓也(NIES特別研究員) |
【大気圏環境研究領域】 | |
大気物理研究室 | 野沢 徹(室長)、日暮 明子(主任研究員)、川瀬 宏明(NIESポスドクフェロー) |
大気動態研究室 | 遠嶋 康徳(室長)、 山岸 洋明(NIES特別研究員) |
【生物圏環境研究領域】 | |
武田 知己(NIESポスドクフェロー) | |
生理生態研究室 | 名取 俊樹、唐 艶鴻(主任研究員) |
※所属・役職は年度終了時点のもの。また、*)印は過去に所属していた研究者を示す。
研究の目的と今年度の実施概要
[本プログラム全体の目的、目標、構成等]
温室効果ガスによる地球温暖化の進行とそれに伴う気候変化は、その予測される影響の大きさや深刻さからみて、人類の生存基盤に関わる最も重要な環境問題の一つであり、持続可能な社会の構築のためにはその防止及び影響緩和に向けた取組が必要不可欠である。その一環として、平成17年2月に京都議定書が発効したことにより、「京都議定書目標達成計画」(平成17年4月閣議決定)の確実な実施による排出削減約束の達成が我が国の当面の重要課題となった。しかし、それに留まらず、京都議定書の第1約束期間以降の国際枠組みの構築、さらには将来の社会経済システムを温室効果ガスの排出の少ないものへと変革することを目指して、50年〜100年後の中長期までを見据えた温暖化対策の検討を進め、脱温暖化社会の実現に向けた道筋を明らかにしていく必要がある。
このため本プログラムでは、温暖化とその影響に関するメカニズムの理解に基づいた、将来に起こり得る温暖化影響の予測のもとに、長期的な気候安定化目標及びそれに向けた世界及び日本の脱温暖化社会のあるべき姿を見通し、費用対効果、社会的受容性を踏まえ、その実現に至る道筋を明らかにすることを全体目標とした。また、以下のサブ目標を置いた。
- サブ目標1
- 温室効果ガス濃度予測の高度化や排出インベントリの検証のため、温室効果ガスのグローバルな長期的濃度変動のメカニズムや地域別収支、温暖化影響を解明する
- サブ目標2
- 衛星観測により二酸化炭素及びメタンのカラム濃度のグローバルな時間・空間変動を把握し、二酸化炭素の収支変動を高精度で推定することにより、温室効果ガス削減戦略に貢献する
- サブ目標3
- 極端現象を含む将来気候変化とその自然生態系・人間社会への影響を高精度で予測できる気候モデル・陸域炭素モデル・影響モデルの開発と統合利用を行い、多様な排出シナリオ下での全球を対象とした温暖化リスクを評価する
- サブ目標4
- 脱温暖化社会の実現に至る道筋を明らかにするために、ビジョン・シナリオ作成、国際政策分析、対策の定量的評価の連携による温暖化対策を統合的に評価する
- サブ目標5
- IPCC等への参画を通じて国際貢献を図るとともに、アジア太平洋の発展途上国における人材育成と対策強化を支援するため、プログラムで開発した観測・評価手法等のノウハウを提供する
本プログラムは、研究部分として4つの中核研究プロジェクト、8つ(20年度は5つ)の関連研究プロジェクトから構成される。さらにその他の活動として、地球環境研究センターが知的研究基盤の整備事業の一環として行う地球温暖化関連のモニタリング、データベース、研究の総合化・支援に係る事業が、本プログラムを構成する。
- <中核研究プロジェクト>
- (1)温室効果ガスの長期的濃度変動メカニズムとその地域特性の解明
- (2)衛星利用による二酸化炭素等の観測と全球炭素収支分布の推定
- (3)気候・影響・土地利用モデルの統合による地球温暖化リスクの評価
- (4)脱温暖化社会の実現に向けたビジョンの構築と対策の統合評価
- <関連研究プロジェクト>
- (1)過去の気候変化シグナルの検出とその要因推定
- (2)高山植生による温暖化影響検出のモニタリングに関する研究
- (3)太平洋小島嶼国に対する温暖化の影響評価
- (4)温暖化に対するサンゴ礁の変化の検出とモニタリング
- (5)温暖化の危険な水準と安定化経路の解明
- <地球環境研究センター事業 知的研究基盤の整備>
- (1)地球温暖化に係る地球環境モニタリング
-
大気・海洋モニタリング
陸域モニタリング - (2)地球温暖化に係る地球環境データベースの整備
- (3)GOSATデータ定常処理運用システム開発・運用
- (4)地球温暖化に係る地球環境研究の総合化・支援
-
グローバルカーボンプロジェクト事業支援
地球温暖化観測連携拠点事業支援
温室効果ガスインベントリ策定事業支援
本プログラムの実施に当っては、地球環境研究センターの4研究室が4つの中核研究プロジェクトの実施主体として中心的な役割を担う。これに、地球環境研究センター及び関係ユニットの研究員がプロジェクトメンバーとして参画している(下表を参照)。また、関連研究プロジェクトについては、地球環境研究センターの研究員、関係ユニットの研究員が課題を担当している。地球温暖化に関わる地球環境研究センター事業は3つの推進室を中心に、関係ユニットからの兼務研究員の協力を得て実施している。いずれの研究プロジェクト・事業においても、NIESフェロー、ポスドクフェロー、アシスタントフェローの寄与は大きい。また、高度技能専門員、アシスタントスタッフなどの支援を得ている。
なお、地球環境研究センター事業については、別途、「知的研究基盤の整備」として年度評価資料が作成されるので、重複を避けるため本報告の本文中には含めない。
表 中核研究プロジェクト実施体制
プログラムリーダー | 笹野 泰弘 |
副リーダー | 野尻 幸宏 |
中核研究プロジェクト1 温室効果ガスの長期的濃度変動メカニズムとその地域特性の解明 |
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炭素循環研究室 | 向井 人史、高橋 善幸、梁 乃申、寺尾 有希夫 |
CGER職員 | 野尻 幸宏、町田 敏暢、白井 知子、S. Maksyutov |
CGER外職員 | 遠嶋 康徳、横内 陽子、谷本 浩志、荒巻 能史、唐 艶鴻、山岸 洋明、斎藤 拓也 |
ポスドクフェロー | 津守 博通*)、奈良 英樹、古山 祐治、中岡慎一郎、笹川 基樹 |
アシスタントフェロー | 須永 温子 |
高度技能専門員 | 橋本 茂 |
中核研究プロジェクト2 衛星利用による二酸化炭素等の観測と全球炭素収支分布の推定 |
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衛星観測研究室 | 横田 達也、山野 博哉、森野 勇、吉田 幸生 |
CGER職員 | Shamil Maksyutov、松永 恒雄、小熊 宏之 |
CGER外職員 | 日暮 明子 |
フェロー | 青木 忠生*)、Sergey.Oshchepkov |
ポスドクフェロー | 江口 菜穂、太田 芳文、Andrey Bril、Vinu Valsala、古山 祐治、斎藤 誠、田中 智章、斉藤 龍、荒木 光典、Anna Peregon*)、Nikolai Kadygrov*)金 憲淑*) |
アシスタントフェロー | 小田 知宏、佐伯 田鶴、中塚 由美子*) |
中核研究プロジェクト3 気候・影響・土地利用モデルの統合による地球温暖化リスクの評価 |
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温暖化リスク評価研究室 | 江守 正多、高橋 潔、小倉 知夫、伊藤 昭彦 |
CGER職員 | 山形 与志樹 |
CGER外職員 | 野沢 徹、日暮 明子、永島 達也、肱岡 靖明、花崎 直太 |
フェロー | 木下 嗣基 |
ポスドクフェロー | 横畠 徳太、塩竈 秀夫、長谷川 聡、増冨 祐司、阿部 学、川瀬 宏明 |
アシスタントフェロー | 長友 利晴、石渡 佐和子*)、![]() |
中核研究プロジェクト4 脱温暖化社会の実現に向けたビジョンの構築と対策の統合評価 |
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温暖化対策評価研究室 | 甲斐沼 美紀子、亀山 康子、藤野 純一、花岡 達也 |
CGER外職員 | 増井 利彦、久保田 泉、原沢 英夫、肱岡 靖明、日引 聡、森口 祐一、小林 伸治、松橋 啓介、金森 有子、花崎直太 |
ポスドクフェロー | 芦名 秀一、Xu Yan*)、池上 貴志、松本 健一 |
アシスタントフェロー | 岩渕 裕子、明石 修 |
[中核研究プロジェクトの目的と20年度の実施概要]
(1)中核研究プロジェクト1(温室効果ガスの長期的濃度変動メカニズムとその地域特性の解明)
二酸化炭素を始めとする大気中の温室効果ガスの多くは、人為的な寄与によってここ200年間、その濃度が増加している。このまま温室効果ガスが増加し続けると、地球の気候は今後100年程度の間に大きく変化し、人類や地球の生態系にとって危険をもたらしかねない状況にある。それを防止するためには温室効果ガスの発生量抑制が必須であり、その目標設定に科学的な根拠を与えるためには、将来の大気中濃度の変化をより正確に予測しなければならない。そのためには、大気と陸域及び海洋の各圏の間での生物的過程あるいは物理的過程による二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素等の温室効果ガスの循環や移動の実態と濃度変動メカニズムを解明し、地球規模での収支を定量化する必要がある。
本プロジェクトでは、地球温暖化研究プログラムの中で、他のプロジェクトで行われる温暖化リスクの予測と評価や、対策の統合評価に資するため、将来の温室効果ガスの濃度増加に関するより精度の高い知見を与えることを目的に、温室効果ガスの各圏間の循環や移動、蓄積等のメカニズムとその地域特性に関して研究を行う。特に今後大きな経済成長を遂げると見込まれるアジアーオセアニア域に着目し、これらの地域での大気、海洋、陸域の濃度やフラックスの変化や、1990年代以降に見られる世界的な温暖化傾向が濃度増加、物質循環過程に及ぼす影響を解明する。その方法として、酸素濃度や同位体濃度などの新たな指標成分の活用方法を検討し、大気中の温室効果ガスの収支、またその変動を引き起こす人為的寄与や自然における変動メカニズムを長期的見地から明らかにする。同時に、それらの地域的な分布や特徴を明らかにし、アジアーオセアニアにおける将来の人為的な温室効果ガス発生抑制に係る目標設定のための情報を与える。
20年度は以下により、研究を実施した。
1) アジア-太平洋域での広域大気観測による温室効果ガスの収支や地域的特性に関する研究
対流圏のCO2の濃度変動や分布、また大気の循環過程を調べるために、日本からアジア、アメリカ、ヨーロッパなどへ飛行するJALの旅客機5機を用いた自由対流圏上部の二酸化炭素連続観測、各国空港付近での鉛直分布観測を継続し、成層圏下部を含む対流圏の濃度変動の解明を行う。日豪間では大気の採取も行いCO2以外の温室効果ガスの挙動も解析する。地表面での広域観測のため日本−北米(2隻)、日本−オーストラリア−ニュージーランド(1隻)、日本―東南アジア(1隻)間を航行する定期貨物船の協力を得て、太平洋上緯度や経度毎、またアジア地域での大気中の多成分(CO2、CH4、N2O、同位体比、ハロカーボン、酸素、水素、CO、オゾン等)の観測を行う。また、波照間及び落石ではこれら各種成分(酸素、フロンなどを含む)を連続的に高精度に現場分析し、アジア域の温室効果ガスの重要な観測拠点として機能させる。さらに、インドや中国でのサイトでの観測を行う。
これらの広範囲、高頻度測定により、濃度分布や時系列濃度変動パターンを抽出する。その結果から、グローバルな変動やアジア特有の地域別のフラックス変動の特徴を検出する。
2) 太平洋域のCO2海洋吸収、アジアの陸域生態系のCO2吸収フラックス変動評価に関する研究
北太平洋海洋フラックスモニタリング事業による日本−アメリカ西海岸(またはアメリカ東海岸)を往復する定期貨物船で採取された二酸化炭素分圧データを用いて、北太平洋での海洋からの二酸化炭素フラックスを求める。さらに昨年度から開始した西太平洋(日本−オセアニア路線)での海洋中の二酸化炭素フラックス観測を継続する。
陸域フラックス観測として行われている日本の3か所(苫小牧、天塩、富士北麓)のデータを比較解析しつつ、苫小牧、天塩などの森林においては、森林の撹乱後の二酸化炭素フラックス変動などの観測を継続する。日本の代表的な数箇所の森林土壌や熱帯域で土壌呼吸速度の観測を継続する他、日本の5か所のサイトでヒーターによる現場の温暖化操作実験を開始し、温暖化の影響を調べる。各地の土壌を採取し、インキュベーション手法によって日本の各地の土壌の温度特性などを検討し、土壌呼吸に関する温暖化による炭素循環フィードバックの影響を調べる。中国の青海省で、炭素蓄積が大きい草原の二酸化炭素吸収フラックス観測を継続する。これらアジアでの各地の森林吸収フラックス観測値を時系列で比較し、その変動特徴を明らかにする。
3) 温室効果ガスの動態のモデル的評価に関する研究
これまで開発してきた結合モデルを広域観測で得られたCO2やメタンの時系列データなどに適用し、濃度分布や変動要因の解析を行う。同時に今後インバースモデルへの展開を図るため、観測データとの比較により、モデルの適用性、自然起源フラックスの妥当性、人為起源フラックスの妥当性、消滅過程の妥当性などの検討を行う。
(2)中核研究プロジェクト2(衛星利用による二酸化炭素等の観測と全球炭素収支分布の推定)
温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT)プロジェクトは、環境省・国立環境研究所(NIES)・宇宙航空研究開発機構(JAXA)の三者共同プロジェクトである。京都議定書の第一約束期間(2008年〜2012年)に、衛星で太陽光の地表面反射光を分光測定してSN比300以上を達成し(JAXA目標)、二酸化炭素とメタンのカラム量を雲・エアロゾルのない条件下で二酸化炭素については相対誤差1%、メタンについては相対誤差2%の精度で観測する。これら全球の観測結果と地上での直接観測データを用いることにより、インバースモデル解析に基づく全球の炭素収支分布の算出誤差を地上データのみを用いた場合と比較して半減すること(NIES目標)を目標にしている。
本プロジェクトではこの目標達成に向けて、種々な観測条件下において取得されたデータに対して、雲・エアロゾル・地表面高度などの誤差要因を補正し、高精度で二酸化炭素・メタンのカラム量を導出することを目的に、衛星観測データの定常処理アルゴリズムを開発する。衛星打ち上げ前には、数値シミュレーションに基づいてデータ処理アルゴリズムを開発し、航空機や地上で取得する擬似データや直接観測データによりアルゴリズムの精度を評価し改良する。また、衛星打ち上げ後は、データ処理の結果(データ質)を直接測定・遠隔計測データを用いて評価・検証し、データ処理アルゴリズムの更なる改良を行う。また、この衛星観測データと地上での各種の直接測定データとを利用して、全球の炭素収支推定分布の時空間分解能と推定精度を向上することを目的にインバースモデルを開発し、データ解析を行う。
20年度は以下により、研究を実施した。
1) 衛星観測データの処理アルゴリズム開発・改良研究
GOSAT 観測データの定常処理システムに必要な処理アルゴリズムを完成し、データプロダクトの誤差評価手法を確立する。また、偏光観測データの利用手法の高度化を図る。
2) 地上観測・航空機等観測実験による温室効果ガス導出手法の実証的研究
衛星打ち上げ後のプロダクト検証の準備として、地上・航空機実験を実施して地上検証装置の校正と誤差評価を行う。また、偏光データの利用手法等の妥当性の確認と評価を行う。
3) 全球炭素収支推定モデルの開発・利用研究
大気輸送フォワード計算手法の調整と精緻化を進める。また、濃度導出に必要な温室効果ガスの地表面フラックスのデータセットを整備する。更に、このフォワード計算結果と衛星データを利用して全球の炭素収支分布を推定するインバースモデル解析手法を定常処理システムに構築するための研究を進め、テストを行う。
(3)中核研究プロジェクト3(気候・影響・土地利用モデルの統合による地球温暖化リスクの評価)
効果的な温暖化対策を策定するためには、近未来および長期の将来に亘って人間社会および自然生態系が被る温暖化のリスクを高い信頼性で評価することが必要である。そこで、本プロジェクトは、近未来については、将来30年程度に生起すると予測される極端現象の頻度・強度の変化を含めた気候変化リスク・炭素循環変化リスクを詳細に評価し、適応策ならびに森林吸収源対策の検討や温暖化対策の動機付けに資することを目的とする。また、長期については、安定化シナリオを含む複数のシナリオに沿った将来100年程度もしくはより長期の気候変化リスク・炭素循環変化リスクを評価し、気候安定化目標ならびにその達成のための排出削減経路の検討に資することを目的とする。地球温暖化研究プログラムにおける位置付けとしては、炭素循環観測研究から得られる最新の知見を取り込みつつ、主として自然系の将来予測情報を対策評価研究に提供する。
この目的を達成するため、本プロジェクトでは、極端現象の変化を含む将来の気候変化とその人間社会および自然生態系への影響を高い信頼性で予測できる気候モデル、影響モデル、および陸域生態・土地利用モデルの開発と統合利用を行い、炭素循環変動に関する最新の研究知見も取り入れた上で、多様な排出シナリオ下での全球を対象とした温暖化リスクを、不確実性を含めて定量的に評価する。
20年度は以下により、研究を実施した。
環境省地球環境研究推進費S-5「地球温暖化に係る政策支援と普及啓発のための気候変動シナリオに関する総合的研究」が19年度に開始されており、その4つのテーマのうち2つで、本中核研究プロジェクトが主軸となっているまた、文部科学省「21世紀気候変動予測革新プログラム」も同時に開始されており、本中核研究プロジェクトにおける気候モデル研究の一部はそこに位置づけられる。主にこれらの研究課題に沿う形で以下の研究を進める。
1) 気候モデル研究
モデルの改良ならびに次世代モデル実験の準備をほぼ完了するとともに、予測の不確実性を考慮した確率的気候変化シナリオの開発を進める。また、極端現象の発生メカニズムおよび土地利用変化・灌漑が気候に与える影響を調査する。
2) 影響・適応モデル研究
影響評価の不確実性を明示的に表現するための手法の開発を進める。また、水資源および農業影響モデルを高度化するとともに、気候モデルとの結合作業を進める。さらに、専門家やメディアとの意見交換等により地球温暖化リスクの全体像の整理を進める。
3) 陸域生態・土地利用モデル研究
陸域生態モデルの高度化および土地利用変化モデルの開発を進めるとともに、IPCCの新しいシナリオ開発プロセスに対応して、次世代気候モデル実験の入力条件となる詳細な空間分布を持つ排出・土地利用変化シナリオの開発を行う。
(4)中核研究プロジェクト4 (脱温暖化社会の実現に向けたビジョンの構築と対策の統合評価)
地球温暖化の防止を目的として、空間的(日本・アジア・世界)、時間的(短期及び長期)、社会的(技術・経済・制度)側面から、中長期的な排出削減目標達成のための対策の同定とその実現可能性を評価するビジョン・シナリオの作成、国際交渉過程や国際制度に関する国際政策分析、および温暖化対策の費用・効果の定量的評価を行い、温暖化対策を統合的に評価する。既に温暖化影響が多くの場所で現れていることから、温暖化対策の実施に向けて京都議定書以降の枠組について国際的に合意し、世界各国と共同して対策を実施することは必須の課題である。本プロジェクトでは、広範囲に及ぶ温暖化技術の評価や対策実施に向けた合意形成のための方法論を確立すること、実現性・実効性・説得性のある環境政策シナリオ作成のための研究手法を確立することを目指している。
20年度は以下により、研究を実施した。
1) 脱温暖化(低炭素社会)ビジョン・シナリオ作成研究
低炭素社会を実現するための具体的な方策や対策を組み合わせた一連の施策群を収集し、誰がいつどこで何をすればよいかのヒントを与えるパッケージ集を作成する。また、目標達成にどの施策・施策パッケージを実施するのが適当かを提示するため、従来のバックキャストモデルを改良し、低炭素社会への道筋を検討する。さらにアジアの新興国・途上国や欧米の研究機関と協力して低炭素社会づくりの政策対話を推進する。
2) 気候変動に関する国際政策分析
これまでの研究成果をふまえ、次期国際枠組みに関する具体的かつ詳細な制度提案をまとめるとともに、COP13 バリ会合(2007 年12 月)以降本格化した次期枠組み交渉における、我が国の政策決定に資する情報を提供する。また、次期枠組みに関する第4回アジアワークショップ会合を開催し、アジア諸国にとってはいかなる国際制度が望ましいのか、を中心に議論する。同時に、アジア各国内の能力増強の具体的方策を検討する。
3) 気候変動政策の定量的分析
IPCC第4 次評価報告書の成果をもとに、簡易気候モデルであるAIM/Climate のパラメータの調整、新たなモジュール(炭素循環フィードバック)の付加、分析対象年次の延長(IPCC新シナリオの想定に基づいて2300 年まで)などの改良作業を行う。また、世界経済モデルの改良と、AIM/Climate との連携を通じて、IPCCの第5次評価報告書に向けた新シナリオの開発に着手する。さらに、これまでに開発してきた国別モデルや世界技術選択モデルを対象に、データの更新や温暖化に関する既存の政策課題を評価することが可能となるようにモデルの改良を行い、わが国における温暖化対策の評価を行う。
関連研究プロジェクトの目的と20年度の実施概要
(1)過去の気候変化シグナルの検出とその要因推定
近年の温暖化傾向が人為起源の気候変動要因に起因することの、より確度の高い情報を提供することを目的として、自然起源の気候変動要因に起因する気候変化の不確実性の幅を定量的に評価するとともに、観測された長期気候変化の原因を推定する。20年度は、さまざまな条件下での20世紀気候再現実験結果を用いて、観測された陸域降水量の長期変化をもたらした主要因を推定した。また、自然起源の気候変動要因である火山噴火に対する気候応答の再現性について調査した。
(2)高山植生による温暖化影響検出のモニタリングに関する研究
IPCC第3次報告書で行われた地球温暖化影響検出手順を参照し、都市化の影響が比較的少ない我が国の高山植生を指標として、温暖化影響検出のモニタリングを行うことを目的としている。20年度は最終年度であるため、まず、日本の高山帯での長期の気温変化および雪環境変化についてまとめた。また、北岳、アポイ岳、白山(定点観測地での調査)および尾瀬(資料収集)での植物の開花の長期経年変化、白山での越年性雪渓の長期経年変化をまとめた。さらに、日本の高山帯で認められる温暖化影響の可能性がある現象についてまとめ、これらを総合して日本の高山帯での温暖化影響について判定した。さらに、今後の高山帯での温暖化影響モニタリングのための提言を行った。
(3)太平洋小島嶼国に対する温暖化の影響評価
環境変動に対する脆弱性が極めて高いと考えられる太平洋の島嶼国を対象として、マッピング及び地形形成維持過程に基づいて、現在及び将来の環境変動と経済システムの変化による応答を予測し、持続可能な維持のための方策を提案する。20年度は、マーシャル諸島共和国とツバル共和国にハザードマップと保全区域に基づいた沿岸管理策を提示した。また、温暖化に対する地形変化に加えて水資源変化を対象とし、降水量や地下水の観測を開始した。
(4)温暖化に対するサンゴ礁の変化の検出とモニタリング
サンゴ礁の衰退を起こす地理的要因を明らかにするため、現地観測データや航空機、衛星センサー等リモートセンシングデータを用いた、サンゴ礁の変化の監視のためのアルゴリズム開発を行い、広域かつ継続的なサンゴ礁のモニタリングの実施に資する。20年度は、日本のサンゴ礁域を対象として衛星データと現地データに基づいて最新のサンゴ分布図を作成し、白化等による過去からの変化とその地域性を明らかにした。また、温暖化と複合してサンゴ礁に対するストレスとなる陸域負荷を対象とし、土地利用変化の解析を開始した。さらに、温暖化の影響を受けやすいと考えられる温帯の分布北限域におけるサンゴ群集を新たな対象とし、サンゴの群集構造、骨格形成等を用いた温暖化影響評価に関する検討を開始した。
(5)温暖化の危険な水準と安定化経路の解明
地球温暖化を防止するために,温室効果ガスをどの程度に安定化させるべきか、いまだ確固たる知見は得られておらず、安定化濃度と影響からみた危険な水準の関係について科学的に明らかにすることが、緊急課題となっている。本プロジェクトは,濃度安定化等の温暖化抑制目標とそれを実現するための経済効率的な排出経路、および同目標下での影響・リスクを総合的に解析・評価するための統合評価モデルを開発することを目的とする。20年度は統合評価モデルを用いて,日本を対象としたBaUおよび安定化シナリオ下における複数分野の影響評価を実施した。運輸部門を対象として、電気自動車、バイオ燃料、交通信号の効果について推計した。
GOSAT定常処理運用事業(その他の活動)の目的と20年度の実施概要
温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT,平成20年度に打ち上げ)の観測データを定常処理(受信、処理、再処理、保存、処理結果の検証、提供)することを目的に、定常処理運用システムを開発・整備し、運用する。これは環境省・国立環境研究所・宇宙航空研究開発機構の三者により推進されているGOSATプロジェクトにおける国立環境研究所の主要な役割分担の一つである。
20年度は、定常処理運用システムの開発と衛星打ち上げ前のシステム試験を完了し、衛星打ち上げ前システム開発完了審査会を実施した。定常処理に必要な計算機システムの三次導入を行った。システムの運用体制を整備し、運用を開始した。宇宙航空研究開発機構(JAXA)等の外部機関とのインタフェース調整を行い、取り決め文書を締結した。また、衛星打ち上げ後のデータ処理結果の検証のための準備を進めた。なお、GOSATは平成21年1月23日に成功裏に打ち上げられ、打ち上げ後3ヶ月間は衛星とセンサシステムの初期チェックアウト(性能確認と調整)がなされる。
研究予算
[中核研究プロジェクト・関連研究プロジェクト]
平成18年度 | 平成19年度 | 平成20年度 | 平成21年度 | 平成22年度 | 累計 | |
運営交付金 | 231 | 205 | 189 | 625 | ||
受託費 | ||||||
地球環境研究総合推進費 | 421 | 267 | 213 | 901 | ||
地球環境保全試験研究費 (一括計上) |
155 | 161 | 171 | 487 | ||
文部科学省 | 68 | 47 | 19 | 134 | ||
民間 | 1 | 0 | 1 | 2 | ||
環境省請負費 | 14 | 22 | 12 | 48 | ||
文科省科研費 | 10 | 9 | 16 | 35 | ||
総 額 | 900 | 711 | 621 | 2,232 |
[その他の活動のうちGOSAT事業]
平成18年度 | 平成19年度 | 平成20年度 | 平成21年度 | 平成22年度 | 累計 | |
運営交付金 | 601 | 821 | 673 | 2,095 | ||
受託費 | ||||||
民間 | 5 | 5 | ||||
石油特別会計 | 83 | 179 | 0 | 262 | ||
環境省請負費 | 36 | 34 | 234 | 304 | ||
総 額 | 720 | 1,034 | 912 | 2,666 |