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環境省環境研究総合推進費 戦略的研究開発プロジェクトS-10
地球規模の気候変動リスク管理戦略の構築に関する総合的研究

1. はじめに

気候変動枠組条約 COP16 カンクン合意により世界全体で平均気温上昇を工業化以前と比べ「2℃」以内に押さえるという目標のもと様々な行動が実施されています。カンクン合意では、この目標について、気候変動枠組み条約第2 条との関係から十分であるか、また、目標達成に向けた国際的な緩和行動や緩和行動を進める枠組みについて、2013 年~2015 年の間にレビューを行うとされています。さらに、「2℃」目標達成に向け、国際的に大幅なGHG の削減が必要となるが、大幅削減に向けた国際的な合意は停滞し、大幅削減に必要な時間が刻々と失われています。

こうした状況を踏まえ、本プロジェクトでは、「クリティカルな気候変動リスクの分析」、「気候変動リスク管理に向けた土地・水・生態系の最適利用戦略の分析」、「幅広い気候変動リスク管理オプションの評価」、「気候変動リスク管理問題への科学技術社会論の適用」により、制約条件、不確実性、リスク管理オプション、社会の価値判断を網羅的に考慮した、地球規模での気候変動リスク管理戦略を構築・提示します。これにより、国際的合意形成への寄与、日本の交渉ポジション・国内政策立案の支援、国民の気候変動問題への理解の深化に貢献します。

また、本プロジェクトは、環境省戦略的研究開発領域S-8(温暖化影響評価・適応政策に関する総合的研究)及び文部科学省の気候変動予測・影響評価に関連する研究プロジェクトと連携して 研究を実施します。

2. 研究の概要

本プロジェクトでは、制約条件、不確実性、リスク管理オプション、社会の価値判断を網羅的に考慮した、地球規模での気候変動リスク管理戦略を構築・提示します。そのため、以下の(1)~(5)の個別テーマを実施するとともに、アドバイザリーボードを設立・運営することで、効率的なプロジェクト運営を行います。

(1)地球規模の気候変動リスク管理戦略の総合解析に関する研究

戦略課題全体の司令塔(総括班)として、テーマ間の研究調整・連携促進ならびに課題全体の進行管理の役割を担いつつ、各テーマが生み出す研究知見を総合化し、リスク管理戦略の解析の枠組みを定め、地球規模の気候変動リスク管理戦略の解析を実施します。このため、各テーマが提供する気候変動リスクおよび対策に関する知見を、統合評価ツールへの組み込みを通じて定量的に、知見集約と議論を通じて定性的に総合化し、リスク管理戦略について解析を実施します。また、意思決定理論の数理的応用、実践を通じたリスク伝達の研究成果をふまえ、リスク管理戦略解析の枠組みを研究実施期間内に定期的に見直します。

(2)気候変動リスク管理に向けた土地・水・生態系の最適利用戦略

気候変動が食料・水・エネルギー利用可能性および生態系に対して与える影響を総合的に評価し、将来の土地・水・生態系の利用制約、温暖化対策と食料生産・水資源・生態系とのトレードオフ関係・コベネフィット関係を定量分析し、温暖化影響下での温暖化対策のクリティカルなプロセスやポイントを特定します。このため、土地・水・農業・生態系を記述する陸域統合モデルを開発し、温暖化の影響や温暖化対策の要求の下で、持続可能性の観点から望ましい土地・水・生態系の利用の用途・方法・程度を地理的な分布を併せて検討し、水資源セキュリティーや生態系サービスなどの各種持続可能性指標を設定して評価を試みます。また、陸域統合モデルを構成する生態系・水資源・土地利用・農業生産の各モデルを高度化するとともに、それらの間の相互作用についての分析も実施します。

(3)クリティカルな気候変動リスクの分析に関する研究

リスク分析を担当します。リスク分析は気候変動によって生じ得る事象の特性評価とそれがもたらす社会への影響の推計からなります。気候変動リスクの特性評価研究では、気候変動によって生じ得る事象の中でも、特に、海洋の熱塩循環(THC)の変化、グリーンランドなど極地の氷床の大規模融解等、地球物理学的な臨界現象に注目し、気候モデルによる数値実験結果や古気候を参考にしつつそれらの現象を列挙し、その発生メカニズムと起こりやすさ、地球全体の気候変化との関係を明らかにします。気候変動リスクの推計研究では、気候変動によって生じ得る海水面の上昇、各地域の気温や降水量の変化とその極端現象の発生頻度の変化等を踏まえて、全球平均気温を指標として表現されるようないわゆる気候変動レベルごとに生じ得る社会への影響を、水、食料、エネルギー、健康等の分野に関して列挙し、各分野の気候変動リスクの大きさを推計します。

(4)技術・社会・経済の不確実性の下での気候変動リスク管理オプションの評価

地球温暖化対策に関する様々な中長期エネルギー経済モデル開発と評価が行われていますが、これまでの多くのモデル開発は完全予見型の合理的行動を前提とすることが多く、理想的状況におけるポテンシャルの評価に主眼が置かれてきたため、具体的行動に移す際、現実の意思決定行動と理論的な結果の間の乖離の評価や、乖離の縮小という問題に十分応えられてはいません。本研究では、従来のモデル方法論と現実的な行動の間を結ぶアプローチの現状の調査を行い、さらに現実的な政策決定に寄与するためのモデル方法論の拡張を試みます。さらに、モデル評価への考慮がなされていない適応策とジオエンジアリングについてメタ分析を行い、これらも考慮し、技術・社会・経済の多面的不確実性を加味したモデル方法論の開発と対策ポートフォリオの提示を行います。

(5)気候変動リスク管理における科学的合理性と社会的合理性の相互作用に関する研究

地球規模の気候変動リスク管理の問題は、不確実性をふくむ問題でありながら、社会的意思決定が必要な課題です。科学者にも予測がつかない要素を含む問題を公共的に解決しなくてはならないときは、科学的合理性に加えて、公共の合意、公共の意思決定の根拠となる「社会的合理性」を、公共のメタ合意として作っていく必要があります。社会的合理性が担保されるためには、意思決定主体の多様性、情報開示及び選択肢の多様性の保証、意思決定プロセス及び合意形成プロセスの透明性・公開性の保証と手続きの明確化が必要とされます。その際、意思決定の主体となる国民のリスクの受け取り方、リスク認知、理解、といった科学コミュニケーションあるいは科学の公共理解、およびそれに基づく価値判断、といった課題は避けて通れません。本テーマでは、気候変動リスク管理の問題について、社会的合理性担保に必要なリスク認知、コミュニケーション、価値判断を視野に入れ、各テーマからの科学的研究知見を総合化し、全球規模での気候変動リスク管理戦略について社会的合理性の視点からの分析を行います。また、分析結果をテーマ1から4へ還元し、リスク管理戦略の解析の枠組みの定期的な見直しに役立てます。

補足資料

スライド
プロジェクト概要説明資料(PDF形式)