記者発表 2011年2月3日

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国立環境研究所の研究情報誌「環境儀」第39号
「『シリカ欠損仮説』と海域生態系の変質−フェリーを利用して
それらの因果関係を探る」の刊行について
(お知らせ)

(筑波研究学園都市記者会、 環境省記者クラブ同時配付 )

平成 23年2月3日(木)
独立行政法人国立環境研究所
企画部長: 齊藤  眞 (029-850-2302)
環境情報センター長: 岸部 和美 (029-850-2340)
環境儀WGリーダー : 稲葉 一穂 (029-850-2399)


国立環境研究所の研究成果を分かりやすく伝える研究情報誌「環境儀」第39号「『シリカ欠損仮説』と海域生態系の変質−フェリーを利用してそれらの因果関係を探る」が刊行されました。

東アジアを中心に、人口の増加と生産活動の活発化による河川流域での窒素、リンの流入量の増大が問題となっていますが、同時に大規模なダム建設によるシリカ(ケイ酸)の沈降による減少も、植物プランクトンなどの海洋生態系の構造に大きな影響を与える可能性があり懸念されています。ケイ藻はケイ素の殻を持つため成長にシリカを必要としますが、内陸から海洋へのシリカの供給量の減少は、このケイ藻の発生量に影響し、有害赤潮を形成する渦鞭毛藻類などのシリカを必要としない藻類の発生を助長する可能性があります。さらに、植物プランクトンの種が変化することで、食物連鎖の流れが変化し、海洋生態系の構造自体に影響を与える可能性も懸念されるのです。このような、シリカの供給量の減少に端を発する、海洋生態系での様々な影響を、「シリカ欠損仮説」と呼んでいます。

今号では、水土壌圏環境研究領域の原島省海洋環境研究室長が、1991年から世界に先駆けて続けてきた、フェリーを利用した海洋生態系の長期モニタリングで得られた琵琶湖から瀬戸内海での栄養塩や植物プランクトンの発生量のトレンドと、その結果を用いた「シリカ欠損仮説」の検証を紹介します。さらに、フェリーを利用することで可能となった海域の高頻度測定について、その意義と世界での検討状況も解説しています。

1   第39号の内容

地球環境の変動として、CO2の増加などの問題が注目されていますが、水圏においてはシリカ(ケイ酸)が減りつつあることが生態系に及ぼす影響も指摘され始めています。シリカは鉱物の主構成物質で、岩石の風化作用によって水圏へと供給されています。しかし、大河川に建設された巨大ダムによりシリカの沈降が起こり、ケイ素の水圏への流下が世界的に減る傾向にあるのです。このため、人為的な影響で窒素とリンの流入量が増加するのに対し、ケイ素の海域への供給が減少し、沿岸海域で、ケイ素を必要とするケイ藻よりも、ケイ素を必要とせず、しかも有害赤潮を引き起こす非ケイ藻類植物プランクトンのほうが有利に発生することが懸念されます。さらに、海洋生態系の基盤であるケイ藻が非ケイ藻類に遷移すると、クラゲなど生態系の上位生物の組成へ波及することも考えられます。このような、シリカの減少によって引き起こされる海洋生態系の変動を、「シリカ欠損仮説」と呼んでいます。

環境儀第39号表紙写真この仮説を検証するためには、海洋の栄養塩や植物プランクトンの分布と長期傾向を観測することが必要ですが、海上での継続的な定点モニタリングは、技術的に困難を伴います。国立環境研究所ではフェリー会社に協力を依頼して問題を克服し、栄養塩や植物プランクトンの観測を継続しました。その結果、琵琶湖−瀬戸内海の水系での生態系の変動に「シリカ欠損仮説」が概ね適用可能なことがわかりました。この水系では社会経済状況の変化によってむしろシリカ欠損からの回復傾向が見られますが、東アジア地域のように経済活動やダム建設が増大しつつある地域では、今後なんらかの対策が必要になると考えられます。また、国立環境研究所がさきがけとなったフェリーを利用した継続的な海洋モニタリングは、最近ではヨーロッパにおいても盛んに行われるようになってきています。

内容概要は次のとおりです。

(1) 研究担当者へのインタビュー

  • 原島 省(はらしま あきら)
        水土壌圏環境研究領域 海洋環境研究室長

(2) 研究成果のサマリー及び国内外の研究の動向の紹介

(3) 『流域からの栄養塩の流入変動と海域生態系変質に関する研究』

(4) 『シリカ欠損の研究とフェリー観測』等

2  閲覧・入手についての問い合わせ先

  • 「環境儀」は、研究所のホームページで閲覧することができます。
    http://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/
  • 冊子の入手については、下記へお問い合わせ下さい。
    連絡先:国立環境研究所環境情報センター情報企画室出版普及係
    (TEL: 029-850-2343、E-mail:pub@nies.go.jp)