記者発表 2010年11月9日

ここからページ本文です

チャレンジ25ロゴ

国立環境研究所の研究情報誌「環境儀」第38号
「バイオアッセイによって環境をはかる−持続可能な生態系を目指して」の 刊行について
(お知らせ)

(筑波研究学園都市記者会、 環境省記者クラブ同時配付 )

平成 22年11月9日(火)
独立行政法人国立環境研究所
企画部長: 齊藤  眞 (029-850-2302)
環境情報センター長: 岸部 和美 (029-850-2340)
環境儀WGリーダー : 田中 嘉成 (029-850-2144)


国立環境研究所の研究成果を分かりやすく伝える研究情報誌「環境儀」第38号「バイオアッセイによって環境をはかる−持続可能な生態系を目指して」が刊行されました。

私たちの簡便で快適な生活を支えるため、膨大な数の化学物質が生産され、私たちの目に見えない所で使用されています。その中には、人の健康や野生生物の存続にとって有害な影響を及ぼすものもあります。そのような有害な化学物質を適切に管理するために、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)」や「農薬取締法」に代表されるいくつかの法律が施行されています。しかし、内分泌かく乱物質やナノマテリアルの毒性影響や、複数の化学物質が同時に作用したときの複合影響など、まだ科学的に解明されていない問題がたくさんあります。

今号では、主任研究員の鑪迫典久さんが環境リスク研究センターで十年以上にわたり続けてきた、化学物質の内分泌かく乱作用によるミジンコの性比かく乱を利用した試験法の開発や、排水中に含まれる化学物質の毒性を総合的に評価するバイオアッセイ法の研究に焦点をあてて紹介します。ミジンコの性比変化を利用した内分泌かく乱影響試験法は、OECDテストガイドライン(211 ANNEX7)に採用されています。また、排水を直接検定するバイオアッセイ法は、米国ではWET(Whole Effluent Toxicity) システムとして知られ、本研究成果によって、改良型WET試験法の導入が日本でも検討されています。

1  第38号の内容

化学物質は、私たちの生活を豊かにする一方で、人の健康や生態系に有害な影響を及ぼす恐れがあります。毎年、1000種以上もの化学物質が新たに登録され、それらすべての化学物質に対して現行のような化学物質ごとに影響を評価して管理する方法では、化学物質の数の増加に規制が追いついていけません。また、工場などの事業場からの排水中には多数の化学物質が含まれていると考えられ、それらの相乗効果による複合影響が懸念されます。河川や湖沼の水質を確保するためには、現行の規制法を補完するような、より実際的な管理法が必要であり、その最も有望なモニタリング方法として、排水をそのまま生物検定にかけるWET(Whole Effluent Toxicity)システムが挙げられます。

環境儀第38号表紙写真また、化学物質の多様化に伴い、その作用機構も多様となり、従来の試験法ではそもそも毒性影響が測定できない化学物質も出てきました。内分泌かく乱化学物質は、内分泌系に作用することで生物の生殖機能、発生・分化、性発現などに影響するため、従来の個体の死亡を主体とする毒性試験では把握できない低濃度で影響を及ぼします。

主任研究員の鑪迫典久さんは、これらの問題を克服することを目指して、化学物質の内分泌かく乱作用によるミジンコの性比かく乱を利用した試験法の開発や、排水中に含まれる化学物質の毒性を総合的に評価するバイオアッセイ法の研究を続けてきました。それらの研究成果は、OECDテストガイドライン(211 ANNEX7)や、日本におけるWETシステムの導入へ向けた動向に大きな影響を与えました。

内容概要は次のとおりです。

(1) 研究担当者へのインタビュー

  • 鑪迫 典久(たたらざこ のりひさ)
        環境リスク研究センター 環境曝露計測研究室 主任研究員

(2) 研究成果のサマリー及び国内外の研究の動向の紹介

(3) 『化学物質の内分泌かく乱作用に関わる試験法の開発』

(4) 『生物応答を用いた化学物質の総和的な管理手法の研究』等



2  閲覧・入手についての問い合わせ先

「環境儀」は、研究所のホームページで閲覧することができます。
http://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/
   
冊子の入手については、下記へお問い合わせ下さい。
連絡先:国立環境研究所環境情報センター情報企画室出版普及係
(TEL: 029-850-2343、E-mail:pub@nies.go.jp)


(参考)これまで「環境儀」で取り上げたテーマ

37号 : 「科学の目で見る生物多様性−空の目とミクロの目」
36号 : 「日本低炭素社会シナリオ研究 2050年温室効果ガス70%削減への道筋」
35号 : 「環境負荷を低減する産業・生活排水の処理システム〜低濃度有機性排水処理の「省」「創」エネ化〜」
34号 : 「セイリング型洋上風力発電システム構想 − 海を旅するウィンドファーム」
33号 : 「越境大気汚染の日本への影響−光化学オキシダント増加の謎」
32号 : 「熱中症の原因を探る−救急搬送データから見るその実態と将来予測」
31号 : 「有害廃棄物の処理−アスベスト、PCB処理の一翼を担う分析研究」
30号 : 「河川生態系への人為的影響に関する評価 よりよい流域環境を未来に残す」
29号 : 「ライダーネットワークの展開−東アジア地域のエアロゾルの挙動解明を目指して」
28号 : 「森の息づかいを測る−森林生態系のCO2フラックス観測研究」
27号 : 「アレルギー性疾患への環境化学物質の影響」
26号 : 「成層圏オゾン層の行方 - 3次元化学モデルで見るオゾン層回復予測」
25号 : 「環境知覚研究の勧め−好ましい環境をめざして」
24号 : 「21世紀の廃棄物最終処分場−高規格最終処分システムの研究」
23号 : 「地球規模の海洋汚染−観測と実態」
22号 : 「微小粒子の健康影響―アレルギーと循環機能」
21号 : 「中国の都市大気汚染と健康影響」
20号 : 「地球環境保全に向けた国際合意をめざして  ― 温暖化対策における社会科学的アプローチ」
19号 : 「最先端の気候モデルで予測する『地球温暖化』」
18号 : 「外来生物による生物多様性への影響を探る」
17号 : 「有機スズと生殖異常−海産巻貝に及ぼす内分泌かく乱化学物質の影響」
16号 : 「長江流域で検証する『流域圏環境管理』のあり方」
15号 : 「干潟の生態系−その機能評価と類型化」
14号 : 「マテリアルフロー分析−モノの流れから循環型社会・経済を考える」
13号 : 「難分解性溶存有機物−湖沼環境研究の新展開」
12号 : 「東アジアの広域大気汚染−国境を越える酸性雨」
11号 : 「持続可能な交通への道−環境負荷の少ない乗り物の普及をめざして」
10号 : 「オゾン層変動の機構解明−宇宙から探る  地球の大気を探る」
9号 : 「湖沼のエコシステム−持続可能な利用と保全をめざして」
8号 : 「黄砂研究最前線−科学的観測手法で黄砂の流れを遡る」
7号 : 「バイオエコ・エンジニアリング−開発途上国の水環境改善をめざして」
6号 : 「海の呼吸−北太平洋海洋表層のCO2吸収に関する研究」
5号 : 「VOC−揮発性有機化合物による都市大気汚染」
4号 : 「熱帯林−持続可能な森林管理をめざして」
3号 : 「干潟・浅海域−生物による水質浄化に関する研究」
2号 : 「地球温暖化の影響と対策−AIM:アジア太平洋地域における温暖化対策統合評価モデル」
創刊号 : 「環境中の『ホルモン様化学物質』の生殖・発生影響に関する研究」

バックナンバーはホームページから閲覧できます。
http://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/

Adobe ReaderのダウンロードページへPDFの閲覧にはAdobe Readerが必要です。Adobe社のサイトからダウンロードしてください。