「企業の環境コミュニケーション(日独企業比較)」についての調査結果について
(お知らせ:筑波研究学園都市記者クラブ同時配布


平成14年5月21日(火)
独立行政法人 国立環境研究所
 主任研究企画官          高木 宏明(0298-50-2310) 
 担当 社会環境システム研究領域 青柳 みどり(0298-50-2392)



国立環境研究所では、(株)住友生命総合研究所と共同で平成7年度より企業の環境対策についての調査を実施してきた。平成13年度には、平成12年度の日本調査に続きドイツでの調査を実施し、日本企業との比較分析を行った。ドイツ企業の中から、環境報告書を出版している企業、およびEMAS(the Eco-Management and Audit Scheme)認証サイトを持つ企業を対象とした。調査の結果、ドイツ企業は、環境コミュニケーションを経営戦略を考えるための一つの柱としているのに対し、日本企業では利害関係者とのコミュニケーション手段にとどまっており、経営戦略への活用にまで至っていないことがわかった。

《報告書の要点》

1.調査の目的

 本研究は、環境省地球環境研究総合推進費による研究プロジェクトの一環として実施されたものである。本プロジェクトでは平成7年度より、企業の環境対策と消費者行動の相互関連の解明を目的とした調査研究を実施してきた。平成13年度には、平成12年度の日本調査に続きドイツでの調査を実施し、日本企業との比較分析を行った。調査対象はドイツ企業の中から、環境報告書を出版している企業、およびEMAS認証サイトを持つ企業である。

 調査内容は、対象企業の環境経営に対する認識、環境情報開示の現状、企業の環境経営と消費者、取引先、投資家、工場や事業所周辺の地域住民などへの対応、環境報告書、環境声明書の発行状況である。本調査では、環境コミュニケーションを、「企業とステイクホルダー(消費者・従業員・取引先・投資家・地域社会など)が環境保全という視点で、誰でも参加できる形で情報や意見のやり取りをする相互作用」と定義し、消費者、取引先、投資家、工場や事業所周辺の地域住民などを、ステイクホルダー(利害関係者)と総称することとし、企業がステイクホルダーからの反応をどのように認識し、その認識を自社の環境戦略にどのようにいかしているかに注目した。

2.調査方法

 本調査の対象企業は、ドイツに事業所を持つ企業で、(1)環境報告書を作成しているドイツ企業(107社)、(内訳は、ア)Capital社による環境報告書ランキング2000で掲載されているドイツ企業(61社)、イ)アウグスブルク大学ホームページでの掲載企業(89社))、(2)ドイツにおいてEMASに登録している企業…調査対象をランダムに抽出1755社(2375社中)から企業規模・地域を勘案した300社である(詳細は巻末資料を参照されたい)。また日本調査については昨年度記者発表を参照されたい(平成13年5月14日付 http://www.nies.go.jp/whatsnew/2001/20010514.html)。

 回答企業の属性をみると、約75%が製造業で最も多い。従業員数は平均で2,347人、500人未満が70%をしめ、日本調査に比べると規模の小さい企業が多い(日本調査は、平均従業員数5,600人、500人未満は11%)。本調査は、環境情報開示に積極的な企業を対象とした調査であるが、同時に、この属性分布からわかるように製造業の中小企業が中心の回答であるということに注意されたい。また日本調査との比較においても、日本では大企業が中心、ドイツでは中小企業が中心という点についても注意されたい。

3.調査結果

a)企業経営における環境経営の位置づけ

 自社の経営において環境対策をどのように位置付けているかを重要な順に3つまで挙げてもらったところ、ドイツ企業においては、「環境負荷への責任」(58.6%)とする回答が最も多く、次いで「持続可能性の確保」(43.8%)、「企業存続の優先課題」(41.4%)、「マーケットニーズや顧客の要求に応えるもの」(37.5%)、「環境リスクへの対応」(29.3%)となった。一方、日本企業において最も回答が多かったのは「企業存続の優先課題」(64.2%)であり、次いで「環境負荷への責任」(60.4%)、「マーケットニーズや顧客の要求に応えるもの」(46.1%)、「持続可能性の確保」(41.3%)、「環境リスクへの対応」(36.4%)となっていた。
環境経営を「競争の手段」と位置付ける割合が、ドイツでは21.7%あるのに対し、日本では4.6%と低い。また、「業界水準の確保」についても、ドイツでは21.7%あるのに対し、日本では4.6%と低かった(図−1)。


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b)業績評価システムと環境対策の連動

 企業内における個人や各部署の環境対策への取り組みを評価する仕組みの有無について尋ねたところ、ドイツでは「設けている」という企業が37.5%であった。質問形式は異なるが、日本においても環境対策への取り組みを評価するなんらかの仕組みを設けている企業が3割以上であり、日本との差はみられなかった。

c)環境戦略・行動へのステイクホルダーからの影響

 本調査では、消費者、取引先、投資家、工場や事業所周辺の地域住民などを本調査ではステイクホルダーと総称することとした。回答企業の約30%が、これらのステイクホルダーから寄せられた要望が、企業の環境戦略や行動に何らかの影響を与えたと回答した。

d)環境コミュニケーション

 本調査では、調査時に、環境コミュニケーションを、「企業とステイクホルダー(消費者・従業員・取引先・投資家・地域社会など)が環境保全という視点で、誰でも参加できる形で情報や意見のやり取りをする相互作用」と定義することを説明した上で、企業が環境コミュニケーションに期待することについて質問した。日本企業では、「ステイクホルダーとの相互理解を促進すること」(46.1%)が最も多かった。一方、ドイツ企業では、特に回答割合が高かったのは「経営戦略への活用」(27.3%)と「製品・サービスの開発・改良に生かすこと」(25.0%)であり、ドイツ企業の方が環境コミュニケーションを具体的な経営戦略に活用していることがわかる(図−2)。


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e)環境コミュニケーションの手段

 ドイツ企業で最も回答が多かったのは「自社ホームページ」(88.8%)であり、「社内報」(77.0%)、「環境声明書」(69.1%)が続いた。日本に比べて回答割合が特に高かったのは「自社ホームページ」(ドイツ88.8%、日本60.0%)「営業報告書、事業報告書」(ドイツ62.2%、日本28.4%)「店頭での営業や表示など」(ドイツ49.3%、日本16.8%)である。また全体的に日本企業よりも活用されるツールが多様化している傾向がうかがえる。特に注目されるのは、ホームページの活用と並んで、営業報告書や事業報告書であり、環境情報は事業活動を報告するための重要な項目と認識されていることがわかる。一方、日本では会社案内やパンフレットなどが約70%で最も多く、環境対策は広報の一要素として位置づけられていることを示唆している。

f)企業が重視しているステイクホルダー

 環境コミュニケーションを行う上で企業が重視しているステイクホルダーをみると、ドイツ企業では「取引先企業」の割合が最も高く56.6%であった。次いで、「社内」(51.3%)、「消費者」(50.7%)、「行政」(36.2%)が続いた。日本企業では、「地域社会」(52.4%)が最も高く、「取引先企業」(49.5%)、「社内」(48.0%)、「消費者」(44.2%)が続いている。重視するステイクホルダーとして「取引先企業」「社内」「消費者」が上位にくるのはドイツ、日本ともに変らない。日独ともにこれらのステイクホルダーは企業にとっては優先順位の高いものであることがわかる。日独の企業の間で異なった結果となった項目についてみると、日本で「地域社会」の割合が52.4%で最も高かった。これに対し、ドイツにおいては対応する選択肢である、「工場・事業所周辺住民」は、18.1%と6番目であった。日本の調査対象企業が大企業の製造業が多く、工場の操業において地域住民との関係を重要視してきたことが影響していると考えられる。また、日本ではドイツに比べて、「投資家、格付け機関、株主」の回答割合が多いが、これは日本においては回答企業の84%が上場企業であるのに対し、ドイツの回答企業は株式会社が13%に過ぎないという会社形態の差が関連していると考えられる。
また、「重視するステイクホルダー」と「ステイクホルダーからの反応の多さ」との関係をみると、全体的にドイツの企業では重視している割合とステイクホルダーからの反応の大きさとのギャップは少ない。一方、日本企業では全体的に反応の多さと重視度とのギャップがみられる(図―3)。


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g)環境コミュニケーションの効果

 環境コミュニケーションの効果を内部的な効果と外部的な効果に分けてみると、日本と比べて最も差があったのが、「省エネ・省資源に結びついた」(日本44%に対し、ドイツ85%)であった。これは、ドイツではPIUSといわれる製品・生産プロセスに省エネ・省資源となる過程が導入されているが大きい。社内での環境対策を推進し、PIUSを導入していく過程で環境コミュニケーションが必要不可欠であり、効果を上げていることを実績として示しているのである。その過程で部署間の協力体制(日本50%に対し、ドイツ70%)や組織間の連携(日本22%に対し、ドイツ50%)が築かれていく。
 外部的な効果としては、企業イメージの向上(日本66%に対し、ドイツ90%)が最も多い。ドイツ企業の方がプラスの効果を多く認識しており、外部からの表彰(日本22%に対し、ドイツ46%)、取引上で有利(日本20%に対し、ドイツ40%)、売り上げが伸びた(日本4%に対し、ドイツ25%)などいずれも日本企業よりも回答が多い。

4.まとめ

 本調査は日・独の環境コミュニケーションについて取り組みの進んでいる企業に対しての比較調査であったが、ドイツ企業と日本企業での環境対策についての位置づけの差、また、企業を取り巻く周辺状況の差が明らかになった。日本企業にとっての環境コミュニケーションは、図2にみるように、ステイクホルダーとの相互理解であり、売り上げには直接結びついていない。しかし、ドイツ企業にとっては、経営戦略に生かし、売り上げに結びつく形成戦略上の重要な柱である。したがって、営業報告書などの会社自体の経営状況を示す報告書にも環境情報は記載すべき事項であるが、日本においては会社案内など会社紹介の一項目に過ぎない。
 日本・ドイツともに、いわゆる環境先進企業とも定義できる限られた対象についての調査結果であるが、日独企業の環境対策の位置づけについて、明らかな差が見いだされた。今後の企業の環境対策のあるべき姿について、示唆にとむ結果となった。

なお、本研究は、独立行政法人国立環境研究所と(株)住友生命総合研究所が、共同で環境省地球環境研究総合推進費人間社会的側面分野「アジアにおける環境をめぐる人々の消費者行動とその変容に関する国際比較調査」の一環として実施したものである。調査の企画および実施については、(株)住友生命総合研究所に委託し、加藤三郎(株)住友生命総合研究所客員主任研究員(環境文明研究所長)を座長とする研究グループにおいて検討を行った。研究グループに参加していただいた諸先生方、調査に答えてくださった企業の方々、調査研究を担当していただいた(株)住友生命総合研究所のスタッフの方々に深く感謝する次第である。

《報告書の入手等の問合わせ先》

○独立行政法人国立環境研究所 社会環境システム研究領域 青柳 みどり
 FAX: 0298-50-2572  e-mail: aoyagi@nies.go.jp