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02. グローバル水銀プログラム

鈴木 規之


 水銀による環境汚染というと、まず水俣病を考える人が多いのではないでしょうか。平成18年には、水俣病の公式確認から50年目を迎えました(環境省のHP:水俣病公式確認50年を迎えて)。水俣での悲惨な被害は、今日でも環境問題に携わる人間が心すべき一つの原点であり、また、日本以外の世界各国においても同じように認識されていると思います。


 日本ではこれ以後、水銀に対して様々な対策が行われました。日本国内には水銀法のプラントはもはや存在せず、農薬から薬品、また乾電池などいくつかの製品中に含まれていた微量の水銀成分まで着実に削減、廃絶の努力がなされてきました。しかしながら、世界全体を見渡した時、水銀は過去の問題では実はありません。世界では今なお広く水銀は使われており、同時に、水銀の持つ金属としてはやや特異な性質のため、水銀による環境汚染は地球規模でなお継続していると考えられています。


「2000年世界の水銀消費量の推定」を示した円グラフ(電池1081トン、水銀法797トン、小規模金採掘650トンなど)
図1:2000年世界の水銀消費量の推定(単位トン)
環境省HP:中央環境審議会環境保健部会資料より
出典:欧州委員会(2004)
Mercury flows in Europe and the world: the impact of decommissioned chlor-alkali plants)

 このような認識を受けて、UNEP(国連環境計画)では2001年2月の第21回管理理事会において世界水銀アセスメントを実施することを決定し、地球規模での水銀に関する新たな活動を開始しました。2002年12月にはまず世界水銀アセスメントの報告書が公表されています (UNEP HP: Mercury Programme(*1))。この成果を受けて、更に日本も含め各国の専門家や行政官が集まって地球規模での水銀に関する様々な問題を検討するパートナーシップと呼ばれる活動グループがいくつか形成され、多くの知見が集積されつつあります(UNEP HP: Partnerships(*2))。図1は世界における2000年現在の水銀の使用状況をまとめたものです。現在の水銀の使用においては、依然として水銀法が大きな割合を占めるほか、小規模金採掘、電池など世界ではまだ数千トン単位の水銀が使用されていることがわかります。また、石炭などには微量の水銀がもともと含まれており、石炭燃焼による水銀の発生は例えば米国などでは大きな問題と考えられています。


「大気や水への拡散」イメージ挿絵

 よく知られているように、水銀は常温で液体である唯一の金属元素です。そして、水銀は大気中にガスとして蒸発するのに十分な揮発性を有しています。厳密にはどのような元素でも非常に小さな蒸気圧(揮発性)があると考えられますが、水銀は特に蒸気圧が大きく、常温でも無視できない量が揮発すると考えられます。これらの結果として、全地球的な規模で大気に微量の水銀(例えばng/m3のオーダー)が検出されます。このような地球規模の大気や水への拡散を経て、例えば海洋から魚などの生物に水銀が濃縮されるため、特定の地域等にかかわりなく、一部の魚介類については水銀が他の魚介類と比較して高い濃度のものも見受けられます(厚生労働省のHP:魚介類等に含まれる水銀について)。


 このように、水銀の問題は、水俣病のような排出源近くにおける激しい環境問題としては、少なくとも日本国内では新たな問題ではなくなりつつある一方、水銀による地球規模での「広く薄い」汚染が新たな問題として認識されつつあります。したがって、今後さらに、国際的な取り組みを通じて地球規模の水銀問題に対して取り組む必要があると考えられます。


「水銀」イメージ挿絵

 日本でも、UNEPの水銀プログラムと協力する形で、環境省が地球規模の水銀問題に関する取り組みを開始しています(環境省のHP:国際的観点からの有害金属対策戦略)。この中で、国内での水銀の現在の使用状況の調査、地球規模の汚染に対する新たな観測拠点の設置、長距離輸送を解析する数理モデルの開発や、UNEPでの関連する長距離輸送や製品中の水銀に関するパートナーシップ活動への貢献などの取り組みを進め、国立環境研究所でも水銀のマテリアルフロー分析(注1)や長距離輸送モデルの開発などの研究課題に取り組んでいます。


 日本では現在は水銀電池は製造されておらず、乾電池は水銀を使用せず製造されるようになっていますが、蛍光灯などにはなお水銀が不可欠であり、過去の製品の存在も含め水銀と全く無縁になったわけではありません。今後我が国でも、国内でのさらなる水銀使用量の削減とともに、地球規模の水銀への取り組みに日本の持てる技術や経験を生かして対策、研究、技術などの種々の側面で貢献していくことが求められています。

注1  マテリアルフロー分析: マテリアルフローとは、人間活動に伴う「モノの動き,流れ」のことで、人間活動に伴う自然資源や原材料の流れを把握し、製品・廃棄物などの量を分析すること。


【参考資料】

*1  http://www.chem.unep.ch/MERCURY/

*2  http://www.chem.unep.ch/mercury/partnerships/new_partnership.htm