5.生物・生態系環境研究分野
研究の概要
過去数十年の間に肥大化した人間活動が、地球上の生物多様性や生態系を著しく損ない、そのことが私たちの社会、経済、そして環境の持続可能性の基盤を揺るがすことが危惧されている。生物・生態系環境研究分野では、地球上の多種多様な生物と、それらがくらす生態系の構造と機能に関する調査・研究に基軸を置きながら、生物多様性と生態系の保全の実践を支える研究ならびに事業を進展させる。そして、これらの研究による科学的な裏付けを提供することを通じて、生物多様性条約・第10回締結国会議(2010.10)で採択された愛知目標の達成や名古屋議定書締結国の責務に貢献する。さらに、アジアスケールや局所的に生起する様々な環境問題、ならびに東日本大震災や福島第一原子力発電所の事故などから生起した環境問題の解決のための研究に、生物・生態系環境の視点から取り組む。
課題対応型研究「生物多様性重点研究プログラム」では、広域的な生物多様性の状況を効率的に観測する手法を開発するとともに、集積された観測データにもとづいて生物多様性の状況や保全策の効果の評価と、将来の状況の予測を行う。また、生物多様性への直接の圧力要因のうち特に早急な対応が求められるものとして愛知目標に挙げられている侵略的外来生物、遺伝子組換え生物および気候変動の影響の実態を把握し、効果的対応策の立案に必要な将来予測を行う。観測手法の開発においては、リモートセンシングデータ及び分子遺伝学的な情報の活用手法を確立する。総合的な評価と予測にあたっては、集積されたデータにもとづいて生物多様性の状況を適確に表現する指標の開発を行う。さらに、これらの成果を活用しつつ、外来生物、温暖化の影響評価と対策など、具体的な問題の解決に取り組む。また、地域環境研究センターが主体となって実施する先導プログラム「流域圏生態系研究プログラム」に参画し、アジア流域圏での生態系機能の定量化の研究を通して、最適な生態系の保全・再生の方法を探る。一方で、研究者が幅広く自由な発想で実施することができる提案型研究で構成するセンタープロジェクトを設け、生物多様性を保全するための基礎研究を実施するとともに、自然科学と人文・社会科学との連携・融合を重視した研究シーズを積極的に育てる。
環境研究の基盤整備としては、長期的な視野に立ち、生物多様性・生態系保全研究の基盤となる生物資源の保存・提供事業(「環境微生物および絶滅危惧藻類の収集・系統保存・提供」と「絶滅に危機に瀕する野生生物種の細胞・遺伝子保存」)や長期モニタリング(湖沼モニタリングと組み換え遺伝子モニタリング)を継続するとともに、今後の利用やニーズを踏まえ、生物多様性の情報整備・提供にも着手する。長期湖沼モニタリングについては、地域環境研究センターと環境計測研究センターと共同で実施する。
研究プログラム・プロジェクトと環境研究の基盤整備は、おのおのが国内外の研究機関や国際的なネットワークと連携を取り、双方向での連携を強化する。
[外部研究評価委員会事前配付資料 (PDF 1,120KB)]
研究の概要/今年度の実施計画概要/研究予算/平成23年度研究成果の概要/今後の研究展望/自己評価/誌上発表及び口頭発表の件数
外部研究評価委員会による年度評価の平均評点
総合評価の平均評点 3.96 点(五段階評価;5点満点)
外部研究評価委員会からの主要意見
[現状についての評価・質問等]
○ 生物多様性条約愛知目標の達成に貢献することを意識して研究は開始され、概ね順調に進んでいる。
○ 我が国の生態環境の保全のために必要な基礎データの地道な収集に貢献するとともに、様々な観点から生態系保全のための基礎研究を行っており、その成果が保全に有効に使われることが期待できる。
○ 社会(一般市民)にわかりやすい環境・生態に関する情報の発信がおこなわれていることは高く評価される。
[今後への期待など]
○ 生物多様性の評価手法の標準化などに関して、国際的な合意形成のリーダーシップをとることを期待する。
○ 若手研究者によるセンタープロジェクトは、プログラム研究や本分野における将来の研究を支えるものとなると期待され、今後も継続してほしい。
○ 環境研究の基礎整備は着実に遂行されており、また震災対応研究も新たに開始され、今後の成果が期待される。
主要意見に対する国環研の考え方
① 生物多様性重点研究プログラムは、愛知目標の達成という国家戦略に対して科学的貢献を果たすことを目的として、今後も研究を展開していきたいと考えています。研究成果の発信はもとより、それらの科学的成果が生物多様性保全の政策に有効に活用されるための道筋をつくることにも留意して参ります。
② 生物多様性の評価手法については国際的にも標準化が強く求められているところであり、本課題の国際的な合意形成において当研究所はリーダーシップをとるべく、生物多様性評価手法の開発という研究分野での存在感を高めるとともに、COPを含め国際的な合意形成の場へのコミットにも積極的に取り組むよう努力して参ります。
③ 生物多様性および生態系の保全という重要な視点が、社会において広く意識されるようになるよう、HP等を通じて、研究成果を一般市民にも理解してもらえるよう分かりやすく解説する等、幅広い成果発信の工夫と努力を続けて参りたいと思います。
④ 環境研究の基盤整備については、絶滅危惧野生動物の細胞・遺伝子の収集・保存、ならびに環境問題を引き起こす微細藻類株の収集、保存、および提供サービスに取り組むとともに、遺伝子組み換え生物(GMO)の定着状況や湖沼生態系の動態に関する長期モニタリングを実施しています。これらの事業で得られた試料を基に、生物多様性および生態系の保全という観点から、国立環境研究所ならではの独自性の高い、新しい研究成果を生み出すことを目指しています。震災対応研究についても、社会的ニーズが高まる中、生物・生態系の複雑性と応答時間を十分に考慮した、長期的かつ緻密な研究を続行できるよう尽力していく所存です。
⑤ 生物多様性重点研究プログラムが愛知目標の達成にむけた政策貢献を最終目標とするのに対し、センタープロジェクトは、生物多様性・生態系の保全に関する基盤研究、メカニズム解明研究、および萌芽的研究を主体として構成され、若手による高いレベルの研究と挑戦的な研究の提案を促し、若手研究者の研究能力および資金獲得能力の向上も目指しています。愛知目標の達成が、2020年および2050年を目指していることからも、これから生物多様性保全の実践を担う若手研究者の育成は、研究所としての重要な役割であり、若手研究者も本プロジェクトの意義を理解し、期待に応えてくれているという感触を得ています。今後はセンタープロジェクトから得られた成果を生物多様性重点研究プログラムに集約・活用するという位置付けで強化していきたいと考えています。
