3.環境リスク研究分野
研究の概要
化学物質のリスクについては、人の健康と環境にもたらす著しい悪影響を最小化する方法で化学物質が使用・生産されるという、「WSSD2020年目標」の達成を目指して、人の健康や生態系に与えるリスクを総体として把握し、大きなリスクを取り除くための施策の推進が始まっている。化学物質による環境リスクの管理を一層徹底するとともに、予防的対応を念頭にリスク管理・評価手法を高度化する観点から、化学物質等の未解明なリスクや脆弱性集団に対するリスクの評価・管理に資するリスク評価手法の確立が必要とされている。
環境リスク研究分野では、環境リスク要因として化学物質を当面のターゲットとし、リスクの同定、曝露評価法、健康リスク評価法、生態リスク評価法、並びに、リスク管理に関する手法の高度化を目指し、環境リスクに関する政策・管理に関する研究、リスクコミュニケーションに係る研究を実施する。また、これら一連の環境リスクに関する情報基盤の整備、生態影響試験に係るリファレンスラボラトリ 機能などの研究基盤の整備を統合的に推進する。
具体的には中期計画に示された以下の調査・研究@〜Fの到達目標を目指す。
@ 化学物質の生態影響及び健康影響の評価に関する基盤的な研究を進め、環境行政における試験評価 手法の検討およびリスク評価の実施に対して科学的な基盤を提供する。
A 化学物質の物理化学的性状、及び、統計的外挿手法に基づく毒性予測手法を開発することにより、 施策への活用に必要な毒性予測の不確実性に対する定量的な情報の提供を可能にする。
B 化学物質の人への健康影響、生態系への影響の評価に必要な有害性や曝露にかかわるデータや情報 を体系的に整備することにより、環境リスク評価の実施や指針値の策定等の環境施策を推進する基盤を 構築する。
C 管理コストと様々な不確実要因を考慮した最適な管理シナリオの作成に貢献するよう、化学物質、 貧酸素水塊など、様々な環境かく乱要因の生態系への影響機構を解明し、リスクを評価する。
D 多様な有害物質に対する健康リスクの評価に貢献するよう、粒子状物質等の吸入毒性試験を中心に、 化学物質の生体影響評価手法の開発と標準化を進める。
E 人、生物、水、大気など様々の環境媒体を対象とした高感度・高分離能クロマトグラフ法等による 測定法や生物応答試験法等による影響検出法を開発・高度化することにより、網羅的測定による多様な 化学物質の曝露と影響の実態把握を可能にする。
F 管理戦略策定に必要な基盤構築に貢献するよう、GIS多媒体モデルや排出シナリオなど、環境分布 や排出・曝露状況の解析が可能な数理解析手法を開発する。
これらのうち、特に重点的に取り組む研究として、化学物質の生態リスク評価手法の開発、従来のハザード評価手法では評価できないとされるナノマテリアルの評価法の開発、多数の化学物質の多様な影響や特性を持つ多数の化学物質に対するリスク管理の戦略的な進め方の検討を目標に、化学物質評価・管理イノベーション研究プログラム(中期計画別表2)を実施する。また、環境研究の基盤整備として生態影響試験に関する標準機関(レファレンス・ラボラトリー)と環境リスクに関する化学物質データベース(中期計画別表3)の整備を推進するほか、調査・研究@〜Fのそれぞれの課題の特性に応じて、政策ニーズを踏まえた基盤的研究、研究室単位で行う基盤的研究、東日本大震災支援調査・研究、競争的資金や公募型受託費による調査・研究として実施する。
[外部研究評価委員会事前配付資料 (PDF 3,384KB)]
研究の概要/今年度の実施計画概要/研究予算/平成23年度研究成果の概要/今後の研究展望/自己評価/誌上発表及び口頭発表の件数
外部研究評価委員会による年度評価の平均評点
総合評価の平均評点 3.67 点(五段階評価;5点満点)
外部研究評価委員会からの主要意見
[現状についての評価・質問等]
○ 立案された計画に従って研究はおおむね順調に進捗しており、全体として結果を着実に蓄積している。
○ 生態影響試験法については充分に検討がすすめられ、また試験生物の継代培養・飼育体制ができあがっていて、その普及・啓発のためのセミナーを開催したことは評価できる。
○ 新たな化学物質について、製造化学系会社、検査機関や国際機関との情報交換が十分されているか検討してほしい。
[今後への期待など]
○ 全体として順調に推移しているものと思われるが、個別のデータを将来どのように使うのか、最終的なイメージをより明確にしてほしい。
○ 化学物質のリスク管理は、対象とする化学物質の種類が増えるに従って多様化していく可能性があるが、管理手法が体系化するような方策を考えるべきである。
○ 大震災に関して、残留性有機汚染物質(POPs)の流出などについて、継続的な評価を行なってほしい。
主要意見に対する国環研の考え方
① 計画はおおむね順調に進捗しており、セミナーの開催などの社会貢献について評価をいただけたと理解します。
② 製造化学系会社との情報交換ですが、化学工業会とリスク評価に係る情報交換を開始したところです。特に生態毒性の分野で強力に実施しており、OECDへの貢献などの国際的な活動も行っています。なお、国に届けられる新規化学物質の審査や「化審法」の下でのリスク評価については審議会等において専門家として貢献しています。
③ 個別のデータはそれぞれ、リスク研究センターで実施した個々の研究成果ですが、いずれも化学物質管理に関連し、化学物質のライフサイクルを通じた包括的な管理に活用できるよう整理します。
C 個別物質の管理にとどまらず、環境中で非意図的に生成する物質を含めた複合的曝露によるリスクの評価・管理に展開していく予定です。また、化学物質の管理手法は、国際的に多様化する傾向がありますので、地球規模での管理方策の体系化に向けた研究を国内外の研究者と連携して進めるとともに、成果を発信していきます。
D 気仙沼市等を調査対象としバイオアッセイを中心にした時系列的モニタリングを震災直後から実施してまいりました。個別の化学物質の調査は、環境省等により継続的に行われているため、これらと連携して検出例のあるPOPs等を対象に個別物質分析を行うと共に、化学物質の網羅的分析を実施し、災害から復興にいたる経過を評価する予定です。
