7.社会環境システム研究分野
研究の概要
1.第3期の研究活動の背景としての第2期の研究内容と成果
社会環境システム研究センターは、第2期においては社会環境システム研究領域として基盤的研究を推進するとともに、地球温暖化プログラム等に協力して研究を進めてきた。第3期においては、社会環境システム研究領域を中心として、地球環境研究センターの温暖化対策評価研究室およびアジア自然共生研究グループの環境技術システム評価研究室が統合されて社会環境システム研究センターが設置された。
第2期における社会環境システム研究領域では、環境問題の多くは消費活動、生産活動など人間活動に起因していることから、人間や企業の活動を対象に、環境低負荷型社会・持続可能な社会を実現するための研究を実施した。とくに基盤領域として取組んだ研究課題としては、(1)将来起こりうる社会シナリオを描き、望ましい社会を構築するためのビジョン構築に資する研究、(2)このための基盤ツール(統合評価モデル、経済モデル、水資源モデルなど)を開発する研究、そして、(3)ビジョンを実現するための制度設計に関する研究や、人間や企業の意思決定の構造を明らかにする研究を進めた。
得られた主な成果は以下のとおりである。
① 日本を対象とした統合評価モデルを用いて、2020年に温室効果ガス25%削減を達成する対策を導入した場合の追加費用を、エネルギー効率改善を組み込んで試算を行った。レファレンスと比較すると、GDPの伸びはやや鈍化するが、2010-2020年の平均成長率は年率1%台後半を維持でき、炭素税の税収を低炭素投資の促進に充当することで、炭素価格を低く抑え、経済影響は緩和させることができることを示した。これらの成果は、2020年の日本の中期目標(温室効果ガス排出量を1990年比25%削減)を達成する場合のGDPへの影響など、中央環境審議会中長期ロードマップ小委員会等に提供して、環境政策へ貢献した。
② 自動車交通が環境や社会にもたら影響を他の研究領域とも協力して進め、都市圏における微小粒子・二次生成汚染物質の動態、生成要因の解明、暴露モニタリング、リスク評価を行った。さらに市町村別の自動車 起因CO2排出量を推計し、環境負荷低減対策など効果的な対策シナリオを提示するとともに、エコドライブの効果を測定するなど、ライフスタイルの一環としての交通にも着目した研究を行った。
③ 環境・社会・経済を世界及び日本を対象に扱える統合評価モデルの開発を行い、中期目標の検討に資するように改良・拡張を行った。また、一般均衡モデルや計量経済モデルを開発して、環境と貿易に関する研究などを進めて、学術的にも評価される結果を得た。全球水資源モデルを開発し、全球規模での水収支や世界のバーチャルウオーター(仮想水)の輸出入を計算するとともに、このモデルを公開した。
④ 環境に関する情報源について全国調査、時系列調査、マスメディア内容分析を行い、ライフスタイル変革に有効な情報伝達手段とその効果について知見を得た。
⑤ 地球環境研究センターで実施された地球温暖化研究プログラムにおいて、とくに温暖化の原因であるCO2 を削減するための対策や国際的な対応についての研究を進め、2050年に日本で温室効果ガスを60〜80%削減する方策や、それを踏まえ低炭素社会を実現するためのシナリオを、新たに開発したバックキャストモデルを適用することによって提示した。また、気候変動枠組条約や京都議定書の第一約束期間以降のあり方について検討を行い、学術論文や単行本により成果の普及を行った。
⑥ アジア自然共生研究グループの環境技術システム評価研究室では、都市の社会・経済と環境特性に応じた、環境負荷の増大と自然環境劣化の克服に向けての将来ターゲットを設計して、そこへ到達する実効的な、地域と都市・地区の環境技術と政策のシステムを描く計画手法と評価体系の研究開発を進めた。研究成果をもとに社会実装を行うために、具体的に川崎市や北九州市と協力して、実現策の検討を行った。また、国が進めている環境モデル都市や環境未来都市の会合に参画して、研究成果を提供するなど貢献した。
2.第3期における研究活動内容と達成目標
環境問題の根源となる人間の社会経済活動を持続可能なものとする環境と経済が両立する持続可能社会への転換に貢献するためには、人間と環境を広く研究の視野に入れて、社会経済活動と環境問題との関わりを解明するとともに、環境と経済の調和した持続可能な社会のあり方とそれを実現するための対策・施策を提 示する必要がある。
そこで持続可能社会の早期実現を目的として、社会環境システム研究分野の調査・研究を実施する。特に、環境・社会・経済のモデル開発と改良を進め、内外の諸問題へ適用し、現状及び政策分析を進めるとともに、国内及び世界を対象とした持続可能性の検討、シナリオ・ビジョンの構築、持続可能な生産と消費のあり方の検討を行う。より具体的には、持続可能社会に向けた実現シナリオ・ロードマップの構築と実現方策の立案、持続可能な都市のあり方の検討、コベネ型の環境都市とモデル街区のシステム設計と社会実証に関する研究など、持続可能な社会の構築に重点をおいた研究を推進する。また、これらに関連して、環境意識の把握に関する調査や、社会と科学に関するコミュニケーションに係る基盤的な事業、環境政策の経済的評価や効 果実証と制度設計など基盤的な研究を行う(資料1)。
以上の研究を推進することにより、以下の目標達成と社会的・学術的貢献を目指す。
① 持続可能な社会の将来シナリオの基礎となるドライビングフォースとしての社会・経済のビジョンを、シナリオアプローチにより分析し、今後生じうる様々な環境問題を想定しつつ、持続可能な社会実現に必要な対策や社会・経済のあり方、消費やライフスタイルのあり方を定性的および定量的に提示する。
② 人間活動から発生する環境負荷の環境資源と都市活動への影響を解析する環境シミュレーションをふまえつつ、環境影響の低減と社会経済の改善を同時に実現するコベネフィット型の技術と施策を組み合わせる環境ソリューションとその計画システムおよび評価方法を構築する。また、持続可能な社会への転換に向けて、都市・地域の空間構造を明らかにし、その実現シナリオをロードマップとして提示し、持続可能 な都市・地域の計画策定に貢献する。
③ 統合評価モデルや環境経済モデルの開発・改良を進め、上記①及び②や内外のその他諸問題へ適用し、現状及び政策分析を進めるとともに、環境政策の経済的評価や効果実証などの研究を行う。
④ 基盤研究プロジェクト、経常研究、外部競争的資金研究により先導研究プログラム、重点研究プログラムを支援する基礎的研究を進めるとともに、社会環境システム研究分野の学術の発展に貢献する。
社会環境システム研究センターが進める研究プログラムは、2つの先導研究プログラム、「持続可能社会転換方策研究プログラム」と「環境都市システム研究プログラム」および重点研究プログラム「地球温暖化研究プログラム(対策分野を担当)」である。
(1)持続可能社会転換方策研究プログラム(資料2)
【研究内容】
種々の困難をもたらす将来の環境問題を想定しつつ、持続可能な社会への転換という喫緊の課題に取り組むことを目的とし、本研究プログラムでは、研究プロジェクト1「将来シナリオと持続可能社会」ならびに研究プロジェクト2「持続可能なライフスタイルと消費への転換」の2つのプロジェクトを実施する。
持続可能な社会の実現にむけて中長期の我が国のあるべき姿(ビジョン)とそこに至る経路(シナリオ)および施策ロードマップを示し、そうした社会への転換を推進する具体的な方策が求められている。一方、現実には様々な環境問題が未だ解決されておらず、さらに今後生じうる環境問題は、持続可能な社会を構築するうえでの障害となりうる。種々の困難をもたらす将来の環境問題を想定しつつ、持続可能な社会への転換という喫緊の課題を解決することが必要とされている。
そこで、将来シナリオと持続可能社会の視点から、環境問題の現状分析を踏まえ、問題の引き金となるドライビングフォースに着目し、社会・経済の姿をシナリオアプローチにより分析するとともに、社会・経済を重視したモデル化を行い、持続可能な社会を構築するに当たって必要となる対策や社会・経済のあり方を定量的に検討する。また、持続可能なライフスタイルと消費への転換の視点から、作成した将来シナリオをもとに、個人や世帯が取組むべき対策・活動を消費の面から調査分析、モデル化を行うことにより、環境的に持続可能な社会の実現方策について提示する。本研究プログラムは、資源循環・廃棄物研究センター、地球環境研究 センター等と緊密に連携して研究を進める。
【達成目標】
① 将来分析の基礎となるドライビングフォースとしての社会・経済の姿を、シナリオアプローチにより分析し、各シナリオにおいて生じうる様々な環境問題を議論し、持続可能な社会を構築するに当たって必要となる対策や社会・経済のあり方を統合評価モデルを開発、適用して、定量的に提示する。
② ライフスタイル変化の要因の分析、ライフスタイルに関する定性的、定量的なシナリオと、それらに対応した環境負荷推移の提示、に基づいた持続可能なライフスタイルのあり方について提言する。
③ 以上を踏まえ、我が国の中長期の社会・経済・環境のビジョン、そこに至る道筋と施策を提示し、環境的に持続可能な社会への早期実現に貢献する。
(2)環境都市システム研究プログラム(資料3)
【研究内容】
産業・交通等の人間活動の中心である都市において、環境への影響を低減する技術と施策を設計して実現を進める方法論の開発が持続可能な社会の形成にとって重要な課題である。環境解析や環境評価手法を活用して、都市生活や産業活動の環境性能を高める技術と制度を、都市・地区のスケールで施策パッケージとして設計して、その実装によって地域や地球の環境問題の改善への貢献と経済の活力や暮らしの豊かさを実現する「環境都市」の研究が国際的な要請となっている。
そこで、低炭素、資源循環、環境改善と地域活性化を実現する都市・環境施策と環境技術システムを含む将来ターゲットを設計して、そこへ到達する実効的な「都市・地区のロードマップ」の計画と評価体系の研究開発を進める。具体的には、水、エネルギー、資源循環の先進的な基盤や産業を含む環境イノベーション技術・施策システムの研究開発とともに、関連する社会制度システムの定式化を進めて、環境都市マネジメントの技術・施策パッケージのデータベースとして形成する。そのうえで都市や地区の経済、環境特性に応じて技術・施策を再構築して適用する「環境ソリューション」プロセスの研究開発を進める。
これらの一連のプロセス開発を、国内およびアジアで環境モデル都市、地区において産官学連携による実証研究を進めることによって、技術の社会実装プロセスの開発、地区マネジメントシステムとしての機能高度化の研究、およびモデル地区を中核とする「環境都市」と地域の計画への適用を含むマルチステージの社会展開のガイドラインを構築する。本研究プログラムは、地域環境研究センター、資源循環・廃棄物研究センタ ー他と連携して研究を進める。
【達成目標】
① 低炭素社会や地域循環圏の形成と社会経済の活性化等の都市・地域の将来シナリオの多元的な(コベネフィット型の)目標群と、その達成にむけた環境技術と施策を操作変数とする定量的な環境計画とその評価システムを構築することによって、都市の特性に応じた環境都市とモデル地区を設計するとともにそ の効果を算定するプロセスを開発する。
② 国内とアジアの実在のモデル都市、モデル地区において技術・施策の社会実証研究を進めることによって、環境ソリューション技術・施策システムの効果の検証と機能の高度化研究を進める。
③ 都市・地域環境施策や街区等の都市・地域の拠点開発事業など、空間的にまとまった単位で解決する技術・施策(環境都市ソリューションシステム)を都市・地域スケールの環境改善のパッケージとして設計する手法を開発することによって、国内外の環境都市実現の社会実装プロセスを設計するとともに、他都市・地域への展開のガイドラインの構築を進めて、低炭素都市やコベネフィット都市、地域循環圏等の政 策実現に貢献する。
④ 都市・地域空間に関する将来の土地利用転換や基盤整備の分析手法を開発することにより、低炭素やコベネフィットなどの社会環境ターゲットに応じた都市・地域計画を可能にする。
上記の先導研究プログラムに加えて、地球環境研究センターが進める重点研究プログラム(地球温暖化研究プログラム)のうち、とくにプロジェクト3「脱温暖化社会(低炭素社会)に向けたビジョン・シナリオ構築と対策評価に関する統合研究」について協力して進め、(1)世界・アジア・日本の温室効果ガス削減目標と対策評価、(2)中長期の温室効果ガス削減目標と政策オプション、(3)国際制度・国際交渉および国際協調のあり方 について検討を行う。
(3)基盤的研究(資料4)
社会環境システム研究分野の対象とすべき研究課題は広範にわたるが、センターの基盤的研究として、基盤研究プロジェクト、経常研究、外部競争的資金による研究を実施する。
基盤研究プロジェクトについては、センター内で、センターのミッションも考慮に入れた研究提案を募り、以下の基盤研究プロジェクトを採択した。研究期間は原則2 年とした。
1) 地球温暖化問題におけるリスクアプローチの概念整理と課題検討
2) 気候変動と洪水リスクの経済分析〜洪水被害額の推計と洪水リスクモデルの構築
3) 国際レベルにおけるフロン類の排出抑制策の促進に関する研究
4) 気候変動枠組条約と生物多様性条約における制度間相互作用の研究:REDD+の事例より また、事業的業務として、2 件を実施する。
5) 温暖化影響・適応ならびに持続可能な開発に関する最新研究情報の収集と整理
6) 日本の成人男女の環境問題重要度認識に関する時系列調査 以上に加えて、経常研究、外部競争的資金による研究(資料5)を進める。
[外部研究評価委員会事前配付資料 (PDF 525KB)]
第3期におけるミッション/研究体制/研究の概要/ 別添資料
委員会からの主要意見
[現状についての評価・質問等]
○ 社会経済的に連続性を妨げる大きな変化が起こるなかで、持続可能な社会システムを考えていくことはかなり難しいと思われるが、研究の実施内容、目標・計画はおおむね妥当と考えられる。
○ ライフスタイル提案のグランドデザインは何か、具体的には地域によって異なるものと考えられる。
○ 地域環境の将来予測パラメーターはグローバルな変動、グローバル経済、国の政策によって大きく変動すると考えられるが、モデルの位置付けをどう考えるのか。
[今後への期待など]
○ 具体的な提言や提案をどこへ示し、提出して貢献するのか、また諸外国との連携の場合、相手国への貢献が見える形で評価されるのか示して欲しい。また、これらが実装まで進むことや多分野の専門家の協力は不可欠であるので、その効果的協力体制の構築についても期待する。
○ 環境研究に社会科学のみならず人文科学を含める必要性・可能性はないのか。文化・社会・コミュニティのあり方などにおいては、社会科学のさらに外からのインプットがあって良いように思われる。
○ 東日本大震災復興の都市デザイン、日本全体の将来シナリオへの貢献が期待される。
主要意見に対する国環研の考え方
① 持続可能社会へ転換するためのシナリオや方策については持続可能社会プログラムで担当し、地域特性を生かしたシナリオや方策については実装までを意識した研究を環境都市システムプログラムで進めますが、東日本大震災は、シナリオや環境都市研究で想定していなかった規模の災害で、研究計画の修正が必要と考えています。また、京都議定書第一約束期間後の対応など、比較的短期的な対応も求められています。どういう考え方で将来のエネルギーを選択していくか、中長期だけでなく短期的な選択時に活かせる研究成果を出していきたいと思います。被災地の復興や地域づくりの計画支援、適地選定及び効果の算定システムの研究を環境省・自治体と連携して進めていきます。
② ライフスタイルのグランドデザインとしては、従来のモノを中心とした分析だけでなく、人々の意識や願望、人々の「暮らし方」全般を対象とするとともに、「個人」だけでなく、「地域」や「社会的集団」というある程度まとまった人々の単位でライフスタイルの研究を進めていきます。 文化・社会・コミュニティのあり方などについては、人文科学と社会科学(と工学の一部)にまたがる分野で幅広い研究がなされています。今回、ライフスタイル研究を提案していますが、ライフスタイルは非常に広い概念ですので、焦点を絞り「持続可能な消費」という側面からアプローチし、社会科学的な研究プロジェクトと位置付けていますが、研究の一環として、持続可能な消費に関する文献レビューを通じて、人文科学的なアプローチも考慮したいと思います。
③ 持続可能社会プログラムで検討するモデルとしては、世界、国、地方という階層構造を維持して、それぞれ独立してモデル化を行い、それぞれのモデルの結果を他のモデルの入力条件として分析することで、各階層での影響を考慮します。また、環境都市システムプログラムの地域モデルの構築にあたっては、持続可能社会プログラムで得たシナリオを地域の境界条件として考慮して進めていきます。
④ 持続可能社会プログラムで進める持続可能社会のシナリオ構築では、関連政策を立案・実施する行政(国、地方自治体)への提言・提案を主として想定しています。また、ライフスタイルのシナリオ構築では、成果を広く一般の人々にも提案することを目指しています。環境都市システムプログラムでは、環境省の温暖化対策地方実行計画策定マニュアル、地域循環圏のガイドライン等へ科学的知見を提供することを目指しています。
