4.地域環境研究分野
研究の概要
1.第3期の研究活動の背景としての第2期の研究内容と成果
地域環境研究センターは、地域環境問題を対象とする研究組織として、第2期においてアジア自然共生研究プログラムを実施したアジア自然共生研究グループ(12名)と水土壌圏環境研究領域(17名)を母体に、大気圏環境研究領域(1名)、社会環境システム研究領域(1名)に所属していた研究者を加えて発足した。
アジア自然共生研究グループが中心となって推進したアジア自然共生研究プログラムでは、アジアにおける大気・水環境と生態系の実態把握や政策評価等の科学的知見の集積、環境管理ツールの開発、技術・政策シナリオの構築等が進み、また、国際共同研究や研究者ネットワークへの参加が進展した。具合的には、東アジアの大気環境評価研究では、アジア大陸における大気汚染物質や黄砂の発生源推定精度の向上、観測とモデルを統合した解析ツールの開発と適用、モデルと衛星・ライダー・地上サイトなどの観測データを活用した越境大気汚染の実態解明が進展した。東アジアの水・物質循環評価研究では、衛星・地上観測システムと水・物質循環モデルを組み合わせた評価システムの有効性の実証、長江起源水が流入する東シナ海における赤潮の原因となる植物プランクトンの動態解明、中国の拠点都市における都市環境データベースの整備と水・物質・エネルギー統合型モデル研究を推進した。流域生態系における環境影響評価研究では、メコン河流域の自然環境と社会経済を把握できる高解像度のGISデータベースを構築すると共に、ダム建設が年間の氾濫動態や淡水魚類の回遊に及ぼす影響を評価する手法を開発した。このように、我が国を含むアジアの持続可能な発展のための戦略的政策の策定に対して、科学面から貢献していく基礎が作られ、今後は、蓄積された科学的知見と研究者ネットワークをもとにして、アジア研究の戦略的推進を考慮しつつ、東アジアの広域環境問題の解決に資する研究を展開することが求められる。
水土壌圏環境研究領域においては、水環境保全及び流域の水土壌環境を適正に管理するため、閉鎖性の高い水域の富栄養化に起因する湖沼の有機汚濁機構を明らかにする研究や東京湾で夏季に観測される低層の貧酸素化の機構解明を目的とした研究を実施した。また、流域における環境修復・改善技術研究として、省エネルギー型の水・炭素循環処理技術の開発・改良や、地下に漏出した有機溶剤浄化技術の有効性・安全性を評価する研究を進めた。更に、森林生態系における窒素飽和現象や、陸域から海洋へ運ばれる硅素の減少による海洋生態系への影響が指摘されている課題について、モニタリングを中心とした調査研究を継 続的に実施した。
2.第3期における研究活動内容と達成目標(研究プログラム、環境研究の基盤整備を含む)
地域環境研究分野では、国内及びアジアの大気、水、土壌などの環境圏で発生する、国を越境するスケールから都市スケールの地域環境問題を対象に、観測・モデリング・室内実験などを統合した研究によって発生メカニズムを科学的に理解するとともに、問題解決のための保全・改善手法の提案と環境創造手法の検討を進め、最終的にこれらを総合化することにより、地域環境管理に資する研究を推進する。
具体的には、アジアを中心とする海外及び国内の大気環境評価・大気汚染削減、陸域・海洋環境の統合的評価・管理手法、流域圏環境の保全・再生・創造手法、都市・地域のコベネフィット型環境保全技術・政策シナリオ、快適で魅力的な地域環境の創造手法などに関する研究を推進すると同時に、地域環境変動の長期モ ニタリングを実施する。
① 広域大気環境管理の推進に貢献するよう、東アジアの広域越境大気汚染を対象に、観測とモデルを統合して、半球/東アジア/国内のマルチスケール大気汚染の実態を解明し、越境大気汚染の国内への影響評価手法を確立する。(「東アジア広域環境研究プログラム」のプロジェクト1において実施)
② 陸域・海洋の統合環境管理施策の立案に貢献するよう、陸域の人間活動が、水・大気圏を経由して東シナ海・日本近海の海洋環境に及ぼす影響を観測とモデルにより解明し、陸域負荷変動に対する海洋環境の応答をマルチスケールで評価する。(「東アジア広域環境研究プログラム」のプロジェクト2において実 施)
③ 流域圏の保全・修復に貢献するよう、流域圏における生態系機能及び関連環境因子の定量的関係を、窒素・炭素等の物質循環の視点から評価する。(「流域圏生態系研究プログラム」において、生物・生態系環境研究センターと連携して実施)
④ 都市・地域のコベネフィット型環境技術システムを開発し、その社会実証プロセスを提示する。(「環境都市システム研究プログラム」において、社会環境システム研究センターと連携して実施)(P62参照)
⑤ 地域環境の問題解決と創造に貢献するよう、都市・地域大気環境や流域圏環境の保全・再生・創造に係る基盤的研究を、他の研究センターと連携して実施する。
⑥ 大気環境や水環境の長期モニタリングを実施し、地域環境変動を把握する。(大気環境の長期モニタリングは環境研究の基盤整備として、また、水環境の長期モニタリングは生物・生態系環境研究センター、環境計測研究センターと連携して実施)
地域環境研究分野において実施する業務内容を資料1に示す。これらの研究を、資料2に示す研究フレームにより、相互に連携しながら進める。
(1) 東アジア広域環境研究プログラム (資料3)
【研究活動内容】
東アジア地域では急速な経済発展に伴って様々な環境問題が深刻化し、それが広域越境汚染のような具体的な問題として我が国にも影響を及ぼしている。そのため、東アジアにおける持続可能社会、及び、広域越境汚染のWin-Win解決に向けた2国間・多国間の枠組みを構築するための中長期戦略を提示することが強く求められているが、その基礎となる問題発生に関する科学的知見、及び人間活動による環境負荷と広域汚染の定量的関係を評価する科学的手法の開発・活用が不十分な状況にある。
そこで、第二期中期計画におけるアジア自然共生研究プログラムの蓄積をもとに、東アジアにおける代表的な広域環境問題である大気・海洋汚染を対象とし、観測とモデルを統合することにより、これらの問題の発生メカニズムを解明する。汚染発生に関わる空間スケールの重層性を考慮したマルチスケールモデルを構築し、大気から海洋と陸域への物質負荷も考慮して、環境負荷と広域環境応答の関係を定量的に評価する。更に、「環境都市システム研究プログラム」や社会環境システム研究分野と連携して削減シナリオの提示及びその影響評価シミュレーションを実施し、東アジアの広域環境問題の解決に資する。
【達成目標】
① 東アジアの広域越境大気汚染を対象に、観測とモデルを統合して、半球/東アジア/日本のマルチスケール大気汚染の実態と変動を把握し、越境大気汚染による国内での影響を評価して、越境大気汚染の発生構造と影響を総合的に解明することにより、広域大気環境管理の推進に資する科学的知見を提供する。
② 東アジアにおける汚濁負荷等の陸域人間活動が、水及び大気を介して東シナ海・日本近海の海洋環境に及ぼす影響を、陸域負荷の推計、海洋観測、海洋環境の数値シミュレーションにより解明する。また陸域負荷変動に対する海洋環境の応答をマルチスケールで評価し、陸域・海洋の統合環境管理施策立案 に資する科学的知見を提供する。
③ 東アジア広域環境の統合管理に貢献するよう、東アジアの大気汚染・水質汚濁負荷の将来・削減シナリオに対する大気・海洋環境への影響を予測・評価する。
(2) 流域圏生態系研究プログラム(資料4)
【研究活動内容】
生物多様性国家戦略2010 において生物多様性と生態系の回復は重要な国家戦略と位置付けられている。生物多様性のホットスポットとして重要な生態系の保全と、生態系機能を最大限活用して生物多様性の減少を防止することが強く求められており、そのため生態系機能の健全性評価に関する研究は喫緊の課題となっている。一方、健全性評価には生態系機能の定量評価が不可欠であるが、その評価手法はほとんど確立されていない。生態系機能と環境因子との連動関係や相互作用についても多くが未解明なままであり、生態系 機能の保全、再生・修復に向けた具体的な取組が大きく進展しない要因となっている。
そこで、流域圏(森林域、湖沼・河川、沿岸域)における生態系を対象として、水・物質循環に着目し、生態系機能の新たな定量的評価手法の開発・確立を行う。典型的な生態系に対して、長期・戦略的モニタリング、新規性の高い測定法やモデル解析を駆使して、生態系機能・サービスと様々な環境因子との連動関係(リンケージ)を定量的に評価する。更に、機能劣化が著しい自然生態系を対象に劣化メカニズムの解明と機能改善手法の構築を図る。これらの科学的知見をもとに、メコン河等の広域スケール流域圏における重要な生態系を戦略的に保全し、生態系機能を最大に発揮させることで生物多様性を減少させない施策に資する戦略的環境アセスメント手法を開発する。これらの研究を、生物・生態系環境研究センターと連携して推進し、最終的に流域圏の環境健全性を評価して、生態系機能の保全、創造、環境修復や自然再生の在り方を提言する。
更に、研究成果に基づいて、流域圏における環境因子と生態系機能、環境因子と生物多様性、生態系機能と生物多様性を定量的に繋げる方向やアプローチを展望する。
【達成目標】
① 人工林荒廃と窒素飽和現象の関連性を解明し、適正な人工林管理施設の推進に貢献する。落葉樹混交の種多様性回復が窒素貯留能に与える影響を評価して、窒素飽和改善シナリオ構築を目指す。
② 長期モニタリング、新規の測定手法、湖沼モデル解析等により、湖沼における水中と底泥での物質循環と微生物活動の連動関係、環境因子と生態系機能の連動関係を定量的に評価し、湖沼環境の環境改善 シナリオ作成を目指す。
③ 沿岸域における一次生産者の変化や移入種による優占現象が、生物相、水-生物−底質間の物質収支や食物連鎖などの生態系機能へ及ぼす影響を定量的に評価する。流域負荷と生物多様性の関係を探索 し、生態系機能の健全性を評価する。
④ ダム開発に対する戦略的環境アセスメントの技術を開発し、失われる沈水林の生態系機能を推定する。迅速・高感度のアオコ定量手法を開発し、計画中のダム貯水池でのアオコ発生の可能性を予測する。
⑤ 重要な漁業資源である回遊性淡水魚の回遊生態を解明し、ダム開発による食糧供給に対するリスクを事前に推定する。
⑥ 沿岸域(干潟等)における底生生物の種多様性・生態系機能のデータベースを構築して、広域スケールの生物多様性、生態系機能及び健全性の関係を評価する。
(3) 環境都市システム研究プログラムのプロジェクト1の一部 (社会環境システム研究分野参照P62)
【研究活動内容】
都市の社会・経済と環境特性に応じた、環境負荷の増大と自然環境劣化の克服に向けての将来ターゲットを設計して、そこへ到達する実効的な、地域と都市・地区の環境技術と政策のシステムを描く計画手法と評価体系の研究開発を進める。
【達成目標】
水、エネルギー、資源循環を制御するコベネフィット型環境技術システムを開発し、国内とアジアのモデル都市・地区において社会実装プロセスを提示する。
(4) 基盤的研究
地域環境の問題解決と創造に貢献するために、都市大気環境や流域圏環境の保全・再生・創造に係る基盤的・分野横断的研究を実施する。具体的には、他の研究センターと連携して、放射性物質の多媒体モデリングと長期モニタリング(資料5)、微小粒子状物質などによる都市大気汚染の実態解明と影響評価、製品中金属類の動態解明と影響評価などの分野横断研究を進める。また、基盤的研究として、津波による干潟環境と底生動物への影響評価、都市沿岸海域の底質環境劣化の機構と底生生物影響評価に関する研究、資源作物由来液状廃棄物のコベネフィット型処理システムの開発(資料6)、低公害車実験施設を使用した自動車環境負荷の評価研究などを実施する。また、地方環境研究所との多様な共同研究を実施して研究連携を推 進し、当該地域の地域環境問題の解決に貢献する。
(5) 環境研究の基盤整備
① 地域環境変動の長期モニタリングの実施、共同観測拠点の基盤整備
東アジアの大気環境変動を長期的な視点で監視・観測するために、沖縄辺戸・長崎福江における大気質の包括的な長期モニタリングを実施し、その他の地域環境データ等と併せて、地域環境変動に係るデータベースとして整備し、広く提供・発信する。また、長期モニタリングサイトを、共同観測拠点として国内外の研究者に提供し、地域環境研究の進展に貢献する。
② 生物多様性・生態系情報の基盤整備の一部
GEMS/WATER ナショナルセンター業務と湖沼モニタリング事業において、生物・生態系環境研究センター、環境計測センターと連携して、霞ヶ浦と摩周湖のモニタリング手法の改良・標準化・高度化を進めながらモニタリングとデータ提供を継続するとともに、湖沼の物理・化学・生物環境の長期変動要因の解明を進める。
[外部研究評価委員会事前配付資料 (PDF 1,215KB)]
第3期におけるミッション/研究体制/研究の概要/ 別添資料
委員会からの主要意見
[現状についての評価・質問等]
○ 実施内容、目標・計画はおおむね妥当と考えられ、大気・水・土壌の分野の一体化は高く評価できる。ただし各課題が羅列的で全体としての方向性がわかりづらく,優先して行うべきことを精査すべきである。
[今後への期待など]
○ 地域環境問題の総合的かつ実効的な解決策の確立に向けての努力を期待する。そのために,大気・水・土壌の研究者ネットワークを活かし,また,地球分野や健康分野との連携を強化し,更には他機関とも協働することにより分野横断的な研究を推進して欲しい。
○ 対象地域の選定が、環境問題のある地域で解決策を探っているのか、自然環境の違う地域を調査し、共通した環境プロセスを導きだそうとしているのかを明確にすべきである。
○ 地球環境研究分野との連携と、領域−局所(都市)など、シームレスな観測・モデル・解析を行うことが重要である。
主要意見に対する国環研の考え方
① 大気・水・土壌の分野横断研究は、地域環境研究分野における研究の軸であり、他の研究センターや研究機関とも連携して積極的に取り組みます。具体的には、東アジア広域環境研究プログラムや流域圏生態系研究プログラムにおいて大気から水・土壌への窒素負荷に着目した研究や放射性物質の環境動態研究を実施します。また、健康分野との連携研究は、重要な分野横断研究の一つと考えており、東アジア広域環境研究プログラムや特別研究において大気汚染による健康影響に関する研究を実施します。
② 東アジア広域環境研究プログラムでは、地球環境研究センターと連携して半球スケール大気汚染の研究を進めるとともに、半球−東アジア−日本−都市を対象としたマルチスケール研究、観測・モデル・データ解析を統合した研究を実施します。また、流域圏生態系研究プログラムや特別研究等においても、観測・モデル・室内実験などの研究手法を統合した研究を進めます。
③ 前期中期計画からの継続研究や今期中期計画で開始したボトムアップ的研究が多く、全体的な纏まりに欠ける点は御指摘のとおりです。今後は、分野横断研究を軸に中長期的研究戦略を検討し、地域環境研究分野の方向性をより明確にしていきたいと考えます。また、地域環境研究分野における短中期的ゴールは、地域で発生している環境問題の解決に貢献することですが、中長期的には、複数の地域環境研究から共通する法則性を見出して一般化する研究へと発展させたいと考えます。
