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Ⅴ 平成22年度新規特別研究:事前説明
4.気候変動緩和・適応型社会に向けた地域内人口分布シナリオの構築に関する研究

研究目的

都市等の地域内の人口分布は、人間活動による環境負荷の発生や環境影響を受ける被害人口の分布など、環境問題に密接に関連する。既存研究では、地域内の人口分布の詳細を考慮しないか、現況の分布が主に用いられてきた。しかし今後は、人口減少期を迎える中で、長期的な対応が求められることから、将来の人口分布パターンを反映した環境負荷・影響を評価するとともに、環境面から見て望ましい人口分布に誘導する実現可能性の高いシナリオを提示していくことが、環境問題の円滑な解決のために重要と考える。

たとえば加藤(2007)は、市町村別の乗用車CO2排出量を推計するモデルを構築し、2050年には人口減少に伴って一律に密度低下が生じ、乗用車CO2排出量が倍増するとした。しかし、市町村内の3次メッシュ(およそ1km四方)で近年の変化をみると、低密度のメッシュで人口減少が生じる一方で市街地の人口は減少していない。すなわち、人口分布を反映したより妥当な推計が必要である。

社会保障・人口問題研究所(社人研)では、市町村スケールでの将来人口推計を行っているが、地域内の人口分布に関しては推計していない。3次メッシュ人口に関しては、過去の変化率(自然増減と社会増減の合計)に基づく将来予測を行った土屋・室町(2006)、あるいは移動率(社会増減)と地域特性との要因分析を行った小池・山内(2006)、山内・小池ら(2007)の例が各々存在するが、移動率の要因分析の結果をシナリオ構築に活用した研究はほとんどみられない。

一方、環境面からみて望ましい地域像の検討においては、シナリオ分析や均衡モデルを用いた大胆な想定に基づく研究が行われている。しかし、そこで得られる将来像は、過去の変化率に基づく将来人口予測とはギャップがあり、その実現の可能性やタイミングを含めた道筋を示すことができていない。

そこで、本研究では、国勢調査の地域メッシュデータを用いて、過去の移動率に影響を及ぼした経済状況や地域性、施策等の要因を分析し、将来移動率の設定可能な幅とそのための施策を明確にするとともに、温暖化への対応を例に取り、人口分布が地域における温暖化対策と温暖化影響に及ぼす違いを定量的に評価する推計モデルを開発し、これを適用したシナリオ分析を行うことで、環境面からみて望ましい人口分布と実現可能性の高い到達シナリオの例を提示することを目的とする。この成果を元に、多様な環境政策あるいは他分野の政策、上位計画等との整合を図り、地方自治体の土地利用計画に環境配慮を反映させることを目標とする。

研究予算

(単位:千円)
  H22 H23 H24
1)地域内人口分布の要因分析とシナリオ構築 10,450 10,450 10,200
2(1)人口分布を考慮した交通低炭素対策の効果 2,550 2,550 2,800
2(2)人口分布を考慮した地域エネルギー対策評価 5,000 5,000 5,000
2(3)人口分布を考慮した温暖化影響の評価 2,000 2,000 2,000
合計 20,000 20,000 20,000
総額 60,000 千円

研究内容

本研究では、先行研究者の研究協力を得て、3次メッシュ別の移動率を求めるとともに、経済状況や地域性、施策等との要因分析をさらに詳細に行う。これにより、妥当性の高い将来移動率の設定が可能になり、また地域内の人口分布のシナリオ分析が可能になると考えている。さらに、中長期を見据えた緊急の対応が求められている地球温暖化を対象例として、地域内人口分布を反映したCO2排出量と温暖化影響の評価手法を開発し、シナリオ分析に適用することで、環境面から見て望ましい将来人口分布と実現可能性の高い到達シナリオの例とその構築手法の提示が可能と考えている。

そこで、以下の研究を行う。

1)地域内人口分布の要因分析とシナリオ構築[松橋]
1980年〜2005年の国勢調査地域メッシュデータを対象として、五歳階級別の人口推移と、市区町村別の生残率からコホート要因法により推計した封鎖人口との差分を求め、五歳階級年齢別3次メッシュ移動率を得る。同時に、事業者統計等からメッシュ昼間人口の推移を求める。なお、人口規模が小さいメッシュは秘匿データが生じるため、類似の地域を結合した分析を行う。次に、経済状況や地域性、施策等が移動率に及ぼした影響の要因分析を行い、将来移動率のパラメータ設定の幅とそのための施策を得る。特に、ガソリン価格や国土レベルの人口動態に加えて、人口規模、昼間人口、土地利用規制、都市基盤整備、小学校の有無等が、限界集落、中心市街地空洞化、市街化調整区域の人口動向に与えた影響に着目する。対象地域は、土地鑑の有無も考慮して、高密度な東京特別区、計画都市に鉄道が引かれたつくば市、過疎地を抱える十日町市等を候補とする。
サブテーマ2の成果を踏まえ、各々の環境配慮を両立させる将来人口分布パターンを想定する。そこに到達するための施策と移動率を設定し、2020〜2050年の人口分布とともに到達シナリオとして提示する。

2)人口分布を考慮した気候変動緩和・適応策の評価[松橋、芦名、肱岡]
人口分布に関連の強い交通と地域エネルギー需給、洪水被害を対象に評価手法を開発する。

(1)人口分布を考慮した交通低炭素対策の効果
過去の交通CO2排出量と人口分布の関係に基づき、交通CO2推計モデルを構築する。つくば市、十日町市等について、将来人口分布の違いを反映させた交通CO2削減対策の効果の定量的評価を行う。さらに、全国に適用する場合の推計手法を開発する。

(2)人口分布を考慮した地域エネルギー対策評価
人口分布を入力としたエネルギー需給システムの最適化型評価モデルを開発し、対象地域のCO2削減対策評価を実施する。まず統計データ・GISデータを融合的に利用して市町村よりも詳細な地域を対象に再生可能エネルギー供給量およびエネルギー需要量の時間、空間的分布を表現する。その後、具体的な都市の3次メッシュに適用してCO2削減対策の効果を定量評価し、地域特性による対策の効果および費用の違いや、これまでの全国スケールの研究との比較により、国スケールでのCO2削減対策の検討・実施にあたって地域の視点から留意すべき点などを明らかにする。

(3)人口分布を考慮した温暖化影響の評価
洪水氾濫・内水氾濫を評価するための分布型流出モデルを構築する。こうした影響評価モデルの構築には、河川や下水道ネットワークのモデル化が必須であるが、そのモデル化には多大な費用と時間が必要となる。そこで、モデル化は一部の地域に限定し、それ以外の地域は既に公表されているハザードマップを入手し、ハザードマップ作成に用いた降雨データと将来の気候シナリオと関連付けて、リスクの度合いや範囲を再検討する。このような検討によって、温暖化の悪影響を軽減するための施策が可能となる。特に、危険な地域からの撤退という視点から人口の分布を検討する。

以上の研究を実施することにより、環境面から望ましい将来人口分布と実現可能性の高い到達シナリオが得られることが期待できる。