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Ⅴ 平成22年度新規特別研究:事前説明
2.窒素飽和状態にある森林域からの窒素流出量の定量評価および将来予測と削減シナリオの構築

1)研究の概要

1980年代より窒素飽和状態にある筑波山森林域を主な対象に、(1)集水域単位での物質収支調査を行い、窒素飽和状態が持続していることが、森林域からの窒素流出負荷量に及ぼす影響を評価する。(2)窒素飽和と林内環境、土壌中窒素動態の関係を観測や実験により定量評価し、林内環境改善による窒素飽和改善シナリオを構築する。(3)窒素循環に係る森林生態系モデルの開発と統合的利用を行い、森林管理の適正化が窒素飽和とその流域環境への影響を緩和し得るかを示す。

[外部研究評価委員会事前配付資料抜粋]

研究目的  /  研究予算  /  研究内容

2)研究期間

平成22〜24年度(3年間)

3)外部研究評価委員会の見解と対処方針

(1)研究内容

[内容評価]

森林域の窒素飽和現象は、最近の話題であり、機構の解明とともに、どのような環境影響があるかの影響評価・対策技術についても不明な点が多いので、本研究の実施には大きな意義がある。特に、森林管理手法をN負荷の視点から提案する考えは興味深い。行政的に現象の説明には貢献するだろう。

ただし、土壌中での脱窒の可能性について、大いに疑問が残った。この研究が窒素循環においてどのような位置にあるのかがわかりにくかった。

[提案、要望]

日本でのスギ、ヒノキなどの人工林の荒廃によるNO3の流出の関係を明らかにする研究として、その成果が期待される。ただ削減シナリオの作成は、森林管理者の減少と老齢化、また窒素含有降雨の増加を考えると難しいシナリオといえよう。何が望ましい状態なのかを明らかにする必要があるのではないだろうか。

[対処方針]

森林土壌からの脱窒量に関して、亜酸化窒素についてはチャンバーを用いた現地での放出量の測定、窒素ガスについては、室内実験による脱窒活性の測定をそれぞれ計画している。

これら脱窒反応も含めた土壌中の窒素のフローとストックを定量評価することにより、高窒素負荷環境下での森林土壌、特に荒廃状況に応じた人工林土壌における窒素動態の特性を明らかにしたい。

本研究対象である筑波山におけるこれまでの調査結果から、全域に亘って大気経由で慢性的に高窒素負荷を受けている一方で、窒素飽和の指標となる渓流水中の硝酸態窒素濃度は集水域間で大きく異なることが分かっている。我々は、広域的な植生調査等を実施しその結果を基に統計解析を行うことで、渓流水中の窒素濃度への森林(林内)環境の影響を評価することで、高窒素負荷環境下でも窒素溶脱し難い森林土壌とそれを形成する森林環境の具体像を導き出す。その上で、林業衰退等、現状を踏まえつつ荒廃状況にある人工林地を本具体像へ移行するための実現可能な改善シナリオの構築を試みる。

(2)研究の進め方・組み立て

[内容評価]

人工林のN dynamicsはすでに研究がなされている。

[提案、要望]

季節変動はあるのか?樹種による違いはあるのか?天然林は密生しているが窒素状態は?人工林のみが対象なのか?等、研究対象やデータの取り方等を明確にした方がよい。研究対象を筑波山域に限っているが、溶出した窒素(硝酸態)の水域系(河川、湖、内湾など)に対する動態・影響の解明も重要であるので、広域的な観点から検討していただきたい。

[対処方針]

これまでに、森林科学の観点から、大学等の演習林を対象とした管理状態にある人工林地の窒素動態について多くの知見が集積されてきた。本研究ではそれら知見を基に、新たな視点として、大気降下物由来の慢性的な高窒素負荷環境下において日本の人工林の実態とも言うべき管理不備による荒廃状況が、森林土壌の窒素動態にどのような影響を及ぼしているのかを明らかにすることを目的としている。

森林域からの窒素溶脱に樹種や針葉樹と広葉樹の比率、人工林の混み具合状況、地形等の森林環境因子がどのように影響を及ぼしているのか、重点対象とする筑波山を含めた茨城県全域を対象に、窒素飽和の指標として平水時の渓流水中の硝酸態窒素濃度を測定し、集水域単位で整理した上記因子との関係性を明らかとすることを計画している。

窒素飽和状態にある森林域から流出した窒素負荷が、流入水域にどのような影響を及ぼしているかを検討するための第一段階として、本研究では、河川水中の硝酸イオンに含まれる窒素と酸素それぞれの同位体比を用いた発生源解析と混合モデルの適用によって、森林域からの窒素流出負荷が流入水域である霞ヶ浦への窒素流入負荷に占める割合を定量評価することを計画している。

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