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研究課題名 地球環境の戦略的モニタリングの実施、地球環境データベースの整備、地球環境研究の総合化及び支援

実施体制

代表者:
地球環境研究センター  センター長  笹野  泰弘
分担者:
【地球環境研究センター】
野尻幸宏(副センター長)、向井人史、甲斐沼美紀子、町田敏暢、藤沼康実*)、三枝信子、松永恒雄(室長)、S. Maksyutov、山形与志樹(主席研究員)、梁乃申、高橋善幸、小熊宏之、志村純子、花岡達也(主任研究員)、伊藤昭彦(研究員)、G. A. Alexandrov、曾継業、松久幸敬*)、宮崎 真*)、相沢智之*)、Shobhakar Dhakal、Melanie Hartman*)、開 和生、木下嗣基、哈斯巴干、牧戸泰代(NIESフェロー)、中岡慎一郎、宮崎千尋、津守博通*)、Boyan Tatarov、中路達郎*)、武田知巳*)、平田竜一*)、岩男弘毅*)、藤田直子*)、Jamsranjav Baasansuren*)、松本力也*)、早渕百合子、尾田武文、赤木純子、真板英一、加藤創史(NIESポスドクフェロー)犬飼 孔*)、油田さと子、小川安紀子、梅宮知佐*)、Anil Kumar Raut*)、樋渡亜矢子*)、小野貴子、酒井広平、林 洋平、石渡佐和子(NIESアシスタントフェロー)、林 洋平(NIESリサーチアシスタント)、橋本 茂、井手玲子、高橋厚裕、藤谷徳之助、新明雄、伊藤玲子、長谷川安代*)、田辺清人、畠中エルザ、伊藤 洋、大石 優(高度技能専門員)
【循環型社会・廃棄物研究センター】
森口祐一(センター長・地球環境研究センター兼務)、橋本征二、南齋規介(主任研究員)
【環境リスク研究センター】
高村典子(室長)、中川 恵(高度技能専門員)
【アジア自然共生研究グループ】
中根英昭(グループ長・地球環境研究センター兼務)、野原精一(室長・地球環境研究センター兼務)谷本浩志(主任研究員・地球環境研究センター兼務)
【社会環境システム研究領域】
原沢英夫*)(領域長)、一ノ瀬俊明(主任研究員・地球環境研究センター兼務)、肱岡靖明(主任研究員)
【化学環境研究領域】
柴田康行(領域長)、横内陽子(室長・地球環境研究センター兼務)、田中 敦(主任研究員・地球環境研究センター兼務)、荒巻能史(研究員・地球環境研究センター兼務)、高澤嘉一、斉藤拓也(研究員)、宇田川弘勝(NIESポスドクフェロー)
【環境健康研究領域】
小野雅司(室長・地球環境研究センター兼務)
【大気圏環境研究領域】
遠嶋康徳(室長・地球環境研究センター兼務)、杉本伸夫(室長)、松井一郎、森野 勇*)、秋吉英治、杉田考史(主任研究員)、山岸洋明(NIES特別研究員)
【水土壌環境研究領域】
今井章雄(室長・地球環境研究センター兼務)、稲葉一穂(室長)、松重一夫(主任研究員・地球環境研究センター兼務)、小松一弘(主任研究員・地球環境研究センター兼務)、上野隆平、岩崎一弘、富岡典子、越川昌美(主任研究員)、高津文人(NIES特別研究員)
【環境研究基盤技術ラボラトリー】
西川雅高(室長)

※所属・役職は年度終了時点のもの。また、*)印は過去に所属していた研究者を示す。

研究の目的

地球環境研究センターにおける知的研究基盤整備について、中期計画に記された事業は次のとおりである。

1. 地球環境の戦略的モニタリングの実施
2. 地球環境データベースの整備
3. 地球環境研究の総合化および支援

これらの実施を通して、中期計画に示された次の目標達成を図る。

(1) 地球環境モニタリング技術の高度化を図り、国際的な連携下で先端的な地球環境モニタリング事業を実施する

(2) 地球環境の観測データや地球環境研究の成果を国際ネットワーク等から提供されるデータと統合し、さまざまなレベルに加工・解析して、地球環境に係わる基盤データベースとして整備し、広く提供・発信する。

(3) 地球温暖化分野に係わる地球観測について、わが国における統合された地球観測システムを構築するために関係府省・機関が参加する連携拠点事業の事務局を担い、利用ニーズ主導の地球観測の国際的な連携による統合的・効率的な推進に寄与する。

(4) 国立環境研究所のモニタリングプラットフォームやスーパーコンピュータを利用する地球環境研究を支援する

(5) 国内外の研究者の相互理解、研究情報・成果の流通、地球環境問題に対する国民的理解向上のための研究成果の普及を目的として、地球環境研究の総合化と中核拠点としての機能を果たす。

地球環境研究センターの知的研究基盤整備においては、中長期的に継続することでしか達成できないことが明確なモニタリング事業やデータベース整備を中心に据えている。運営費交付金に加え適切に外部資金導入を図ることで、行政機関が行う定常業務より以上に地球環境研究推進の要請にこたえる最新の技術を導入しながら、将来の評価に耐えうるデータおよびデータベースという資産を残し、国立環境研究所のみならず国内外研究機関に貢献する目的がある。このうち、地球環境をとりまく事象の理解増進という意味で、社会貢献の目的をあわせ持つものもある。大学等研究機関が行うモニタリングやデータベース関連活動が、研究者によってその機関と研究者のために実施されるものが多く、長期継続性が担保されにくいことと比べ、長期の実施方針が定まったものについては、運営費交付金という比較的安定に事業を支えうる経費をベースにして継続的に実施し、地球環境研究と社会の要請にこたえる。また、モニタリングやデータベースの研究者と担当職員、重点研究プログラムとして受け持つ地球温暖化関連研究者の存在を生かし、国内外の地球環境研究の中核研究拠点としての活動の必要性にこたえるのが、地球環境研究支援を目的とする総合化事業である。研究所を取り巻く情勢を適宜とらえる機動性も重要であり、地球環境研究および環境行政への貢献を目指した事業運営を行う。

平成21年度の実施概要

事業区分の「1.地球環境の戦略的モニタリング」では、地上ステーション、協力貨物船、シベリアでの航空、森林フラックスステーションなど、プラットフォームを活用した観測を着実に継続するとともに、地上ステーションでの太陽光パネル設置など、省エネルギーの試みも行った。また、温暖化影響モニタリングのパイロット研究として、日本が分布北限域にあたる造礁サンゴ分布の長期モニタリング開始の検討、画像解析による高山帯の植生変化の長期モニタリング開始の検討を行った。

事業区分の「2. 地球環境データベースの整備」では、サーバ類の整備、リプレースとともに、ツール類の開発を進めた。また、社会系データベース事業としては、IPCCの次期シナリオに対応するデータベース整備を行った。

事業区分の「3. 地球環境研究の総合化および支援」では、本年も連携拠点ワークショップを開催するなど、地球環境研究の拠点形成にかかる事業を継続した。本年も温室効果ガスインベントリ策定事業支援で、アジア各国それぞれの温室効果ガスインベントリ作成能力の向上を目指す「アジアにおける温室効果ガスインベントリ整備に関するワークショップ」を開催したが、我が国の提唱で採択された「神戸イニシアティブ」の一環として、年々その国際的な期待が高まっている。また、本年はコペンハーゲンにおいて気候変動枠組条約会議COP15が開催され、環境研のアウトリーチの中心的活動として政策対応イベントおよび広報ブースを受け持った。

研究予算

(実績額、単位:百万円)
  平成18年度 平成19年度 平成20年度 平成21年度 平成22年度 累計
運営交付金 611 570 580 564   2,325
その他外部資金 234 204 234 186   858
総 額 845 774 814 750   3,183

平成21年度研究成果の概要

平成21年度の研究成果目標

(1) 温室効果ガス等の地上モニタリング

地上定点における温室効果ガス等の長期的高精度モニタリングを行う。研究レベルの新しいモニタリング項目を追加しつつ、大気中の微量成分の長期的変化によっておこる地球規模の環境変化を測定する。

(2) 定期船舶を利用した太平洋での温室効果ガス等のモニタリング

海洋による二酸化炭素吸収量の時空間変動を明らかにすることを目的とし、特に太平洋での二酸化炭素吸収量の広域的な観測を行う。

(3) シベリア上空における温室効果ガスに係る航空機モニタリング

温室効果気体および関連気体の地球規模での循環におけるシベリアの陸上生態系が果たす役割を明らかにするための観測を行う。

(4) 温室効果ガス関連の標準ガス整備

温室効果気体の観測における長期変動を検出するための基準を維持・管理するとともに、標準物質を新たに製造するための開発研究を行う。また、NIES観測値を他機関の観測値と比較可能にするために、標準スケールの相互比較を行う。

(5) 成層圏モニタリング

モニタリングにより成層圏オゾンの現状を把握してオゾン層変動要因を解明すると共に、国際的なネットワーク、衛星観測センサー検証等に貢献する。

(6) 有害紫外線モニタリングネットワーク

国内の帯域型紫外線計観測を一元化するとともに、手法標準化と観測データ検証を行う。あわせて、観測データの有効活用をはかるため、事業参加機関内相互利用並びにホームページ等を通じてのデータ発信を行う。

(7) 海洋モニタリング(温暖化影響)

日本が分布北限域にあたる造礁サンゴ分布と共生する褐虫藻の変化を長期的にモニタリングすることにより、地球温暖化による水温上昇のサンゴへの影響を評価する。

(8) 森林の温室効果ガスフラックスモニタリング

富士北麓、天塩、苫小牧のカラマツ林において、森林生態系の炭素収支の定量化とその手法の検証を行う。あわせて、アジア地域の陸域生態系の炭素収支観測ネットワーク(Asiaflux)を介して、アジア諸国との連携を強化する。

(9) 森林のリモートセンシング

遠隔計測手法による森林のバイオマス変動・植物生理活性のリモートセンシング手法開発とモニタリング応用を行ない、広域炭素収支研究に向けた情報基盤を整備する。

(10) GEMS/Waterナショナルセンターと関連事業

GEMS/Waterのわが国の事務局として、陸水の水質データを取りまとめ国際本部のデータベースに登録する。また、本研究所が観測を継続してきた摩周湖・霞ヶ浦を本プログラムの観測サイトとして水質観測を継続する。

(11) 地球環境データベースの構築と運用

第1期中期計画から運用中のサーバ及び第2期中期計画期間中に整備したデータベースサーバ等からなる基幹www/データ提供サーバ群の維持管理を行う。また地球環境モニタリング事業等によるデータのデータベース化を関連研究者と協力して進める。さらに地球環境データの解析支援ツールの開発、データベース関連の所内技術支援・対外協力を適宜行う。

(12) 陸域炭素吸収源モデルデータベース

分類精度が低い草地の分類を高分解能の衛星画像を用いて実施し、既存のグローバルデータセットから高精度の土地被覆図を作成する。

(13) 温室効果ガス排出シナリオデータベース

IPCC第5次評価報告書に向けて、本データベースのデータの更新や構造の改良、収録されたデータの精査を行う。

(14) 温室効果ガス等排出源データベース

中国・インドにおける発電・鉄鋼・セメント・石油精製・石油化学の各部門について、大規模発生源に関する情報の精査およびデータの更新を実施する。加えて、各種エネルギー統計から面源排出量データを作成し、大規模発生源からの点源排出量データと合わせて、2005年の排出量分布図を作成する。

(15) 炭素フローデータベース

産業連関表を用いた環境負荷原単位データについて、2005年確報版に対応した作業を行う。Webから2005年表データを公開する。

(16) グローバルカーボンプロジェクト事業支援

ワークショップ開催、報告書の出版、研究の評価と統合を行う。また、社会経済の将来シナリオの包括的なレビューを行い、都市発展のボトムアップ解析手法の発展に寄与する。

(17) 温暖化観測連携拠点事業支援

地球観測温暖化観測連携拠点事務局として、機関間・分野間連携施策の推進、観測データの標準化、流通促進に向けた基盤作り等を行う。

(18) 温室効果ガスインベントリ策定事業支援

日本国温室効果ガス排出・吸収目録(以下、「インベントリ」)報告書の作成および公表、インベントリのUNFCCC審査、ワークショップの開催等を通じた途上国のインベントリ能力向上等を行う。

(19) UNEP対応事業

UNEPの東アジア地域の環境問題・環境政策の動向についての情報提供に対応する。

(20) スーパーコンピュータ利用支援

スーパーコンピュータ利用申請事務、利用者情報管理、研究成果とりまとめなどから研究支援する。

(21) 地球環境研究の広報・普及・出版

研究者の相互理解促進、研究情報・成果の流通、地球環境問題に対する国民的理解向上のため地球環境研究センター・国立環境研究所はもとより国内外の最新の研究成果の普及を図る。

平成21年度の研究成果

(1) 温室効果ガス等の地上モニタリング

波照間、落石両ステーションで観測された二酸化炭素は年平均値で389ppmにまで増加した。2009年初めは継続したラニーニャ傾向に対応して二酸化炭素濃度増加率が平年に比べて非常に小さく、1.1から1.3ppm/yearになっている。この間の二酸化炭素の人為発生は8GtCを超えていると考えられるので、自然界の二酸化炭素吸収量が増加したことがわかる。メタン濃度増加率は1998年に非常に高い値を示した後、1999年から2006年までの間はそれを上回るような大きな増加は観測されていなかったが、2007年以降は急激な増加が波照間・落石のトレンドに共通して見える。

高頻度・高精度のハロカーボンモニタリングは波照間で6年目、落石で4年目に入った。本年度はグローバルなハロカーボン観測ネットワークのデータを使ったモデル研究に参画し、アジア地域における唯一のステーションとして波照間のデータを活用した。この結果、2006年の中国からのHCFC-22排出量は世界最大で、二番目に多い米国の倍以上に上ることがわかった。

波照間の窒素酸化物(NOx*)観測値はこの10年間で約0.4ppbv程度の増加傾向が認められた。落石では前年と同様に比較的高い濃度(約1ppbv)を示した。

観測で得られた二酸化炭素濃度は、昨年度より準リアルタイム配信サイトによって1時間前の観測データまでデータ閲覧と利用が可能になったが、本年度は和文サイトも開設した。 2009年4月より太陽光パネルの運転を開始し、停電時の緊急対応が可能になった。また平均して10%程度の電気消費量の削減となった。

(2) 定期船舶を利用した太平洋での温室効果ガス等のモニタリング

南北太平洋路線で観測を実施しているTransfuture 5号のドック入りの際に海水配管の洗浄作業を行った。配管内壁には有機物の付着が確認され、観測にはできる限り大きな海水の流量を確保することが重要であることが示唆された。北太平洋中緯度海域を観測するPyxis号は安定した観測が続いているが、昨今の経済情勢で北米西海岸航路を中心にして運行されるようになった。北太平洋高緯度海域のSkaubryn号もおおむね定常運行された。

本年度は北太平洋航路の2008年までデータを確定し、時系列的な解析、海域のCO2フラックスの解析を行った。グリッド毎のデータ時系列解析結果から、1995年から2008年の気候値を求め、海洋−大気の二酸化炭素分圧差の海域毎の季節変動を明らかにした。さらに1995年と2008年の交換量を比較すると、西部北太平洋域の40度帯と45度帯に大きな差があり、2008年の海洋吸収量が70%程度増加していたことがわかった。また、北太平洋の東部海域では20%程度の海洋吸収量低下との結果になった。この解析海域全体の海洋二酸化炭素吸収は0.4GtC/年と推定された。
船舶を利用した大気観測では、アジア路線によるモニタリング範囲の拡大で得られたボトルサンプリング結果を解析し、インドシナ半島付近まで季節風の吹き出しが汚染を拡散させていることや、熱帯域での一酸化炭素やメタンの濃度増加などを確認した。また、連続測定装置ではボルネオ島付近で二酸化炭素、一酸化炭素、黒色炭素の高濃度を観測し、焼畑農業、あるいはそれに付随するバイオマス燃焼からのこれらの成分の放出が示唆された。

(3) シベリア上空における温室効果ガスに係る航空機モニタリング

航空機モニタリングでは、シベリア地域の飛行経費増大の影響を受け、Surgutでは2009年2月と3月の2回、Novosibirskでは2009年1月と5月の2回のサンプリングをとりやめた。また、2009年8月から9月にかけては航空機点検のためにサンプリングが実施できなかった。Yakutskでは2009年は4月を除いて全ての月にL410型機による観測を実施した。

Surgut上空の高度1kmにおける二酸化炭素濃度は2008年から夏季の濃度が前年の同時期を下回り、2009年にはさらに低くなった。このことを反映して二酸化炭素濃度の経年変動は高度3kmでは2008年から増加が極端に弱まり、高度1kmと2kmでは2009年の濃度が2008年よりも低濃度になった。しかしながら、高度7kmでは2008年以前と同様の増加率を示した。低高度におけるこのような増加率の鈍化はNovosibirskやYakutskでは顕著ではなかった。

Surgut上空のメタン濃度には、1998年から2004年まで経年的停滞状態が見られたが、その後高度2km以上では経年増加が明瞭に見られるようになった。シベリア上空の一酸化二窒素濃度は、いずれの高度でも1999年から2000年にかけて急激に増加しているが、2001年以降はほぼ一定の割合で増加している。高度7kmでは成層圏の影響を受けた低い一酸化二窒素濃度がしばしば観測されている。
Novosibirsk上空の六フッ化硫黄の経年変動には有意な鉛直方向の差がなく、シベリアにおける六フッ化硫黄の放出が非常に小さいことを示唆している。また、濃度増加は2003年から2004年にかけて鈍化しかけたが、再び増加に転じている。2006年以降の増加率は0.2ppt/yrから0.3ppt/yrの間にあるが、平均すると0.26-0.28ppt/yrである。

(4) 温室効果ガス関連の標準ガス整備

一段希釈重量充填法により調製した二酸化炭素標準ガスの濃度を基に新スケールであるNIES 09 CO2スケールを確定し、濃度ドリフトが無いと判断した二酸化炭素標準ガスに対して値付けを行った。新旧スケールの差については変換式をユーザーに配布することにした。

長期安定な一酸化炭素濃度スケールの構築を目的として、2〜5ppmの4本の高濃度標準ガスを重量法で製造し、直線性の良いVURF-CO計を用いて検定する手法を確立した。これをもって4本の高濃度標準ガスをNIES 09 COスケールとして新たな環境研の基準とすることにした。

2009年度は「Sausage」(瓶を連ねた形状に由来する比較活動名)、「WMO ラウンドロビン」(ボンベの順送り) 、「Cucumber」(同)など多くの機関が参加する相互比較に参加するとともに、産業技術総合研究所計測標準研究部門(NMIJ)、東北大学、気象庁・気象研究所、マックスプランク生物地球化学研究所とスケールの相互比較を行った。

環境省と協力して日本でのオキシダントの基準を確立するために、これまで日本の準基準的な意味合いで使われてきた横浜市のオゾン計測装置をNIESへ移設した。このオゾン計1101ならびに1102とNIES所有の国際標準器SRP-35の比較を行った。 二酸化炭素同位体比の比較を行う上で妨げとなっていた一酸化二窒素の補正項について、質量分析計のm/zの30を使うと炭素同位体比についてこれまでの方法よりも良い結果が得られることが分かった。一方酸素同位体比については、フラスコ中の保存性に起因するずれが大きく、オーリングの材質を変更して試験することになった。

(5) 成層圏モニタリング

オゾンライダー観測では、本年度データのNDSCへの登録を進め、16データを登録した。

ミリ波分光計観測では、冷却黒体の改良を陸別、つくばで順次実施した。旧冷却黒体では3ヶ月で最大7%の変化があったが、新冷却黒体では3ヶ月で最大2%の変化となった。これにより、冷却黒体較正の問題が本質的に改善されたことが確認された。名古屋大学のミリ波観測装置を用いてデジタル分光計の評価およびテストを行った。従来の音響光学型分光計に比べ周囲温度の変動に対しても安定で平坦なスペクトルベースラインのデータが取得できることを確認し、オゾンモニタリングにおける有効性を実証した。ミリ波分光計のサイドバンド絶対値の測定精度を高めるため、一酸化二窒素ガスセルを用いた測定法を新たに考案し、そのためのガスセルの製作と検証実験を行った。
国際宇宙ステーションのISS搭載のSMILESセンサー観測値の検証を行うための準備を進めている。

(6) 有害紫外線モニタリングネットワーク

環境研直轄観測の4局を含む全国30局の有害紫外線観測データを収集・配信した。このうち、オンライン化されている17局についてはPCサイトとモバイルサイトからUVインデックスの速報値を配信した。

陸別においてBrewer分光計と分光型紫外線計、帯域型紫外線計の相互比較実験を行った結果、分光型紫外線計が準器として使えることが確認されるとともに、機関間の相互比較にも有効であることがわかった。帯域型紫外線計の較正手法の本格的な見直しを機器メーカーと共に行い、測器毎の分光感度常数を使って室内較正を行う新しい手方法導入のめどがついた。また、過去に観測したUV-B量の経年トレンドを評価するための準器の補正方法を確立した。

東海大学と共同研究を行いUV-B計(MS-212W)の分光感度常数の特徴を把握することができた。これにより、UV-B計の季節変動を含めた総合的な精度管理が可能になった。
モニタリングネットワーク担当者会議を開催した。参加機関の担当者から活動報告を受け、データの学術利用から啓蒙活動への利用等に関する意見交換を行った。また、将来の事務局機能の縮小について議論すると共に、各局でデータの検証が行えるように「データ処理ガイド」を公開した。

(7) 海洋モニタリング(温暖化影響)

2011年度からのモニタリング事業開始を目指し、サンゴおよび共生する褐虫藻に関して、1)形態及び遺伝子による識別に基づく温暖化影響指標の抽出、2)過去の出現記録との比較、3)モニタリングサイトの選定と設定を行った。
1)に関しては、日本の7カ所においてサンゴの分布調査を行い、特定の種が分布北限域における温暖化影響の指標となることが明らかとなった。また、褐虫藻の遺伝子解析と培養実験を行った結果、サブクレードレベルでの解析を行うことにより温暖化影響が検出できる可能性が示唆された。2)に関しては、1970年代の調査報告書をはじめとする文献調査を行って現在の分布と比較結果、過去には報告されていない上述の指標種が検出され、サンゴ分布が北上していることが明らかとなった。3)に関しては、モニタリングサイト1000事業担当者など現地協力者の存在、サンゴの群集構造、2)の結果得られた現在の北上可能性を考慮して、東シナ海−日本海において4カ所、太平洋側において4カ所をモニタリングサイト候補として選定した。

(8) 森林の温室効果ガスフラックスモニタリング

富士北麓サイトフラックス観測サイトでの観測は、ユーラシア大陸北東地域に広く分布するカラマツ林の炭素収支機能を定量化するとともに、森林生態系による炭素吸収量を、微気象学的な方法や林学的な方法などの異なる手法で算出し比較することにより、観測精度の向上をはかることを目的としている。2006〜2009年度の4年間では、富士北麓サイトは苫小牧カラマツ林と比べて立木密度が約1/2であるにもかかわらず、森林の総光合成量と総呼吸量は苫小牧に匹敵するほど大きく、正味の炭素収支量も年間値で比較すると苫小牧より多いことがわかった。この結果は、富士北麓サイトの年平均気温は苫小牧に比べて高く光合成を行う生育(着葉)期間が長いこと、また、盛夏期(7〜8月)に濃霧の発生しやすい苫小牧に比べて富士北麓の盛夏期の総光合成量が高いことなどが原因と解釈される。

北大、北海道電力との共同研究として実施している天塩CC-LaGサイトでは、カラマツ若年林の成長過程に伴う炭素収支・水収支・窒素等の物質収支の観測が順調に行われ、森林施業が炭素吸収能力等の機能に与える影響評価を行うために必要なデータが着実に蓄積されている。これまでの観測により、天然林を伐採した当年および翌年に大きな炭素放出が観測された後、植樹したカラマツ苗の成長に伴って森林の正味炭素収支量は徐々に増加し、植林から約5年後に吸収量と放出量がほぼ等しくなるという結果が得られた。台風被害の後で観測規模を縮小した苫小牧フラックスリサーチサイトでは、積雪期を除く5〜11月にかけて二酸化炭素フラックスとバイオマスの観測を継続した。
AsiaFlux活動では、日中韓共同研究事業のためのデータ収集および研究集会の開催などとともに、AsiaFluxデーターベースシステムへのデータ登録作業を進めた。

(9) 森林のリモートセンシング

航空機レーザースキャナや航空デジタル写真を用いた森林構造とバイオマス量の評価に関する手法開発をほぼ完了した。特に、航空写真を活用した森林構造変化の解析手法を完成したことにより、過去に遡って樹高変動の抽出、倒木状況の把握、樹木成長量の定量的な評価を行うことが可能になった。一方、分光放射の連続観測とデジタルカメラの自動撮影を組み合わせ、生態系機能とフェノロジーのモニタリングを行うシステム(PEN)の開発・改良につとめ、他研究機関と協力してこのシステムをほぼ完成させた。また、AsiaFluxやJaLTERなどの関連する陸域観測研究ネットワークとの連携体制の構築を進めると同時に、主に国内の他サイトに対する技術の普及も行った。

2009年度にはエアロゾルパラメータを取得するための機器であるスカイラジオメータの校正支援とスカイネットへの登録を完了した。また、これまでオフライン環境であった故に迅速な不具合対応が出来なかった天塩サイトをオンライン化し、リアルタイムの提供を可能とした。 温暖化影響モニタリング「高山地域における植生変動及び積雪・融雪に関するモニタリング」のパイロットスタディーとして、利尻山、大雪山および北アルプスの現地調査を行い、定点カメラの設置場所等の情報収集を行った。さらに山小屋の観光情報用ライブカメラ画像を入手し、融雪パターンや植生の季節変動を自動抽出する手法を開発した。より高解像度のデジタルカメラを設置することで植生群落単位でのモニタリングが可能となる確証を得た。

(10) GEMS/Waterナショナルセンターと関連事業

GEMS/Water本部との連絡調整等を行うナショナルセンター業務として、国内の各観測拠点のデータ取りまとめ、国際本部のデータベースへの登録を進めるともに、国内・国際活動に対する技術支援とデータユーザへの支援を継続して行った。

摩周湖ベースライン観測ステーションでは、通年の水位観測を開始したところ、降水に応答した水位上昇と漏水が認められることがわかり,過去の水収支値を精緻化した。また、クロロフィルの極大層(水深31m)は前年(20m)とは異なる深度に認められ,かつその濃度は過去最大であることが判明した。 霞ヶ浦トレンド観測ステーションでは、毎月の湖沼観測と魚類捕獲調査を継続実施した。最近の霞ヶ浦で見られる変化として、2008年冬季に透明度1m以上を記録するなど、透明度が回復していることが挙げられる。これまでにも1980年代に見られたアオコの大量発生、1990年代の全リン濃度上昇、2000年代の白濁現象など、過去に数年単位で様々な変化が観察されているが、その原因や影響について未だ不明な点も多い。1990年代から行われている大規模浚渫や水位調節等の人為的影響が湖内環境にいかなる影響を及ぼすのかの現状把握も進めていく必要がある。

(11) 地球環境データベースの構築と運用

ア 地球環境研究センター基幹www/データ提供サーバ群及びコンテンツの維持・管理
地球環境研究センター基幹www/データ提供サーバ群の維持管理を継続した。また基幹wwwサーバについてはハードウェアの老朽化等に伴い、そのリプレースを実施中である。このリプレースにあたり、OSの仮想化等によるセキュリティ向上及びURLの変更も合わせて実施する。さらに既存コンテンツの維持管理および新規コンテンツの作成・作成支援については、CGER内の研究者からの要望に基づき適宜進めた。

イ 地球環境モニタリング事業等によるデータのデータベース化
宇宙開発事業団の地衛星ADEOS及びADEOS-IIに搭載された環境庁の成層圏オゾン等の観測センサILAS、ILAS-IIのデータを、GOSAT地上データ処理・運用システムおよびアーカイブテープから回収し、地球環境研究センター基幹www/データ提供サーバ群のディスクシステムに保管するとともに、そのホームページを開設した。2006年度より開発を進めていた全球陸域炭素吸収源分布のwebデータベース/データ解析システムであるCarbon Sink Archivesについては、その利用マニュアルを含むCGERレポートを発行した。

ウ 地球環境データの解析支援ツールの開発
温室効果ガス観測データ解析システムの開発を継続し、その日本語版の一般公開を行った。さらにCGERが保有するさまざまな二次元データをWebGIS技術によりweb上で公開するシステムを試作した。現在UNEP GRID Tsukubaのデータセット、「温室効果ガス等排出源データベース」および「陸域炭素吸収源モデルデータベース」事業で整備されたデータセットを含む27データセットを掲載している。

エ データベース関連の所内技術支援・対外協力
地球環境研究センターが気象庁等から購入・アーカイブしている気象データ等を所内研究者が入手するためのホームページの運用を継続した。またGOSATプロジェクトに対し、GOSAT地上データ処理・運用施設(DHF)の計算機設備導入、処理ソフトウェア開発、各種試験実施に関する支援を行った。さらにGEO-VI、UNFCCC COP15等の国際会議における展示用に、動画等を表示する器材一式の調達及び同器材で上映するコンテンツの作成を行った。

(12) 陸域炭素吸収源モデルデータベース

昨年までに作成した2000点の土地被覆検証(6カテゴリー)情報に新たに2000点の検証を実施して、合計4000点の検証情報を整備した。さらに面的な土地被覆の検証情報を整備するために、分類精度が低い草地の分類を高分解能の衛星画像を用いて実施した。4000点の検証情報を用いて、新たな手法で既存のグローバルデータセットから高精度の土地被覆図を作成する手法を開発し、オリジナルな土地被覆図(6カテゴリー、森林、農地、湿地、草地、市街地、その他)を作成した。

(13) 温室効果ガス排出シナリオデータベース

IPCCでは第5次評価報告書(AR5)に向けて、AR4で示された温室効果ガス長期シナリオをカバーする複数の代表濃度シナリオ(RCP:Representative Concentration Pathways)が作成された。今後、さまざまな気候安定化濃度シナリオが、各研究機関・研究者により検討されると考えられる。AR5に向けてAR4で示されたシナリオ幅をカバーできる4つの代表的なRCPシナリオが策定/更新されたことを受け、本事業では、RCPシナリオの収集を行なって最新の情報をデータベースに格納する準備を行った。
また、データベースの改良として、登録されたデータについて、「IPCC第2次評価報告書(SAR)」「温室効果ス排出シナリオに関する特別報告書(SRES)」「IPCC第3次評価報告書(TAR)」「IPCC第4次評価報告書(AR4)」、「IPCC第5次評価報告書(AR5)」の区分別に排出シナリオを抽出できるようデータベースの改良を行った。また、AR4については安定化濃度カテゴリー別にデータを抽出できるようにした。

(14) 温室効果ガス等排出源データベース

ア アジア主要国の発生源データの収集および排出量データの作成
発電、鉄鋼、セメント、石油精製、石油化学に関する大規模発生源データ(プラント容量、技術種、導入年、エネルギー消費量、大気汚染除去率など)を精査し、中国、インドにおける各大規模発生源に関する2005年付近のエネルギー消費量や排出量データを作成した。本研究で作成したインベントリでは、ユニット毎に詳細に数えており、中国、インド、タイ、その他のアジア諸国で、他先行研究と比べて多くの大規模発生源データを収録している。

イ アジア主要国の排出量のメッシュデータ作成
中国、インドのエネルギー消費量または大気汚染物質排出量に関する統計書に記載されているデータから、上記アで精査・追加・更新を行った大規模発生源対象分のエネルギー消費量または大気汚染物質排出量を差し引き、2005年付近での国別の数分メッシュの面源排出量データを作成し、GISを用いて推計値を地図上に表示できるようにした。

ウ アジア全域の温室効果ガス等排出源データの作成
アジア主要国以外の各国についても、収集・整備した地域または国毎のエネルギー消費量または大気汚染物質排出量に関する統計書に記載されているデータから、整備したアジア各国の大規模発生源対象分のエネルギー消費量または大気汚染物質排出量を差し引き、2005年付近の国別・地域別の数分メッシュの面源排出量データを作成し、GISを用いて推計値を地図上に表示できるようにした。

(15) 炭素フローデータベース

産業連関表を用いた環境負荷原単位データ(3EID)については、 2009年3月に2005年産業連関表の確報版が総務省より公開されたため、これに対応したエネルギー消費量と二酸化炭素排出量に関するデータ整備を行った。今日のカーボン・フットプリントへの社会的な取り組みを支援するため、データ公開の速報性を重視し、Webから2005年表データのベータ版を10月末に公開した。また、カーボン・フットプリントへの利用のおける利便性を考え、内包型原単位の内訳表と購入者価格原単位を従来より拡充して整備し公開を行った。具体的には、内訳表については従来の原燃種別表と誘発部門別表に加え、投入部門別表を追加した。購入者価格原単位は従来の家計消費支出部門のみを対象とする原単位ではなく,産業間の取引を含む全ての部門の購入者価格原単位を整備した。

(16) グローバルカーボンプロジェクト事業支援

本年度は、IPCCに役立つような科学的成果の発展を含め、GCP全体としてより応用研究に力を入れていくことに努めた。また“Global Carbon Agency”の理念に関する検討も実施した。国際研究計画「都市と地域における炭素管理(URCM)」としては、以下の5点について継続して活動を行った。 (a)科学ネットワーキング、(b)研究と政策の対話、(c)新しいIPCC評価への出版、(d)ウェブサイトを通じた情報資源の促進、(e)日本の研究コミュニティへの関与の促進。また、GCPは主に3つの統合的な成果発表を実施した:(a) “Energy Policy”にGCP-URCMの特集号の編集、(b)“Current Opinion in Environmental Sustainability”に GCP特集号の編集、 (c) REgional Carbon Cycle Assessment and Processes (RECCAP) の推進等である。また、国際シンポジウム「都市とカーボンマネージメント:科学と政策の連携強化に向けて」を東京都で開催した。GCPプロジェクトは“Nature Geo-Science”に全球炭素収支について論文発表し、GCPつくばオフィスはプレスリリースを行った。

(17) 温暖化観測連携拠点事業支援

文部科学省科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会地球観測推進部会で策定された「平成22年度の我が国における地球観測の実施方針」(平成21年8月7日) の作成にあたり、関係者の意見等を取りまとめて、文部科学省の部会事務局に報告し、作成の支援を実施した。地球温暖化観測推進ワーキンググループによる報告書第2号「地球温暖化観測における連携の促進を目指して−雲・エアロゾル・放射および温暖化影響評価に関する観測−」を刊行した。
事務局主催の平成21年度連携拠点ワークショップ「統合された地球温暖化観測を目指して−雪氷圏における観測の最前線−」を平成22年1月に東京で開催した。総合討論において、「雪氷圏観測の機関間連携に関する取組についてのたたき台」について議論した。

(18) 温室効果ガスインベントリ策定事業支援

990年〜2007年の日本の温室効果ガスの排出量および吸収量を推計した。国連気候変動枠組条約(UNFCCC)締約国会議(COP)にて採択された共通報告様式(CRF)と作成方法の詳細を記載した日本国温室効果ガスインベントリ報告書(NIR)」を4月に条約事務局へ提出し、報告書とデータをウエブ上で公表、CGERレポートとして発行した。2009年提出インベントリでは、2007年の日本の総排出量は京都議定書の基準年から9.0%増加していることが明らかになった。11月に2008年度温室効果ガス排出量速報値の推計作業を行った。
アジア地域の温室効果ガスインベントリ作成能力向上を目指して、環境省と共催で「アジアにおける温室効果ガスインベントリ整備に関するワークショップ(WGIA)」第7回会合(WGIA7)を7月にソウル(韓国)において開催した。第6回会合に引き続き「神戸イニシアティブ」の一環として開催され、WGIA参加各国が作成を進めている国別報告書の作成状況及び「測定・報告・検証可能な温室効果ガス排出削減活動」推進の重要性に主眼を置き、当該活動に不可欠なインベントリ策定のさらなる発展のための今後のWGIA活動の展開を中心とした議論を行った。

(19) UNEP対応事業

10月上旬にバンコクにおいて第10回CAN会合が行われ、Black Carbon, Regional Air Pollution, Adaptation(Science, Policy, Capacity Buildingに焦点)を中心とした議論に参加した。また、Regional Climate Change Adaptation Knowledge Platform for Asiaという組織が立ち上がり、ここへの協力が鮮明に打ち出された。3月にはナイロビでのGEO-5 (2012年発行予定)キックオフ会合(Global intergovernmental and multi-stakeholder consultation)に参加し、ドラフトの作成体制構築を検討した。

(20) スーパーコンピュータ利用支援

課題の公募と審査の適正化につとめるとともに、より効率的な運用を行い、地球環境研究支援の効果的な実施、支援体制の強化を図った。平成21年度の利用研究課題は16 課題である。利用率は8割を超え、研究所内外の研究者の環境研究支援に貢献している。研究発表会の開催や報告書の刊行、広報媒体の作成などにより、利用成果のより広い公開にも努めた。

(21) 地球環境研究の広報・普及・出版

「地球環境研究センターニュース」の月刊を継続し、内容については、常に新鮮な内容を維持するよう努めた。ニュースの新連載記事「異分野インタビュー 温暖化研究のフロントライン」を開始した。ウェブはコンテンツの新規作成、内容の随時更新を図るとともに、シンプルな構造への改修を行っている。広報用グッズを作成、更新し、常設パネルの英文(A3)版を作成している。多数のイベントにも積極的に取り組んだ。研究成果などの記者発表を積極的に行い、テレビ、新聞等マスコミに多く取り上げられた。見学や一般・報道機関等からの問い合わせにも可能な限り対応し、研究成果の普及と地球環境問題の理解増進に努めた。書籍「ココが知りたい地球温暖化」の続刊を制作した。研究所のメンバーが中心となって執筆する書籍「地球温暖化の事典(仮称)」の原稿を作成、査読している。専門家向けに地球環境研究センターの最新の成果を報告するCGERリポートは7冊を刊行した。国内の地球温暖化研究を行う研究機関・大学等の間の情報流通および連携促進を図るため、地球環境研究センターが事務局となって組織したボランタリーな検討会で、今後の気候変動研究推進のあり方について検討を行い、参考情報として、総合科学技術会議を始め関係府省・機関に対し提言を行った。12月にコペンハーゲンにおいて気候変動枠組条約会議COP15が開催され、環境研のアウトリーチの中心的活動として政策対応イベントおよび広報ブースを受け持った。地球温暖化問題に対する関心の高まりを受け、研究所への問い合わせは多く、これまでの諸活動を通じて信頼できる情報を提供してきたことが社会から高く評価されていると考えられる。

今後の研究展望

地球環境研究センターの知的研究基盤整備においては、中長期的に継続することでしか達成できないことが明確なモニタリング事業やデータベース整備を中心に据えている。運営費交付金に加え適切に外部資金導入を図ることで、地球環境研究推進の要請にこたえる最新の技術を導入して、行政機関が行う定常観測などの業務との差別化を図りながら、将来の評価に耐えうるデータおよびデータベースという資産を残し、国立環境研究所のみならず国内外研究機関に貢献することを目的として継続してゆく。モニタリングおよびデータベース事業の中には、地球環境をとりまく事象の理解増進という社会貢献の目的をあわせ持つものもあり、その展開も必要と考えていて部分的には着手してきた。大学等研究機関が行うモニタリングやデータベース関連活動が、研究者によってその機関と研究者のために実施されるものが多く、長期継続性が担保されにくいことと比べ、運営費交付金という比較的安定に事業を支えうる経費をベースにすることで、長期の実施方針が定まったものについては継続的に実施するのが本事業の使命であると認識している。