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Ⅱ 基盤的な調査・研究活動:終了時の評価
7.生物圏環境研究

1)研究の概要

生物圏環境研究領域では、生物多様性を構成するさまざまな生物の保全に関する研究、および多様な生物 からなる生態系の構造と機能の保全に関する研究を実施する。第2期中期計画期間においては、(1) 絶滅が心配される希少動植物・固有種等の保全に関する研究、(2) 地球温暖化・大気汚染・水質汚染などの環境変動やストレスが生物と生態系に及ぼす影響に関する研究、(3) 外来生物・遺伝子操作作物の定着・分散の実態の把握と対策に関する研究、 (4) 生態系の構造と機能の解析およびその保全に関する研究を中心に進める。

2)外部研究評価委員会による年度評価の平均評点

平均評点  4.1点 (五段階評価;5点満点)

3)外部研究評価委員会の見解

[現状評価]

生物の調査における個体数や群集を推定する技術開発や長期モニタリング研究をはじめ、生態系の構成要素やそれらの要素間の相互作用に関する研究を多面的に進めており、広い範囲が対象となる、研究所として必須の研究領域である。基盤領域として質の高い研究成果も着実に出されており、さらにその結果を行政に生かしたり、特許として生かしたりして有効に活用しており、総合的に見て優れている。また、これまで個人の専門のみに依存して行われていた研究が、まとまったものとなりつつある印象を受けた。材料としての個々の生物に依存する部分(特異性)と一般性を常に考慮する必要があり、それを意識しながらいろいろな取り組みが行われている努力は評価できる。

一方、調査による実態把握は意義があるものの、個別羅列的であり、領域としてのまとまりと研究課題の選定に関する議論と考察が不十分に思える。また、保全や行政への反映が見えない部分がある。

[今後への期待、要望]

研究所内で増強される必要がある分野であり、国環研としての独自色を十分出せるような研究を重点的に進めていってほしい。ヒトのリスクとの関連等、他領域との連携も色々と強めていくと同時に、外部の同分野機関との連携も強め、国内の生態系研究のイニシアティブをとれるように努力してはどうか。

また、生物圏環境研究として進展させられるべき研究が行われているかということについて検証が求められる。たとえば、生態系サービスの評価システム・制度の問題などである。現在のテーマでは、人間が生態系の外からの侵入者という立場でしかとらえられていないようだが、現実的には、人間と生態系の最適な相互作用を考えるという視点が重要であり、どのようなテーマを選択するかが大きなポイントとなる。

絶滅リスク、小笠原の保全の調査、バラスト内のシストの同定などの研究では、課題解決のために研究がどのような位置を占めているのか、現状の観察や記述、因果関係の推論と対策の提案等をさらに意識し、研究の出口をどのように考えていくか、行政とのつながりをどのように考えていくかについて、さらに検討を深めることが必要である。

COP10が日本で開かれる年でもあり、一般への広報等についても是非積極的に取り組んで欲しい。

4)対処方針

それぞれの研究の立案にあたって、よりいっそう議論を深める必要性は指摘された通りであり、次期中期の研究計画の立案にあたっても心したい。その際、他機関と連携を深めつつも当研究所の独自色をどこに求めるかという視点にも十分に留意したい。当研究所の生物系以外の研究分野と連携することも、環境研究を総合的に進める体制を持つ研究所の特徴を活かすことになると考えている。環境省所轄の独立行政法人として、自然環境保全への貢献をはじめとする行政貢献の道筋を念頭に置くことの重要性も指摘を受けている通りである。環境省との情報交換を行いながら、研究成果がよりいっそう活用されるよう努力する。

領域全体のまとまりが不十分との指摘に関しては、たしかにそうした傾向はあるものの、将来に向かってのシーズ創出という観点からは多方面展開の中から重要なテーマを見つけるというアプローチにも意義はあると考えている。また、生物という本質的に多様な研究対象を扱う場合、過度にテーマの選択と集中を進めて視野が狭くなることは避けたいと考える。

生物多様性の保全には広く社会の理解と協力が不可欠である。一般向けパンフレット(環境儀)の作成、生物多様性をテーマとした公開シンポジウムの開催などを通じて、これまで以上に広報に力を入れているところである。

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