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Ⅰ 重点研究プログラム・中核研究プロジェクト:終了時の評価
4.アジア自然共生研究プログラム (平成18〜22年度)

研究の概要

「アジアの大気環境管理評価手法の開発」については、観測と数値モデルを統合した解析が、アジア大陸における大気汚染物質や黄砂の発生源分布の推定の精度の向上、その結果としての越境大気汚染の予測の精度向上にとっての強力なツールであることを実証すると共に、解析に用いるデータとしての衛星データや東アジアライダーネットワークの有効性、辺戸岬スーパーサイトのポテンシャルを明らかにした。「東アジアの水・物質循環評価システムの開発」においては、衛星観測と地上観測を組み合わせた観測システムによって得られるデータと汚濁負荷に関する現地調査、水・物質循環モデルを組み合わせた評価システムの有効性を実証した。また、東シナ海の長江起源水が流入する海域において赤潮の原因となる植物プランクトンの出現を見出し、その動態を把握した。更に、中国の拠点都市瀋陽市における実証研究として、都市環境のデータを統合的なGISデータベースとして整備し、水・物質・エネルギー統合型モデル研究を推進した。「流域生態系における環境影響評価手法の開発」では、メコン河流域全体の自然環境と社会経済を把握することの出来る高解像度の地理空間データベース(MGDB)を構築すると共に、ダム建設が年間の氾濫動態や淡水魚類の回遊に及ぼす影響を評価する手法を開発した。また、メコンデルタのマングローブ林の生態系機能と汚濁負荷の関係についての知見を得た。

外部研究評価委員会による終了時の評価

平均評点 4.4点(五段階評価;5点満点)

外部研究評価委員会の見解

[現状評価]

中国等他国の政治的動きに左右される困難な研究環境において、積極的に研究を進め、極めて価値の高い人的ネットワークやデータベースの構築といった社会的貢献度の高い研究成果を着実に得ていることは高く評価できる。また、成果を環境政策に反映させるための努力が見られ、国内ばかりでなく国際的な協議にも一定の貢献をし、社会・行政にも影響を与えている。

一方、各プロジェクトは影響評価という点では一致しており、それぞれ成果は上げているものの、大気環境のように研究手法が普遍的でアジア規模で一体性が強い問題と、水循環や流域生態系のように地域の特性や人間活動との関係が多様な問題に分かれ、アジア自然共生研究としてひとくくりにすることは困難である。3つのプロジェクトの相互関係がわかりにくく、成果の活用方策や研究の出口が見えにくい。また、掲げる社会目標の大きさに対し、科学者としてできる地道な取り組み(日中研究者交流など)の重要性が周知できていないようである。

[今後への期待、要望]

他の重点プログラムも含めて得られた成果をもとに、10年、20年先を見据え、現状の整理・構造化をした研究計画を立て、統合的、整合的な全体像を示せるように研究を継続してほしい。アジア地域における国際協力研究、国際交流の継続、強化への努力を期待する。人材育成という観点からは、大学との連携も必要と思われる。

アジア諸国との共生政策の認識の共有や、各国との研究協力体制持続性確保の方策に留意する必要がある。また相手国の環境技術等の成熟度合いによりどこまで協力するかを見定める必要がある。各国の当事者と呼応し、等身大で地道な取り組みの中で、研究の夢あるアイデアを発信していただきたい。

また、国際的な政策提言にどのように成果を活用するかについて、政府間チャンネルも活用しながら検討し、具体性を持たせることが将来の課題であろう。

対処方針

中国、メコン河流域それぞれにデータ取得に困難な点があったが、人的ネットワークの構築やMOU締結、観測・研究手法の工夫など、担当研究者の努力や研究所のサポートによりオリジナリティの高いデータを得ることができた。また、平行してモデリング手法の高度化を行い、研究対象地域に関する全容把握を大きく進めることができた。全体として、それぞれのプロジェクトは大きな成果をあげることができたと考えている。しかし、本プログラムにおいて3つのプロジェクトを「アジア自然共生研究」として統合することは、現時点では困難である。むしろ、研究所全体でアジア環境研究をどう統合的に進めるかについて、次期中期計画を検討することを通して、アジア環境研究の統合的、整合的な全体像を描き、継続・強化して行きたい。その中で、アジア地域における国際協力研究、国際交流の継続・強化、人材育成という観点からのプラットフォームの構築や大学との連携を行うことも重要な検討事項と考えている。アジア諸国との共生政策の認識の共有や、各国との研究協力に当たっては、文化、政策、制度、環境技術の発展段階を踏まえることが重要であるが、そのこと自身が環境研究にとっても一つの発展の契機であるととらえている。国際的な政策提言にあたっては、様々な国際的な機関、プログラム、ネットワークへの貢献・連携を通して具体性を持たせるようにしたい。

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