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4. アジア自然共生研究プログラム
(2) 東アジアの水・物質循環評価システムの開発

外部研究評価委員会事前配付資料

平成21年度の研究成果目標

全体:

① 東アジア地域の流域圏について、国際共同研究による水環境に関する科学的知見の集積と持続的な水環境管理に必要なツールの確立を目指し、観測とモデルを組合せ、都市、流域圏および海洋生態系の水・物質循環評価システムの開発を行う。

サブテーマ(1):流域圏における水・物質循環観測・評価システムの構築

① 広域的な水・物質動態の計測手法による観測を適用し、流域の開発により、河川を通じて流入する汚濁物質等の陸域からの環境負荷の量・質的変化への影響について推定と解析を行う。また、水・物質循環を評価できる統合型モデルを構築し、南水北調などの利水事業、土地改変、人間生活の変化などが水環境へ及ぼす影響評価を行う。

サブテーマ(2):長江起源水が東シナ海の海洋環境・生態系に及ぼす影響の解明

① 東シナ海陸棚域の航海観測、長江河口沿岸・東シナ海陸棚域の環境変遷データの解析、および 流動生態系モデルの開発を通じて、長江淡水および陸域負荷の量・質の変化が東シナ海の海洋環境・低次生態系に及ぼす影響の把捉およびそのメカニズムの解明を目指す。

サブテーマ(3):拠点都市における技術・政策インベントリとその評価システムの構築

① 都市、農村と流域生態系の共生の視点から、都市・流域圏における技術・施策の導入によるケーススタディの結果に基づく、適切な技術システムと政策プログラムの設計を含む流域の長期シナリオ・ビジョンを構築するための方法論の開発を実施する。

平成21年度の研究成果

全体:

① ア 陸域において、衛星・地上統合観測ネットワークの維持管理を行い、東アジア地域について時系列的な表面温度、植生指数、土地被覆、植物生産量などの衛星データや地上観測データ、および流域水環境データの観測を継続した。また、長江流域を対象とした人間生活・水需要・汚濁負荷インベントリおよび現地調査により、流域圏水環境評価モデルに関わる諸パラメータを同定し、退耕環林、南水北調など流域改造活動が流域生態系のサービスに与える影響を定量的に評価した。

① イ 海域において、陸域起源負荷が東シナ海陸棚域の海洋生態系・環境劣化に及ぼす影響を把握するため、東シナ海陸棚域の長江起源水影響域においた海洋調査を行い、藻類の出現水域同定、現存量定量評価、渦鞭毛藻存在水深の光条件等について重点的に解析した。陸棚域で観測された環境劣化現象を解析するとともに、陸域負荷流出形態の変化が沿岸・海洋環境・生態系に及ぼす影響を予測・評価することを目的として、3次元流動・水質・生態系モデルの開発を行った。

① ウ 拠点都市・圏域において、国内の自治体・企業と連携して日本の環境技術・政策をベースにするデータベースのプロトタイプ設計、モデルの構築と検証、技術・政策インベントリの構築を主な研究内容とし、瀋陽、大連、武漢など中国の拠点都市での社会実証型の国際共同研究を推進し、遼寧省における統合型モデルを用いた政策分析研究を行った。

サブテーマ(1)

① ア 平成21年度には、衛星・地上統合観測ネットワークの構築事業(環境省)を継続し、東アジア地域をカバーする1kmメッシュの時系列的な表面温度、植生指数、土地被覆、植物生産量等の衛星データセットを作成した。また、平成20年度に長江中流域の最大の支流である漢江で設置した連続水質モニタリングシステムの維持管理を行い、全窒素(T-N)、全リン(T-P)、化学的酸素要求量(COD)、水温、濁度(SS)およびクロロフィルa(Chl-a)などの観測データを継続的に取得した。

① イ 開発された統合型流域圏水環境管理モデルを適応し、現地観測データを用いてモデルの検証を行い、退耕環林、南水北調など流域改造活動が水環境に及ぼす影響の定量的な評価を行った。その結果、現在の漢江本流月平均流量条件でのCOD水環境容量は45.4万t/aであるが、南水北調によって水量95億m3を調整すると、COD水環境容量は33.6万t/aに減少し、損失量は11.8万t/aで、約35%減り、その他に、NH3-N水環境容量は約30%、T-P水環境容量は約25%減ることが分かった。また、退耕環林政策が河川流量に及ぼす影響が小さいものの、土砂流失特に水質に与える影響は大きいということが定量的に分かった。

① ウ 長江水利委員会や中国科学院の生態修復テストサイトに対して、上記の評価モデルの適用を開始し、生態修復工事や技術対策の影響評価に着手した。さらに、技術移転の可能性を検討するため、中水環境パートナーシップ事業(環境省)を通じた中国農村地域における分散型生活排水処理システムを設置し、その技術の適応性・普及性についての評価に着手した。

① エ 本研究の目的を達成するため、新たな研究展開とその成果のアジア地域への還元を目指し、長江の管理と研究をリードする中国長江水利委員会(CWRC)や中国科学院をはじめとする中国の研究者・行政担当者との連携によって、中国武漢において第3回日中水環境技術検討会および日本つくばで水資源・水循環特別セミナーを開催し、研究交流を深めた。

サブテーマ(2)

① ア 平成21年度の陸棚域調査は、渦鞭毛藻出現水域・水深の微細乱流構造把握により、乱流構造が渦鞭毛藻の鉛直分布に及ぼす影響の把握を主目的とした物理観測を試みた。しかし調査中の事故による測器亡失に見舞われたため、有効なデータ取得には至らなかった。一方、平成19年度の観測に匹敵する高濃度の渦鞭毛藻出現現象を捉え、渦鞭毛藻の優占的出現が常態化しつつあることが確認された。また、今年度までの航海観測データ解析を継続し、特に高濃度の渦鞭毛藻が出現した平成19年度のデータセットの詳細検討を行った。陸棚域の光補償水深を濁度、クロロフィル蛍光強度、海水色等の物理条件から推定するための手法を開発し、有光層内のクロロフィル現存量の2次元分布の解析、そのうちの渦鞭毛藻の寄与について定量的評価を行った。

① イ 前年度までに開発した東シナ海流動計算結果の一部に不具合が認められたため、従来用いてきた鉛直方向の層数固定式(σ座標系)から層数可変式へのアルゴリズム改良を行い、良好な結果が出力されることを確認した。また渤海における結氷・解氷現象に関するモジュール開発を行い、流動モデルの精緻化を図った。また、平成20年度の航海調査の微細乱流観測データを解析したところ、渦鞭毛藻ブルームは躍層付近の乱流強度が弱い場所で形成される傾向が明らかになった。微細乱流強度が渦鞭毛藻の増殖速度に及ぼす影響をモデルに考慮したところ躍層周辺における藻類群集を形成・維持することが可能になった。ブルーム形成位置の計算精度をより向上させるためには乱流強度と日周鉛直移動の関係を解明・モデル化する必要があることが明らかになった。

① ウ 中国浙江海洋学院(平成19年度に共同研究協定を締結)と日中海洋環境を題材とした共同執筆作業に着手した(平成22年度内刊行予定)。

サブテーマ(3)

① ア アジアの都市環境を対象として、@中国科学院応用生態研究所・遼寧省環境科学研究所および瀋陽市環境保護局、日中友好環境保全センターとの連携の具体化を進めて、環境技術・政策の環境影響および経済影響の政策効果分析シミュレーションモデルの開発を進めてきた。A研究成果を日本及び中国の国際アドバイザリー会議を通じて、瀋陽市の国家静脈工業生態園および国家環境建設モデル都市政策検討の根拠として出力している。B瀋陽での環境都市評価システムをプロトタイプとしてJICA循環経済プロジェクトとの連携で蘇州市、山東省への展開を進めて、国連環境計画エコタウンプロジェクトとIGESとの連係で東南アジア都市への研究展開フレームの構築を進めている。20年度は5月に瀋陽市、9月に川崎市で国際ワークショップを主催し、12月に国際学会、2月に国連環境計画と共催の国際会議の開催を共催した。21年度は6月にデンマーク、9月に瀋陽市、2月に川崎市、3月に北京および瀋陽で国際ワークショップを開催した。

① イ 平成21年度には、日中両国環境省間での「環境にやさしい都市」連携への研究情報発信を進めて、川崎市と瀋陽市での評価システムの検証と実用的な技術政策シミュレーションの構築を進めて政策情報の出力を行った。国内都市について、@水・物質・エネルギーの統合型三次元物理解析システム(NICE-Urbanモデル)の構築をもとに川崎市との環境研究協定のもとで進めた都市街区観測実験による検証を進めて、A川崎市及び国内エコタウン都市の環境技術のLCAインベントリの蓄積を進めることに加えて、B革新的な低炭素技術である街区スケールのエネルギー制御システム技術(UCPS)の実証開発を進めた。これらの研究成果は、川崎市の政策及び環境省の地域実行計画のマニュアル、地域循環圏政策への反映を通じて国内都市への実践的発信を進めることができた。

外部研究評価委員会による終了時の評価

平均評点    4.7点(五段階評価;5点満点)

外部研究評価委員会の見解

[現状評価]

国際的な研究であり、困難を克服した上で、モデル地域での水・物質循環モデルを用いた実測の予想、統合観測ネットワークの構築・技術インベントリー・技術システムの協力といった優れた成果を上げており高く評価できる。また、中国の水環境に関係する現状の理解が進んだ。

一方、得られた成果と次期計画における課題の陸・都市・海統合管理システムの完成にはかなりのギャップがあるように思える。

[今後への期待・要望]

精度の検証を通じて将来予測や影響評価につなげていただきたい。

対処方針

衛星及び地上観測システムによって得られるデータによってサポートされた流域圏の水・物質循環モデルの開発、東シナ海の船舶調査と流動及び生態系モデリングによる陸域汚濁負荷の影響評価、都市を中心とした水・熱・物質フラックスのモデリング及び政策・技術評価の3つの分野で成功裡に研究を進めてきた。長江については、中流域−河口域−東シナ海についての統合的な研究を平成21年度より開始しており、今後更に推進したい。

モデリングの精度の検証を通じて、将来予測、影響評価、水環境の管理に資する数値実験の精度を高め、次期中期計画に向けた科学的基盤を築いて行く所存である。