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4. アジア自然共生研究プログラム
(1) アジアの大気環境評価手法の開発

外部研究評価委員会事前配付資料

平成21年度の研究成果目標

全体:

① 東アジアを中心としたアジア地域について、国際共同研究による大気環境に関する科学的知見の集積と大気環境管理に必要なツールの確立を目指して、観測とモデルを組み合せ、大気環境評価手法の開発を行う。

サブテーマ(1):アジアの広域越境大気汚染の実態解明

① 越境大気汚染の実態を解明するために、沖縄辺戸岬ステーションでの多成分・連続観測を継続するとともに、長崎県福江島での地上観測を充実し、東シナ海沿岸部でのデータを蓄積する。沖縄辺戸岬ステーションで取得された観測データを集積し、データベースの構築に向けた作業を継続する。

サブテーマ(2):アジアの大気環境評価と将来予測

① アジア地域の排出インベントリと領域大気質モデルを用いて、広域大気汚染の空間分布、過去四半世紀における大気質の経年変化、越境大気汚染による日本へのインパクトを評価する研究を継続する。全球化学気候モデルを用いて、東アジアにおける対流圏オゾンの発生源地域別寄与率を評価する。衛星観測データをもとに排出量を推計する逆推計モデルを用いて、排出インベントリによるNOx排出量を検証・修正する。

サブテーマ(3):黄砂の実態解明と予測手法の開発

① 東アジア地域に構築した黄砂モニタリングステーション(20地点)における観測機器の精度管理を実行し、データの取得、解析、及び観測データベースの整備を推進する。

平成21年度の研究成果

全体:

① 大気汚染物質と黄砂の地上観測、航空機観測、ライダーネットワーク観測等を国際的・国内的な連携のもとで拡充して実施するとともに、モデルと排出インベントリの精緻化を進めることにより、広域大気汚染と越境大気汚染の両面から科学的知見の蓄積とツール開発を、以下の3つのサブテーマにおいて推進した。

サブテーマ(1)

① 沖縄辺戸岬ステーションを整備し測定機器を拡充して通年観測を実施した。平成21年春には東シナ海域の航空機観測と同期し、福江、辺戸での地上観測を行った。越境大気汚染のみならず気候変動にも重要な微小粒子および粗大粒子に存在する黒色(元素状)炭素の重量濃度分布を明らかにした。福江の地上観測では高濃度のオゾン・二次粒子のイベントを観測し、大陸からの越境大気汚染の実態を明らかにした。平成21年10月には東シナ海域において韓国と同期した航空機観測の期間中に、福江、辺戸での地上観測を行った。辺戸における長期観測データや航空機観測データを解析し、辺戸においてはサルフェートが増加していること、PM2.5重量濃度が高いこと、越境輸送される微粒子の空間分布が一様でないことを明らかにした。辺戸ステーションのホームページを公開した。

サブテーマ(2)

① これまでに開発したアジア地域の排出インベントリと領域大気質モデルを、観測データを用いて検証し、広域大気汚染の空間分布、過去四半世紀における大気質の経年変化、越境大気汚染による日本へのインパクトを評価する研究を継続して実施した。全球化学気候モデルを用いて、東アジアにおける対流圏オゾンの発生源地域別寄与率を評価した。衛星観測データをもとに排出量を推計する逆推計モデルを用いて、排出インベントリによるNOx排出量を検証した。更に、関東地域に加えて、関西、中部、九州を対象とした大気汚染予報結果を、環境GISサイトから公開する試験運用を開始した。

サブテーマ(3)

① 日中友好環境保全センターとの協力により、北京のライダーによる黄砂期間中の準リアルタイムのデータ取得が可能となった。モンゴルNAMHEM(モンゴル国気象水文研究所)との共同研究による観測を含め、中国1局、モンゴル3局、韓国1局、日本12局のライダー観測網によって、発生源から日本に長距離輸送される黄砂の3次元的分布を継続的に観測する観測体制が完成した。また、ライダー観測網のデータをリアルタイムで処理するシステムを完成した。輸送モデル(CFORS)のデータ同化手法の精緻化を進め衛星搭載ライダーCALIPSOと同化モデルの比較検証を行った。一方、黄砂と都市大気汚染の混合状態を把握するための化学判定手法の研究を進めた。この他、北京大学、ソウル大学などとの協力によりライダー観測網のデータを用いた研究を進めた。

外部研究評価委員会による終了時の評価

平均評点    4.8点(五段階評価;5点満点)

外部研究評価委員会の見解

[現状評価]

観測・モデル化を通じ、大気環境評価手法の精度が高まった。各サブテーマも良好に進捗して研究目標もほぼ達成され、越境汚染と黄砂のメカニズムが明らかにされるなどの優れた科学的成果が出ている。ネットワーク構築についても成果が得られている。

[今後への期待・要望]

対象物質を統合したモデル化、研究成果の国際的認知を得ることが重要である。日本の大気環境は風上の大気環境に依存するので、政策提言に結びつく道筋の模索が期待される。また、将来計画として、黄砂の発生源と特性の把握、土地利用変化との関係などを調べる必要がある。

対処方針

大気汚染物質と黄砂のモデル統合化は、気候影響や健康影響を評価する上で重要と考えており、将来課題として取り組んでいきたい。また、黄砂の発生源と特性の把握は現在の研究でも進めているが、予測モデルの精度向上に資する実測値の集積や日本周辺における沈着量分布の把握などを、他の研究機関と連携しつつ進めていきたい。なお、本プロジェクトの研究成果を国際的に発信することの重要性は認識しており、研究論文や国際会議での発表などを平成22年度の優先課題として取り組みたい。一方、本研究は、広域越境汚染のための科学的知見の蓄積と評価ツ−ルの開発を目標としたものであり、直接、政策提言に結びつくような研究は、本研究の枠外と考えている。しかし、最近の越境大気汚染の深刻化を踏まえ、平成21年度から地球環境研究総合推進費の戦略課題S-7「東アジアにおける広域大気汚染の解明と温暖化対策との共便益を考慮した大気環境管理の推進に関する総合的研究」において、越境大気汚染の解決に向けた自然科学と政策科学を融合した研究を進めているところである。