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2. 循環型社会研究プログラム
(1) 近未来の資源循環システムと政策・マネジメント手法の設計・評価

外部研究評価委員会事前配付資料

平成21年度の研究成果目標

全体:

① 技術システムの観点、政策・マネジメント手法の観点からのサブテーマ研究の成果を活用し、分析モデルの改良と対策効果の試算を行う。

サブテーマ(1):物質フローモデルに基づく資源利用・廃棄物等発生の将来予測と近未来ビジョンへの転換シナリオ評価

① これまでに検討してきた対策リストをもとに、近未来における循環型社会のビジョンを作成する。

② ビジョンにおける天然資源消費抑制および環境負荷低減効果を推計する。

サブテーマ(2):近未来の循環型社会における技術システムの設計と評価

① より効果的な対策が望まれる食品廃棄物、廃プラスチック、廃家電、および建設廃棄物に関する対策シナリオを提案し、その効果を前述モデルを用いて分析する。また、資源の利用効率を評価する「資源のLCA」を提案し、素材間の代替効果を分析する。

サブテーマ(3):循環型社会の形成に資する政策手法・マネジメント手法の設計・開発と評価

① 回収ポイント制度の導入可能性や有効性を明らかにする。

② 一般廃棄物行政におけるベストプラクティスの成功要因を把握する。

③ 3R政策の対象物を明らかにするポジショニング解析の枠組みを構築する。

④ リデュース・リユースの効果把握を行う。

平成21年度の研究成果

全体:

① ア これまでに類型・リスト化してきた天然資源消費抑制や環境負荷低減につながる対策を、主として技術やシステムの変更に関わる対策とライフスタイルの変更に関わる対策とに分け、前者の対策を中心とするビジョンA、後者の対策を中心とするビジョンBとしてパッケージ化した。構築中の物質フロー・ストックモデルを用いて、いくつかのベースラインシナリオと2つ対策パッケージを含むビジョンにおける天然資源消費量、温室効果ガス排出量、廃棄物最終処分量を算出し、近未来の物質フロー及び環境負荷に大きな影響を与える社会変化や効果の高い対策の同定を行った。

① イ 上記モデルとの連携を考慮し、消費財の一般廃棄物として食品廃棄物とプラスチック、耐久財の一般廃棄物として廃家電、耐久財の産業廃棄物として建設廃棄物を対象とした事例分析を行い、循環技術システムの設計と評価のためのデータ収集に基づくLCA評価を行い、上記モデルの改良にフィードバックさせるとともに、技術システムの観点からのシナリオの妥当性を向上させた。

① ウ 政策・マネジメント手法に関しては、これまでに実施したデポジット制度の検討に加え、資源回収ポイント制度の適用性等を検討し、その有効性と限界を明らかにするとともに、ベンチマーキングによる自治体マネジメント手法、3R政策の対象物選定のための資源、素材、製品のポジショニング解析によるトップダウン型の制度研究、責任分担に係る研究、リデュース・リユースに着目した研究の体系化や効果把握のための枠組み検討など行い、事例の効果分析、要因構造化などにより、今後の制度設計上の要点を提示した。

サブテーマ(1)

① これまでに類型・リスト化してきた天然資源消費抑制や環境負荷低減につながる対策を、主として技術やシステムの変更に関わる対策とライフスタイルの変更に関わる対策とに分け、前者の対策を中心とするビジョンA、後者の対策を中心とするビジョンBとしてパッケージ化した。具体的には、リスト化された対策の性質に応じて、対策ごとに各ビジョンにおける対策導入量等のパラメータを設定した。これらのビジョンは脱温暖化2050におけるビジョンとの整合性を意識したものであり、低炭素社会と循環型社会に対する統合的アプローチへの発展が期待できるものであるが、設定した各対策の導入量の妥当性と相互関係、脱温暖化2050ビジョンとの整合性などについて今後詳細に検討していく必要がある。

② これまでに開発してきたモデル(各種の社会変化や対策導入がもたらす製品・サービス需要への影響、天然資源消費量・環境負荷発生量への影響を推計するモデル)を用いて、上記@により設定した各ビジョンについての試算を行い、近未来の物質フローに大きな影響を与える社会変化や効果の高い対策の一次同定を行った。例えば、今後の公共投資の動向によっては、セメント需要量が大幅に減少することが推計され、それにより各種環境負荷は削減されるもののセメント産業における廃棄物利用の制約になること、今後の食糧自給の動向によっては、国内の農畜産物系の廃棄物発生量が大幅に増加することなどが示唆された(本成果は環境・循環型社会・生物多様性白書にも掲載予定)。現時点では暫定的なパラメータ設定に依っており、今後一定量の天然資源消費抑制、環境負荷低減を達成するためのビジョンについてより詳細に検討していく必要がある。

サブテーマ(2)

① より効果的な対策が望まれる廃棄物を対象とした事例分析の結果、食品廃棄物については、排出源の種類別(家庭、卸売・小売業、外食産業など)の品質区分が提案され、それに応じた循環技術システムを設計・評価した結果、近未来ビジョンとして下水汚泥や家畜ふん尿などの循環利用や畜産業などとの連携システムが提案された。プラスチックについては、食品関連、薬品・化粧品関連、耐久財関連などの区分が提案され、それに応じた循環技術システムを設計・評価した結果、現行より効率的なプラスチックリサイクルシステムが提案された。廃家電については元となる家電製品の機種変化の状況を考慮し、建設廃棄物については再生製品の受入先であるセメント産業の状況を考慮して、各々の情況に応じた循環技術システムを設計・評価した。また、資源の利用効率を評価する「資源のLCA」を提案し、事例分析を実施した結果、用途と素材の組み合わせによって、二酸化炭素排出量が大きく変化し得ることが明らかとなった。

サブテーマ(3)

① 回収インセンティブ付与制度として、小売店等が実施しているポイントを資源回収に適用した資源回収ポイント制度に着目し、その適用性等を検討した。その結果、本制度が事業者にとって導入障壁のより小さい経済的インセンティブ付与型の回収制度となりうること、実事例の調査からステーション回収よりも回収量が大きくなったことを確認した。

② コミュニティレベルの優良活動事例について、環境配慮行動に関する社会心理学的分析及び経営学で用いられる価値連鎖分析による考察を行い、成功要因を同定、構造化した。

③ 目的達成寄与度ならびに対策有効性(対策ポテンシャルと適用度)によるポジショニングを実施し、一般廃棄物においては食料品、PRに使われた紙、紙おむつ等を今後の施策対策の検討に含めるべきこと、産業廃棄物においては、セクター別に対策が進められてきたが、自らの業界における廃棄物寄与割合が小さくとも日本全体でみれば排出量の割合が大きい廃棄物種があることを確認して、このようなものが対策で看過されやすいことを指摘した。

④ 前年度に引き続いて実施した詰替商品の効果把握においては、POSデータを解析し、例えばシャンプーでは7割が詰替商品で、5〜6割の容器素材が削減できていることを確認した。また、耐久財のような効果発生に時間差を伴うモノに対する2R効果については、その効果把握方法を整理して、長期使用の削減効果をその波及効果とともに推計した。これらの成果の一部は、中央環境審議会において報告・利用された(環境・循環型社会・生物多様性白書にも掲載予定)。

外部研究評価委員会による終了時の評価

平均評点    4.1点(五段階評価;5点満点)

外部研究評価委員会の見解

[現状評価]

難しいテーマであるにもかかわらず、詳細な調査と検討がなされており、資源循環を解析するための価値あるモデルがそれにもとづいて作成されたことの意義は大きい。また、政策に対する貢献もある。

一方、用いる技術の信頼性や想定のフィージビリティなどの説明が十分でなく、そのためモデルに対する現実感が薄いことが指摘される。また、「近未来的」な外挿型研究ではなく、もっと思い切ったゼロエミッション化への視点などを打ち出すべきであると思われる。

[今後への期待・要望]

社会がどう変わるかに加えて、社会をどう変えるかという視点から、感度解析を行った結果を示すと良いのではないだろうか。骨材など、フローを解析する中で、資源供給の枯渇という視点に進むことが期待される。

提供される機能とそれに伴う環境負荷、エネルギー消費、社会経済的波及効果等の関係を明確にした上で、ライフスタイルを設定したときに、産業構造、地域経済社会、環境負荷等がどのようになるのかについて、具体的に見えるようになることが期待される。

対処方針

詳細な調査研究を通して得られた資源循環に関する物質フロー分析モデルの成果については、一定の評価を受けたと理解している。モデルを用いた近未来のビジョンづくりにおいては、技術や社会条件、各種施策の導入水準などに関するパラメータについて専門家パネルを用いた検討などを行い、その妥当性を高めたい。同時に、パラメータの変化による感度分析のアプローチも用いながら、ビジョンに関する議論を行っていきたい。現在のモデルでは、資源・エネルギー消費、廃棄物発生量、埋立処分量、対策導入コスト(データベース構築中)の算定が可能であるが、社会経済的波及効果については、次期研究の課題としたい。

近未来の外挿型研究から思い切ったゼロエミッションを目指すべきとの指摘であるが、本研究においては、循環基本計画のフォローアップのために、近未来の中期的な循環型社会像を定量的に表現し、具体的かつ現実的なロードマップの提示が目標と考えてきた。開発した分析モデルは汎用的なものであり、バックキャスティングのアプローチにも適用可能であるが、パラダイムシフトを伴うような社会転換の方向性を合意していくには、低炭素社会や自然共生社会と統合された持続可能社会を見通すための支援ツールへ発展させていく必要があり、次期研究に向けた課題として検討していきたい。