ここからページ本文です

1.地球温暖化プログラム
(4) 脱温暖化社会の実現に向けたビジョンの構築と対策の統合評価

研究の目的

地球温暖化問題は、社会経済活動と密接な関係があり、地球温暖化問題を解決するためには、科学的なメカニズムを明らかにすることとともに、将来の社会経済のあり方を含めた議論(社会構造そのものを温暖化防止に資するものに転換する「低炭素社会」の構築に向けた議論)が重要となる。また、温暖化対策の目標の設定や枠組みを明らかにし、その効果を評価することは、温暖化対策を効率的かつ効果的に実施する上で必要不可欠である。本研究課題では、低炭素社会のビジョンやその構築に向けたシナリオの検討、国際交渉の枠組み、さらにはこれらの評価を定量的に行うためのモデル開発やモデルの適用を通じて、温暖化を防止する社会の構築やそれを支える温暖化政策を支援することを目的とする。また、モデル開発及び政策分析では、途上国との共同作業を通じた人材育成を行うことで、アジアを中心とした途上国における温暖化対策の促進に貢献することも目的とする。また、これらの研究を通じてIPCC等への国際貢献を行う。

平成21年度の実施概要

サブテーマ(1) 脱温暖化(低炭素社会)ビジョン・シナリオ作成研究

(1)日本低炭素社会に向けた道筋の定量検討
2050年に我が国においてCO2排出量を70%まで削減した社会(日本低炭素社会)を実現するために、バックキャスティングの手法を用いたシミュレーションモデルを用い、実現に向けた道筋を定量的に検討した。日本低炭素社会として2つのシナリオ(シナリオA:活力・成長志向型社会、シナリオB:ゆとり・足るを知る型社会)を想定し、そうした社会を実現するために必要となる施策(対策および政策)の組合せを「低炭素社会に向けた12の方策」をもとに約400種の技術と約200種の政策・制度として準備した。それらをもとに、2050年までに要する総対策費用を最小化するという観点からモデル検討を実施し、我が国において2050年までに低炭素社会を実現するためには早期対策が肝要であることを示した。

(2)アジアにおける低炭素社会シナリオの検討
排出量の世界全体に占める割合が高く、かつ成長著しいアジア地域において、CO2排出量削減シナリオを提示することは、世界全体での温室効果ガス削減に対して大きなメッセージとなりうる。そこで、中国、インド、タイ、マレーシア、インドネシアの研究者とともに、国全体ないしは地方都市における低炭素社会シナリオ研究を実施し、経済発展を維持しつつもCO2排出量を大幅削減した低炭素社会シナリオが、アジア地域においても実現可能であることを示した。また、国立環境研究所にて、上記アジア諸国の研究者を招聘して、低炭素社会シナリオ研究の手法を伝えるトレーニング・ワークショップを実施した。

(3)世界における低炭素社会研究の推進
日本・アジア低炭素社会研究の成果をもとに、COP15/CMP5(コペンハーゲン、デンマーク)の場でアジア低炭素社会をテーマとしたサイドイベント「Low-Carbon Asia: Visions and Actions」を国内他機関との共催により実施し、日本、インド、中国の長期シナリオや、各国の取り組みと、世界低炭素社会実現への含意についてを中心に議論した。

サブテーマ(2) 気候変動に関する国際政策分析

2009年末にCOP15/CMP5を控え、次期枠組みに関する国際交渉が最終局面を迎える時期と重なった。次期枠組みに関して研究者等から新たな提案が提示されることよりは、ダイナミックな国際交渉の現実の中でいかなる帰結があり得るのかという点が、政策ニーズとして生じた。

(1)気候変動に関する主要国の意思決定に関する分析
COP15での合意達成が期待されていた次期国際枠組みは、気候変動抑制効果を十分に持つものでなくてはならないが、同時に、主要国の主張が反映されたものでなくては合意に至れない。例えば、オバマ新政権下での米国や排出量が急増している中国などの新興国等、主要国の態度が注目された。そこで、米国、欧州、新興国、ロシアの4大プレーヤーを取り上げ、それらの国の交渉におけるポジションや政策決定の分析を実施した。また、中長期な低炭素実現の観点からは、アジア太平洋地域における国際組織の役割について検討した。

(2)排出量削減に関する中期目標設定における衡平性の検討
2020年目標を決定するにあたり、バリ行動計画で求められているように他の先進国の目標との比較可能性が議論の焦点の一つとなった。衡平性指標は多数あり、用いる指標により我が国にとって適切と判断される目標水準は変わってくる。そこで、本研究では、次期枠組みに関する国際的な議論の中で主張されていたさまざまな衡平性指標を整理し、指標ごとに我が国の中期目標が変化する度合を分析した。

サブテーマ(3)気候変動政策の定量的評価

(1) 日本の2020年の削減目標の対策評価
AIM/Enduse(日本技術選択モデル)を用いた削減ポテンシャルの分析により、想定されたマクロフレーム(経済成長率や活動量)を前提とすると、2020年に温室効果ガス排出量を1990年比20%削減することは技術的に可能であること、20%を超える削減の場合、技術対策だけでなく活動量を対象とした対策も必要であることを示した。また、2020年までに導入した対策技術について、2030年までの省エネ等によるエネルギーコストの削減効果を考慮すると、温暖化対策のための追加投資額は概ね回収することが可能であることを示した。

(2) 日本の2020年の削減目標の経済評価
AIM/CGE(日本経済モデル)を用いた分析により、炭素税収を一括に家計に戻す既存のシナリオ(いわゆる定額給付金に代表される方式)に加えて、税収を温暖化対策導入時の支援に充てるシナリオ(低炭素投資促進シナリオ)に基づく分析を行った。その結果、「低炭素投資促進シナリオ」や、これと海外クレジットの購入を組み合わせることにより、国民負担をできる限り少なく抑えつつ日本が2020年に1990年比で25%削減という目標を達成しうることが示した。

(3) IPCC第五次評価報告書に向けた代表的な濃度経路シナリオ(RCPシナリオ)の作成
IPCC第五次評価報告書にむけたシナリオ開発のために、AIM/Impact[Policy]、 AIM/CGE[Global]、AIM/Enduse [Global]などの改良を行った。IPCCの新シナリオ専門家会合で採択された4つの代表的濃度パス(産業革命以前からの放射強制力と比較した放射強制力の増加が2.6-2.9W/m2、4.5W/m2、6W/m2、8.5W/m2)のうち、6W/m2シナリオについての温室効果ガス排出量の排出経路を提供するとともに、2.6W/m2シナリオのロバストネスについても検討した。

(4) 世界への情報発信および人材育成
国際モデル比較を行い、気候変動枠組条約に関するアドホック・ワーキンググループ会合(AWG-KP/ AWG-LCA)の国際会合やサイドイベントにて、成果を発信した。また、IPCC第5次評価報告書に向けた新シナリオにおいて、アジア途上国の視点から世界シナリオを提供することを目的として、AIM/CGE[Global]に関するトレーニング・ワークショップを開催、世界の温暖化対策シナリオを作成するための人材育成を行った。

研究予算

(実績額、単位:百万円)
中核プロジェクト(4)脱温暖化社会の実現に向けたビジョンの構築と対策の統合評価
  平成18年度 平成19年度 平成20年度 平成21年度 平成22年度 累計
運営交付金 57 58 56 56    
受託費 148 124 84 71    
科学研究費       2    
寄付金            
助成金            
総額 205 182 140 129    

今後の研究展望

低炭素社会へのかじ取りは国内的にも国際的にも急務の課題である。これまで、日本およびアジア主要国を対象として低炭素シナリオを開発し、低炭素社会に至る道筋を検討するためのバックキャストモデルを開発し、種々の対策オプションを組み合わせて対策の効果を分析した。引き続き、主要国を対象として、目標設定、ビジョンの提案などを支援する手法の開発に取り組む。IPCCの新シナリオ開発にあたって、社会経済シナリオをより充実し、世界レベルでの対策の可能性についてさらに検討する。

気候変動に関する国際政策分析に関しては、気候変動枠組条約以外の国際協力枠組みを活用する方法や、各国内で独自の気候変動対策を推進する方法等なども、今後は対象を拡大して、制度評価していく必要がある。