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1.地球温暖化プログラム
(2) 衛星利用による二酸化炭素等の観測と全球炭素収支分布の推定

外部研究評価委員会事前配付資料

平成21年度の研究成果目標

全体:

① GOSATが打ち上がってデータが取得・解析されるため、当研究により開発した手法に基づくデータの定常処理を実施し、処理結果の評価と改良の検討を行う。

② また、処理されたプロダクトの検証を行い、データ質を評価する。

③ さらに、二酸化炭素とメタン濃度の解析結果と地上データとを併せてもちいる炭素収支推定モデルの開発整備を進める。

サブテーマ(1):衛星観測データの処理アルゴリズム開発・改良研究

① GOSATの短波長赤外波長域での実観測データを用いて、二酸化炭素・メタンのカラム量導出手法の確認と改良を行うとともに、導出値の誤差評価を行う。さらにカラム平均濃度の全球分布データ作成のための研究を進める。測定データにおける偏光情報の利用法について、実観測データに基づいて研究を進める。

サブテーマ(2):地上観測・航空機等観測実験による温室効果ガス導出手法の実証的研究

① GOSAT観測データから導出される二酸化炭素とメタンのカラム量に関するプロダクト、及びその導出誤差に直接関連する巻雲・エアロゾル情報についての検証・比較のため、地上設置の高分解能フーリエ変換分光器や航空機による検証観測を行い、それらのデータ解析により検証データを作成する。得られた検証データを用いてGOSATデータプロダクトのデータ質の評価研究を行う。

サブテーマ(3):全球炭素収支推定モデルの開発・利用研究

① GOSAT観測データから二酸化炭素とメタンのカラム量を導出する際に必要な先験情報を求めるための大気輸送モデル(NIES08モデル)の改良と、GOSATからの二酸化炭素カラム量と地上観測データとを利用して全球の炭素収支分布を推定するインバースモデルシステムの高精度化を行う。

平成21年度の研究成果

全体:

① ア GOSATにより取得された実観測の短波長赤外波長域の晴天域の輝度スペクトルから二酸化炭素・メタンのカラム量の導出ができることを確認した。

① イ 約1年間の実観測データのうち、雲がないと判断された事例を解析した結果、二酸化炭素カラム量が北半球高緯度で特に明瞭な季節変化を示すことや、メタンカラム量が1年を通じて北半球で南半球よりも高濃度を示すなど、従来の知見に矛盾しない結果を得た。

① ウ 得られたカラム量は過小評価傾向にあるものの、そのばらつきは 1 〜2 % 程度に収まっている。なお、雲がない事例を抽出するための手法に関しては、特に海上において打上げ前に検討していた手法のみでは不十分であることが判明したため、新たな雲識別手法の開発・適用を行った。

① エ 偏光情報については、GOSATからの偏光信号をMuller行列より擬似的に無偏光の信号として取り扱い、解析を行った。

② ア 検証のための地上設置の高分解能フーリエ変換分光器による二酸化炭素とメタンの乾燥空気に対するカラム平均濃度(XCO2, XCH4)の観測精度を評価し、航空機を用いた測定の不確かさを評価して、それぞれの精度を明らかにした。

② イ 上記検証データを用いて、GOSAT TANSO FTS SWIRのL2標準プロダクトであるXCO2,、XCH4の検証を行った。GOSATのカラム量およびカラム平均濃度は検証データに比べて低めであり、XCO2の場合は2〜3 % 程度低いことが明らかとなった。GOSATのデータのばらつきは、検証データのばらつきに比べて大きい。帯状平均されたGOSATのXCO2とXCH4の緯度分布は、負のバイアスを除けば概ね検証データと一致することが明らかとなった。

② ウ 雲のスクリーニングが十分でない場合はGOSATのカラム平均濃度が低くなること、砂漠やその周辺(サハラ砂漠やアラビア半島など)では、ダストの影響でGOSATのカラム平均濃度が高く算出されている可能性があることが明らかとなった。

③ ア GOSAT観測から得られる二酸化炭素・メタンのカラム量全球データを用いた地表面炭素フラックスの評価(インバースモデル解析)の実施に向け、必要とされる地表面フラックス先験情報の整備を行った。

③ イ 陸域生態系及び海洋フラックスの先験情報取得のために、植生プロセスモデルVISIT、海洋輸送モデルOTTMの開発をそれぞれ進めた。

③ ウ 模擬カラム濃度データを用いて、GOSATデータの利用により予想されるフラックス推定値の不確かさの低減率を調査した。さらに、インバースモデル解析の際に入力となるGOSAT観測から得られるカラム量の評価・選別を行うため、アンサンブル気候値を算出するモデルシステムを構築した。

サブテーマ(1)

① ア GOSATにより取得された実観測の短波長赤外波長域の晴天域の輝度スペクトルから二酸化炭素・メタンのカラム量の導出ができることを確認した。

① イ 約1年間の実観測データのうち、雲がないと判断された事例を解析した結果、二酸化炭素カラム量が北半球高緯度で特に明瞭な季節変化を示すことや、メタンカラム量が1年を通じて北半球で南半球よりも高濃度を示すなど、従来の知見に矛盾しない結果を得た。

① ウ 得られたカラム量は過小評価傾向にあるものの、そのばらつきは 1 〜2 % 程度に収まっている。なお、雲がない事例を抽出するための手法に関しては、特に海上において打上げ前に検討していた手法のみでは不十分であることが判明したため、新たな雲識別手法の開発・適用を行った。

① エ 偏光情報については、GOSATからの偏光信号をMuller行列より擬似的に無偏光の信号として取り扱い、解析を行った。

① オ 偏光に対応した放射伝達計算コードPstar2bを公開した。今後はこれを用いて独立な信号として処理を行うための研究を進める。

サブテーマ(2)

① ア 検証データ質の確認行った。地上設置の高分解能フーリエ変換分光器による二酸化炭素の乾燥空気に対するカラム平均濃度(XCO2)の不確かさは0.3%(1ppm)、メタンの乾燥空気に対するカラム平均濃度(XCH4)の観測精度は約0.3%であることが明らかとなった。

① イ 航空機を用いたCONTRAIL(Comprehensive Observation Network for TRace gases by AIrLiner)、NOAA(National Ocean and Atmosphere Administration)の測定の不確かさは0.2ppmであり、CONTRAIL及びNOAAデータからXCO2を求める場合の不確かさは、航空機観測データのない部分を仮定して求めるため、1ppm程度であることが明らかとなった。

① ウ 上記検証データを用いて、GOSAT TANSO FTS SWIRのL2標準プロダクトであるXCO2,、XCH4の検証を行った。GOSATのカラム量およびカラム平均濃度は検証データに比べて低めであり、XCO2の場合は2〜3 % 程度低いことが明らかとなった。GOSATのデータのばらつきは、検証データのばらつきに比べて大きい。帯状平均されたGOSATのXCO2とXCH4の緯度分布は、負のバイアスを除けば概ね検証データと一致することが明らかとなった。

① エ 雲のスクリーニングが十分でない場合はGOSATのカラム平均濃度が低くなること、砂漠やその周辺(サハラ砂漠やアラビア半島など)では、ダストの影響でGOSATのカラム平均濃度が高く算出されている可能性があることが明らかとなった。これらのGOSATの問題点を解決すべく、校正・アルゴリズム・検証をさらに進める必要がある。

サブテーマ(3)

① ア GOSAT観測から得られる二酸化炭素・メタンのカラム量全球データを用いた地表面炭素フラックスの評価(インバースモデル解析)の実施に向け、必要とされる地表面フラックス先験情報の整備を行った。

① イ 陸域生態系及び海洋フラックスの先験情報取得のために、植生プロセスモデルVISIT、海洋輸送モデルOTTMの開発をそれぞれ進めた。

① ウ 模擬カラム濃度データを用いて、GOSATデータの利用により予想されるフラックス推定値の不確かさの低減率を調査した。さらに、インバースモデル解析の際に入力となるGOSAT観測から得られるカラム量の評価・選別を行うため、アンサンブル気候値を算出するモデルシステムを構築した。

外部研究評価委員会による終了時の評価

平均評点    4.0点(五段階評価;5点満点)

外部研究評価委員会の見解

[現状評価]

衛星の打ち上げに多少遅れはあったが、この研究により二酸化炭素を包括的に把握できる見込みが立ち、当初の計画に沿ってプロジェクトがほぼ順調に進められており、期待通りの成果が得られている。

一方、JAXAとの協力関係において、成果の公表等に国環研のプレゼンスが見え難い。研究者、専門家の間ではなく、一般にも国環研の広報努力が必要であろう。

[今後への期待・要望]

データ利用の公募に対し、世界の多くの研究者から応募が集まっていることから、本プロジェクトの成果が大いに活用され、大きな波及効果が期待できる。さらにデータの検証を進めて、目標を達成することを期待する。特に、カラム平均濃度のバイアス問題は今後優先的に解決すべき課題であり、精力的に取り組んでほしい。また、アイスランド噴火をはじめ、今後も機動的対応を要する事象が増すであろう。是非このような情勢に対処するメカニズムを確立して欲しい。

対処方針

成果の一般への広報手段としては、マイルストーン毎のプレスリリースをJAXAと共同して行ってきたほか、環境研独自の広報活動として、ウェブページの運営、GOSATプロジェクトニュースレター(日本語版と英語版)の毎月の発行とその電子情報のウェブへの掲載、更に各種メディアからの取材に応えるなどを行っている。JAXAは組織・予算規模が大きいことから国民に対する一般的な広報体制がより充実していることは否めないものの、環境研においてもGOSATに関して得られる成果をわかりやすく一般に伝える努力を継続する。

また、衛星観測データの解析結果におけるバイアス問題は、他の衛星でも見られる計測に関わる本質的な課題であるため、国内外の研究者とも密に情報交換を行ってデータ処理手法の高精度化による改善を目指す。さらに、火山噴火などの国内外の突発的な情勢に対しては、GOSATの特徴が生かせるよう、JAXA、環境省等との連携をとりつつ、個々の状況に応じた対応を考えたい。