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1.地球温暖化プログラム
(1) 温室効果ガスの長期的濃度変動メカニズムとその地域特性の解明

研究の目的

二酸化炭素を始めとする大気中の温室効果ガスの多くは、人為的な寄与によってここ200年間、その濃度が増加している。このまま温室効果ガスが増加し続けると、地球の気候は今後100年程度の間に大きく変化し、人類や地球の生態系にとって危険をもたらしかねない状況にある。それを防止するためには温室効果ガスの発生量抑制が必須であり、その目標設定に科学的な根拠を与えるためには、将来の大気中濃度の変化をより正確に予測しなければならない。そのためには、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素等の温室効果ガスの大気と陸域及び海洋の各圏の間での生物的過程あるいは物理的過程による循環や広域移流拡散の実態やそれに伴う濃度変動メカニズムを解明し、地球規模での収支を定量化する必要がある。

本プロジェクトでは、地球温暖化研究プログラムの中で、他のプロジェクトで行われる温暖化リスクの予測と評価や、対策の統合評価に資するため、将来の温室効果ガスの濃度増加に関するより精度の高い知見を与えることを目的に、温室効果ガスの各圏間の循環や移動、蓄積等のメカニズムとその地域特性に関して研究を行う。特に今後大きな経済成長を遂げると見込まれるアジアーオセアニア域に着目し、これらの地域での大気、海洋、陸域の濃度やフラックスの変化や、1990年代以降に見られる世界的な気候変動が濃度増加、物質循環過程に及ぼす影響を解明する。特に、酸素濃度や同位体濃度などの新たな指標成分の活用方法を検討し、大気中の温室効果ガスの収支、またその変動を引き起こす人為的寄与や自然における変動メカニズムを長期的見地から明らかにする。同時に、それらの地域的な分布や特徴を明らかにし、アジアーオセアニアにおける将来の人為的な温室効果ガス発生抑制に係る目標設定のための情報を与える。

平成21年度の実施概要

サブテーマ(1) アジア-太平洋域での広域大気観測による温室効果ガスの収支や地域的特性に関する研究

日―豪間の観測のためのJAL機の機材変更に伴い、マニュアルによる日豪間サンプリングやシドニー上空における鉛直分布観測が年を通して行った。また、太平洋上の上部対流圏におけるCO2濃度の緯度分布についても継続し、シベリヤなどの航空機観測を継続し、高度分布や高度ごとのトレンドなどを解析した。太平洋上を航行する定期船舶を用いて、温室効果ガスや炭素同位体比や指標成分の北緯50度から南緯30度までの緯度分布とトレンドの観測を継続し、二酸化炭素の収支などを解析した。また、東南アジアを航行する定期船舶に対して、エアロゾルやメタンを含めた観測を開始した。 日本国内の波照間、落石の定点での温室効果ガス、指標成分の観測を継続し、アジア特に中国の影響の評価を行う。波照間に放射性炭素同位体比の測定に特化した大気サンプリングシステムを設置し、汚染の移流をとらえる。

サブテーマ(2) 太平洋域のCO2海洋吸収、アジアの陸域生態系のCO2吸収フラックス変動評価に関する研究

北太平洋海洋フラックスモニタリング事業による日本−アメリカ西海岸(またはアメリカ東海岸)を往復する定期貨物船で採取された二酸化炭素分圧データを用いて、北太平洋での海洋からの二酸化炭素フラックスの年々変動を求め、その要因について解析を行った。さらに2006年から開始した西太平洋(日本−オセアニア路線)での海洋中の二酸化炭素フラックス観測を継続し、二酸化炭素分圧の年々変動の要因について解析を行った。北太平洋上における海洋表層の放射性炭素(14C)濃度測定について,各海域における季節変動の把握を目的とした試料測定に移行した。一方,日本−オーストラリア−ニュージーランドを航路とする商船でも測定の準備を進める。海洋間の酸素フラックスのガス交換速度の観測ために、酸素、アルゴン、および窒素の過飽和度の連続計測手法の開発を行う。

富士北麓のカラマツ人工林においてタワー観測が開始された森林群落スケールでのCO2フラックスの観測結果を解析し、季節パターンの特徴や、年々の変動、異なる温度帯に位置する同じ植生での観測結果との比較などを行い、環境因子への応答などについて検討を行った。AsiaFlux ネットワーク活動を通してアジア各地の森林生態系における二酸化炭素フラックスのデータを収集し、二酸化炭素収支各項(光合成総量、呼吸総量、正味炭素吸収量)を求め、それぞれの時系列を比較してその変動の特徴を明らかにする。地球温暖化に伴い、湿潤な森林土壌の炭素放出(土壌呼吸)がどのように反応するのか、5か所のプロットでの観測を継続する。土壌から放出するCO2の発生源を解明するために、冷温帯落葉広葉広葉樹林(高山フラックスサイト)において土壌ガスおよび土壌呼吸CO2の採取を1ヶ月毎に行い、その13C・14C分析を行った。また、アラスカで土壌採取および土壌ガスの採取のための縦断観測を行い、土壌炭素含有量および14C分析年代を行った。

サブテーマ(3)温室効果ガスの動態のモデル的評価に関する研究

定期船舶を用いた温室効果ガス観測データと大気輸送モデルを用いて、メタン濃度と二酸化炭素中の放射性炭素同位体比の長期変動と季節変動の解析を行う。オイラー型大気輸送モデルとラグランジアン型大気輸送モデルを組み合わせて開発した、新規の大気輸送モデル(結合モデル)をインバースモデルに導入し、全球の二酸化炭素フラックスを亜大陸スケールで推定する。また、新たに開発した海洋の輸送モデルと生態系モデルのシミュレーションより、海洋−大気間の二酸化炭素フラックスを算出する。また、データ同化の手法を用い、算出したフラックスの精度向上をはかる。

研究予算

(実績額、単位:百万円)
中核プロジェクト(1) 温室効果ガスの長期的濃度変動メカニズムとその地域特性の解明
  平成18年度 平成19年度 平成20年度 平成21年度 平成22年度 累計
運営交付金 43 53 54 59    
受託費 295 255 208 208    
科学研究費            
寄付金            
助成金            
総額 338 305 262 267    

今後の研究展望

当該分野の長期的な展望として、海洋上および陸上での多地点でのGHG濃度データ、フラックスデータ、航空機によるGHG濃度データ、衛星(GOSAT)によるカラム濃度データを全球大気輸送モデルに準リアルタイムで結合し地域別のGHGフラックスの推定精度を向上させる技術(GHGの濃度とフラックスを含むデータ同化技術)を確立するための研究の方向性を示すことをめざす。トップダウンのGHGフラックスの空間分布を求めた結果を、海洋上や陸上の多地点で直接観測されるGHGフラックスの結果に基づき、そのデータを時間・空間的に拡張して広域でのフラックスを推定する手法(ボトムアップ手法)と比較する。

民間航空機によるCO2濃度観測や地上観測の適当な拡大が非常に有効であることがわかったので、さらなる観測域の拡大を行うことは、炭素循環の解明にとって極めて有効である。このため、ある程度まとまった予算が確保できた際にはJAL機の改修を行い、北米東海岸路線や南米路線での観測を開始したい。