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Ⅴ 平成21年度新規特別研究の事前説明
7.二次生成有機エアロゾルの環境動態と毒性に関する研究

研究の概要

1)光化学酸化反応を経て生成する二次生成有機エアロゾル(SOA)について、細胞毒性を用いた毒性スクリーニングを行う。

2)高時間分解能エアロゾル質量分析計(HR−ToFAMS)に光イオン化システムを導入し、SOAの組成分析システムを開発する。これに、極微量分析が可能な熱脱離−GC-MS法による分析も合わせて、毒性を示すSOAの組成分析を行う。

3)モデルによるシミュレーションと関東地域での大気観測を行い、毒性を示すSOAの動態を解明し、リスク対策に資する基礎データを得る。

[外部研究評価委員会事前配付資料抜粋]

研究目的  /  研究予算  /  研究内容

研究期間

平成21〜23年度(3年間)

外部評価委員会の見解

(1)研究内容

[内容評価]

大気、環境、健康をキーワードにした重要な研究であり、環境問題の解明、社会・行政への貢献が期待でき、将来の二次生成有機エアロゾル(SOA)の削減計画(施策)に結びつく発展性の高い研究であり、きわめて有意義である。SOAをチャンバー内で人工的に生成し、再現性のある形で毒性試験を行おうとする点も高く評価できる。欲張らずに焦点を絞り込むことを考えているので実現性は高い。3年間での成果を期待したい。ただ、先行研究と比べてどこに工夫を施したのかが不明瞭である。

[提案、要望]

SOAが毒性を持つ印象であるが、物質によっては、良性の影響もある可能性も評価してほしい。SOAの高い毒性を持つ成分が増えつつあるかどうか、健康影響がどれくらい深刻なものかを明確にすることを期待する。バイオエタノール混合ガソリンの使用とSOAの関連性を明らかにできれば社会的にインパクトの大きい結果となる。二次的に生成した有機エアロゾルに含まれる化合物の組成や毒性はどの程度研究されてきたのか調査して欲しい。自然の場合、スギやヒノキなど針葉樹が発生源として働くのか解明して欲しい。

[対処方針]

先行研究や社会的なインパクトを考慮しつつ、排出量が多くSOAを生成しやすいVOCを選定しチャンバー実験を行い、生成したSOAについて毒性スクリーニングを行って体系的に検討する。毒性の高いものについては可能な限り組成分析を行い、既知の化合物については生体影響に関する評価文書や文献などを参考にする。さらに、本研究で得られる毒性や化学組成情報をもとに大気観測やシミュレーションなどを行い、毒性のあるSOAの地域分布や経年変化などを明らかにしていく予定である。なお「良い」ことの評価軸を選定するのが難しいため、本研究では「毒性」という軸を用いてSOAの相対的な「良し悪し」を評価する。また、発生源については別の研究課題で排出インベントリを作成しようしているので、それらのデータを参照する予定である。

(2)研究の進め方・組み立て

[内容評価]

SOAの起源と組成の把握、酸化的ストレス、曝露実験などの実験の進め方に異論はない。

[提案、要望]

どのVOCから、どのような条件で、どのようなSOAが生成するか(それがどのような毒性を有するのかも)を網羅的に調べることはできないので、どのように選択するかを前もって方針をたてることが望まれる。化学組成だけではなく、微小粒子の物理的な過程も考慮して、研究を進めていただきたい。毒性という点では、SOAの組成分析では含酸素・窒素有機物を測定する技術を導入し、キーとなる化合物を取り上げて組成分析や毒性評価をすることも必要であると思われる。また、生成したSOAと現実のSOAがどの程度一致するかの検討も重要である。健康影響に関する研究では、感受性の高い、検出感度の高い細胞の取得が鍵になる。是非使いやすい細胞系を確立し、それを一般化する方向で研究を進めて欲しい。公衆衛生の観点からは、2次有機エアロゾルの毒性等に関する第一次環境情報を、どのような二次情報として社会が活用できるか検討して欲しい。

[対処方針]

排出量が多くSOAを生成しやすいVOCを選定し、酸化ストレスに感受性の高い細胞系を用いて毒性スクリーニングを行い、毒性を示したSOAに含まれる化学成分を集中的に分析する。その際、含酸素・含窒素有機化合物の分析にはGCMS、LCMSなどを用い、組成全体の情報はAMSで分析する。そして、鍵となる化合物を明らかにし、毒性評価を行うための基礎データを取得する。同時に、微小粒子の物理的挙動や室内実験と大気観測の知見の差異を比較検討し、現実のSOAの動態を検討する。なお、本研究で得られるSOAの一次情報(毒性・組成・空間分布データ)に人口分布などの社会情報を加味することで、PM2.5対策の優先順位を検討するなど、その活用法を考える。