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Ⅴ 平成21年度新規特別研究の事前説明
6.全球水資源モデルとの統合を目的とした水需要モデル及び貿易モデルの開発と長期シナリオ分析への適用

研究の概要

工業用水と生活用水の需要予測モデルを開発し、21世紀中の世界の国別・地域別の将来推計を行う。このとき、工業用水は応用一般均衡モデルが地域・部門別の産業活動を推計できることに、生活用水は近年整備された安全な水・衛生設備の技術別普及状況データに、それぞれ着目してモデルを構築する。さらに、国際貿易モデルを構築し、将来の社会シナリオが国際貿易の変化を介してバーチャルウォーター貿易に及ぼす影響を評価する。これらのモデルを全球水資源モデル H08に組み入れ、将来の世界の水需給の逼迫等を統合的に分析する。

[外部研究評価委員会事前配付資料抜粋]

研究目的  /  研究予算  /  研究内容

研究期間

平成21〜23年度(3年間)

外部評価委員会の見解

(1)研究内容

[内容評価]

温暖化シナリオ、社会経済シナリオに基づいて全球水資源モデルに工業用水、生活用水、国際貿易を取り込んで将来予想と分析を行おうとする研究で、社会・行政への貢献が期待できる。とりわけ国際貿易の影響を取り込むことは水資源のグローバル・サステイナビリティを検討する上で欠かせない。社会的・行政的な視点と自然科学的な視点の両面からの研究成果は、まだ希薄な貿易モデルと全球水資源モデルの統合化に関して多大な貢献をすると期待される。ただし、各種シナリオの不確実さを考えると具体的成果の期待は困難かも知れない。

[提案、要望]

ロングタームでの分析と評価が必要である。特に、2050年から2100年の時間スケールでの社会経済モデルなど、不確実な点が多いので、シナリオ分析の観点を整理する必要がある。また、水資源と需要の長・中期的将来予測でモデルを用いて行う検討はかなり問題点は見えてきているので、今さら取り上げる必要があるのか疑問である。

[対処方針]

1.不確実性に対する対処について

ご指摘の点について、不確実性には、2つの不確実性の問題があると考えている。

一つは将来がどうなるか分からないというシナリオの不確実性の問題である。これについては、複数のシナリオを用意して、シナリオの違いがもたらす結果の変化の分析をすることで対処したいと考えている。(ご指摘いただいた点は、どちらかということこの不確実性に対する対処であると理解している。)また、複数のシナリオについて検討する際に、社会経済シナリオの開発チームと深く連携することで、シナリオの意図した産業構造や消費構造に極力忠実な水需要の将来推計を行い、さまざまな不確実性を考慮した分析をしたいと考えている。

もう一の不確実性は、モデルの挙動を決定するパラメータの不確実性の問題である。これについては、異なるパラメータを使ってシミュレーションし、感度分析をすることで、不確実性の幅を明らかにしたいと考えている。

2.「いまさら取り上げる必要があるのか疑問である」という点について

ご指摘のように、かなり問題点が見えてきている。その中で、最大のボトルネックとなっている点が、より精緻な社会経済モデルを取り込み、社会経済シナリオとの整合性を強化することにある。本研究課題は、社会経済系の研究者が集結することにより、この点に力点をおいて、従来十分に対応されてこなかったテーマにチャレンジしたいと考えている。

(2)研究の進め方・組み立て

[内容評価]

より包括的なシミュレーション評価分析を行うために、既存の研究グループとの連携およびこれまでの研究成果からの知見を取り入れる方法は合理的かつ効果的である。温暖化シナリオ、社会経済シナリオによって工業用水利用、生活用水利用、国際貿易が変わるであろうし、各種の水利用の仕方もお互いに関連しているので、それらをどのように考慮するかが問題である。

[提案、要望]

それぞれのサブ課題が有機的に連携することで、効率良くプログラムを推進することを希望する。何を(特に社会的な)国際的な枠組みの中で提案をしようとするのかをあらかじめ明示しておく必要がある。社会科学との融合などは大変なことなので、その自覚が必要である。経済モデルはいかようにでも変化するので、シナリオを仮定しての(2050, 2100年での)成果を示されると考えやすい。

[対処方針]

プロジェクト終了時点で、国際誌への査読付き論文とともに以下のデータを公開する予定である。

1) IPCCの各シナリオ(新旧シナリオ)に基づく地域別工業用水需要量

2) 同シナリオに基づく国別生活用水使用量

3) 同シナリオに基づく2025, 2050, 2075, 2100年時点の地域別の仮想水貿易フロー

4) またこれらのデータを組み込んだ包括的な全球水資源評価結果

これらを扱える研究機関は世界でも非常に限られており、手法も斬新であるため、高いインパクトが期待できる。通常の論文はもとより、IPCC AR5等の国際レポートからの被引用も目指す。