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研究課題名 地球環境の戦略的モニタリングの実施、地球環境データベースの整備、地球環境研究の総合化及び支援
研究区分:知的研究基盤

実施体制

代表者:
地球環境研究センター  センター長  笹野  泰弘
分担者:
【地球環境研究センター】
野尻幸宏(副センター長)、向井人史、甲斐沼美紀子、町田敏暢、藤沼康実*)、三枝信子、松永恒雄(室長)、S. Maksyutov、山形与志樹(主席研究員)、梁乃申、高橋善幸、小熊宏之、志村純子(主任研究員)、伊藤昭彦、花岡達也(研究員)、G. A. Alexandrov、曾継業、松久幸敬、宮崎 真、相沢智之*)、Shobhakar Dhakal、開 和生、木下嗣基、哈斯巴干、牧戸泰代、Jamsranjav Baasansuren、松本力也*)、早渕百合子、尾田武文、赤木純子(NIESフェロー)、中岡慎一郎、宮崎千尋、津守博通*)、Boyan Tatarov、中路達郎*)、武田知巳*)、犬飼 孔*)、油田さと子、小川安紀子、梅宮知佐*)、Anil Kumar Raut*)、樋渡亜矢子*)、小野貴子、酒井広平、林 洋平、石渡佐和子(NIESアシスタントフェロー)、林 洋平(NIESリサーチアシスタント)、橋本 茂、井手玲子、高橋厚裕、藤谷徳之助、新明雄、長谷川安代、田辺清人、山岸孝輝、吉岡真由美*)(高度技能専門員)
【循環型社会・廃棄物研究センター】
森口祐一(センター長・地球環境研究センター兼務)、橋本征二、南齋規介(主任研究員)
【環境リスク研究センター】
高村典子(室長)、中川 恵(高度技能専門員)
【アジア自然共生研究グループ】
中根英昭(グループ長・地球環境研究センター兼務)、野原精一(室長・地球環境研究センター兼務)谷本浩志(主任研究員・地球環境研究センター兼務)
【社会環境システム研究領域】
原沢英夫*)(領域長)、一ノ瀬俊明(主任研究員・地球環境研究センター兼務)、肱岡靖明(主任研究員)
【化学環境研究領域】
柴田康行(領域長)、横内陽子(室長・地球環境研究センター兼務)、田中 敦(主任研究員・地球環境研究センター兼務)、荒巻能史(研究員・地球環境研究センター兼務)、高澤嘉一、斉藤拓也(研究員)、宇田川弘勝(NIESポスドクフェロー)
【環境健康研究領域】
小野雅司(室長・地球環境研究センター兼務)
【大気圏環境研究領域】
遠嶋康徳(室長・地球環境研究センター兼務)、杉本伸夫(室長)、松井一郎、秋吉英治、杉田考史(主任研究員)、山岸洋明(NIES特別研究員)
【水土壌環境研究領域】
今井章雄(室長・地球環境研究センター兼務)、稲葉一穂(室長)、松重一夫(主任研究員・地球環境研究センター兼務)、小松一弘(主任研究員・地球環境研究センター兼務)、上野隆平、岩崎一弘、富岡典子、越川昌美(主任研究員)、高津文人(NIES特別研究員)
【環境研究基盤技術ラボラトリー】
西川雅高(室長)

※所属・役職は年度終了時点のもの。また、*)印は過去に所属していた研究者を示す。

研究の目的と今年度の実施概要

●研究の目的

地球環境研究センターにおける知的基盤整備について、中期計画に記された事業は次のとおりである。

1. 地球環境の戦略的モニタリングの実施
2. 地球環境データベースの整備
3. 地球環境研究の総合化および支援

これらの実施を通して、中期計画に示された次の目標達成を図る。

(1) 地球環境モニタリング技術の高度化を図り、国際的な連携下で先端的な地球環境モニタリング事業を実施する

(2) 地球環境の観測データや地球環境研究の成果を国際ネットワーク等から提供されるデータと統合し、様々なレベルに加工・解析して、地球環境に係わる基盤データベースとして整備し、広く提供・発信する。

(3) 地球温暖化分野に係わる地球観測について、我が国における統合された地球観測システムを構築するために関係府省・機関が参加する連携拠点事業の事務局を担い、利用ニーズ主導の地球観測の国際的な連携による統合的・効率的な推進に寄与する。

(4) 国立環境研究所のモニタリングプラットフォームやスーパーコンピュータを利用する地球環境研究を支援する

(5) 国内外の研究者の相互理解、研究情報・成果の流通、地球環境問題に対する国民的理解向上のための研究成果の普及を目的として、地球環境研究の総合化と中核拠点としての機能を果たす。

●実施の概要

○研究の体制

地球環境センターで実施される個別事業は細目として以下のように分類され、1-1に属するものは大気海洋モニタリング推進室が、1-2に属するものは陸域モニタリング推進室が、2に属するものはデータベース推進室が、3に属するものは業務室および関係研究オフィスが主な実施主体である。

1-1-1  温室効果ガス等の地上モニタリング
1-1-2   定期船舶を利用した太平洋での温室効果ガス等のモニタリング
1-1-3   シベリアにおける温室効果ガス等の航空機モニタリング
1-1-4   温室効果ガス関連の標準ガス整備
1-1-5   成層圏モニタリング
1-1-6   有害紫外線モニタリングネットワーク
1-2-1   森林温室効果ガスフラックスモニタリング
1-2-2   森林リモートセンシング
1-2-3   GEMS/Waterナショナルセンターと関連事業
2-1-1   地球環境データベースの構築と運用
2-1-2   陸域炭素吸収源モデルデータベース
2-2-1   温室効果ガス排出シナリオデータベース
2-2-2   温室効果ガス等排出源データベース
2-2-3   炭素フローデータベース
3-1      グローバルカーボンプロジェクト事業支援
3-2      地球温暖化観測連携拠点事業支援
3-3      温室効果ガスインベントリ策定事業支援
3-4      UNEP対応事業
3-5      スーパーコンピュータ利用支援
3-6      地球環境研究の広報・普及・出版

事業区分の「1.地球環境の戦略的モニタリング」では、重点研究プログラムの中核研究プロジェクト「1温室効果ガスの長期濃度変動メカニズムとその地域特性の解明」、「2衛星利用による二酸化炭素の観測と全球炭素収支分布の推定」、「3気候・影響・土地利用モデルの統合による地球温暖化リスクの評価」、の各プロジェクト研究推進を観測事業実施で支えるのみならず、地球観測における国際協力の中でアジア・太平洋地域の先進国であるわが国の役割を果たす長期継続的な観測事業を展開・実施している。また、地球温暖化以外の地球環境問題として、成層圏オゾン層関連の観測事業、陸水域の観測事業についても、国際的枠組みのもとで観測事業を実施している。

事業区分の「2. 地球環境データベースの整備」では、事業区分1.の成果として得られる観測データのデータベース化、重点研究プログラムの中核研究プロジェクト1から3(上述)、および、「4脱温暖化社会の実現に向けたビジョンの構築と対策の統合評価」の各プロジェクト推進に必要なデータベース整備と研究成果のデータベース化などを事業実施している。さらに第1期計画期間中の事業では不十分であったデータ利用を促進するツール開発を加えた事業構成とした。

事業区分の「3. 地球環境研究の総合化および支援」では、地球温暖化関連研究を中心とした国内外の研究者の相互理解促進、国立環境研究所の研究基盤の有効活用、研究者から国民までに対象を広げた地球環境研究の成果の普及というような、地球環境研究の総合化および支援に関わる事業、地球環境研究の拠点形成事業を実施している。

○本年の成果のまとめ

(1)大気・海洋モニタリング関連事業

大気・海洋モニタリング関連事業においては、国内2カ所の地上ステーション、太平洋の4隻の船舶、シベリアでの3地点の航空機を利用する大気観測により温室効果ガスの体系的な観測事業を構成しており、世界でも類を見ない3次元の観測体制を維持している。これらは、1992から93年頃にあいついで開始され、それ以来長期に継続されてきた。地球環境研究センターによる事業開始から約10年程度の期間、観測プラットフォームを基本とする温室効果ガス関連観測事業においては、プラットフォームを増やすという「量的拡大」、観測項目を追加してより高度な観測を行う「内容的拡大」、観測の精度を高める「質的向上」のすべてを実現しながらより充実した地球観測行う方向性で、事業を進めてきた。

しかしながら、研究予算、特に運営費交付金としての予算が縮小傾向となっている最近は、競争的研究資金を主とする外部研究資金の活用を中心として、観測の「量的拡大」と「内容的拡大」を図ってきた。ただし、外部資金による観測事業は、予算の制約上一定の年限で実施されるものであり、プラットフォームそのものを取得することやそれを長期に運営することをそれに依存することは困難である。地球環境研究センターで既に開始していた観測プラットフォームを活用し、そこに研究観測項目を追加して行くという事業展開手法はきわめて有効に作用し、第1期中期計画期間までに、地球環境研究センターの温室効果ガス観測を世界有数のものに育てることができた。

太平洋航路の貨物船観測が当初大気観測のみであったものから海水の測定を加えて大気海洋間の二酸化炭素フラックス観測を実施するようになったこと、地上ステーションで二酸化炭素同位体測定や微量ハロカーボン類の連続測定を開始したことなどは、特に重要な「内容的拡大」であり、これらは、地球温暖化研究プログラム(独立行政法人化以前においては地球環境研究グループ、第1期中期計画期間においては地球温暖化研究プロジェクト)との連携で、拡大を実現してきた。

一方、プラットフォーム自体の維持は、主として運営費交付金による事業として実施しているため、最近の縮小傾向の中では、合理化による経費節減を原資として、外部資金で立ち上げを行ったプラットフォームや追加された測定項目を維持することとし、全体としての観測拡大を可能としてきた。モニタリング観測開始以来16年を経過した現在の状況においては、プラットフォームの数について定常化が見えてきたところであるが、「質的向上」については上限があってはならないものであり、最新の技術導入、標準ガス製造技術の開発、標準スケールの長期的な安定維持を通して、長期に精度の高いデータを取得してゆくことが必要である。「内容的拡大」は多くの場合追加的な予算が必要なものであるので、今後も外部資金による研究開発と合わせて、時代に即した必要な項目の追加を行うとともに、継続中の測定項目の見直しも実施する必要がある。なお、ここでいう観測拡充に活用している外部研究資金の多くは、地球温暖化研究プログラム関連予算に集計・計上した。

1) 地上観測ステーションでのモニタリング

沖縄の波照間ステーションと北海道の落石岬ステーションでは、温室効果ガスならびに関連ガス、エアロゾル等の現場での連続観測とサンプリングによる観測を、順調に実施した。波照間ステーションでは、2008年初頭よりプリンストン大学のサンプリングシステムが稼働を開始し、NIES、東北大学を含めた3機関のO2/N2比観測値が比較できるようになった。波照間のCH4測定装置とN2O/SF6測定装置については、シグナル処理およびデータ解析システムを新たに開発し、2008年11月より運用を開始した。新システムにより、ネットワークを利用したつくばからのデータの取得や設定コマンドの送信が可能となった。今回開発した装置は今後、CO/H2測定装置への取り付けと共に、落石岬ステーションの同じ測定装置への設置も計画している。波照間ステーションでは、2008年9月に台風13号が直撃し、ステーション近傍の電柱5本が折れて停電が発生した。自家発電で観測の継続を2日間ほど試みたが、電柱の復旧までに約1週間を要し、観測の中断を余儀なくされた。落石岬ステーションに、非常時の電源を確保することとエネルギーの節約を目的とした蓄電池付防災型太陽光発電システムを導入した。このシステムにより、停電時でも最低限の情報収集や通信を確保することが可能になった。両地上ステーションは、多くのアウトリーチ活動にも活用された。国際会議のエクスカーションや報道番組の取材とともに、落石ステーションでは地元の小学生を招いてのエコスクールの開催、波照間ステーションでは高校生によるサイエンスキャンプを開催し、子供たちが自分の目で地球環境の変化を感じ取る機会を提供した。両ステーションの観測値のうちCO2濃度については準リアルタイム配信サイトの開設によって、1時間前の観測データまでデータ閲覧と利用が可能になった。

2) 太平洋の定期船舶によるモニタリング

トランスフューチャー5号(日本−豪州−ニュージーランド航路)、ピクシス号(日本−北米航路)、スコウブリン号(日本−米国・カナダ西岸航路)、トランスワールド号(日本−東南アジア航路)の4隻の協力貨物船によって、おおむね順調に観測を実施した。ピクシス号では定例外のドック修理があり、2ヶ月ほど観測が休止した。トランスフューチャー5号の1年半分のデータを解析した結果、CO2分圧差は日本南岸域では夏に高く冬に低い季節変化を示し、赤道海域では1年を通してゼロに近く、タスマン海では1年を通して負の値(海洋が吸収)であることが明らかになった。タスマン海の観測値は、2004年から2年弱の間米国大気海洋局(NOAA)が実施した観測値と極めて良く一致していた。本解析結果をTakahashiらの全球CO2分圧データセットと比較すると、Takahashiデータセットは日本南岸域での8月のCO2分圧が幾分低い、赤道域で2-4月のCO2分圧が著しく高い、タスマン海で12-4月のCO2分圧が幾分低いことが明らかになった。大気観測データからはCO2、CH4およびN2Oについて、緯度別の経年変動を明らかにした。CO2とN2Oは、年々変動があるものの、平均でそれぞれ1.8-2.0ppm/年、0.7-0.8ppb/年の増加率で上昇を続けている。一方CH4については、1997-1998年に大きく濃度上昇した後は2006年までほとんど増加傾向が見られなかったが、2006年以降は北緯5-15度を除いた全ての緯度帯で明らかな増加が観測された。北緯5-15度で濃度上昇が確認されなかった原因については、気象要素などとあわせて解析中である。

3) シベリアでの航空機によるモニタリング

シベリアでは、チャーター航空機による地表付近から7km上空までの毎月の大気サンプリングあるいは大気二酸化炭素の連続測定を、スルグート(1993年から)とノボシビルスク(1997年から)で継続してきた。ヤクーツクでは、1996年から2000年まで同様な高度の観測を継続してきたが、航空機利用の事情で2000年以降は小型航空機を利用した低高度のサンプリングのみになっていた。ヤクーツク上空における高高度サンプリング観測の許可を2007年に取得したので、2008年8月以降は1000mから5000mの高高度において観測を実施している。2008年度はロシア国内の急激な物価高のために、スルグートとノボシビルスクの観測回数を減らさざるをえなかった。スルグート上空における二酸化炭素濃度の経年増加速度は、2002-2003年と2005年に全ての高度で年あたり3ppmを上回っていた。メタン濃度は1997年から1998年にかけて全ての観測点において濃度が大きく増加した以降は系統的な濃度変化が見られなかったが、2005年から2006年にかけて高度2km以上で再び顕著な増加が観測された。この濃度増加傾向は船舶モニタリングで観測された緯度別のCH4濃度の経年変動と整合している。

4) 温室効果ガスモニタリングのための標準ガス事業

地球環境研究センター全体の二酸化炭素計測事業を長期安定的に継続するために、現行の1995年シリーズ一次標準ガス(NIES95スケールと呼ぶ)を補う一次標準ガスを、1996年と1997年に一段希釈重量充填法によって調製し、既に濃度ドリフトが落ち着いたシリンダー群にそのスケールを移転した。移転後のシリンダーは濃度が非常に安定していることを確認できたので、2009年1月以降これらを新しい二酸化炭素標準(NIES09 スケールと呼ぶ)として採用することとした。NIES09スケールは、比較的濃度レンジの小さい大気観測用と濃度レンジの大きい海洋溶存二酸化炭素ならびに森林大気用との2種類に対して、NIES95スケールからの変換式を決定し、ユーザーに周知した。一酸化炭素濃度の長期安定なスケールを維持するために、あらかじめ二酸化炭素を混合した高濃度一酸化炭素シリンダーを重量充填法により調製し、動的希釈法によって大気レベルの一酸化炭素濃度のガスを検定する手法を2007年度に確立した。本年度は長期保存用の二酸化炭素混合高濃度一酸化炭素標準ガスを調整し、現行のスケールとの比較を行い、スケール変更のめどを立てた。高圧充填シリンダーを使った標準スケールの国際相互比較実験や、欧州と豪州の研究機関との間の標準ガス相互比較プログラムを精力的に進めた。日本でのオキシダント測定の基準を確立するために、オゾン標準参照光度計(SRP)のアップグレードとNIST一次基準器との比較を行うとともに、環境省と協力して横浜市のオゾン計測装置との直接比較を開始した。また、炭素同位体比が二酸化炭素濃度計測に及ぼす影響評価など、温室効果ガス計測の基礎となる作業を進めた。

5) 成層圏モニタリング事業

つくばにおけるオゾンライダー観測、ミリ波オゾン観測、陸別におけるミリ波オゾン観測を継続している。オゾンレーザーレーダーによって得られたオゾン鉛直分布データについて、本年度は18のデータのNDSCへの登録を行った。ミリ波オゾン分光計は、つくばで179日、陸別で216日の観測に成功した。ミリ波分光計の長期的安定性を向上させるための較正用冷却黒体の改良を、陸別、つくばの両観測装置について実施した。つくば上空で約20年にわたって蓄積したオゾンライダーデータを利用して、フロン等とオゾンとの関係が比較的単純な上部成層圏(35km付近)について、オゾン濃度のトレンド解析を行った。1年周期、準2年周期、11年周期の変動成分を除去した後に直線回帰を行った結果、1988-1998年には10年あたり6%のオゾン濃度の減少が検出され、1998年以降には有意なトレンドがないことがわかった。

6) 有害紫外線モニタリング事業

本年度は沖縄工業高等専門学校(名護市)がネットワークから脱退し、新たに、沖縄県立看護大学(那覇市)、桜美林大学(町田市)、神戸大学(神戸市)がモニタリングネットワークに参加した。各観測機関における観測データについて、ホームページより、一般用、ネットワーク参画機関用、それぞれのデータ発信を継続した。また、個別に依頼のあった機関(研究機関、民間会社等)に対して、観測局の了解を得て、データ提供を行った。UV-B計の長期安定性を確認するために、UV-A観測値との比較を通した検証を行った結果、いくつかの観測点でUV-B計の有意な出力ドリフトが認められた。UV-B計の検定方法について機器メーカーを交えて検討を行い、検定条件の画一化に向けた取り組みを行うこととなった。

(2) 陸域モニタリング関連事業

陸域モニタリング関連事業としての二酸化炭素収支観測は、成熟した森林(カラマツ林)における観測である2000年からの苫小牧フラックスリサーチサイトの観測開始がその出発点である。2001年には、植林前後の森林成長過程を通して炭素循環を観測する天塩炭素循環観測サイトを加えた。しかしながら、2004年9月の台風来襲によって苫小牧サイトの森林が壊滅的な被害を受け、当初計画した成熟した森林でのフラックス観測という目的が達成できなくなったため、新たなカラマツ林として富士山麓の山梨県有林に観測サイトを設置し、2006年1月から観測を開始した。森林の炭素固定機能の評価をより広域で可能とするリモートセンシング技術の開発事業は、二酸化炭素収支観測サイトとの連携で事業を実施している。

もう一つの陸域モニタリング事業の核であるGEMS/Water(地球環境監視システム/水質監視計画)関連事業は、日本のフォーカルポイントとしてのナショナルセンター業務を1994年から受け入れ、加えて国立環境研究所で継続してきた摩周湖と霞ヶ浦の湖沼モニタリングをGEMS/Waterのベースラインおよびトレンドステーションの観測として位置づけ、現在まで長期に継続している。

1) 森林温室効果ガスフラックスモニタリング

2005年度に整備された富士北麓フラックス観測サイトでは、2006年1月より観測を開始した。富士北麓サイトでは、ユーラシア大陸北域に広く分布するカラマツ林の炭素収支機能の定量化とともに、森林生態系の炭素固定量を、二酸化炭素フラックス観測、植物と土壌のプロセスの積み上げ、樹木の生長と落葉落枝量からの推定、航空機リモートセンシングによる推定、とさまざまな手法で算出比較することが目的であり、本年度は、それらの観測の基盤となる森林の林学的・生態学的調査を実施した。現在までの結果から、苫小牧カラマツ林と比べ富士北麓サイトのカラマツの栽植密度は約1/2であり、森林植物の光合成による炭素固定量、森林生態系からの炭素放出(呼吸)量は少ないが、その差分である炭素収支量は、年あたり約2tC/haと苫小牧カラマツ林とほぼ同等であった。一方、天塩サイトでは、北大、北海道電力との共同運営により、伐採後の森林の成長過程観測を継続し、森林施業の炭素吸収能力への影響評価を目指す観測が着実に進んだ。ここでは、植樹したカラマツ苗が2〜3mの樹高に成長し、森林生態系の炭素収支量は放出から吸収へと変化しつつある。また、台風被害後、多くの計測を取りやめた苫小牧サイトでは、積雪期を除いて二酸化炭素フラックスなど一部の観測を継続し、倒壊後の森林の再生過程を把握している。

2) 森林リモートセンシング

本年度は、富士北麓サイトを主なフィールドとして検証してきた航空写真を用いた森林生態系遷移過程の解析手法を確立し、過去にさかのぼった樹高変動抽出・倒木状況の把握を可能にした。また、森林生態系の生理生態学的機能に関する近接リモートセンシング計測手法の検討も進めた。これらは、フラックスタワーや現地計測サイトなど局地的な炭素収支の評価手法から得られたデータを外挿して、より広域の炭素吸収活動の評価を行うリモートセンシング技術の確立に資する技術であり、AsiaFluxやJaLTERなど関連する観測研究ネットワークとの連携体制の構築を進めた。

3) GEMS/Water

GEMS/Water本部との連絡調整等を行うナショナルセンター業務として、国内の各観測拠点のデータ取りまとめ、本部への提供を進めた。ベースライン観測ステーションである摩周湖の調査は、夏の大規模調査に加え、数回の現地調査を行った。特に、湖水の透明度の変化に焦点をあてた調査を行い、プランクトンなどの水生生物の消長を解析した。トレンド観測ステーションである霞ヶ浦では、毎月の湖沼観測と魚類捕獲調査を継続実施した。本調査は1977年から継続されているものであり、近年湖水の物理化学性が大きく変化するとともに、プランクトンなどの水生生物の種構成が変化しているのが確認されている。

(3) 地球環境データベース関連事業

本事業では、地球環境研究センターが実施している地球環境モニタリング事業で観測・取得されるデータを系統的・一元的にデータベース化するとともに、地球温暖化に重点をおいた社会系データベースの構築も進め、所内外の研究者及び一般に向けて広く情報発信を行う。また観測データの評価・解析に不可欠な支援ツール(大気の流跡線解析、成層圏極渦予測など)や外部から導入しているデータベース(客観解析気象データなど)の開発・整備を通じて、地球環境研究の推進に貢献する。

本年度は、昨年度に更新・整備を行った新サーバ群で、既存コンテンツを公開するとともに、センター内の他グループと連携してさまざまなデータベースの開発や運用およびその支援を行った。また4種類の社会系データベースの開発を昨年度より引き続き進めた。

1) 地球環境データベースの構築と運用

第1期中期計画から運用中のサーバおよび第2期中期計画期間中に整備したデータベースサーバシステムの維持管理を行った。さらにデータ量およびアクセス数の増加に対応して計算機、ディスク等の追加を実施するとともに、重要なサーバの冗長化を進めた。また「地球環境データベース」のwebトップページ(http://db.cger.nies.go.jp/)を大幅に改修した。研究用に購入している気象データについては、今年度から環境情報センターに対しても定常的に提供するために、必要なシステムの改修を行った。その他AsiaFluxデータベースの受け入れ、温室効果ガス観測データ解析システムの一般公開およびWDCGGとの相互リンク等を行った。

2) 陸域炭素吸収源モデルデータベース

新たな国立環境研究所(NIES)オリジナルの土地被覆図を提供することを目的として、これまでに収集した検証地点における土地被覆情報(点情報)に加えて、衛星画像を用いた面的な検証情報を追加するとともに、NIESオリジナル土地被覆図(6カテゴリー、森林、農地、湿地、草地、市街地、その他)の作成を行った。また土地利用変化予測に関する研究成果のマップの整備は、IPCCの次期シナリオに関連したRCP (Representative Concentration Pathways)の公開と連動する方向で進めた。さらに、陸域生態系モデルによる炭素収支マップの公開に向けて、土地利用データセットを用いた森林伐採からの炭素放出量評価シミュレーションを試行的に実施した。

3) 温室効果ガス排出シナリオデータベース事業

IPCC第4次報告書でレビューされているが、本データベースには登録されていない文献を第4次評価報告書の執筆者や各論文の著者より収集し、当該文献で算出されている温室効果ガス排出量、エネルギー消費量、前提となる人口・GDP等のデータの追加登録を行なった。また既に実装済みのモジュールとの相互関係や、内部で使用されるデータの整合性に留意しつつ、 ユーザーが必要とする指標を迅速に抽出することを可能とするよう、データベースの改良を行なった。なおWEBで公開・配布されている本データベースは、IPCCを始め、世界各国の研究者のみならず一般利用者にも活用されている。

4) 温室効果ガス等排出源データベース事業

昨年度までに収集した中国・インド・タイにおける発電・鉄鋼・セメントに関する情報の精査や追加を実施した。また、石油精製部門、石油化学部門に関する大規模発生源データの収集・整備を進めた。さらに各種エネルギー統計から面源排出量データを作成し、先の大規模発生源と合わせて、2005年の排出量分布図を作成した。また、アジア全域の排出量についても昨年度までのCO2、SO2、NO2に加えて、ブラックカーボン(BC)についても排出量インベントリを作成した。 さらに中国、インドの実施協力者はUNFCCCの国別報告書、IPCCインベントリガイドラインに貢献しており、人材育成の面からも効果があった。

5) 炭素フローデータベース事業

産業連関表を用いた環境負荷原単位データについては、2000年版産業連関表に対応したエネルギー消費量・二酸化炭素排出量について、web上で公開を行ってきたが、昨年度に引き続き、大気汚染物質などエネルギー・二酸化炭素以外の環境負荷データの整備・公開準備を進めた。また、新たに、過去にさかのぼった長期時系列のエネルギー消費量・二酸化炭素排出量の推計に着手した。一方、今年度は、カーボン・フットプリント(商品・サービスの生産に伴う間接的な二酸化炭素排出量)に関する政府、企業の取り組みが本格化したことから、産業連関表を用いた環境負荷原単位データに関する問い合わせが増加し、これに対応した。 一方、石油製品・石油化学製品のマテリアルフロー・炭素フローデータについては、次年度以降の課題とした。

(4) 地球環境研究の総合化および支援関連事業

地球環境研究センターの総合化事業では、従来から、国内外の研究者のネットワーク作り、研究情報・成果の流通、地球環境問題に対する国民的理解向上のための研究成果の普及に係る活動を通して、地球環境研究センターが地球環境研究の中核拠点としての機能を果たすための事業実施を行ってきた。研究情報・成果の流通については、第1期中期計画期間から、データベース推進事業と連携してインターネットウェブを中心とする情報発信の強化を図りつつ、本事業が中心となって実施する広報・出版活動に活用するという推進手法を確立してきた。その間、地球環境研究支援活動としての事務局の設置がなされ、国際的温暖化研究拠点としてのグローバルカーボンプロジェクトオフィス、わが国の温室効果ガス排出インベントリに関する業務(GIO)を第2期中期計画期間においても維持することとなった。加えて2006年度から、わが国の地球温暖化分野に係わる地球観測について関係府省・機関が参加する連携拠点事業の事務局を担うこととなった。

1) グローバルカーボンプロジェクトオフィス事業支援

本年度は、2006年度に立ち上げた国際研究計画「都市と地域における炭素管理(URCM)」をより発展させるための諸活動として、国際シンポジウム・ワークショップ、ウェブを通じた情報提供、アセスメントに関する国際活動への参画などを行った。

2) 温暖化観測連携拠点事業支援

地球温暖化観測推進事務局/環境省・気象庁として、文部科学省科学技術・学術審議会地球観測推進部会による「平成21年度の我が国における地球観測の在り方実施方針」の地球温暖化分野に関する支援、地球温暖化観測推進ワーキンググループ報告書第1号ならびに同報告書の和文・英文概要版の編集・刊行、国内・国際ワークショップの開催、GEO (地球観測に関する政府間会合) 第5回本会合ならびに地球温暖化観測に関連する国内・国際会合への参加など国内外で積極的に活動することで、地球温暖化観測の現状、課題、今後の展望を明らかにし、関係府省・機関間及び分野間の横断的な地球観測体制に関する国内情報交換体制を構築する端緒とするとともに、国際的にはGEOSS(地球観測に関する10年実施計画)の気候変動分野に対して貢献した。

3) 温室効果ガスインベントリ策定事業支援

1990年〜2006年の日本の温室効果ガスの排出量及び吸収量を推計した。気候変動枠組み条約批准国会合にて採択された共通報告様式(CRF)ならびに当該データの作成方法の説明とその分析を記載した国家インベントリ報告書(NIR)を、5月に条約事務局へ提出した。2008年提出インベントリでは、2006年の日本の総排出量は京都議定書の基準年比で6.2%増加していることが明らかになった。温室効果ガス排出・吸収量データの透明性、一貫性、完全性を保証するために、ウェブアプリケーションを用いてインベントリデータを収集、蓄積する温室効果ガス排出・吸収量データベースの構築を進めた。アジア地域の温室効果ガスインベントリ作成の支援およびインベントリの精度向上を図るため、「第6回アジア地域における温室効果ガスインベントリに関するワークショップ」(WGIA6)を開催した。また、条約批准国補助機関会合(SB28)、条約批准国会合(COP14)に日本政府代表団の一員として参画し、インベントリ関連議題の交渉支援を行った。現在、2009年4月提出期限の2007年日本国インベントリ作成中である。

4) UNEP対応事業

協力アセスメントネットワーク(CAN)事業に関しては、2009年3月に第9回CAN会合が開催され、気候変動への地域別適応戦略、持続可能な開発戦略、低炭素社会の構築を中心とした議論が行われた。北東アジアでは、2008年にeKH (Environment Knowledge Hub)の構築が開始されることとなっており、今後eKHが本格化するのに備え、従前の資料を踏まえて対UNEP活動自身の長期戦略作りと必要な調査を進めている。

5) スーパーコンピュータ利用支援

課題の公募と審査のより一層の適正化などを通して、より効率的な運用、地球環境研究支援のより効果的な実施を図るとともに支援体制の強化を図った。研究発表会の開催や報告書の刊行などにより、利用成果のより広い公開に努めた。

6) 地球環境研究の広報・普及・出版

地球環境研究センターニュースの刊行の継続、CGERリポート7冊の刊行、各種環境関係イベント対応、研究所公開対応など、積極的な広報活動を推進した。地球環境研究センターウェブのコンテンツ、パンフレットの新規作成も行った。研究成果などのプレスリリースにも努め、マスコミに多数とりあげられた。マスコミや一般市民の問い合わせにも可能な限り対応し、研究成果の普及と地球環境問題の理解増進に努めた。

研究予算

(実績額、単位:百万円)
  平成18年度 平成19年度 平成20年度 平成21年度 平成22年度 累計
運営交付金 611 570 580      
科学技術振興調整費 15 15 0      
地球環境研究総合推進費 22 0 0      
公害等調査委託費 149 137 137      
環境保全調査等 請負 48 52 94      
総 額 846 774 811