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Ⅰ 重点研究プログラム
研究課題名 循環型社会研究プログラム

実施体制

代表者:
循環型社会・廃棄物研究センター センター長、森口祐一
分担者:
【循環型社会・廃棄物研究センター】
副センター長 井上雄三
循環型社会システム研究室 橋本征二(主任研究員)、南齋規介(主任研究員)
国際資源循環研究室 寺園 淳(室長)、吉田 綾(研究員)、中島謙一(NIES特別研究員)、村上(鈴木)理映(NIESポスドクフェロー)
循環技術システム研究室 大迫政浩(室長)、倉持秀敏(主任研究員)、田崎智宏(主任研究員)、藤井 実(研究員)、稲葉陸太(NIES特別研究員)、鄭 昌煥*)(NIESポスドクフェロー)、河井紘輔(NIESポスドクフェロー)
資源化・処理処分技術研究室 川本克也(室長)、山田正人(主任研究員)、遠藤和人(主任研究員)、小林 潤(研究員)、安田憲二(NIESフェロー)、朝倉 宏(NIESポスドクフェロー)、成岡朋弘(NIESポスドクフェロー)、黄 仁姫(NIESポスドクフェロー)、石森洋行(NIESポスドクフェロー)、Komsilp Wang-Yao(NIESアシスタントフェロー)
廃棄物試験評価研究室 貴田晶子(室長)、山本貴士(主任研究員)、川口光夫(NIESフェロー)
物質管理研究室 野馬幸生(室長)、滝上英孝(主任研究員)、肴倉宏史(研究員)、渡部真文(研究員)、梶原夏子(NIESポスドクフェロー)、小瀬知洋(NIESポスドクフェロー)、小口正弘(NIESポスドクフェロー)
バイオエコ技術研究室   徐 開欽(室長)、蛯江美孝(研究員)、近藤貴志*)(NIESポスドクフェロー)、劉 超翔*)(NIESポスドクフェロー)、李 東烈(NIESポスドクフェロー)、神保有亮(NIESポスドクフェロー)
【アジア自然共生研究グループ】
環境技術評価システム研究室 藤田 壮(室長)
【社会環境システム研究領域】
環境経済・政策研究室 日引 聡(室長)
環境計画研究室 青柳みどり(主任研究員)

※所属・役職は年度終了時点のもの。また、*)印は過去に所属していた研究者を示す。

研究の目的と今年度の実施概要

(1) 研究の目的

第1期中期目標期間中に「循環型社会形成推進基本計画」が策定され、廃棄物処理法の改正法、各種リサイクル促進法が制定・施行された結果、一般廃棄物、産業廃棄物ともに、最終処分量が減少しリサイクル率は上昇しているが、排出量はここ数年横ばい傾向にあり、最終処分場の受け入れ可能量は逼迫していることから、廃棄物の発生抑制と適正処分、循環資源の再使用・再生利用を引き続き促進する必要がある。

このため、資源採取、生産、流通、消費、廃棄等の社会経済活動の全段階を通じて、資源やエネルギーの利用の面でより一層の効率化を図り、健全な物質循環をできる限り確保することによって、環境への負荷を少なくし、循環を基調とする社会経済システムを実現することが重要である。さらに、このような循環型社会の実現は、我が国のみにとどまらず、国際的にも重要な課題となっている。

そこで、本研究プログラムにおいては、廃棄物の処理処分や資源の循環的利用が適切な管理手法のもとで国民の安全、安心への要求に応える形で行われることを担保しながら、科学技術立国を支える資源循環技術システムの開発と国際社会と調和した3R(リデュース(発生抑制)、リユース(再使用)、リサイクル(再生利用))推進を支える政策手段の提案によって、循環型社会の近未来の具体的な姿を提示し、そこへの移行を支援することを目的とした。

(2) 今年度の実施概要

1)中核PJ

PJ1:近未来の資源循環システムと政策・マネジメント手法の設計・評価

  • 昨年度までに試作した投入・産出型の定量的な物質フローモデルに、物質ストックを表現するサブモデル、将来の人口・世帯数等をベースに資源需要を推計するサブモデルを追加した。ケーススタディとして、建築物を対象に将来の資源需要や廃棄物発生などの物質フローの変化と、木材による炭素蓄積などの物質ストックの変化を推計した。また、枯渇性資源消費量の削減のための要因分解を行い、その因子に照らした3R対策効果を検討できるように、モデルの改良を行った。
  • 既存の統計を用いて、日本全体の廃棄物等のフローについて個別のモノ毎に発生から処理処分、循環利用までを整理し、フロー中の技術プロセスについて投入・産出データの整備及び循環利用における天然資源との代替関係を設定し、マテリアルリサイクル、ケミカルリサイクル、サーマルリカバリーによる国全体での天然資源消費抑制、温室効果ガス排出抑制、エネルギー消費量低減、埋立処分量削減の効果を試算できる情報基盤を整備した。循環利用を行わなかったケースをベースラインとして、2000〜2005年度のそれぞれの効果を試算した。将来の新たな資源循環技術システムの導入を想定したシナリオ解析も併せて実施し、ポテンシャルを把握した。
  • 制度研究については、前年度から引き続いて、制度調査、実態評価、個別施策対応といったボトムアップ型の研究を進めた。前年度調査した国内外のデポジット制度の情報をもとに、デポジット制度の対象物を、廃棄物・有価物・有用物・有害物の4つに区分して、それぞれの特徴や適用性を検討するとともに、日本におけるリサイクル制度の実態を国際学会で報告した。また、3R指標の開発研究の一環として、リデュース・リユースに着目した指標の検討を行った。一方、メガポリシーの視点から、トップダウン型の制度研究に着手した。これまでに集積した制度情報や近年の国内外の動向をふまえ、3R政策の対象物選定に係る研究、責任分担に係る研究を進めた。新自治体経営に基づく一般廃棄物処理事業改善のために、ベンチマーキング手法を活用した住民等との情報共有手法について検討した。

PJ2:資源性・有害性をもつ物質の循環管理方策の立案と評価

  • プラスチックリサイクル過程におけるプロセス挙動、環境排出量調査、製品使用やリサイクルに関連するリスク低減対策技術について引き続き調査を行った。また、製品中における代替難燃剤の存在量調査を行った。臭素系難燃剤含有プラスチックの異なるリサイクルや処理方法に伴う環境負荷について、LCAを用いて評価した。RPF製造施設において、施設改修による作業環境の改善及び排ガス処理の効果を確認した。
  • 資源性・有害性を有する金属類のサブスタンスフローについて、製品段階及び使用済み製品発生段階における製品毎のフロー推定手法を検討し、また、使用済み製品中の素材組成及び金属含有量情報を実験的に集積して、上流からの金属のフローとの整合を試みた。
  • 大口集中や小口分散等の利用方法に応じた環境安全管理と評価の考え方を提案した。各種試験の規格化を進めるとともに、30種の建設系再生製品の試験データを蓄積した。ケーススタディとして、ブラウン管ガラスの有効利用や最終処分を想定し、詳細評価を実施した。
  • 物質管理方策として、チェックゲート、トレーサビリティ、フローのクローズド化、曝露防止の4方策を提示し、それらの各方策の構成要素や要件などの特徴を整理した。

PJ3:廃棄物系バイオマスのWin-Win型資源循環技術の開発

  • サブテーマ1内ガス化-改質プロセスにおける回収エネルギーの評価を行うとともに、改質触媒の長時間耐久性および触媒耐久性向上に資する補助材料の試験評価により、プロセスの最適化を含め実証規模施設の設計に必要な技術的要件等の解明を進めた。また、生ごみを対象とした水素・メタン2段発酵システムについては、連続発酵プロセスにおける高いガス回収効率を維持しつつ、脱離液中の窒素を効率的に除去するための循環システムの運転条件を検討し、改良した装置による最適化を図った。さらに、MAP ANAMMOX HYBRID法に基づく水中脱窒素システムの性能評価のための実証運転・解析を行った。
  • サブテーマ2内生活系排水を対象とした吸着脱リンシステムについて、リンの結晶化条件について検討すると同時に、処理対象規模およびリン濃度等に応じたリンの吸着・脱離の操作因子を明らかにした。また、鉄電解脱リン法においては、貯留汚泥の成分分析等に基づき、リン回収方法の選定を進めた。
  • サブテーマ3内、既存の動脈プロセスと廃棄物系バイオマス等のエネルギーや、再生マテリアルへの質転換プロセスとの連携/一体化システムの設計と評価を行った。首都圏を対象に、食品及び木質系バイオマスについて近未来の循環システムビジョンを描き、2030年までの需給バランス等を勘案したシナリオ分析による時系列的なシステム整備の考え方を示した。
  • バイオフューエル製造技術について、泥状のトラップグリースから原料抽出後の前処理技術に関する技術特性を明らかにするとともに、超高速BDF合成技術の省資源化を行ったほか、中核PJ3全体として、展示会や講演会等を開催することにより、研究成果のアウトリーチ活動を積極的に行った。

PJ4:国際資源循環を支える適正管理ネットワークと技術システムの構築

  • 家電・パソコン、廃プラスチックの国内・国際フローの精緻化を行い、中古輸出台数の増加、中古テレビの輸出先の変化、金属スクラップへの家電・パソコンの混入状況などを把握した。アジア地域全体で中古電気電子機器の貿易管理を行う必要性を指摘した。また、循環資源の輸出傾向が急速に低下したなか、廃ペットボトルについて、中国での原料需要落ち込みの状況を把握した。
  • E-wasteの筐体について、非制御熱負荷過程を模した200℃以下の低温加熱実験により、難燃剤およびダイオキシン類の排出挙動を定量的に把握した。また、インド2都市のE-wasteリサイクル現場において廃製品や環境媒体の試料を採取・分析し、対照地域と比べ臭素系難燃材(BFR)及び臭素化ダイオキシン類濃度が1桁程度高く、E-wasteに由来する環境汚染が示唆された。
  • 東および東南アジアにおける廃棄物処理フローと埋立地からの温室効果ガス排出の特性を捉えるため、タイ、マレーシア、ベトナムにおける現地調査・実験を進め、導入可能な埋立技術の機能を評価する手法と指標を示した。
  • 中国における液状廃棄物の適正処理・温暖化対策両立型技術システムの開発・評価について、汚水性状、バイオマス性状、汚濁負荷の質・量特性の調査を進め、地域特性に応じた処理技術のカスタマイズ、処理機能解析による処理の高度化について検討した。

2) 関連研究プロジェクト

循環型社会・廃棄物研究センター以外の研究ユニットが担う「関連研究プロジェクト」として、次の3課題に取り組んだ。

@) 循環型社会形成のためのライフスタイルに関する研究

これまでの社会調査法に関する研究における経験等を踏まえ、第2次循環型社会形成推進基本計画の進捗状況の点検における「取組指標」のための調査方法について、予算制約のなかで、できるだけ国民全体の取組を指標化していく必要性に鑑み、最も妥当な方法での調査方法の選択が必要であるという観点から、部会を担当する環境省の担当部局に助言を行った。インターネット調査、審議会参加委員の関連する団体会員へのアンケート調査、内閣府の世論調査の数字を用いての算出を行っているが、この妥当性について検討した。(1)特定の団体へのアンケートは、代表性等に問題があるため使用すべきではないこと、(2)内閣府の世論調査は、質問文と選択肢について、担当課の要望が必ずしも取り上げられるとは限らないことなどの問題点があること、(3)インターネット調査は、「国民全体の取組」という観点から、所得層と教育水準がある一定以上のサンプルに偏っていることなどが指摘された。(3)については、現在、特に欧米で議論されている社会的排除の問題の観点からみると、倫理的な問題をはらんでいると示唆された。

A) 循環型社会実現に資する経済的手法、制度的手法に関する研究

家計のごみ排出行動やリサイクル行動を把握するために実施した家計パネル調査(家計のごみ排出量、世帯所得、世帯人員など)について、収集したデータをクリーニングし、分析のためのデータベースを構築した。また、家計のごみ排出行動およびリサイクル行動のモデルの理論的フレームワークを検討した。

B) 特定地域における産業間連携・地域資源活用によるエネルギー・資源の有効利用の実証

循環資源の発生と、その受け入れ施設である既存動脈産業を含む循環産業拠点について、東京・神奈川・千葉を中心とする首都地域においてその分布的特性を調査し、GIS上にデータベースを構築する作業に着手した。廃棄物の特性に合った循環圏を想定し、圏域の一部については、調査により求められた発生・受け入れ双方の分布や制約条件(地価や交通網など)との比較を行うとともに、新規施設や拠点施設の将来の立地のあり方について基礎的検討を行った。

3) 廃棄物管理の着実な実践のための調査・研究

資源循環システムの形成を支えるためには、安心・安全な廃棄物処理・処分技術システムの構築とそれを確認するための試験評価・モニタリングシステムが不可欠である。資源循環過程において生じる環境リスクの低減技術や、最終的に残存する循環利用が困難な廃棄物・残渣、将来の新興産業等からの新たな不要物に対応し、安全かつ次世代に負の遺産を長期的に残さない処理技術を開発、評価することを目的とする。中核PJ以外の循環型社会・廃棄物研究センターの活動として本調査・研究を位置づけており、各中核PJとの連携も取りつつ実施している。平成20年度は、次の4課題に取り組んだ。

@) 循環型社会に対応した安全・安心な適正処理・処分技術の確立

埋立廃棄物の質に対応した新規埋立処分類型を提示し、カラム実験に着手した。また、最終処分場のライフサイクル型保有水制御・管理、品質管理・保証システムの試案を提示した。処分場跡地利用の安全性を評価するための埋立アスベスト含有廃棄物の埋設状況調査技術の開発に着手した。さらに、焼却等の熱処理施設からの排ガス発生源モニタリング方法を改良し、適用例の蓄積を進め、ばいじん等残さの制御を含む総合的な施設の運転管理方法に関し適用性の検証を進めた。

A) 試験評価・モニタリング手法の高度化・体系化

新規規制対象予定のPOPs物質(ペンタクロロベンゼン)について、廃棄物処理施設等における発生・分解挙動を燃焼実験により把握した。ダイオキシン類の公定法アッセイについて、廃棄物処理施設における通年モニタリングにより、年間変動、化学分析との比較を行った。ダイオキシン類の簡易法として数種のバイオアッセイ系を適用し、検出特性評価を行った。また、新規アッセイ法を環境試料に適用し、その毒性特性情報を得た。さらに、再生材に関して、日常管理の必要なヒ素のオンサイト分析が可能なボルタンメトリー法の分析法検討を行った。

B) 液状・有機性廃棄物の適正処理技術の高度化

浄化槽ビジョンの実現を目指し、生活排水、汚泥、生ごみ等の適正処理技術等の開発研究を進めた。また、ディスポーザ排水等の適正処理については、ベンチスケール試験を基に、小・中・大規模処理施設における生ごみ貯留・可溶化特性を解析し、運転操作条件の適正化による高度処理を図ることとした。インベントリ解析による基礎的な検討を通じて、生活排水処理施設における温室効果ガスの排出量に関する現状把握を進めた。

C) 廃棄物の不適正処理に伴う負の遺産対策

不法投棄や不適正処分された堆積廃棄物現場では、件数は少ないものの、火災が発生することがあり、周辺環境や社会に対して甚大な影響を及ぼす。堆積廃棄物火災では、層内の一部が局所的に高温になり、無炎燃焼、そして有炎燃焼へと進行することから、燃焼挙動を把握することを目的に火災現場での連続モニタリングを実施した。

POPs廃農薬の処理に関する技術的留意事項について、排出指針値や適正処理方法の評価を行い、技術的留意事項の改訂案を作成した。英国から無許可輸入されたPCN(ポリ塩化ナフタレン)を使用した製品については焼却処理時の、また、PCN含有製品生産設備については高圧洗浄水による徐染作業時のモニタリングを行って分解や洗浄の確認を行った。

4) 基盤型な調査・研究

廃棄物研究の基盤となる調査・研究として、重大な環境問題に対応すべき研究、研究能力の向上を図るための研究や手法開発、研究所内外の活動に資するための知的研究基盤の整備等を実施している。平成20年度は、次の2課題に取り組んだ。

@) 廃棄アスベストのリスク管理に関する研究

アスベスト含有廃棄物の無害化処理における各種試料の電子顕微鏡(走査型、透過型)による試験方法、また、日常モニタリング法として光学顕微鏡(位相差及び偏光)による試験方法を確立し、無害化処理システム全体の安全確認手法として提案した。無害化処理レベルを検討するために、アスベスト熱処理物、一般環境土壌、蛇紋岩地域の土壌等について、アスベスト繊維数濃度や重量濃度のデータを集積した。

A) 資源循環に係る基盤的技術の開発

環境低負荷型であり、循環型社会形成の要素技術として将来的に中核となり得る廃棄物の新規資源化技術、環境保全技術等に関する調査研究を行った。また、実験による基礎研究開発として、高周波誘導加熱を利用した金属・樹脂複合廃棄物の分離・回収技術開発について、電子回路基盤などを対象とした高周波誘導加熱試験および熱分解試験を行った。

5) 知的研究基盤の整備

知的研究基盤の整備として、平成20年度は、次の課題に取り組んだ。

@) 資源循環・廃棄物処理に関するデータベース等の作成

各中核PJ、廃棄物管理の着実な実践のための調査・研究等の一環で、「資源循環・廃棄物処理技術データ」、「物質フローデータ」及び「循環資源・廃棄物データ」について、個別にデータの集積を図った。特に、循環型社会形成推進基本計画(循環基本計画)の進捗管理のための情報基盤を、環境省の検討会と連携して整備した。また、一般廃棄物処理実態調査データのアーカイブデータを、電子データとして集積した。さらに、新たな取組として、東南アジア諸国の廃棄物管理に関するデータベース作成に着手した。

研究予算

(実績額、単位:百万円)
  平成18年度 平成19年度 平成20年度 平成21年度 平成22年度 累計
運営交付金 463 497 530      
受託・請負費 229 188 144      
研究費補助金 332 134 96      
総 額 1,023 819 770