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VI 中核研究プロジェクト
研究課題名 アジアの大気環境評価手法の開発

実施体制

代表者:
アジア自然共生研究グループ 室長 大原利眞
分担者:
【アジア自然共生研究グループ】
アジア広域大気研究室 高見昭憲(室長)、佐藤圭(主任研究員)、清水厚(主任研究員)、畠山史郎*)
広域大気モデリング研究室 大原利眞(室長)、菅田誠治(主任研究員)、谷本浩志(主任研究員)、永島達也(研究員)、長谷川就一(NIESフェロー)、黒川純一(NIESフェロー)、早崎将光(NIESポスドクフェロー)、森野悠(NIESポスドクフェロー)、Hezhong Tian(JSPSフェロー)、 稲吉繁一*)、片山学*)
【大気圏環境研究領域】
杉本伸夫(室長;兼任)
【環境研究基盤技術ラボラトリー】
西川雅高(室長;兼任)
【地球環境研究センター】
甲斐沼美紀子(室長)、白井知子(研究員)
【大気圏環境研究領域】
日暮明子(主任研究員)、松井一郎(主任研究員)、猪俣敏(主任研究員)、村野健太郎*)
【化学環境研究領域】
横内陽子(室長)

※所属・役職は年度終了時点のもの。また、*)印は過去に所属していた研究者を示す。

研究の目的と実施概要

我が国と密接な関係にあるアジア地域では,急速な経済発展に伴って大気汚染が深刻化しており、それが越境汚染として我が国に影響を及ぼしている。従って、我が国を含むアジアの持続可能な発展に向けた戦略的な政策が緊急に必要であるが、そのためには科学的知見を集積し、政策提言の基盤にすることが必要である。我が国及びアジア各国の政策や持続可能な発展に向けた努力が効果的に働くためには、我が国及びアジア各国が、科学的知見について共通の認識及び大気環境管理の共通の基盤を持つことが重要である。このような科学的な基盤の形成に貢献するために、本プロジェクトでは、アジアの大気環境についての実態把握と将来予測等の科学的知見の集積、データベースや数値モデル等の研究ツールの開発を行うことを目的とする。

平成18〜19年度には、大気汚染物質と黄砂の地上観測、航空機観測、ライダーネットワーク観測等を国際的・国内的な連携のもとで実施するとともに、モデルと排出インベントリの精緻化を進めることにより、広域大気汚染と越境大気汚染の両面から科学的知見の蓄積とツール開発を、以下の3つのサブテーマにおいて推進した。

1)アジアの広域越境大気汚染の実態解明;沖縄辺戸ステーションをベースにした地上通年観測による、長距離輸送されたガス・エアロゾルの解析を行うとともに、辺戸を中心として対流圏大気変化観測の連携を進めた。また、航空機観測による広域汚染分布の解明とモデルとの突き合わせを行って、東アジア地域全体の広域大気汚染の実態把握を行った。さらに大気観測の国際協力を推進し、これによるアジア域の大気環境のデータベース化を行った。

2)アジアの大気環境評価と将来予測;アジア域排出インベントリとマルチスケール大気汚染モデルを開発し、観測データをもとに検証・改良した。モデルと排出インベントリおよび観測データベースを活用して、アジア広域から国内都市域における大気汚染の全体像を把握する手法の開発を進めた。更に、排出シナリオに基づく将来排出量と大気汚染モデルを使って、2020 年までのアジアの広域大気汚染を予測した。

3)黄砂の実態解明と予測手法の開発;東アジア地域で増大している黄砂の発生から輸送・沈着を把握するための、ライダーを中心とするリアルタイム観測ネットワークを展開・整備すると同時に、化学分析のための黄砂サンプリングを行った。これらのリアルタイムデータをモデルに取り込むデータ同化手法を確立し、黄砂予報モデルの精度を向上した。

研究予算

(実績額、単位:百万円)
  平成18年度 平成19年度 平成20年度 平成21年度 平成22年度 累計
運営交付金 65 68        
受託費 118 117        
科学研究費(文部科学省) 12 9        
寄付金            
助成金            
総 額 195 194        

今後の研究展望

(1) アジアの広域越境大気汚染の実態解明

・ 平成20年春に広域越境大気汚染の実態解明を行うため東シナ海域において航空機観測を行う。さらに、航空機観測に同期して辺戸ステーションにおいても大学や研究機関と協力し、大陸起源のエアロゾルの物理的・化学的特性の解明を目的として集中観測を行う。

・ これまで観測が不足していた東シナ海北東域(長崎県福江島)での観測を強化する。中国沿岸地域での地上観測の再開にむけて中国等の研究機関との連携を強化する。

・ これまで辺戸ステーションなどで蓄積してきた観測データを解析し、他の観測データとの比較やモデルの活用を進めることにより、東アジア域における広域越境大気汚染の実態を把握する。

・ 辺戸ステーションで蓄積してきたデータについて、IGAC小委員会、各研究機関と連携しつつ、データベースの構築を進める。

(2) アジアの大気環境評価と将来予測

・ アジア域排出インベントリ(REAS)、領域化学輸送モデル(CMAQ)、全球化学気候モデル(CHASER)を統合した広域大気汚染モデリングシステムを確立し、東アジアにおける広域大気汚染の空間分布、過去四半世紀の経年変動・年々変動を総合的に解明する。更に、対流圏オゾンの越境大気汚染による日本への影響や発生地域別寄与率を定量的に評価する。

・ 2030年までの大気汚染排出量を予測し、広域大気汚染と日本への影響の将来動向を把握する。

・ 対流圏観測衛星データ、地上観測データなど利用して、アジア域排出インベントリ(REAS)の精度を、特に中国、韓国などに力点を置いて向上させる。

・ サブテーマ(1)や他の研究機関と連携して観測・モデル統合研究を進め、越境光化学大気汚染の機構を解明する。

・ 全国の地方環境研究所との共同研究により、対流圏オゾンと粒子状物質の広域的・地域的特性を把握する。大気汚染予報システムによる東アジア、日本全域、及び関東地域の予報結果を一般に公開する。

・ 上記の研究成果を、国際的な「大気汚染の半球規模輸送に関するタスクフォース」(TFHTAP)、EANET、環境省検討会などに提供し、広域汚染・越境汚染に関する国内外の取り組みに貢献する。

(3) 黄砂の実態解明と予測手法の開発

・ 北東アジアに構築したNIES型ライダー観測網(モンゴル3局、韓国1局、日本10局)と、各国が展開しているライダー観測網(韓国気象局が4局、中国北京大学および大気物理研が3局など)との連携強化をはかり、世界に類を見ない黄砂の詳細ネットワークの拡大構築を目指す。

・ これらの観測データと予測モデルを融合し、北東アジア地域における高精度な黄砂予測・予報システムを構築する。