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VI 中核研究プロジェクト
研究課題名 生物多様性と生態系機能の視点に基づく環境影響評価手法の開発

実施体制

代表者:
環境リスク研究センター生態系影響評価研究室 室長  高村典子
分担者:
【環境リスク研究センター】
生態リスク評価研究室 田中嘉成(室長)・菅谷芳雄(主任研究員)・立田晴記(主任研究員)・真野浩行(NIESポスドクフェロー)・中嶋美冬*)(NIESポスドクフェロー)
生態系影響評価研究室 西川潮(研究員)・赤坂宗光(NIESポスドクフェロー)
五箇公一(主席研究員)・今藤夏子*)(NIES)・国武陽子(NIESポスドクフェロー)・郡麻里(NIESポスドクフェロー)
堀口敏宏(主席研究員)・児玉圭太(JSPSポスドクフェロー)
白石寛明(センター長)
【生物圏環境研究領域】
広木幹也(主任研究員)

研究の目的と実施概要

[研究の目的]
人間社会は、地球上の自然生態系とその恵みである生態系サービスなくしては成り立たない。しかし、過去半世紀にわたる開発や社会変化による著しい自然生態系の改変により、地球規模で生態系サービスは著しく低下している(ミレニアムエコシステムアセスメント 2005)。自然環境や自然の生態系を対象とした生態影響評価は、野外での複数のリスク因子を解明し、生物個体群や生物群集、生態系を対象とした評価に拡張して考える必要に迫られている。評価尺度についても、幾つかの考え方があり、これは人間社会の価値観にも左右される。本プロジェクトでは、「生物多様性」と「生態系機能」の視点から、生態系サービスの劣化を引き起こす(有用)個体群の再生産の阻害や種数の減少、生態系機能の低下(例えば、バイオマス生産性や物質循環効率など)をエンドポイント(評価指標)として、数理モデルを活用した概念的な手法から具体的な実例での評価も含めた、新たな生態影響評価手法を提案することを目的として実施している。

[実施概要]
全体計画
生態系影響評価法の開発のためには,理論的な研究と野外実証研究との連携が欠かせない。本プロジェクトでは、まず、東京湾や兵庫県ため池地域で具体的な生態影響評価の事例を提示するために、野外フィールドでの調査や実験を実施した。生物リスク因子(侵入種)については、悪影響が懸念される生物種と法的規制のかからない微小な生物に対するリスク評価を実施した。さらに、野外フィールド調査や実験に基づいて得られた知見に対して,個体群や生物群集を対象に研究されてきた数理的な生態リスク評価手法の適用を試みた。体制としては、以下の4つのサブテーマを設けて実施している。

サブテーマ1)東京湾における底棲魚介類の個体群動態の解明と生態影響評価
(1)東京湾20定点調査:20の定点での四季調査(5月、8月、11月及び2月:傭船調査)を実施した。2005年2・5・8・10月の20定点調査データを用いて、底棲魚介類群集の空間分布及び水質項目の季節変化を明らかにし、両者の関係を多変量解析により調べた。(2)マコガレイ(仔魚・稚魚・成魚)調査:稚魚について25の定点で千葉県水産総合研究センターと共同で毎月調査(傭船調査)したほか、仔魚について湾内全域の10の定点で2008年1月〜3月に神奈川県水産技術センターと共同で調査(傭船調査)した。また、成魚について環境研単独で横須賀及び横浜で毎月調査(買取もしくは操業船に乗船してのサンプリング調査)を行った。仔魚の分布と豊度、稚魚の分布、豊度と成長を追跡し、成魚の年齢、成長及び食性を解析した。(3)シャコ調査:幼生について4月〜9月にかけて17の定点で神奈川県水産技術センターと共同で毎月調査(神奈川県水産技術センター所属の研究調査船「うしお」または「さがみ」で実施)し、稚シャコ・成体については、千葉県水産総合研究センターと共同で毎月実施しているマコガレイ稚魚調査で得られた試料を用いた。雌雄の生殖巣組織を検鏡し、成熟状態の経月変化を調べて、雌雄の生殖周期及び交尾期を明らかにした。一方、加入の成否を規定する生活史段階を明らかにすることを目的として、初期生活史(産卵、幼生、着底)に関するフィールド調査を実施した。成体、幼生及び稚シャコの個体数密度を算出し、経年変化を調べた。(4)東京湾20定点調査で得られた2007年8月の底質試料について、北九州市立大学(門上希和夫教授)との共同研究として、GC/MSによる中揮発性物質など888物質の一斉分析を実施した。(5)貧酸素‐有害物質流水式連続曝露試験の実施に向けて、ハタタテヌメリ稚魚の予備飼育実験を行い、実験室内での長期飼育が可能であることを確認した。

サブテーマ2)淡水生態系における環境リスク要因と生態系影響評価
(1)兵庫県南西部のため池の多い地域をモデル地区として、淡水生態系における生物多様性と生態系機能の低下を引き起こす環境リスク因子を明らかにするために野外調査を実施した。具体的には、周辺の土地利用や植生の異なるため池64池を選定し、おのおのについて、生物多様性を指標するベントス・トンボ・水生植物の種構成、生態系機能を指標とする植生群落面積や底泥の分解酵素活性、双方の劣化を指標するアオコの発生とそれらの環境リスク因子となる池周辺の土地利用、護岸、侵入生物、農薬、水質、池の管理方法についての調査と分析を実施した。水生植物の種多様度と周辺の土地利用・水質・池の連続性の影響について解析した。(2)淡水生態系においてカタストロフィック・レジームシフトを引き起こす可能性のある侵略的外来種、コイとザリガニの生態系影響を隔離水界実験で検証した。(3)淡水生態系に強い負の影響を与える外来ザリガニ類の遺伝的変異と分散を明らかにするため分子系統地理解析を実施した。(4)ため池に対する環境リスク認知についての解析を進めるためアンケート設計を実施した。

サブテーマ3)侵入種生態リスク評価手法の開発に関する研究
(1)侵入種生態リスク評価手法の開発についてはまず、輸入昆虫類を対象とし、侵入圧としての輸入数量の推移および流通ルートの把握を行った。(2)定着リスクについて輸入花粉媒介昆虫セイヨウオオマルハナバチの分布規定要因を野外データに基づき解析した。(3)種間交雑について、セイヨウオオマルハナバチおよび輸入ペット昆虫クワガタムシを対象として室内および野外レベルで検証を行い、交尾後生殖隔離の変動による個体群絶滅および遺伝的浸食のリスク評価を行った。(4)侵入種防除システムの開発については、国内および国外(特にアジア地域)における侵入種防除研究の実施機関との間でネットワークを構築して情報流通の促進を図った。(5)外来寄生生物の随伴侵入ついて、輸入昆虫類・両生類・爬虫類を対象として、寄生生物の侵入実態を明らかにするとともに、宿主-寄生生物間の共種分化関係の解明を行った。特にカエルツボカビの侵入が明らかとなったことから、全国の野生両生類における感染実態を一斉調査した。

サブテーマ4)数理的手法を用いた生態リスク評価手法の開発
(1)環境要因の生態系影響を推定するための基礎となる,生物群集の環境応答を機能形質の変化として予測するモデルを完成させた。(2)生態系の機能(物質循環)を促進する上でどの機能形質が重要であるかを推測するために,3栄養段階の生態系モデルを作成し,数値的解析を行った.その結果,1次消費者のバイオマス転換効率などが機能形質として重要であるという知見が得られた.(3)環境汚染物質の生態リスクを抵抗性遺伝子の変異から推定するための基礎的なデータを取得した.霞ヶ浦および大膳池のカブトミジンコ (Daphnia galeata)4集団のフェンバレレート感受性を比較し,数倍の毒性値の変異が検出された.空間的な遺伝子流動を推定するためにマイクロサテライト遺伝子座(13座位)の多型解析に関する基礎的なデータを収集した。(4)東京湾底生魚類の解析では、シャコの個体数変動を予測するために個体群マトリックスモデルを作成し、生活史感度解析をおこなった。

研究予算

(実績額、単位:百万円)
  平成18年度 平成19年度 平成20年度 平成21年度 平成22年度 累計
運営交付金 50 61        
受託費 28 21        
科学研究費 13 8        
競争的資金 52 46        
寄付金   1        
助成金            
総 額 143 135