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VI 中核研究プロジェクト
研究課題名 環境中におけるナノ粒子等の体内動態と健康影響評価

実施体制

代表者:
環境リスク研究センター環境ナノ生体影響研究室 室長  平野 靖史郎
分担者:
【環境リスク研究センター】
環境ナノ生体影響研究室 木明・古山昭子 (主任研究員) 藤谷雄二・菅野さな枝 ・種田晋二(NIESポスドクフェロー)
高感受性影響研究室 山元昭二(主任研究員)
生体影響評価研究室 井上健一郎(主任研究員)
【環境健康研究領域】
高野裕久(領域長)
生体影響評価研究室 井上健一郎(室長)、柳澤利枝(研究員)

※所属・役職は年度終了時点のもの。また、*)印は過去に所属していた研究者を示す。

研究の目的と実施概要

研究の目的
粒径が50nm以下で細胞や組織透過性が高く、これまでの粒子状物質とは異なる影響を与えるのではないかと危惧されている自動車排ガス由来の環境ナノ粒子や、構造がナノスケールであるがゆえに化学物質としてよりは粒子としての毒性研究が必要であると考えられているナノマテリアルについて、呼吸器を中心とした生体影響と健康影響評価に関する研究を行う。また、繊維径がナノスケールであるがゆえに組織を透過し、胸膜中皮腫を起こすと考えられるアスベストの体内動態と生体影響、ならびに廃棄物として熱処理されたアスベストの毒性評価に関する研究を行う。これらの研究をとおして、超微細構造を持つ粒子状物質や環境ナノ粒子の体内挙動と生体影響を調べることにより、これまで調べられてきた有害化学物質とは異なる健康影響手法を確立する。

平成18,19年度の実施概要
課題1 環境ナノ粒子の生体影響に関する研究:
○ 模擬ナノ粒子発生装置の開発として、炭素電極間の放電による炭素粒子、不完全燃焼による炭素粒子の発生の条件、粒径、個数について検討を加えた。輸送過程における粒子成長に関する検討、定常運転の際に排出される粒子やガスの試験、一次希釈、二次希釈倍率の検討を行なった。また、常運転の曝露を開始し、おおむね安定した運用ができていることを確認した。
○ 環境ナノ粒子と模擬ナノ粒子を用いて、粒子の細胞内への取込み機構と細胞膜・細胞層における粒子の透過性に関する研究を行った。In vitro 研究として、共培養系細胞層における不溶性模擬ナノ粒子の細胞層における透過性とその後の組織リモデリングを調べた。また、原子間力顕微鏡を用いて、細胞膜表面上のナノ粒子の取込み過程を調べた。In vivo 研究としては、形態的にも20nm金粒子が肺胞上皮細胞を通過して血管内皮細胞内腔表面観察されることを電子顕微鏡を用いて明らかにするとともに、実車ナノ炭素粒子の観察を行った。
○ 実車ナノ粒子を用いて、ナノ粒子を多く含む運転条件下で捕集した実車ディーゼル排気粒子の酸化能と肺胞上皮細胞の遺伝子発現に及ぼす影響に関する解析、細菌毒素と吸入したナノ粒子との炎症反応に関する相乗作用に関する研究、吸入したナノ粒子が自然免疫系や循環系に及ぼす影響に関する研究を行った。
○ 自動車排ガス中にナノ粒子と共存するガス状物質の影響を把握するため、吸入曝露チャンバーを改良してガス成分だけの並行吸入曝露実験を進めた、肺の炎症に関してはガス状成分の寄与が大きいことを明らかにした。

課題2:ナノマテリアルの健康リスク評価に関する研究:
○ マクロファージを用いて、in vitroでカーボンナノチューブの細胞毒性評価、細胞膜との反応性を調べた。また、in vivoの毒性試験においてカーボンナノチューブの投与を行った。 in vivo研究の一環として、作業者の安全性についても考慮を行い、ナノファイバー粒子の吸入暴露装置の開発に着手した。
○ カーボンナノチューブと形状が似ているアスベストを用いて、細胞障害性のさいについて検討を行った。
○ カーボンナノチューブの胸腔内投与実験を開始し、慢性影響に関する研究を継続中である。

課題3:アスベストの呼吸器内動態と毒性に関する研究:
○ 廃棄物研究プログラムと協力して、溶融あるいは溶融過程にある熱処アスベスト(クリソタイルとクロシドライト)の毒性評価を行った。また、腹腔内投与を行うことにより、in vivoで各種処理後のアスベストの生体影響を評価するための研究に着手した。
○ クリソタイルとクロシドライトに加えてアモサイトに関しても同様に、熱処理したサンプルについて細胞障害性ならびにサイトカインの産生についてしらべた。

研究予算

(実績額、単位:百万円)
  平成18年度 平成19年度 平成20年度 平成21年度 平成22年度 累計
運営交付金 50 53        
受託費 48 55        
科学研究費 1          
寄付金            
助成金            
総 額 99 108        

今後の研究展望

課題1:環境ナノ粒子の生体影響に関する研究
○ 環境ナノ粒子の慢性実験の開始に伴い、安定して粒子を発生させる方法を確立させる。また、アイドリング走行時の実車排気粒子曝露実験の再現性確認実験、ディーゼル排ガス中のガス状成分と粒子状成分が生体に影響を与える割合の把握を行う。
○ 実車排出ナノ粒子の呼吸器以外の組織への移行の検討と影響を走査透過型電顕を用いて検討するとともに、吸入模擬ナノ粒子の体内動態を検討する。
○ マウスと培養細胞にディーゼル排気ナノ粒子を曝露し、曝露した動物の組織(肺、脳、肝臓、心臓)の形態観察をおこなうと共に、組織の免疫組織化学的検討と炎症マーカー・薬物代謝酵素の変化の検出を併用することにより、曝露影響評価と体内動態を検討する。
○ 実車排気ナノ粒子曝露が肺における抗原提示能やリンパ球Th反応に及ぼす影響の検討を行う。
○ 実車ナノ粒子が感染に関連する肺傷害の増悪に関して、肺傷害に随伴する凝固・線溶異常に与える影響を検討する。また、増悪メカニズムの解明として、肺及び血中における接着分子発現の検討や、ナノ粒子曝露された肺胞マクロファージの細菌毒素に対する感受性を ex vivo にて検討する。
○ ナノ粒子の多いディーゼル排気粒子が、これまでのディーゼル排気粒子と異なった作用で、心臓や循環器に影響することが推測されたことから、その循環器影響のメカニズムや神経系に対する影響については、今後、影響を解明しなければならない分野と考えられる。そのためには、心筋や大動脈系の生化学的解析を行う。

課題2:ナノマテリアルの健康リスク評価に関する研究
○ 工業ナノ材料の一種であるカーボンナノチューブの吸入曝露条件の検討を行う。
○ 細胞障害性に関してカーボンナノチューブと細胞膜との反応性についてさらに詳細に調べるほか、in vivoでの生体影響アッセイ系を確立する。
○ CNTを投与されたマウスの亜慢性・慢性的影響について順次調べ、長期にナノファイバーに暴露した場合の安全性評価に資する。

課題3:アスベストの呼吸器内動態と毒性に関する研究
○アモサイトやトレモライトの熱処理物の細胞毒性試験による毒性評価 を行う。
○ 形態的にSEM, TEM, アスベスト顕微鏡、共焦点顕微鏡を用いてさらに詳細な細胞毒性のメカニズムを検討する。
○ 細胞生化学的に、細胞膜電位、ミトコンドリア膜電位、DNA損傷、アポトーシス、繊維化、細胞増殖、蛋白リン酸化や遺伝子発現に関する検討を加える。
○ クリソタイル、クロシドライトの熱処理物の繊維状と破砕条件下での細胞毒性影響の違い調べ、繊維形状と細胞障害性との関連を調べる。
○浮遊状態でのin vitroアッセイ法としての赤血球を用いた膜傷害性試験の有用性を検討する。
○クロシドライト、およびクリソタイル(日測協)の熱処理物のマウスへの気管投与実験による毒性評価を行う。