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VI 中核研究プロジェクト
研究課題名 化学物質曝露に関する複合的要因の総合解析による曝露評価

実施体制

代表者:
環境リスク研究センター曝露評価研究室長  鈴木規之
分担者:
【環境リスク研究センター】
曝露評価研究室 櫻井健郎(主任研究員)、今泉圭隆(研究員)、 小林淳(ポスドクフェロー)、Solovieva Elena(アシスタントフェロー)
環境曝露計測研究室 白石不二雄(室長)、鑪迫典久(主任研究員)、 中島大介(主任研究員)、鎌田亮、平井滋恵、小田重人(ポスドクフェロー)、小塩正朗、影山志保(アシスタントフェロー)
主席研究員 後藤純雄*)

※所属・役職は年度終了時点のもの。また、*)印は過去に所属していた研究者を示す。

研究の目的と今年度の実施概要

化学物質の曝露を考える上では、多数の物質による多重的な曝露、一つの物質の持つ複雑な影響スペクトル、排出から個人あるいは生態系への曝露に至る過程で関連する自然的、時間的また社会的な因子などを考慮した評価・解析が化学物質曝露の包括的把握と的確な制御の可能性を考察するために重要である。これらに関する諸課題のうち、特に化学物質の複合的な曝露状況を把握することと、小児など時期特異的な曝露や食物連鎖から流通経路までを含む物質フローの理解に基づく曝露解析の検討がまず取り組むべき課題であり、これによって実際に多数の物質によっている曝露状況の把握に基づくリスク評価体系の深化と、物質フローのシステム的な把握に基づくより効果的な管理への応用の可能性が大きくなるものと考えられる。本プロジェクトでは、この目的を達成するため、(1)地域GIS詳細モデルおよび地球規模など複数の空間規模階層を持つ動態モデル群の総合的構築、(2)バイオアッセイと包括的測定の総合による環境曝露の監視手法の検討と曝露評価への適用、(3)モデル推定、観測データ、曝露の時間的変動や社会的要因などの検討と総合解析による曝露評価手法と基盤の構築と整備、の3つの課題を設定して検討を行う。

今年度は、課題(1)地域GIS詳細モデルおよび複数の空間規模階層を持つ動態モデル群の総合的構築については、H18年度からの(a)地域レベルにおけるGIS詳細モデルの開発、(b)地球規模モデルの開発、に加え、H19年度から新たに(c)小児への曝露評価に関する課題、また、課題(3)から(d)水環境における動態解析、を移して検討した。具体的には、

(a) 地域レベルにおけるGIS(地理情報システム)に基づく動態モデルの構築のため、昨年度に引き続き、多摩川、大和川、日光川等の流域動態の計算による解析と観測値との検証を継続し、また、プログラムのより広範な利用のため入力データに対する動的なデータ構造への改善、エラー耐性の強化などを実施し、モデル計算システムとしての公開の準備を進めた。

(b) POPs等の地球規模の動態解析モデルの構築のため、昨年度に構築した全球2.5度分解能でのデータセットに基づくグローバルG-CIEMS多媒体モデルの開発を継続し、地域間の寄与割合の推定を進めた。今年度は、国際比較研究への参加を通じての検証と改良と、水銀等の複数の化学形態を有する有機・無機化合物の形態変化を多媒体過程の中で推定するモジュール開発を行った。

(a) 水環境における、特に底質を含む水環境における化学物質の動態解析と将来の定量的把握のため、PCBおよびPFOS等の残留性物質の東京湾における水(上下2層)、底質および生物を含むフィールド観測を行った。また、底質から水生生物へのPCBの移行特性について、底質から魚類(マコガレイ)への移行モデルの構築を試み、底質由来のPCB, POPs類の経路別移行特性に関する検討を行った。

(b) 小児における経気道曝露量の推定に必要な換気量に関する知見を得るため、三次元加速度計を用いた幼児の日常生活における肺換気量の推定に関する検討を行った。幼稚園・保育所での110名を対象に三次元加速度計を用いた活動強度の定量化と肺換気量の関連性を明らかにするための詳細な調査を実施した。

課題(2)バイオアッセイと包括的測定の総合による環境曝露の監視手法の検討と曝露評価については、(a)環境水のin vitroバイオアッセイを中心とする曝露モニタリングの検討、(b)大気のin vitroモニタリングを中心とする曝露モニタリングの検討、(c)主に水生生物によるin vivo監視手法の検討、により検討を行った。
具体的には、

(a) 環境水のin vitroバイオアッセイによる環境曝露モニタリングの検討においては、H18年度の検討で確立した濃縮・調製法を用い、地方環境研究所との共同研究により得られた全国13都道府県80検体の環境水試料に対し、hER, medER, hRAR, AhRの各レセプター結合性試験、および発光umu試験および汚濁成分の分析を行い、より広範なin vitroバイオアッセイの適用と考察を行った。

(b) 大気中のin vitroバイオアッセイによる環境曝露モニタリングの検討においては、バイオアッセイのための半揮発性物質を含む濃縮法の開発を行った。実大気数試料の変異原性試験、粉じん、PAH、AhR活性等の調査を行い、つくば市における年間変動および全国10地点連続4日間の同時サンプリングを季節ごとに実施中である。同時に関連するPAH、AhR活性、Reteneなど指標成分の調査も行った。

(c) 水生生物を用いた環境毒性の観点からの環境曝露の包括的視点からの監視手法の検討においては、セリオダフニア繁殖阻害試験、ゼブラフィッシュ初期生活段階試験、緑藻増殖阻害試験等の試験体制の確立と、日本国内おけるWET(Whole Effluent Toxicity)概念を意図しての検討を行うこと、また、農業用ため池の調査の実施、OECD等での国際的な合意に基づく試験法確立への貢献をおこなった。

課題(3)モデル推定、観測データ、曝露の時間的変動や社会的要因などの検討とこれらの総合解析による曝露評価手法と基盤の整備については、H19年度より課題(1)に移行したテーマを除き、(a)曝露評価に関連する統計的検討、(b)曝露の総合解析、の2つのサブ課題において以下の検討を行った。

(c) 曝露評価手法として特に課題となる検討の一つとして、H18年度に構築した不検出値を含むモニタリングデータから統計的代表値の推定を行う手法を適用し、信頼性の高い代表値を推定するためのモニタリングプログラムの設計にかかわる条件を検討した。

(d) 曝露の総合解析に関しては、多数の物質による複合的な曝露状況を明らかにすることを目標として想定し、今後の多数化学物質による複合影響を解析するための準備としてまとめることとした。この目的のため、検討中の動態モデル推定、in vitroおよびin vivoバイオアッセイの結果を用い、曝露の総合解析の方向性について考察を行った。

研究予算

(実績額、単位:百万円)
  平成18年度 平成19年度 平成20年度 平成21年度 平成22年度 累計
運営交付金 45 55        
受託費 14 14        
科学研究費            
寄付金            
助成金            
総 額 59 69        

今後の研究展望

本年度はなお多くの検討は中間段階であり、特にアウトカムとしての成果には至らなかった場合が多かったが、それでもモデル計算手法やOECD等への貢献などいくつかの課題は具体的な貢献を開始することができたと考えている。来年度以降は、アウトプットととともにアウトカムにつながるよう研究を進める。

in vitro及びin vivoのバイオアッセイを用いる曝露あるいは影響の包括的把握については、調査手法と地方環境研究所の協力体制の確立に基づき、さらに海外の試料を含めた検討まで進むことを計画している

また、これらバイオアッセイの成果とモデル解析の結果を併せた曝露の包括的把握という課題について、複合曝露の解析としてとりまとめる方向性を考察した。これについては来年度以降考察を深めたい。また、小児の曝露特性の把握、水環境から人に至る移行・流通など自然・人間物質フローを含めた曝露評価の見方を具体化させていきたい。