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VI 中核研究プロジェクト
研究課題名 近未来の資源循環システムと政策・マネジメント手法の設計・評価

実施体制

代表者:
循環型社会・廃棄物研究センター 循環技術システム研究室室長 大迫政浩
分担者:
【循環型社会・廃棄物研究センター】
循環型社会システム研究室 橋本征二(主任研究員)、南齊規介(研究員)、阿部直也(NIESポスドクフェロー)*)
国際資源循環研究室 村上進亮(研究員)*)、村上理映(NIESポスドクフェロー)
循環技術システム研究室 大迫政浩(室長)、田崎智宏(主任研究員)、藤井 実(研究員)、稲葉陸太(NIES特別研究員)、鄭 昌煥(NIESポスドクフェロー)

※所属・役職は年度終了時点のもの。また、*)印は過去に所属していた研究者を示す。

研究の目的と実施概要

資源枯渇や地球温暖化問題など、将来においてかなりの可能性をもって起こりうる地球環境の危機的な状況を前に、問題を回避あるいは緩和するための長期的なビジョンや転換戦略の提示が世界的に求められている。わが国においても、第三次環境基本計画を受けて超長期ビジョンづくりが行われ、脱温暖化の観点からは日本低炭素化社会2050のプロジェクトが実施されている。循環型社会づくりにおいても、循環型社会形成推進基本計画の見直しに合わせて、将来の循環型社会への方向性が議論されているが、具体的な道筋や対策の目標水準設定、目標達成の際の天然資源消費抑制や環境負荷低減の定量的な効果の予測については今後の喫緊の課題である。

そこで本研究では、近未来の社会条件等の変化とそれに伴う物質フローの時空間的な変化、および資源消費、環境負荷低減への対策の効果を量的・質的に予測・評価するためのモデルを構築し、戦略的な目標設定によってバックキャスティングアプローチにより近未来におけるわが国の循環型社会ビジョンと具体的な技術システムや社会システムの設計・評価に基づいて転換シナリオを提示することを目的とする。所内の長期的な環境ビジョン研究とも連携を取りつつ、本プログラム内の他の中核PJの中期的計画・展望に対する共通の枠組みを与える役割もねらう。

18、19年度においては、サブテーマごとに以下のような研究計画、研究方法、実施体制によって実施した。

1)様々な社会条件の変化とそれに伴う物質フロー、循環・廃棄物管理システムへの影響を、識者へのインタビューや他分野の将来予測に関する知見、ワークショップ形式での議論を基に網羅的に整理し、定性的な因果関係モデルを作成するとともに、重要かつ不確実性の高い要因を同定し複数のシナリオを描く。また、社会変化がもたらす製品・サービス需要への影響や天然資源消費抑制や環境負荷低減対策としての社会・技術システムの設定を外生的に与え、物質フローの将来予測と対策による効果を予測するための投入・産出型の定量的なモデルを試作する。本サブテーマは、橋本をテーマリーダーとして、他のメンバーとの共同作業、他大学機関との連携(外部競争資金の活用)および一部は外部への請負業務により実施する。

2)近未来における対策シナリオの重要な役割を担う技術システムについて、主要な循環資源を対象としたLCA評価を行う。含炭素循環資源(バイオマス系及びプラスチック系)や鉱物系循環資源についてインベントリーデータの情報基盤整備を行い、その中で食品廃棄物や下水汚泥を対象としたバイオマスエネルギーシステム、鉄鋼、非鉄、セメントの三大素材産業を中核とした動脈・静脈連携による産業システム形成の効果を評価する。本サブテーマは、大迫をテーマリーダーとして、他のメンバーとの共同作業、他機関との連携(外部競争資金の活用)及び一部は外部への請負業務により実施する。

3)自治体間のパフォーマンスを比較可能にし、各自治体が自らのマネジメントを改善していくための手法としてベンチマーキング手法を提案する。また、物質循環の各断面での発生する費用や環境保全効果を表現できる廃棄物環境会計を提案し、容器包装リサイクル法と一般廃棄物処理への適用を試みる。個別リサイクルにおける費用情報収集や「見えないフロー」を含めた物質フローの把握、建設リサイクルにおける問題視的検証型の実態評価による政策課題明確化等の検討を行うとともに、EUの拡大生産者責任の下での責任・役割分担の形態や諸外国のデポジット制度の状況を明らかにする。本サブテーマは、田崎をテーマリーダーとして他のメンバーとの共同作業及び一部は外部への請負業務により実施する。

研究予算

(実績額、単位:百万円)
  平成18年度 平成19年度 平成20年度 平成21年度 平成22年度 累計
運営交付金 46 46        
受託費            
科学研究費 廃科研費26 廃科研費14        
寄付金            
助成金            
総 額 72 60        

今後の研究展望

(1) バックキャスティングアプローチによるビジョンづくりにおいて、今年度描いた物質フロー、循環・廃棄物管理システムに影響を与える社会条件の変化のシナリオの位置づけを検討し、唯一あるいは少数の社会ビジョンあるいはシナリオを提示する。描いた社会ビジョンあるいはシナリオに基づき、近未来の各種の社会経済活動の水準、状況等を設定し、相性の良い対策シナリオとその水準を設定することによって、循環資源ごとに物質フローと天然資源消費抑制、環境負荷低減対策の効果を予測するモデルを構築する。それによって、10〜20年後の近未来における循環型社会のビジョンを提示する。

(2) 鉱物系循環資源、バイオマス系循環資源、プラスチック系循環資源を対象に、近未来の資源循環技術システムを具体的に設計し、ライフサイクルアセスメント等の手法を用いて評価する。(1)の対策を具体的に進める上での技術システム設計であるとともに、基礎となる投入・産出のデータは、(1)の効果予測モデルに組み込む。

(3) 制度研究については、引き続き制度調査、実態評価、個別施策対応といったボトムアップ型の研究を着実に行っていく。特に、収集・回収に係る制度や、個別リサイクル法で対象となっていない品目で今後の規制等が求められるもの、今後の制度の見直しに向けて着実に情報を積み重ねる必要があるものについて重点的に研究を進めていく。一方で、ボトムアップ型研究の限界を補うために、トップダウン型の制度研究に着手する。具体的には、実行性や将来への発展性を考慮した責任・役割分担論を通じ、現状の役割分担にとらわれない制度の形を複数描くとともに、物質・金銭・情報フローの好ましい状態を想定し、それに基づいて制度設計を行う。