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VI 中核研究プロジェクト
研究課題名 脱温暖化社会の実現に向けたビジョンの構築と対策の統合評価

実施体制

代表者:
地球環境研究センター温暖化対策評価研究室長 甲斐沼 美紀子
分担者:
【地球環境研究センター】
温暖化対策評価研究室 甲斐沼美紀子(室長)、亀山康子、藤野純一(主任研究員)、花岡達也(研究員)Lee Huey-Lin*(NIESフェロー)、芦名秀一、池上貴志(NIESポスドクフェロー)、酒井広平*、岩渕裕子(アシスタントフェロー)
【循環センター型社会・廃棄物センター】
森口祐一(センター長)
【社会環境システム研究領域】
原沢英夫(センター長)
環境経済研究室 日引聡(室長)、久保田泉(研究員)
統合評価研究室 増井利彦(室長)、肱岡靖明(主任研究員)、花崎直太、金森有子(研究員)、Xu Yan(NIESポスドクフェロー)
交通・都市環境研究室 小林伸治(室長)、松橋啓介(主任研究員)

※所属・役職は年度終了時点のもの。また、*)印は過去に所属していた研究者を示す。

研究の目的と実施概要

地球温暖化の防止を目的として、空間的(日本・アジア・世界)、時間的(短期及び長期)、社会的(技術・経済・制度)側面から、中長期的な排出削減目標達成のための対策の同定とその実現可能性を評価するビジョン・シナリオの作成、国際交渉過程や国際制度に関する国際政策分析、および温暖化対策の費用・効果の定量的評価を行い、温暖化対策を統合的に評価する。既に温暖化影響が多くの場所で現れていることから温暖化対策の実施に向けて京都議定書以降の枠組について国際的に合意し、世界各国と共同して対策を実施することは必須の課題である。本プロジェクトでは、広範囲に及ぶ温暖化技術の評価や対策実施に向けた合意形成のための方法論を確立すること、実現性・実効性・説得性のある環境政策シナリオ作成のための研究手法を確立することを目指している。

この目的を達成するために、本プロジェクトは、中長期排出削減目標達成のための対策同定と実現可能性を評価するビジョン・シナリオ作成を行うサブテーマ1、国際交渉過程や枠組の検討のための国際政策分析を行うサブテーマ2、温暖化対策の費用・効果を定量的に評価するサブテーマ3から構成される。サブテーマ3では、サブテーマ2において提案される様々な施策やサブテーマ1で提示される長期的な社会経済シナリオのもとでの温暖化対策の効果を定量的に評価するなど、サブテーマ間の連携を図りつつプロジェクトを遂行する。

平成18年度の各サブテーマの実施概要は以下の通りである。

1) サブテーマ1:ビジョン・シナリオ作成
脱温暖化社会シナリオに関し、我が国を対象として、複数のモデルによる定量的な分析を行うことで、2050年の日本において、主要な温室効果ガスであるCO2を1990 年に比べて70%削減するような低炭素社会を実現できる技術的なポテンシャルが存在することを示す。まず、今後、半世紀の間に社会が変化することを考慮して、日本社会経済が2050 年に向けてどのような方向に進むかについて、幅を持った将来像(例えば経済発展・技術志向のシナリオA、地域重視・自然志向のシナリオB)を想定し、専門家のブレインストーミングによって、それら二つの社会を定性的に描き、シナリオA、Bそれぞれの社会像での低炭素社会実現の方策を検討する。また、中国、インド、タイ、ブラジルの研究者と低炭素社会実現に向けた共同研究を開始し、各国における2050 年の将来像を検討する。

2) サブテーマ2:国際政策分析
気候変動に関する国際政策分析に関して、京都議定書下での各国の取り組みを整理するとともに、京都議定書発効後に提案された将来枠組み提案をレビューし、京都議定書と気候変動枠組条約との関係、条約・議定書を取り巻く多様な関連活動と温暖化対策に係わる国際的取り組みとの関係について考察する。

3) サブテーマ3:政策の定量的分析
気候変動対策の定量的評価に関する研究として、アジア主要国を対象とした温暖化対策評価モデル(AIM)の改良を行い、日本、中国、インド、タイ、インドネシアなどを対象として温暖化対策の効果分析を行う。日本については、革新技術に関する情報を集約してモデルを改良し、短期的な対策と長期的な対策の両面から費用・効果分析を実施する。また、中国を対象として技術選択モデルと応用一般均衡モデルを統合し、エネルギー集約度の改善目標について分析を行う。インドを対象として天然ガスにシフトした場合の費用・効果の検討、タイを対象として交通部門におけるバイオエネルギーの導入効果の検討、インドネシアを対象としてCO2 削減目標を設定した場合のエネルギー構成の変化の検討を行う。また、大気汚染や水資源などの地域の環境を分析するモデルを開発・改良し、温暖化対策の副次的効果を推計する。

国立環境研究所では、環境省地球環境研究総合推進費S-3「脱温暖化社会に向けた中長期的政策オプションの多面的かつ総合的な評価・予測・立案手法の確立に関する総合研究プロジェクト」が開始された平成16年度からS-3の幹事役を務めており、平成18年度は本中核プロジェクトが主軸となり、国内の他の研究機関と密接に協力してビジョン・シナリオ研究を進める。平成18年度に開始された地球環境研究総合推進費H-074「気候変動に対処するための国際合意構築に関する研究」において、サブテーマ2のリーダーが課題代表者を務めており、国内の次期枠組みに関する研究の中心的役割を果たしている。平成17年度に開始された「アジア太平洋統合評価モデルによる地球温暖化の緩和・適応政策の評価に関する研究」においては本プロジェクトが中心となって国際的な連携のもとで研究を推進する。

平成19年度の各サブテーマの実施概要は以下の通りである。

1) サブテーマ1:ビジョン・シナリオ作成
2050年の日本のCO2排出量を1990年に比べて70%削減するような低炭素社会を実現する戦略を具体的に示すため、複数の対策と政策を組み合わせた約20の施策パッケージを選定し、それぞれの施策パッケージに対して、目指すべき姿、目指すべき社会像を実現するための障害と施策、それらを組み合わせた実現戦略を叙述的、また可能な限り定量的に記述する。アジア主要国、ブラジル、南アフリカから若手研究者を招聘して、日本低炭素社会シナリオの構築に用いたモデルを供与して、特に家庭部門と運輸部門を対象に、どのように日本低炭素社会シナリオを構築したかを説明しながら、彼ら自身でデータを入力し、シナリオを構築するようキャパシティービルディングを行う。また、第2回日英国際ワークショップをロンドンにて行い、国だけでなく都市や交通セクター、民生セクターさらには、人々のライフスタイルをどのように変更すれば低炭素社会が実現できるかを検討する。さらに、第3回日英低国際ワークショップを東京で行い、個人のライフスタイル変更とその影響、持続可能な発展と低炭素社会の両立の可能性、低炭素社会を実現する投資、セクター別に見た低炭素社会に向けた障壁およびチャンスなどについて議論を深め、それらの成果をまとめ、政策提言を行う。

2) サブテーマ2:国際政策分析
平成18年度の成果をふまえて、国内の専門家・産業関係者・環境保護団体関係者30数名を招致したワークショップを開催し、次期枠組みに関するグループワークを実施し、次期枠組みについて検討する。また、その成果をふまえて、次期枠組みに関する考え方のディスカッションペーパーを作成する。また、アジア太平洋地域の専門家を招致した次期枠組みに関するワークショップを北京で開催し、アジア太平洋地域として望ましいと考えられる次期枠組みについて検討する。またその検討結果をカントリーペーパーとしてとりまとめ、COP13にて配布する。これらの成果は、COP13および2008年7月の洞爺湖サミットに向けた国内の多様な議論の場において情報をインプットする形で貢献する。

3) サブテーマ3:政策の定量的分析
アジア主要国を対象として各国のニーズにあった分析を強化するためにモデルを改良し、技術リストを見直すとともに、エネルギー改善目標や将来の削減目標に対応した経済影響や実現可能性を分析する。世界エンドユースモデルでは、二酸化炭素の限界削減費用を21地域別に定量化するとともに、各地域での削減ポテンシャルを推計する。また、世界エンドユースモデルとのリンクが可能なように世界経済モデルを改良する。IPCC第5次評価報告書に向けた新シナリオにおいてアジア途上国の視点から世界シナリオを提供することを目的として、世界経済モデルに関するトレーニング・ワークショップを開催、世界の温暖化対策シナリオを作成するための人材育成を行う。

平成19年度は、地球環境研究総合推進費S-3の後期2年間の研究(FY2007-2008)が開始され、平成20年7月に行われるG8洞爺湖サミットに向けた提言作りに貢献すべく研究活動を行う。

研究予算

(実績額、単位:百万円)
  平成18年度 平成19年度 平成20年度 平成21年度 平成22年度 累計
受託費            
地球環境研究総合推進費            
S-1-1 94 71        
S-3-2 1 1        
H-064 5 4        
B-052 48 48        
科学研究費            
寄付金            
助成金            
総 額 205 182        

今後の研究展望

低炭素社会実現に向けて、日本の低炭素に必要な政策オプション・対策シナリオを幅広くデータベース化し、日本の低炭素社会への道筋を示す中長期対策シナリオを確立し、低炭素社会政策だけでなく、エネルギー政策、その他の環境問題の解決にも役立つようにする。また、低炭素社会を描くために必要なモデルを開発・改良を行い、モデル構築の手法をアジアの国々(例:中国、インド、タイ)など世界の国に移転し、低炭素社会と持続可能な開発を両立させるシナリオ構築に貢献する。また、合わせてこれらの国々と日本との間の国際的排出削減分担の可能性およびその根拠の検討を行う。

COP13においては、2009年末までに次期枠組みに国際合意が得られることを目指して2年間交渉を実施することが合意された。次期枠組み交渉開始後における交渉過程への逐次対応型インプットが目的である本研究については、実際の交渉の動向の後追いとならないよう、逐次政策ニーズに適合できる分析結果を出しておくことが求められる。そのためにも、本年度の成果としてできあがったディスカッションペーパーをたたき台として国内外の議論を深め、内容をより精緻化かつ具体化していく。また、アジア太平洋地域における次期枠組み研究を進め、すべての国が参加するCOPの下での国際制度とそれを補完するアジア太平洋地域内協力体制の可能性について検討する。

これまでに開発してきた国別モデルや世界技術選択モデルを対象に、データの更新や温暖化に関する既存の政策課題を評価することが可能となるようにモデルの改良を行い、わが国やアジア主要国における温暖化対策の評価を行う。

IPCCの第5次評価報告書に向けた新シナリオの議論が進んでいる。新シナリオの開発にあたっては、統合評価モデル、気候モデル、影響・適応策・脆弱性評価の各グループが共同して統合シナリオを開発する予定であり、新たな統合評価手法が必要とされている。3つのグループが共同してシナリオを開発するのは世界的に始めの試みであり、統合評価手法構築に大きな進展が見られると期待される。本中核プロジェクトは中核プロジェクト3と連携して、統合シナリオの開発を進める。また、本プロジェクトはIIASA(国際応用システム分析研究所)、EMF(エネルギーモデリングフォーラム)とともに、統合評価モデルコンソーシアムを結成し、コンソーシアムに参加している約30の世界の主要な統合評価モデルチームの幹事役として新シナリオ開発を行う。また、新シナリオの開発には途上国の視点からのシナリオが不可欠であり、途上国との共同作業を通じた人材育成を行うことで、アジアを中心とした途上国におけるシナリオ開発に貢献する。