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VI 中核研究プロジェクト
研究課題名 温室効果ガスの長期的濃度変動メカニズムとその地域特性の解明

実施体制

代表者:
地球環境研究センター炭素循環研究室室長 向井人史
分担者:
【地球環境研究センター】
炭素循環研究室 向井 人史(室長)、梁 乃申(主任研究員)、高橋 善幸(研究員)、寺尾 有希夫(NIES特別研究員)、津守 博通、奈良 英樹、下山 宏*)(NIESポスドクフェロー)、橋本 茂、須永 温子(NIESアシスタントフェロー)
大気・海洋モニタリング推進室    町田 敏暢(室長)、白井 知子(研究員)
野尻 幸宏(副センター長)、Shamil Maksyutov (主席研究員)、古山 祐治(NIESポスドクフェロー)
【アジア自然共生研究グループ】
広域大気モデリング゙研究室 谷本 浩志(主任研究員)
【大気圏環境研究領域】
大気動態研究室 遠嶋 康徳(室長)、 山岸 洋明(NIES特別研究員)
【化学環境研究領域】
動態化学研究室 横内 陽子(室長)、荒巻 能史(研究員)、斉藤 拓也(NIES特別研究員)
【生物圏環境研究領域】
生理生態研究室 唐 艶鴻(主任研究員)

※所属・役職は年度終了時点のもの。また、*)印は過去に所属していた研究者を示す。

研究の目的と実施概要

二酸化炭素を始めとする大気中の温室効果ガスの多くは、人為的な寄与によってここ200年間、その濃度が増加している。このまま温室効果ガスが増加し続けると、地球の気候は今後100年程度の間に大きく変化し、人類や地球の生態系にとって危険をもたらしかねない状況にある。それを防止するためには温室効果ガスの発生量抑制が必須であり、その目標設定に科学的な根拠を与えるためには、将来の大気中濃度の変化をより正確に予測しなければならない。そのためには、大気と陸域及び海洋の各圏の間での生物的過程あるいは物理的過程による二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素等の温室効果ガスの循環や移動の実態と濃度変動メカニズムを解明し、これらを含めた温室効果ガスの地球規模での収支を定量化する必要がある。

本プロジェクトでは、地球温暖化研究プログラムの中で、他のプロジェクトで行われる温暖化リスクの予測と評価や、対策の統合評価に資するため、将来の温室効果ガスの濃度増加に関するより精度の高い知見を与えることを目的に、温室効果ガスの発生や各圏間の循環や移動、蓄積等のメカニズムとその地域特性に関して研究を行う。特に今後大きな経済成長を遂げると見込まれるアジアーオセアニア域に着目し、これらの地域での発生や吸収のフラックス、大気濃度分布の観測に基づき、近年の世界的な気象の変動や人間活動などが温室効果ガスの濃度増加や物質循環過程にどのように影響を及ぼしているのかなどを解明する。その方法として、酸素濃度や同位体濃度などの炭素循環過程における指標成分の精度良い長期的観測を行い、さらに物質によっては観測サイトにおける高精度高頻度微量分析技術を開発しつつ、大気中の温室効果ガスの収支、それらの地域的な分布や特徴を明らかにし、それらの変動を引き起こす人為的寄与や自然における変動メカニズム解明の見地から研究をすすめる。その際に地球環境センターの大気、海洋、陸域モニタリング事業や各種外部資金による観測研究とタイアップして、より高度な観測項目を追加しつつ、プラットフォームやデータの共有を基に、アジア太平洋地域からグローバルに至る温室効果ガスの挙動解明に寄与する。それにより、将来の人為的な温室効果ガス発生抑制に係る目標設定のための情報を与える。

H18年度は以下の内容の研究を実施した。

○航空機観測において、新たに日本からアジア、アメリカ、ヨーロッパなどへ飛ぶJALの旅客用航空機5機を用いた二酸化炭素連続観測を立ち上げ、各地での鉛直分布や高高度での水平分布などの観測を始めるとともに、同位体比などの多成分の観測をするために、日本−オーストラリア間ではボトルサンプリングよる観測を充実させる。

○定期貨物船を利用した海洋大気観測として、日本とカナダを結ぶ定期航路や日本とニュージーランドとの間の定期貨物船(トヨフジ海運所属)の協力を得て、緯度や経度毎にボトルにサンプリングを行い、大気中の多成分(CO2、CH4、N2O、同位体比、ハロカーボン、酸素、水素、CO等)の分析やCO2、オゾン、COなどの連続測定から、グローバルな緯度分布などを求める。

○波照間及び落石ステーションでの観測として、二酸化炭素、酸素、同位体比、ハロカーボン等各種の項目について高頻度観測を行う。ハロカーボンに関しては、新たに落石ステーションでの観測を開始する。これら高頻度測定とトラジェクトリー解析から地域別特徴を抽出する。また、シベリアにおけるタワー観測においては、二酸化炭素の連続観測を7箇所で行いつつ、シベリアの地域的フラックス評価法をインバースモデル等から検討する。

○北太平洋での海水の二酸化炭素フラックスの観測を継続すると共に、西太平洋(日本−オセアニアア路線)での海洋中の二酸化炭素分圧観測を新たに開始し、北太平洋と共に地域分布や時系列変化を調査する。これにより海洋フラックスの地域別特色や長期変化を捉える。海洋での植物生産などに関する解析を目的とした、西太平洋路線での酸素の連続観測の立ち上げの検討を行う。

○陸域観測として、苫小牧、天塩などの森林において、森林の撹乱後の二酸化炭素フラックス変動などの観測を継続する。また、富士北麓での土壌呼吸、森林内の二酸化炭素蓄積などの観測を開始する。アジア草原生態系の炭素収支を明らかにするため、中国の青海省での草原の二酸化炭素吸収フラックス観測を継続するとともに、チベットでの観測について検討を行う。また、森林フラックスにおける光合成及び呼吸過程の寄与分離のために、同位体や微量ガス成分を使った新たな観測手法の開発を開始する。土壌呼吸に関しては、温暖化の進行による炭素循環の変化を調べるために、温暖化操作実験手法を検討する。

H19年度は以下のように研究を行う。

1)アジア-太平洋域での広域大気観測による温室効果ガスの収支や地域的特性に関する研究:

○航空機観測において、日本からアジア、アメリカ、ヨーロッパなどへ飛ぶJALの旅客用航空機5機を用いた二酸化炭素連続観測を継続し、各地での鉛直分布や対流圏上部での水平分布などを調査することにより、大気の循環過程が温室効果ガスの地上での濃度変動に対してどのように影響しているかについて研究を行う。炭素同位体とCO2以外の温室効果ガスの自由対流圏上部での挙動を調べるために、日本−オーストラリア間で取られた空気の分析を行ない、挙動を解析する。

○主な温室効果ガスの広域な分布や緯度別時系列情報を得るために、定期貨物船を利用した海洋バックグラウンド大気観測として、日本とカナダを結ぶ定期航路や日本とニュージーランドとの間の定期貨物船(トヨフジ海運所属)の協力を得て、緯度や経度毎に観測を行い、大気中の多成分(CO2、CH4、N2O、同位体比、ハロカーボン、酸素、水素、CO等)の分析を行う。新たにアジア路線を走る船舶に協力を求め、アジア近辺での観測を追加する。これ等の観測体制は地球環境研究センターのモニタリング事業と共同で行う。これにより、グローバルな温室効果ガスの収支やその経年変化について検討する。

○波照間及び落石ステーションでの観測として、二酸化炭素、酸素、同位体比、フロンを含むハロカーボン等各種の項目について観測を継続する。ハロカーボンに関しては、両ステーションでGC-MSでの現場測定を継続する。

○これら全体の高頻度測定に対して、トラジェクトリー解析やトランスポートモデル解析やそれらの改良を行い地域別特徴を抽出する。特にアジアでの人為発生源の変化を検出する。

2)太平洋域のCO2海洋吸収の変動特性評価に関する研究

○地球環境研究センターのフラックスモニタリング事業として行っている北太平洋海洋フラックスモニタリング事業による日本−アメリカ西海岸(またはアメリカ東海岸)を往復する定期貨物船で採取された二酸化炭素分圧データを用いて、北太平洋での海洋からの二酸化炭素フラックスを求める。さらに昨年度から本プロジェクトで開始した西太平洋(日本−オセアニア路線)での海洋中の二酸化炭素フラックス観測を継続する。これによりこれまで観測の少なかった海域でのフラックスデータの精度向上に役立てる。さらに西太平洋路線での酸素の連続観測装置開発などを行い、海洋での生産や二酸化炭素吸収などに関する解析を行なう。

3) 陸域生態系のCO2フラックス変動特性の評価に関する研究

○陸域フラックス観測として行われている3か所のデータを解析しつつ、苫小牧、天塩などの森林においては、森林の撹乱後の二酸化炭素フラックス変動などの観測を継続する。中国の青海省で、炭素蓄積が大きい草原の二酸化炭素吸収フラックス観測を継続する。

○日本の代表的な数箇所の森林で土壌の温暖化操作実験を開始し、かつ各地の土壌のインキュベーション手法によって日本の各地の土壌の温度特性などを検討し、土壌呼吸に関する温暖化による炭素循環フィードバックの影響を調べる。熱帯域の土壌呼吸についての観測を継続する。

研究予算

(実績額、単位:百万円)
  平成18年度 平成19年度 平成20年度 平成21年度 平成22年度 累計
運営交付金 43 50        
地球環境研究総合推進費 91 52        
地球環境保全試験研究費
(一括計上)
146 153        
文部科学省 45 39        
科学研究費            
寄付金            
助成金            
総 額 325 294        

今後の研究展望

移動体による大気観測では、航空機(5機)や定期船舶による緯度、経度方向4次元観測に加え、定期貨物船の熱帯アジアへの路線での観測を新たに開始する。資金や人的資源の制限が今のところある中で、今後特に気象の変動の際に炭素循環に影響を受けやすい赤道域や北極域の観測がさらに必要と考えられる。これらのデータを用いたモデルシミュレーションのパラメタリゼーションの改善はGOSATのための正確な初期値を与えるには非常に重要であると考えられるので、今後はモデル自身の改善も含めて研究がさらに必要である。海洋フラックス観測では、今年度開始した西太平洋域での二酸化炭素分圧観測を今後安定的に継続できるようにし、西太平洋域での季節変化データを取得する。陸域のフラックスの観測は、土壌呼吸の温暖化影響実験を主体にCO2放出と気候変動の関係の解明を目指していくが、陸域フラックスでの日本では富士吉田、天塩などのデータを用いてモデル解析する。観測データに基づいたモデルによる二酸化炭素収支の変動や分布の推定も、グローバルな推定の継続に加え、アジアでの地域的なターゲットを対象とした人為起源の温室効果関連物質の発生量の急変に関しての観測を充実させる。