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VI-1 地球温暖化研究プログラム中核研究プロジェクトの中間評価
1.温室効果ガスの長期的濃度変動メカニズムとその地域特性の解明(平成18年度〜22年度)

1)研究の概要

温室効果ガスの収支や濃度の地域的特性に関する研究を進めるため、アジア-太平洋域を中心とした広域大気観測を推し進めた。民間航空機による世界各地の二酸化炭素の高度分布測定や定期船舶航路を用いた太平洋上でのバックグラウンド大気観測などの世界に類を見ない観測網を立ち上げた。また地上での観測地点でGC-MSによるフロン類の高頻度観測や連続酸素の現場観測などの充実に加えて観測地点のアジアへの展開やアジア航路への船舶を使って観測範囲の拡大を図った。これらのデータにより、二酸化炭素やその他の温室効果ガスのグローバルな収支やアジア地域での発生量変化などに着目した観測およびモデル研究を行った。海洋や陸域の二酸化炭素吸収量を推算した結果、そのトレンドとしての変化はまだ大きくないことがわかった。一方では、二酸化炭素やフロン類のアジア域での最近の人為発生量の増加により、観測地域の温室効果ガスの濃度分布に大きな影響を与えていることが示された。これらの豊富な観測データから、大気の輸送モデルの改良などを行った。フラックス観測として、海洋では北太平洋に加えて西太平洋の観測を開始した。北太平洋では10年程度の長期の吸収量の精密な時系列などを計算した。陸域生態系では日本のカラマツ林の吸収フラックス特性や撹乱の影響などの調査に加えて、温暖化の影響として現れる土壌呼吸のフィードバックに関する実験的調査を3箇所で開始した。

2)外部研究評価委員会による中間評価の平均評点

4.1  点

3)外部研究評価委員会の見解

[現状評価]
本研究プロジェクトは、“各種温室効果ガスの大気中広域立体観測”、“アジア−太平洋地域的フラックスの観測”、“モデルの精緻化(中核プロジェクト2との連携)”の3つのサブテーマによって構成されており、温暖化に伴うCO2をはじめとした温暖化ガス組成変化について大気、陸面、海洋のすべてを取り扱う観測研究が良くデザインされた計画に基づいて効率的に実施されていると評価できる。民間航空機を利用したCONTRAILプロジェクトが本格的に動き出し、これまで観測例が限られていた対流圏中・上部の広域のデータが蓄積されつつあることも評価できる。本研究で得られた観測データから地域的なフラックスやその変化傾向についても重要な情報が得られる可能性が高い。
一方で、得られた観測データとフォワードモデルによるシミュレーション結果との比較の成果がはっきりしない。また、アジア域での温室効果気体の観測に対する戦略が具体的ではないように見受けられた。

[今後への期待、要望]
今後、諸外国の関連観測計画との連携を強化することにより、研究をより一層効率的に実施できるのではないかと考えられる。GOSATとも連携し、本プロジェクトで得られる知見が従来のものとどう違うのか明確にしていただきたい。また、モニタリング観測をいつまで続けるのか、戦略的思考を持って取り組んで頂きたい。一方、温暖化の土壌呼吸の効果は限られた実験に基づいているため、現状では他の観測内容と比較検討することが困難である。如何に広域に広げるかという方法論を検討して頂きたい。

4)対処方針

観測データとフォワードモデルによるシミュレーション結果との比較については、中核プロジェクト2の報告の中で示されたように、観測データをフォワードモデルに組み込み、陸域生態系モデルの改良やGOSAT用初期値データの作成に関して成果が出始めているところであり、今後さらに検討を進める。また、GOSATによる観測データを地上・航空機などによる現場観測データと比較し、検証するという立場から、GOSATプロジェクトとの連携を図る。

諸外国の関連観測計画との連携強化については、諸外国の関連する観測計画を念頭において、主として空間的なカバーレージの空白域を埋めるという観点から、ロシアー西大西洋−東南アジアをターゲットとした観測戦略を策定しており、効率的な観測が実施出来ていると考えている。また、具体的な協力関係として、ロシア、ニュージランド、オーストラリアとは、実際の観測協力とデータの相互比較を実施している。さらに、中国やインドでの共同観測などについては今年度、協力体制を組むべく検討している。東南アジアとの協力体制作りは今後の課題となっている。他国の領土で観測することが困難な場合も多いので、本プロジェクトでは民間航空機や領海外での船舶を用いた広域観測を基本戦略のひとつとしている。特に、点での観測ばかりでなく、線上での観測によって精度の高い地域分布を観測しており、アジア域の温室効果ガスのフラックスの変化は、従来の欧米の観測ネットワークでは捉えられなかったものである。

本プロジェクトにおける観測計画は、炭素循環の解明の観点から組まれており、(1)現状の炭素循環把握、(2)その変動メカニズムの解析のためのフラックス観測、及び(3)炭素循環変化理解のための影響実験などがその範囲である。地球環境研究センターのモニタリング事業として、濃度観測などの定常的観測が行なわれており、一方、本プロジェクトとしては酸素や同位体などの高度な観測項目を新たに付け加えることにより、両者を総合して炭素循環の把握を行うこととしている。今後、炭素循環に関する観測項目のセンシティビティを考慮しつつ、さらに長期の観測が必要な場合は、地球環境研究センターのモニタリング事業の中での長期運用の可能性についても検討する。

温暖化の土壌呼吸実験の広域化については先駆性の高い研究課題であり、当面は土壌呼吸の温暖化影響に関する実験的評価を日本の森林土壌で開始したところである。さらに、インキュベーション実験で条件を変えた実験を行なっており、これらを統合することにより、一般化されたモデルの構築を試みる。

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