「企業の環境コミュニケーション」についての調査結果について(概要)
(お知らせ:本省記者クラブ同時配布)



平成13年5月14日(月)
独立行政法人 国立環境研究所
 主任研究企画官          高木 宏明(0298-50-2310) 
(担当)社会環境システム研究領域 青柳 みどり(0298-50-2392)


国立環境研究所では、平成7年度より企業の環境対策についての調査を実施してきた。平成12年度には、環境情報開示に積極的な企業を対象として、企業の環境コミュニケーションについての調査を実施した。調査の結果、回答企業の4割近くが消費者、取引先、投資家、工場や事業所周辺の地域住民などからの苦情や要望により自社の環境対策を変更したことがあり、そのような企業ほど、消費者、取引先、投資家、工場や事業所周辺の地域住民などとの相互理解を重視していることがわかった。


《報告書の要点》

1.調査の目的

 本研究は、環境省地球環境研究総合推進費による研究プロジェクトの一環として実施さ れたものである。本プロジェクトでは平成7年度より、企業の環境対策と消費者行動の相互関連の解明を目的とした調査研究を実施してきた。平成12年度は、これまでの調査結果を踏まえ、環境情報の開示に積極的と考えられる企業を抽出して、郵送調査を実施した。調査内容は、対象企業の環境経営に対する認識、環境情報開示の現状、企業の環境経営と消費者、取引先、投資家、工場や事業所周辺の地域住民などへの対応、環境報告書の発行状況である。特に、本調査では、消費者、取引先、投資家、工場や事業所周辺の地域住民などを、ステイクホルダー(利害関係者)と総称することとし、企業がステイクホルダーからの反応をどのように認識し、その認識を自社の環境戦略にどのようにいかしているかに注目した。

2.調査方法

 本調査の対象企業は、(1)本研究課題において平成11年度に実施した企業調査(平成12年7月19日付記者発表参照)において、環境報告書を作成していると回答した企業(168社)、環境報告書の作成を検討中と回答した企業(459社)(2)環境報告書ネットワーク(NER)参加企業(131社)から、重複企業58社をのぞいた合計685社である。調査は平成12年10月に郵送で実施した。685社のうち、回答のあった企業は475社(回収率69.3%)であった。回答企業の属性をみると、約70%が製造業で最も多く、建設業が約8.6%と続く。また、平均資本金額は約400億円で100億円以上が60%以上と大企業が多く、従業員数も平均で5,600人と多い。本調査は、環境情報開示に積極的な企業を対象とした調査であるが、同時に、この属性分布からわかるように製造業の大企業が中心の回答であるということに注意されたい。

2.調査結果

a)企業経営における環境経営の位置づけ

 環境情報開示に積極的な企業の多くは、自社の環境経営において環境対策を短期的な企業利益の追求というよりは、長期的な企業存続の手段として位置づけていることがわかった。「21世紀に向けての企業存続の優先課題」(64.2%)、「事業活動が環境に与えている負荷に対する責任」(47.7%)、「環境面、経済面、社会面で持続可能性を確保するもの」(62.5%)、「経営上の危機管理の一環としての環境リスクへの対応」(43.2%)などの回答が多く、「新しいビジネスチャンス」(13.6%)、「他社との競争で優位に立つための手段」(4.5%)などは少なかった。

b)業績評価システムと環境対策の連動

 回答企業の3割以上が何らかの形で(企業全体、事業所や部署など個別部門、従業員個人、取締役など経営陣の)業績評価と環境対策を結びつけていることがわかった。回答企業の35.2%は「業績評価と環境への取り組みとは関連づけていない」と回答したが、「現在検討中」(26.5%)、「事業所や部署などの個別部門の業績評価に盛り込んでいる」(25.5%)、「環境対策への取り組みを業績評価との関連で株主総会に報告している」(15.2%)、「従業員個人の業績評価に盛り込んでいる」(8.6%)、「取締役の業績評価に取り組んでいる」(6.1%)となった。

c)環境戦略・行動へのステイクホルダーからの影響

 本調査では、消費者、取引先、投資家、工場や事業所周辺の地域住民などを本調査ではステイクホルダーと総称することとした。回答企業の約37%が、これらのステイクホルダーから寄せられた要望が、企業の環境戦略や行動に何らかの影響を与えたと回答した。

d)環境コミュニケーション

 企業が環境コミュニケーションに期待することについては、「ステイクホルダーとの相互理解を促進すること」(46.1%)が最も多かった。この回答と他の回答との関連をみたところ、ステイクホルダーから寄せられた要望で企業行動に変化が生じた企業ほど環境コミュニケーションを通じての相互理解を重要視していることがわかった。「ステイクホルダーから寄せられた要請に対応するために、自社の環境戦略・行動に変化が生じた」企業 (53.1%)の方が、「変化がない」と回答した企業(42.6%)よりも10.5ポイント回答割合が高かった。
 また、コミュニケーションの専門家を社内で育てている企業(51.4%)の方が、特に行っていない企業および社外の専門家の活用などを考えている企業(39.7%)よりも、ステイクホルダーとの相互理解を促進することに対する期待が高く、また、環境報告書を作成している企業(54.8%)の方が、作成していない企業(39.1%)よりも期待が高かった。

e)環境コミュニケーションの手段

 環境に関するデータや取り組みなどの情報をステイクホルダーに提供する手段について尋ねたところ、自社の環境情報を積極的に公開するというスタンスに立つ企業、マイナス情報も公開するという企業はそうでない企業よりも多様な媒体を利用する傾向にあった。全体的には、「社内報」(72.6%)「会社案内やパンフレット」(69.5%)「自社ホームページ」(60.0%)「事業所の公開」(50.3)「環境報告書」(45.5%)の順に多かった。

f)企業が重視しているステイクホルダー

 企業が環境コミュニケーションを行う上で特に重視しているステイクホルダーを3つまであげてもらったところ、「地域社会」(52.4%)「取引先企業」(49.5%)「社内(経営者、従業員、労働組合等)」(48.0%)「消費者」(44.2%)の順に多かった。しかし、ステイクホルダーからの反応についてみると、「社内(経営者、従業員、労働組合等)」(85.1%:反応がかなりある、少しあるの合計、以下同じ)、「取引先企業」(76.0%)「行政」(61.7%)「マスコミ」(57.9%)「投資家、格付け機関、株主」(51.2%)「消費者」(40.2%)となり、マスコミからの反応が多いにもかかわらず、ステイクホルダーとしてはあまり重要視されていないことがわかる。
 また、「取引先金融機関」、「投資家、格付け機関、株主」についてみると、反応については、それぞれ43.4%、51.2%と8ポイントの差であるが、重要視しているかどうかについては、それぞれ1.5%、31.4%と30ポイントの差となった。環境情報開示に積極的な企業は、従来からの取引先金融機関よりも、市場評価を重要視していることが見て取れる。つまり、取引先金融機関は企業の環境情報開示に対して、投資家や株主、格付け機関と同 様の反応をしめす。しかし、情報を開示している企業は、取引先金融機関よりも、投資家や株主、格付け機関を念頭に置いた環境情報開示を行っていることがわかる。

g)インターネットの活用

 環境情報の提供手段としてインターネットは欠かせないものになってきていることがわかった。回答企業の60%がインターネットで環境情報の提供を行っていると回答し、環境報告書を公開している企業(217社)の72%がホームページに環境報告書を掲載していると回答している。また印刷物との内容の比較についてみると、インターネットで情報を提供している企業(285社)では、70.2%がほとんど同じとの回答であった。インターネットを他の媒体と比較した場合の受け手の反応についてみると、「双方向のコミュニケーションが可能となった」(42.5%)「迅速な対話で相互理解が容易となった」(33.7%)など双方向の特性をあげた。

h)環境コミュニケーションの効果

 環境コミュニケーションの効果を内部的な効果と外部的な効果に分けてみると、内部的な効果としては「従業員の環境意識が高まった」(82.9%)「経営者の意識が高まった」(61.5%)「環境対策において部署間の協力体制が築けるようになった」(50.3%)などが過半数を占める回答であった。また、外部的な効果としては、「企業イメージが向上した」(66.3%)「外部から表彰された」(22.1%)「取引上で有利になった」(19.2%)などが多かったが、「売り上げが伸びた」は3.8%と少なかった。

4.まとめ

 環境コミュニケーションについて取り組みの進んでいる企業に対しての調査であったが、回答企業の4割近くが消費者、取引先、投資家、工場や事業所周辺の地域住民などからの苦情や要望により自社の環境対策を変更したことがあると回答した。さらに、そのような企業ほど、消費者、取引先、投資家、工場や事業所周辺の地域住民などとの関係を良好に保つために環境コミュニケーションを重視していることがわかった。さらに、回答企業は、従来からの取引先金融機関よりも市場の評価を重要視する傾向にあることも判明した。また、情報開示の手段としてインターネットの重要性が増していることもわかった。

 なお、本研究は、独立行政法人国立環境研究所(環境省)が、環境省地球環境研究総合推進人間社会的側面分野「アジアにおける環境をめぐる人々の消費者行動とその変容に関する国際比較調査」の一環として実施したものである。調査の企画および実施については、(株)住友生命総合研究所に委託し、加藤三郎(株)住友生命総合研究所客員主任研究員(環境文明研究所長)を座長とする研究グループにおいて検討を行った。研究グループに参加していただいた諸先生方、調査に答えてくださった企業の方々、調査研究を担当していただいた(株)住友生命総合研究所のスタッフの方々に深く感謝する次第である。

《報告書の入手等の問合わせ先》

○独立行政法人国立環境研究所 社会環境システム研究領域 青柳 みどり
 FAX: 0298-50-2572  e-mail: aoyagi@nies.go.jp