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ヒアリはいま、どうなっていますか?
~保全生態学者 五箇公一さんインタビュー<前編>

 五箇さんが頻繁にテレビ出演を引き受けるようになったのは10年ほど前だそうです。そして3年ほど前から、猛毒アリのヒアリについて「もうすぐ日本に来る」と再三、警告してきました。
 そして、今年6月、実際に日本でヒアリが見つかり、五箇さんは「予言者」とネットで呼ばれるようになりました。それ以来、五箇さんのテレビ出演は大幅に増えています。
 まずはヒアリはいまどうなっているのかから、聞いてみましょう。

今回お話をうかがった五箇さんが書かれたヒアリのイラストの絵葉書と五箇さんの写真
今回お話をうかがった五箇公一さん。ご自身が直接書かれた、ヒアリのデザインの絵葉書と一緒に。

ヒアリ対策は進んでいますか?

ヒアリはいま、どうなっているのですか?

 とんでもない。どんどん入っています。見つかると環境省が発表していますが、10月14日時点で、12都府県で22例です(環境省による発表内容はこちら)。
 主に港湾ですが、不審なアリを見つけると駆除し、その死体を博物館など研究施設でヒアリと確認(同定)できてから環境省が発表しています。もう珍しくなくなったので、メディアも取り上げないのではないでしょうか。

発見が増えているけれど、ちゃんと対策できているということですか?

 いま、一番心配なのは、巣を作って定着しているのではないかという点です。まだ、定着例は見つかっていませんが、確認できれば早急に対策に乗り出す必要があります。気づかずにいて放置すると、あっという間に、広がります。

早期発見が必要だということですね。

 そうです。私たちは早期発見技術の開発に取り組んでいて、年内には実用化できると思います。

いまはヒアリの同定に時間がかかりすぎるということですか。

 現在は、分類学者が、形から同定している。数日かかっています。同定するのは高度な知識と経験が必要で、同定できる方は多くはありません。
 一方で、今後、不審アリが発見される場所が、港湾だけではなく、学校のグラウンドや公園などと全国各地で増えてくることも考えられる。現在の同定の仕組みではこなしきれないかもしれません。
 そこで、我々はヒアリ検出のための簡易式キットを開発し、現場で使えるようにと考えています。それが実現すれば、いまよりも早くヒアリがいるかどうかが確認でき、専門家を派遣できる。定着していれば、いち早く対策に乗り出せるのです。

簡易式キットはどのような仕組みですか?

 アリが多数いる場合、ヒアリかどうかを一匹ずつ調べるのは手間がかかりすぎるので、トラップ(わな)などで捕まえたアリが、例えば100匹いるとしたら、それをまとめてすりつぶし、その中にヒアリのDNAがあるかどうかを調べるのです。DNAに反応する試薬を開発しています。
 この仕組みだと、1回60分ほどでDNAがあるかどうか判明でき、1回1000円ほどになりそうです。

ヒアリの定着は防げますか?

ヒアリは日本で定着していると思いますか?

 いまは水際作戦が成功しています。しかし、いまのような事態は、実はこれまでも気が付いていないだけで、ずっと繰り返されていたのかもしれない。現在のヒアリは中国からの貨物のなかから多く発見されていますが、中国からの物流は何年も前から急増しています。外来生物の侵入では、一般的に10年ルールという言葉があって、「外来種が見つかった時は、侵入から10年経過している」という意味です。
 ですから、ヒアリが今年6月に発見されたということは、侵入は10年前ということかもしれません。
 ですから、どこかで定着しているかもしれない。油断はしていません。

定着していれば、駆除できますか?

 大丈夫です。早期に発見さえできれば、定着したヒアリを駆除する技術には自信を持っています。ヒアリと同じ特定外来生物で駆除対象のアルゼンチンアリがいます。これは1993年に定着が発見されて以降、日本各地で定着を許してしまったのですが、我々の研究グループでは、計画的な防除によって東京と横浜に侵入した地域的な個体群の根絶に世界で初めて成功しています。ヒアリについても、定着個体群を早期に発見できれば、確実に根絶に導けると考えています。

五箇さんはヒアリに刺されたことがあるそうですね。痛かったですか?

 ちょー(超)、痛かったです。2008年です。米国フロリダ州に調査にいったときです。同行の米農務省の方が「おれは平気だから」と、ヒアリの巣穴に手を突っ込んだんです。それで「写真をとれ」っていうんです。善意なんですけど、むちゃな人ですよね。するとヒアリが、腕にボアーッてあがってきて、その人が「いたい」と言ってはらったんです。はらわれたヒアリを私がかぶる格好になって、それで、両腕20か所くらい刺されました。
 ヒアリは針自体は短くて小さいから、どすんという痛みではないけれど、刺されたところがヒリヒリと痛みを感じて、火の粉をかぶって、やけどをしたような感覚でした。1ケ月、痛みとはれが残りました。
(この時の様子は、国立環境研究所/2013年公開シンポジウムの五箇さん講演動画をご覧ください。14分24秒あたりです。*外部リンク)

インタビュー中の五箇さんの写真
インタビュー中の五箇さん。後ろの絵も、すべて五箇さんが書かれたもの。

テレビ出演はたのしんでますか?

メディアにはよく登場されますが、たのしそうですね。

 たのしんでますね。NHKの報道情報番組「クローズアップ現代+」などで解説者として出演する機会にめぐまれています。そして、フジテレビの情報バラエティー番組の「全力!脱力タイムズ」にも準レギュラーとして出演しています。
 メディアは、私自身のプレゼン能力をきたえてくれます。「クローズアップ現代+」のような社会派番組だと、専門家として真面目に語らなければいけないけれど、「全力脱力タイムズ」だと、専門知識のうえに笑いもとりながらの出演だから、これはきついですね。

なにをねらっているのですか?

 私がメディアに期待しているのは、世間に我々が研究している問題の重要性や意義を広く伝えてくれるということです。
 外来種であれば、ヒアリという言葉を、日本に入っていないときから、発言し続けて聞いてもらい、「なんか大変だぞ」とリスクを知ってもらうことが大事です。名前を耳に残すだけでも効果はある。
 しかも、メディアの一番の利点は、興味のない人の耳にも言葉を届けられることです。環境とか、生物多様性とかに無関心な人たちに伝える点では、バラエティー番組が力を発揮します。
 「クローズアップ現代+」といえども、見ている人が限られている傾向があるように思いますが、それ以上の効果をあげようとすれば、「全力!脱力タイムズ」を使わない手はない。

バラエティー番組では、自分の考えとは違った方向でまとめられるリスクはありませんか?

 それは番組スタッフとの信頼関係を築けないとだめですね。内容が不正確だったり、取材が不十分だと、本番の直前で台本を変更してもらうことがあります。

番組スタッフは困りますね。

 そうですね。泣きそうな顔をして、「え———、取材までしたんですよ」と言います。でもそれは仕方がないですよ、調査が足りないのですから。むしろ誤情報を流さなかったことを、よしと考えてもらうしかない。

強気ですね。

 強気でいるためには、こちらもいつも研究者として科学的根拠をそろえておく必要があります。説得力のある発信をしないといけない。説得力がなければ、次はよんでもらえないでしょうね。こちらもとても試されることになります。(前編/終)

<掲載日:2017年10月25日>
取材、構成、文・冨永伸夫(対話オフィス)

**インタビュー後編はこちら↓
「ヒアリの次は何が来ますか?」~保全生態学者 五箇公一さんインタビュー<後編>

参考関連リンク

●環境省/ヒアリに関する諸情報について(外部リンク)
http://www.env.go.jp/nature/dobutsu/fireant.html

●国立環境研究所/2013年公開シンポジウムの五箇さん講演動画(外部リンク)
https://www.youtube.com/watch?v=INC7LPJrISs
(五箇さんがヒアリに噛まれた時の様子は、14分24秒あたり)