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2015年11月6日

気候変動枠組条約COP21直前!
強化された行動のためのダーバン・プラットフォーム特別作業部会(ADP)2-11出張報告

             写真1:ADP10月会合オープニング(撮影:執筆担当者)

 去る2015年10月19~23日、ドイツのボン市内にあるWorld Conference Centerにて開催されたADP2-11会合にオブザーバとして出席しました。今回は、COP21直前かつ最後のADP会合の様子をお伝えします。 

1.ADPってなに?

 2020年以降にすべての国が同じ枠組みの中で気候変動に対処するための新しい制度作りが進んでいます。今年12月にパリで開催されるCOP21(気候変動枠組条約(以下、条約)第21回締約国会議)での合意形成に向けて、この新しい制度に関する交渉のプロセスをADP(Ad Hoc Working Group of Durban Platform:日本語訳は「強化された行動のためのダーバン・プラットフォ-ム(*1)特別作業部会」)、と呼んでいます。COP21で合意されるためには、それまでに多くの争点を解決しておく必要があります。今回は、COP21前の最後のADPでしたので、後述のような意見対立が見られる部分をどれだけ減らせるかが焦点となりました。

*1:ダーバン・プラットフォームとは?:この特別作業部会の設置は、COP17(2011年、ダーバン(南アフリカ))で合意されました。COP17で何が合意されたのか、そして、その合意がどのような意味を持つのかについては、下記をご参照下さい。
関連リンク:ダーバンで何が決まったか?ドーハで何が話し合われるか?(JCCCAのページにとびます)

            図1:気候変動交渉の流れ(出典:執筆担当者作成)

2.共同議長案への反論からスタート

 今年に入りADPはほぼ3ヶ月ごとのペースで開催され、前回の会合が9月に行われていました。今回のADPが始まる前に、前回の議論を踏まえて書き直したとして、合意文書案が共同議長から提案されていました。しかし、この案は、意見が分かれていた条文で両方の意見が削除されたり表現が弱められたりしており、全体として骨子しか残されていない短い文書だったため、先進国、途上国ともに大半の国が、「自分の主張が入っていない」と不満を顕にしました。そこで、各国にとって不可欠なのに落ちてしまっている要素を合意文書案にもう一度盛り込み直し、ページ数が増えたものをもって、交渉に臨むことになりました。 

3.主な争点

 細かい争点はたくさんありますが、特に大きな意見の相違は以下の3点にあります。 

①国に求める約束を先進国と途上国に分けて記載するか?

 条約は、国を、附属書Ⅰ国(1992年時点(条約採択時)のOECD加盟国+経済移行国。先進国)と非附属書Ⅰ国(附属書Ⅰ国以外。発展途上国)の2つのグループに分け、附属書Ⅰ国に対して、非附属書Ⅰ国よりも重い責務を課しています。条約が採択されてから、20年以上の月日が流れ、各国の置かれている状況もかなり変わっていますが、この附属書Ⅰ国のリストは当時のままです。先進国は、このような硬直化した二分論を今後も継続することに強く反対し、「そのような立場にある国は、...」などと抽象的な言い回しで、国の経済発展水準に応じた差異化を反映させようとしています。これに対して途上国は、現行の共同議長案の書きぶりだと先進国が途上国と同じ水準の義務しか課せられないことになり、責任放棄だと主張しています。 

             図2:気候変動枠組条約上の国の区分(出典:執筆担当者作成)

②各国が提出した約束草案をどのように扱うか?

 各国が2030年近辺の約束草案(*2)を提出済みですが、この草案をこれからどうするのかという手続きについて議論が続いています。全部の国の値を合計して、それが気候変動抑制に十分かどうかを検証する以上のことは不要と考える国や、各国が約束した目標に向かっているかどうかのチェックが必要ではないかと考える国など、国の約束の取り扱いにはいろいろな意見があります。

*2:日本の約束草案について:(参照リンク)今年7月に環境省から発表されました。 

③排出削減以外の事項をどのように合意文書に盛り込むか?

 途上国の要求として、排出削減だけでなく、適応策、損失・損害補償、資金供与、技術支援、能力強化なども排出削減と同じ重要度をもって合意文書に書き込みたいという思いがあります。大半の途上国の温室効果ガス排出量は世界総量の1%に満たず、むしろ、起こりつつある気候変動の悪影響に備えるための支援が必要となっています。 

4.意見がまとまりつつある点

他方、次の点については、ある程度、方向性が見えてきました。 

①各国共通の義務

国の義務としては、定期的に将来の目標を定期的に提出すること、この目標に達成するために必要な政策を講じること、この政策は常に過去のものよりも進展したものであること、そして、これらの政策の進展を定期的に報告することなどが想定されています。 

②合意文書の全体的な構造

 全体の構造は、ほぼ以下のような体裁のまま合意に至りそうです。実質的な約束部分も重要ですが、12条以降の手続き的・制度的な条項が盛り込まれていることに異論が出ていないことにも注目できます。つまり、2011年時点では、国際法よりもCOP決定を望んだ国が少なくなかったのですが、現在では国際法としての体裁を整えることに共通認識が醸成されているということです。

*3:ストックテーキングとは?:「棚卸し」を意味する英語で、外交交渉の文脈では、いろいろと行われていることや並行して話し合われていることをまとめ、進捗状況を評価することをストックテーキングと言います。ここでは、各国が提示した約束草案をまとめ、地球全体でどれほどの気候変動抑制効果を持つのか等の観点から、地球規模での気候変動対策の進み具合を評価することを想定しています。

③国際法としての性質

 合意文書の法形式として、実施合意(implementing agreement)という言葉が使われつつあります。議定書(protocol)という言葉は京都議定書のイメージが残るため避けられているようですが、名称は違っても、国際法として有する性質は同じです。 

5.最終日

 最終日にまとめられた合意文書案は、合計で59ページとなりました。ある国の意見をオプション1、別の国の意見をオプション2、などとして書き込んだために、争点が明らかとなり、分かりやすくなりましたが、会議1日目に提示されていた共同議長ペーパーよりも分量が増え、再度、分厚い文書に逆戻りしてしまいました。

今回期待されていた「争点をできるだけ減らす」という目的はほとんど達成されませんでした。COP21が11月30日から始まり、2週間以内ですべて争点をなくせるのか、間に合うのだろうか、と進捗の遅さを懸念する声が上がりました。

6.想定される国際合意と世の中の動き

 今回合意が期待できる新しい制度では、先進国も途上国もすべての国が参加できる制度であることが前提条件となっています。もちろん、その制度の中で、経済水準に応じた差異化を図ることが想定されますが、すべての国にとって受け入れ可能な文書とすることを優先しすぎ、ほとんど実質的な約束を求めない内容に落ち着く可能性が高くなりつつあります。

このような動きを踏まえ、「今回の枠組みは、拘束力が弱く、2030年目標は自主目標。だから遵守しなくてもよい」といった偏った解釈が一部で聞かれています。自国の削減目標を欧米と並べて比べたり、「日本だけが削減しても世界総排出量は変わらない」という議論も、「排出量を減らすほど損する」という一つの認識から出発しているようです。しかし、この解釈は再考が求められます。

なぜなら、今まで、排出量を減らすことは、経済的な負担と認識されていましたが、気候変動枠組条約が採択されてから23年が経過し、世の中は変わり始めているからです。消費し続けているといつかはなくなってしまう、あるいは少なくとも価格上昇が予想される化石燃料への依存度をいち早く減らすことが経済的にもメリットという認識が広まっています。2014年11月、今まで気候変動対策に消極的だった米国や中国が他国に先んじて目標を公表したように、再生可能エネルギーや低炭素都市づくりが、人々の健康にも良く、経済的にもお得になりつつあります。世界銀行は石炭への投資を例外的な場合(後発発展途上国(*4)で、石炭以外の代替エネルギー源がない場合)のみに制限をかけています。他方で、低炭素関連の投資は急速に増えています。国の削減目標を遵守せずとも、国際法上の制裁を受けることにはなりませんが、政治経済的観点から損をしかねないということです。

10月30日に条約事務局から公表された約束草案の統合報告書では、10月1日までに約束草案を提出した国が146カ国あったと報告されました。多くの途上国を含め世界の排出量の約9割を占める国々が排出抑制に向けた努力を示したというのは画期的なことです。世界が低炭素社会に向けて舵を切ったととらえ、日本も世界から取り残されることがないよう、動き始める必要があります。
 
*4:後発発展途上国とは?:国連での決議により認定された、特に開発の遅れた国々のこと。(参照リンク)外務省による解説

(執筆担当者:亀山康子・久保田泉・杦本友里 (社会環境システム研究センター))