ホーム > 研究紹介 > 研究計画・研究評価 > 外部研究評価 > 平成22年外部研究評価実施報告 > 環境リスク研究プログラム  (平成18〜22年度) > 平成21年度研究成果の概要(3)環境中におけるナノ粒子等の体内動態と健康影響評価

ここからページ本文です

3. 環境リスク研究プログラム
(3) 環境中におけるナノ粒子等の体内動態と健康影響評価

外部研究評価委員会事前配付資料

平成21年度の研究成果目標

全体:

① 細胞を用いたin vitro 研究の継続と吸入実験によるナノ粒子の毒性評価を実施する。

課題1:環境ナノ粒子の生体影響に関する研究

① ディーゼル排気ガス中に含まれる環境ナノ粒子の慢性吸入影響実験を進める。

課題2:ナノマテリアルの健康リスク評価に関する研究

① カーボンナノチューブの吸入曝露装置を用いたin vivo毒性研究を行う。

課題3:アスベストの呼吸器内動態と毒性に関する研究

① 加熱処理に伴うアスベストの形状変化と毒性との関係を調べる。

平成21年度の研究成果

全体

① 自動車排ガス中に含まれる環境ナノ粒子に関しては、慢性吸入実験がほぼ終了し生体サンプルの処理、ならびに生体影響を把握するためのパラメータの測定に移行している。また、ナノマテリアルの安全性評価に関しては、吸入実験を進めてきているほか、トランスジェニックマウスも用いた実験に着手した。また、粒子の表面活性と毒性との関係について解析を進めた。

課題1

① これまでの研究で、ナノ粒子を多く含むディーゼル排気ガスの全成分曝露実験(DEP-NP, ナノ粒子を含む全粒子+ガス成分)と、除粒子の曝露実験(fDEP−NP)をラットやマウスなどの実験動物を使用して実施し、心電図解析及び心拍変動などの循環器系の生体指標、ならびに曝露後の気管支肺胞洗浄液や肺組織の生化学的変化について解析を行った。昨年度からは、慢性曝露実験に重点的に取り組んでいる。曝露チャンバー内のナノ粒子の個数濃度、重量濃度、粒径分布、ガス成分を含めた曝露空気質のモニタリングを行い、毒性の指標となる性状のキャラクタリゼーション、クォリティコントロールを継続した。肺腺腫高発症マウス(A/J系)に、低濃度(30 μg/m3)、高濃度曝露群(100 μg/m3)のナノ粒子を多く含むディーゼル排気ガスの全成分(DEP-NP,ナノ粒子を含む全粒子+ガス成分)、あるいは除粒子成分(fDEP−NP)の18ヶ月曝露を行った結果、高濃度全成分曝露群において肺腺腫発症の有意な上昇が認められた。急性心臓疾患マーカーの心筋型クレアチニンキナーゼは吸入曝露群すべてにおいて飼育室対照群に比べて増加傾向にあったが、各吸入曝露群間での差は認められなかった。今後、ディーゼル排ガス由来環境ナノ粒子に曝露したマウスにおいて、嗅脳や鼻腔も含めた病理組織変化や、炎症などに関与する遺伝子・蛋白の発現レベルの解析を順次行う予定である。

課題2

① 作業者の安全性も考慮して、ダブルシールドされたカーボンナノチューブの吸入曝露装置の作製を終了し、粒子の発生条件の検討およびその物理的、化学的キャラクタリゼーションを行った。サイクロンを振動させることにより、凝集しやすい繊維状のナノ粒子を分散させるとともに吸入性の粒子(空力学径10ミクロン以下)のみを飛散させることが可能となったことから、カーボンナノチューブの鼻部吸入曝露実験を行った。現在、高感受性のNADPHオキシダーゼ欠損マウスを用いて曝露実験を継続中である。また、胸腔内にカーボンナノチューブを直接投与したマウスでは、一年後に胸膜肥厚や腫瘍発生などのアスベストに類似した影響が認められている。一方、細胞を用いた実験も進めており、これまでのマクロファージ系の細胞を用いた実験に加え、ヒト気管支上皮細胞である、BEAS-2B細胞を用いた細胞毒性影響と細胞内への繊維状粒子の取り込み過程に関する研究を進めている。細胞毒性に関しては、マクロファージや気管支上皮細胞ともに、アスベストよりも活性が高いことを認めている。また、カーボンナノチューブの細胞内取り込み量をハイスループットで定量的に測定する方法も確立した。一方、カーボンナノ粒子のマウス胸腔内投与実験群の解剖がほぼ終了し、現在解析を進めている途中である。

課題3

① これまでの研究において、アモサイトとトレモライト標準物の熱処理過程に伴う毒性変化はそれぞれ1100℃以上、1200℃以上の熱処理で、クロシドライトとその熱処理試料を用いた実験では、800℃熱処理により、in vitro細胞障害性ならびにin vivoにおける炎症細胞の浸潤が顕著に減少することがわかった。クロシドライトやアモサイトのように鉄を含むアスベストについては、加熱処理の温度の上昇に伴い酸化鉄が遊離し、それに伴い毒性が低下しているものと考えられる。

外部研究評価委員会による終了時の評価

平均評点    4.5点(五段階評価;5点満点)

外部研究評価委員会の見解

[現状評価]

ディーゼルナノ粒子の慢性吸入曝露実験はこれまで行われておらず、今回の研究は、その結果のいかんによらず、重要な知見となると考えられるが、有用な技術開発(実験系の確立を含めて)および新しい知見の集積が行われている。ナノ粒子の組織透過性を画像として明らかにされた点は病理学的所見としても重要な成果であり、高く評価したい。

[今後への期待・要望]

この研究成果を健康影響評価指標および被害の未然防止に役立てることができれば大きな社会貢献であり、環境科学研究として大きな波及効果があると思われるので、今後はそのような方向で研究が更に進展することを期待したい。また、曝露量との関係や遺伝的背景の効果については今後きちんと検討して欲しい。次期においても展開されるべきテーマである。

対処方針

吸入曝露実験は難しい点も多々あるが、国内では環境研でなくてはできないものであり、今後期待に添えるよう努力したい。