3. 環境リスク研究プログラム
(1) 化学物質曝露に関する複合的要因の総合解析による曝露評価
外部研究評価委員会事前配付資料
平成21年度の研究成果目標
全体:
① 時空間変動を有する曝露評価のための動態モデル、排出推定および関連手法の開発と評価事例の提示を目指す。
課題1:曝露評価のための地域規模および地域規模GIS詳細動態モデルの構築
① 地域レベルからPOPs等の地球規模に至る階層的な動態把握と曝露解析のための手法をGISデータ基盤上において開発する。
課題3:農薬類の時間変動を含む排出推定手法の確立と、関連する流域モデル開発の課題
① 時期特異的な曝露に対する評価等特に着目すべき曝露評価手法と曝露に関連する社会的データ等を検討し、これらの総合解析による新たな曝露評価手法を開発する。
*課題2は当初の目標を達成したので平成20年度で終了。
平成21年度の研究成果
全体:
① 多種多様な化学物質の環境経由の人と生態系への曝露評価の確立を目指し、化学物質の曝露に関する複合的な諸要因を総合的かつ効率的に考慮した環境中の動態を時空間スケールで階層化したモデルに基づく曝露評価手法を提案する。具体的には、中期計画に示す通り3つの研究成果目標に従い、本年度は主要目標を達成した課題2を除き、以下@とBの目標の課題1および3について検討を行った。
課題1
① ア:流域、地域から地球規模に至る階層的なGIS多媒体モデル群の開発
アウトプット
・ 流域、地域、地球の3つの空間規模を同様の構造でカバーする3階層GIS多媒体モデルの構築を行った。
・ 地球規模モデルについては、大気モデルとの統合による大気−多媒体結合モデルの開発を進め、まず多媒体モデルの中の大気輸送をCMAQのプロセスで解析できるところまで達成した。
・ 地域規模モデルについては、主に除草剤のフィールド観測による検証を行い、課題3の排出推定の成果と合わせ、多くの農薬でモデル予測と実測値がオーダー内の一致となることを確認した。
・ 流域規模モデルについては下水道処理区域データの作成と水道取水点関連データ、およびデータ処理手法を整備した。
アウトカム
・ 流域規模モデルにおいて下水道あるいは上水取水点の抽出などより現実的な曝露推定を行う手法を提供することにより、空間分布を持つ曝露評価の応用性を高めることが出来る。
・ POPsあるいは水銀等についてアジア域の正確な長距離輸送の把握がUNEPあるいは種々の二国間協力の課題の中で求められており、これらに対し大気−多媒体統合モデルが貢献することが出来る。
① イ:小児の曝露ファクター、水生生物への移行など曝露評価を構成するサブモデルの研究
・ 小児特有の呼吸器経由の曝露特性として肺換気量の推定、また、水生生物への汚染物質の移行モデルを確立した。
課題3
③ ア:農薬および一般化学物質の排出推定手法の開発
アウトプット
・ 農薬類の週程度の時間分解能を持つ排出推定手法と予測モデルを構築し観測により検証し、生態リスク推定を示した。
・ 週程度の分解能で河川水中の農薬濃度の時間変動・空間分布の予測を可能とした。
・ 排出推定および流域規模モデルの検証のため、全国7か所の河川・流域で3カ月にわたる連続観測調査を行った。この検証を踏まえ、農薬類について、週程度の時間変動情報を含む排出推定手法がほぼ確立された。
・ 除草剤以外の一般化学物質の排出推定への拡張として、既存MuSEMに基づく推定ツールの開発を行った。
アウトカム
・ 除草剤の排出推定・モデルについては、観測値による検証を経て、排出推定の信頼性を向上させることで、より政策的な応用の可能性を広げた。
外部研究評価委員会による終了時の評価
平均評点 4.1点(五段階評価;5点満点)
外部研究評価委員会の見解
[現状評価]
課題名からは研究のめざすところがわかりにくく、当初は研究の内容についてあまり明確な方向性がなかったのではないかと思われたが、軌道修正の結果、内容が絞れ、まとまりが出た。行政に役立つモデル開発が行われており、成果の貢献度は大と考える。
ただし、これらのデータを行政的な化学物質管理に生かしていくための指針・施策に関しても検討し、提言して欲しかった。また、各モデルの精度・予測能力の検証方法、また何をゴールと定めてモデルの改良・見直しを行っていくのか、という点については、基礎となる考えが明確ではないように感じられた。
[今後への期待・要望]
これまでに得られた成果の行政施策への展開を図る手法が必要である。モデルの誤差が大きい場合には、安全率にどのように反映させていくかを決めておく必要がある。次期においても継続して行われるべき課題である。
対処方針
モデル開発などいくつかの課題では行政施策に至る先導的な貢献を果たしたが、今後はこれら研究成果・データを行政的な管理により広く生かすことが出来るよう、指針等の考え方をとりまとめていきたい。また、モデルに求められる精度・予測能力は行政的な利用の在り方と密接な関係を持つものであり、化学物質の管理をより客観的・合理的に進めるための技術的ゴールの考え方を含めて上記の指針、考え方の検討を進める。
どのようなモデルにも誤差は不可避であるが、観測値によるモデルの検証とそれに基づく安全率の考え方は十分に整理されていない。次期に向けては、モデルの誤差をより明示的また定量的に評価し、行政施策に反映させることが出来る手法として提示できるよう、さらに検討を進めたい。